今日の一冊バックナンバー

  • Jan

    01

    『ひとり飲む、京都』太田和彦(マガジンハウス)

    『ひとり飲む、京都』太田和彦(マガジンハウス)

    東京から京都へ、夏と冬の一週間滞在し、ぞんぶんに京都の食文化を堪能した著者。寝て食べて飲む。ただそれだけを日々繰り返す著者の、その軽妙な言動につられ、気づけば肩肘はらない京都が立ち現れてきます。出てくるお店が、高級過ぎないところも共感できます。ところで私は、あまりお酒を飲みません。ましてひとりで飲み歩くなんてことは皆無。そんな私でさえ、飲んでも食べてもないのに、京の食文化を堪能したような幸福感に浸ることができた一冊です。

    (ミシマ社 三島邦弘 )

  • Jan

    02

    『跳ばずにいられないっ! ソラリーマン ジャパン・ツアー』青山裕企(徳間書店)

    『跳ばずにいられないっ! ソラリーマン ジャパン・ツアー』青山裕企(徳間書店)

    本書は、各方面で話題になった、前作『ソラリーマン』(パイ インターナショナル)の第2弾です。まずご注目いただきたいのが、表紙にも採用された、両手をあわせて跳んでいる大分県の48歳男性の写真です。仏のようなたたずまいで、たいへん魅力的。そしてその後ろにそびえる山も美しいです。他にも、素敵な表情でジャンプするサラリーマンの方々が盛りだくさんで、眺めていると自分も跳び上がりたくなるようなウキウキした気分になります。『THE BOOKS』(ミシマ社)の1月1日を担当してくださった書店員さん、金高堂・新山さんも登場しておりますので、探してみてください! お正月でお休み中のサラリーマンのみなさまにぜひご一読いただきたい一冊です。

    (ミシマ社 窪田篤)

  • Jan

    03

    『呑めば、都』マイク・モラスキー(筑摩書房)

    『呑めば、都』マイク・モラスキー(筑摩書房)

    この本はジュンク堂書店の大内さんに教えていただいたのですが、ミシマ社12月刊『飲み食い世界一の大阪』と併せて読んでいただくとピッタリの一冊です。
    著者のマイクさんは常連が集う日本の居酒屋が大好きで、それはもう日本人以上に日本の機微をご存知なのです。居酒屋でもとめられる「通の演技」とは・・・? ぜひご一読を。

    (ミシマ社 林萌)

  • Jan

    04

    『おかんの昼ごはん――親の老いと、本当のワタシと、仕事の選択』山田ズーニー(河出書房新社)

    『おかんの昼ごはん――親の老いと、本当のワタシと、仕事の選択』山田ズーニー(河出書房新社)

    仕掛け屋の林さんにすすめられて読みました。私自身、離れて暮らしていた祖母が近所に引っ越してきた直後に読み、今、この本を読めて良かった、と心から思いました。家族に対しての、たくさんの気持ちが詰まっています。お正月、ひさしぶりにご実家に戻られて、お父さんお母さんと過ごされたみなさまに、おすすめの一冊です。

    (ミシマ社 星野友里)

  • Jan

    07

    『森の生活 上・下』H.D. ソロー (岩波文庫)

    『森の生活 上・下』H.D. ソロー (岩波文庫)

    初めまして、Bookcafe solowの宮脇です。これから5日間連続で本を紹介していくわけですが、やはり一冊目は店名の元になったH.D.ソローの「森の生活」から始めたいと思います。何年か前、漠然と実家の倉庫をお店にできたらなあ、と考えるようになっていた時、ふと降りて来た名前がソローでした。何か感じるものがあり、すぐさま一緒に店をつくろうとしていた仲間に提案した。響きがいいしなんかカッコいいと言う事で即採用となりました。他にも「そろそろ」とか「ソロ」とか「揃う」とか、色んな意味を込めた。何より立地が神社の森の横にあるのがぴったりだと思った。そしてワカル人が聴いたらすぐにピンと来る名前・・・。でも何故ソローだったのだろうと、今でも思う時があります。そもそも一体自分はいつから彼を知っているのだろう? 気がつけばいつの間にか本棚にあった一冊、それが森の生活。
    ひとりの男が森に小屋を建て、約2年の間自給自足をする。ただこれだけの物語が、その後の世界に与えた影響は計り知れません。自分がリアルタイムで経験した野外音楽シーンや、それに連なるヒッピーカルチャーやビート文学、昨今の自然保護や回帰運動などの大きな潮流の源泉として、この本が間違いなくある。なんとロハスという言葉も彼の創作。そしてかのガンジーやキング牧師までもが、彼から思想的影響を受けたことを明言してはばからない・・・。
    そう、今ならわかります。この本は移ろいゆく世界に対する、不動の特異点なんです。長く旅をした事がある者なら、誰もが必ず感じたはずの「人間も結局動物だなあ」というあの感覚。ソローは物理的には移動せずとも、垂直方向の旅でそれを体得していった。そして唱える、自然に還れと。当時は折しも西部開拓時代、誰もが追いつけ追い越せの精神でフロンティアを目指していた時。
    この本は、読んで欲しいオススメの一冊というものとは少し違って(僕の好きな人の)本棚には必ずあって欲しい一冊であると言いたい。僕は人の本棚を見るのが大好きなのですが、棚にこの本を見つけたら、その人とは一生の付き合いができるような気さえする。多分これからも僕はお店を続けながら、何度もこの本を読み返すと思います。進歩しながら退化する、それを繰り返しながら。
    最後に彼の言葉を紹介。彼が森の生活を始めてから150年余りが過ぎた現代、もはや地球上にフロンティアは残っていないようにさえ思えます。ソローならこう返す。

    君の眼を内に向けよ、しからば君の心のなかにまだ発見されなかった一千の地域を見出すであろう。そこを旅したまえ。――H.D.ソロー

    森の生活

    (香川県高松市 Bookcafe solow 宮脇慎太郎さん)

  • Jan

    08

    『skyscapes』荒木経惟(codax publisher)

    『skyscapes』荒木経惟(codax publisher)

    僕は高松でカメラマンもやっています。というよりも収支的には断然こっちの方が本業。そもそもソローはそれぞれ職を持つ仲間が集まり、空間を維持していくというスタンスを取っています。日替わりで店長が変わる、コモンカフェという考え方に近いお店。基本的に本は僕の持ち込みなのですが、やはり写真をやって来ただけあって写真集関連が多いです。そのなかでも特に思い入れのある一冊を紹介。
    荒木 経惟さんの「skyscapes」これはドイツの美術出版社から出版された、空の写真ばかりを納めた一冊。日本では空景シリーズとして出版されてます。既に彼のファンだった僕は、初めてこの写真集を見た時、瞬時に奥さんが亡くなった後の写真だとわかった。なんとも言えない物悲しい空ばかり、訳もわからず涙腺が緩んだ事をハッキリと覚えている。風景写真集でよく見る綺麗な空しか知らなかった自分は、こんなに感情に溢れた空が写真で撮れるのかと驚きました。言葉などいらない、写真の神髄を見た気がした。
    実はこの写真集には本人にまつわるエピソードもあります。僕が修行をしていたスタジオで、ある日荒木さんの撮影アシスタントをすることになった。その時に同僚のスタジオマンに「大ファンだからなんとかこの写真集にサインをもらってくれないか」と渡されたのがこの本。でも立場上、さすがにそれは御法度な行為だとわかっていたので、僕はカメラを置く台の引き出しに隠しておいたんです。そしたら荒木さんと一緒にやって来たライトマンの方がいきなりそこを開けてしまった。冷や汗をかきましたよ。すると彼は本など見なかったかのように、すぐそこを閉めた。本当に申し訳ないと思って、それはもう撮影中一生懸命頑張った。そうしたら終わってから帰り際、その方がわざとらしく引き出しを開けて「あれ? こんな本がありますよ」と言ってくれた。ニヤリと笑いながら。そこで僕は事情を説明して、無事に御本人からサインをもらえたというわけ。同僚に本を渡したらメチャクチャ感謝されて、同じ本を買って僕にくれた。サインはない方でしたけど(笑)
    今でも落ち込んだ時やつらい時など、たまにパラパラとこの本をめくりながら、汗まみれになって撮影する荒木さんを思い出します。そしてあのライトマンさんのニヤッと笑った顔も。天才は周りの人間にも恵まれてる。そして今この瞬間も、あの悲しい空を心に抱きながら、人を幸せにする写真を撮り続けているのだと。

    『skyscapes』荒木経惟(codax publisher)

    (香川県高松市 Bookcafe solow 宮脇慎太郎さん)

  • Jan

    09

    『沢田マンション物語』古庄弘枝(講談社+α文庫)

    『沢田マンション物語』古庄弘枝(講談社+α文庫)

    僕がブックカフェを仲間たちとつくる際にこだわった事がひとつあります。それはDIY(Do It Yourself)でやること。できるだけプロの手を使わず、自分たちでやる。ソローはコーヒーの器から自作、地面を掘って配管のバイパス工事なども自分たちでやった。寸法を測り、木を切り、固定し、ペンキを塗る毎日。ホームセンターにも顔を覚えられるくらい通いました。
    何故そこにこだわったのか? それは僕が四国の2大セルフビルド建築から多大なる影響を受けたから。一つ目が徳島の大菩薩峠、そして二つ目が高知の沢田マンション。大菩薩峠はまたの機会にして、ここでは沢田マンションの話を。
    初めは10年程前、都築響一さんの『珍日本紀行』でその存在を知って旅の途中で寄った。住宅街に忽然と現れる要塞のような異様。しかし各階のテラスは花などで緑化され、屋上には畑や池が。自然と一体化したような外観は不思議と威圧感を感じさせず、部屋によっては中が丸見えの所も。特徴的な最上階まで続くスロープや曲がりくねった通路と相まって、本当にここは日本なのか? と思わされた。しかし正直当時は面白さが優先して、よくあるキワモノ建築という認識でした。しかし『沢田マンション物語』を読んでその印象はガラリと変わることに。信念の人、沢田嘉農さんとそれを支えた裕江さんと娘達の物語。実践に生きたひとりの男の意思が、周囲の人々を動かして形になっていく。正にこれは『アルケミスト』の有名なセリフ「君がそれをしようと思ったら、世界の全てが味方する」を体現したような実話であるとともに、家族とは何かという事をも考えさせられるドキュメンタリーの傑作。あの畑もスロープも、嘉農さんが考え抜いた結果であって、すべてに意味や物語があった。沢マンが放つ独特のオーラと不思議な居心地の良さは、まさしく隅々まで彼の気持ちが入っているからに他ならないのだと。
    果たして僕などは妥協ばかりで、どれだけその高みに近づけたかはわかりません。でもその日の営業が終わり、独りふと店内を見渡す時など、あの毎日お店がつくられていった怒濤の日々を懐かしむ。思いにも実態はある。セルフビルドとはそれを形にしていく祈りの行為。嘉農さんは既に他界してしまいましたが、彼の魂と意志は永遠に続いていくのでしょう。

    『沢田マンション物語』古庄弘枝(講談社+α文庫)

    (香川県高松市 Bookcafe solow 宮脇慎太郎さん)

  • Jan

    10

    『海辺のカフカ』村上春樹(新潮文庫)

    『海辺のカフカ』村上春樹(新潮文庫)

    今日は香川県が舞台となった小説の話を。有名な所では小豆島を舞台にした『二十四の瞳』、観音寺を舞台にした『青春デンデケデケデ』など。最近では『バトルロワイヤル』などもそうです。でも今回はあえて直球、村上春樹さんの『海辺のカフカ』を選びたい。数ある春樹作品のなかでも、特に好きなお話です。世界で一番タフな15歳になる為に、少年カフカは独り四国へと旅立つ・・・。
    僕が暮らす高松市は、人口が40万人弱の小さな県庁所在地です。そもそも四国のオマケのような香川県は日本で一番狭い県。車で1時間も走れば、東西南北どちらに向かっても県外に出てしまう。海も山も街もすべてが近く、コンパクトに揃ったこの土地を、僕は日本のムーミン谷と読んでいるくらい(笑) 自分から事を動かさなければ、何も動かず世界はどこにもいかない。この時間が止まったかのような静かな地方都市を舞台に、静かに物語は進んでいきます。
    有名な作品なのであらすじなど多くは述べませんが、僕がこの作品を好きな一番の理由は、彼の作品に繰り返し登場する「異界」が、今作では深い森として表現されているから。それはまさに、第一回目でも紹介したH.D.ソローの森の思想とでも呼ぶべきもの。物語の後半、主人公は「もう一つの世界」の象徴としての森の奥深くへ進んで行きます。そして森の闇とは、他ならない彼自身の内なる外の象徴。近代に対する圧倒的な対極として存在する森、そしてそこまで立ち返ることをしなければ、得られない太古から変わらぬ本質。この物語はまさしくネイチャー・ライティングの正統なる直系だと思います。あ、ちなみに僕のなかでこの森は高知の大豊付近のイメージです。あそこには屋久杉よりも巨大な大杉だってありますし。とても神秘的な、四国でも大好きな場所のひとつです。
    ちなみにここだけの話、僕が5年前に東京から高松に帰って来て、まずやった事、それは作中に出てくる甲村記念図書館を探した事でした。実際はそんな建物はないんですけどね。多分これをやったのは僕だけじゃないハズ(笑) でも小説内には現実の高松を思わせるような様々なエピソードも散りばめられています。このお話を読んで高松に来た方は、カフカ少年の辿った道を想像しながら旅するのも楽しいかもしれません。

    『海辺のカフカ』村上春樹(新潮文庫)

    (香川県高松市 Bookcafe solow 宮脇慎太郎さん)

  • Jan

    11

    『地球のレッスン』北山耕平(太田出版)

    『地球のレッスン』北山耕平(太田出版)

    紙の本はなくなり、すべてがデジタルに置き換えられると言われて随分が経ちます。でも依然として世の中に電子書籍もなかなか普及しません。本の未来はどこに向かうのだろう? これに対して僕には確信している答えがあります。そう、紙の本は絶対になくならないという事。
    僕は質量不変の法則は人の「思い」にもあると思っています。今はどうしても電子書籍というと経費的、合理性の面でばかり語られがちですが、そこでは決定的に思いが抜け落ちやすい。もちろんデジタルでも思いを込める事は可能だとは思うのですが、逆にアナログでやるより難しいんじゃないかと。人は思いを他人と共有したい動物、出版不況に対抗するかのように盛り上がっている、昨今のZINE界隈などを見ても、伝えたいという気持ちが続く限り、最適のメディアであるモノとしての本も続いていくのでしょう。結局人間の中身の大事な所は、昔から変わっていないのかも知れません。最後に紹介する本は、そんな変わらぬ人間の、太古からの知恵を伝えた一冊。『THE BOOKS』というミシマ社さんの本で紹介された僕の文章をそのまま載せます。5日間ありがとうございました。
    この本さえあれば、もう他の本などいらないという本を求めて、いったい僕たちは人生のどれだけを費やしただろう? 明日世界が終わるとして、いったい僕たちは膨大な蔵書のなかから、何を手に取って読むのだろう? 本書は個人的にはLast Bookとさえ思っている、本屋さんとしては本音ではすすめたくない罪な一冊。現代日本の語り部、北山耕平さんからのメッセージが詰っています。なかに挟まれている「自然のレッスン通信」の読書感想コーナーには、恥ずかしながらウツシヨというペンネームで自分のコメントも載っています。

    『地球のレッスン』北山耕平(太田出版)

    (香川県高松市 Bookcafe solow 宮脇慎太郎さん)

  • Jan

    15

    『テロルの決算』沢木耕太郎(文春文庫)

    『テロルの決算』沢木耕太郎(文春文庫)

    15歳の時、沢木さんの作品と出会い、30年以上、追いかけるように読み続けてきた。繊細な取材、(書く)対称との距離感、そして熱情・・・沢木さんの作品から学んだことは多い。17歳の少年と61歳の政治家の、ふたつの人生の「一瞬の交錯」がこの作品である。2008年に新装版として刊行された文庫には「あとがき」がⅠ~Ⅲまであり、ここに作品は完結しても、「その人生」は続いている、という著者自身の"内なる声"を聞くことができる。同時にそれは、読者である"私"の人生(生活)も続いている、終わっていないのだ、と感じる瞬間でもあった。何度も・・・何度も・・・読み続けていく作品だ。

    (東京都江東区 丸善 有明ワンザ店 小板橋頼男さん )

  • Jan

    16

    『身の上話』佐藤正午(光文社文庫)

    『身の上話』佐藤正午(光文社文庫)

    「作家・佐藤正午は小説を書く。読者の私はその小説を読む。書店員の私はその小説を売る、たくさんの人に届ける。何の迷いもない。ただ、それだけだ」いつからか決め台詞のように、このフレーズがエンドレスで頭のなかを回っている。2009年に刊行され、断トツでその年に読んだ本のなかでいちばん面白く、刺激的であった作品。現在、NHKでドラマ化、この"おそるべき原作"をどうドラマ化したのか、毎週、「期待と不安」が掛け算になって、楽しみでならない・・・。

    (東京都江東区 丸善 有明ワンザ店 小板橋頼男さん )

  • Jan

    17

    『冬の本』(夏葉社)

    『冬の本』(夏葉社)

    「冬」と「本」というキーワードで84人それぞれの想いで書かれた、短編エッセイ集。「昔のLPレコードのようだ」というのが第一印象。個々のエッセイが大切に書かれ、一冊トータルの"暖かさ"に満ちている。編集者、書いた人、読んだ人、それぞれにとって幸せな本だと思った。本は通勤電車の中で読むことが多いけど、この本は、喫茶店に入り、美味しい珈琲を飲みながらゆっくり読みたい、そんな気持ちになる『冬の本』です。

    (東京都江東区 丸善 有明ワンザ店 小板橋頼男さん )

  • Jan

    18

    『神と語って夢ならず』松本侑子(光文社)

    『神と語って夢ならず』松本侑子(光文社)

    1月20日刊行される、松本侑子さんの新刊。文芸誌にて著者インタビューをおこなった関係で、原稿を読ませていただいた。倒幕と尊王にゆれる日本海で、世界初の自治政府をおこした男たちの物語。主人公・井上の若さゆえの未熟さ、挫折、悲しみ、そして夢に向かう情熱、教養、行動力・・・すべてが愛しく、魅力的だ。島崎藤村の『夜明け前』に連なる、もうひとつの明治維新がここにある! たくさんの人に読んでほしい! 

    (東京都江東区 丸善 有明ワンザ店 小板橋頼男さん )

  • Jan

    21

    『羆撃ち』久保俊治(小学館文庫)

    『羆撃ち』久保俊治(小学館文庫)

    お客様から紹介された一冊でしたがはまってしまいました。従業員やお客様にも勧めましたが、男女問わず大絶賛でした。学生時代からすでに猟師を生業としてきた著者の回顧録です。獲物を探し求め山にこもる少し変わり者の孤高の人物かなとイメージしたら大間違い。米国人にも賞賛されたこの道40余年、家庭では娘二人を育てた北海道の猟師です。自然の厳しさや獲物に対する畏敬の念を語り、相棒の狩猟犬への深い想いを語る。アイヌ犬フチとの出会いから別れまでの話には思わず落涙です。観察力の鋭さと抜群の記憶力、そしてリアルな描写による狩猟シーンはまるで映像をみているようで読者はアドレナリン大放出まちがいありません!

    (京都府宇治市 大垣書店六地蔵店 溝上誠さん)

  • Jan

    22

    『沈黙』遠藤周作(新潮文庫)

    『沈黙』遠藤周作(新潮文庫)

    信仰について深く考えさせられる作品です。日本人は無宗教だとよく言われますが、そんな私たちこそが読むべき本ではないでしょうか。作品の内容と描写が素晴らしく、思わず自分がその場にいるかのような錯覚をおぼえるほどです。神はいるのか、信仰心とは。江戸時代のキリスト教弾圧のなか、神を信じ、祈り続ける若きポルトガル人司祭ロドリゴ。その姿に心をうたれます。迫害されるキリシタンをよそになぜ神は沈黙を続けるのか、この作品の答えがすべての人に共感できるかはわかりませんが、一読の価値がある作品です。読後、すっきりする青春小説などとは一線を画しますが、10代、20代の方にぜひ読んでいただきたいです。

    (京都府宇治市 大垣書店六地蔵店 中川貴人さん)

  • Jan

    23

    『銀の匙 Silver Spoon』荒川弘(少年サンデーコミックス)

    『銀の匙 Silver Spoon』荒川弘(少年サンデーコミックス)

    派手に戦うバトルマンガや、魔法が飛び交うファンタジーな作品でもない素朴で、とても大切な事を考えさせられる作品。例えば、「いただきます」と何気なく使っている人や、まったく言わずにご飯を食べている人が多い世の中ですが、その一言にどういう意味があるのか、知らない人は居ないはずの"あたりまえ"の事の大切さを教えてくれます。小さな事にも、悩んで、悩んで、答えを探して、また悩んで・・・。そうやって生きていくんだ! と、いうことをこの作品の主人公と一緒に、子どもも、大人も、読んで感じていって欲しいです。

    (京都府宇治市 大垣書店六地蔵店 中井志穂さん)

  • Jan

    24

    『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス(早川書房)

    『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス(早川書房)

    読んでいる途中で何度か手を止めて思わず考え込んでしまう作品です。知能が6歳児並みのチャーリイ・ゴードンが脳手術をうけ、頭脳明晰になっていく過程でそれまでよく見えていなかった社会への葛藤が丁寧に描かれています。良き小説からは何か学ぶべきことも多いのですが、この作品ほど幸福とは何か?ということを考えさせられる作品は他にはないと思います。読んでいて心に訴えかけるものがあり、読後の自分にとって良い経験になったといえる一冊です。一度読むとその後は読まなくなる小説も数多いのですが、この小説は何度でも読み直したくなります。

    (京都府宇治市 大垣書店六地蔵店 中川貴人さん)

  • Jan

    25

    『人物表現辞典』中村明 編(筑摩書房)

    『人物表現辞典』中村明 編(筑摩書房)

    150人の作家の人物表現を一冊に纏めた本です。「人物」と一括りにいっても作家によって表現方法は様々で、色々な書き方があるなあと感心させられます。人物の目・鼻・口などに区分けされており順々にページをめくるだけでも楽しめる作品です。気にいった表現があれば、そこから作者さんの作品を読んでみるのもよいと思います。私はこの本がきっかけでお気に入りの作家が3人増えました。少し変わった辞典ですが、色々な作家の人物表現を一冊で楽しめ、文章技巧をこの上なく楽しめる作品だと思います。

    (京都府宇治市 大垣書店六地蔵店 中川貴人さん)

  • Jan

    28

    『冒険者たち  ガンバと15ひきの仲間』斎藤惇夫(岩波書店)

    『冒険者たち  ガンバと15ひきの仲間』斎藤惇夫(岩波書店)

    小学生の頃、私は肥満児でした(今はビール腹になってます)。したがって、体を動かすことは嫌い。小学校の図書館で、借りた本の数を友人と競っていました。その時に出会ったのが、この本です。内向的な私に、本のなかで冒険に飛び出すことの喜びを教えてくれました。
    「さあ行こう仲間たちよ 住み慣れたこの地をあとに 曙光さす地平線の彼方へ」
    この言葉を、その友人と声に出しながら下校したことを、今も覚えています。斎藤惇夫さんの『ガンバとカワウソの冒険』『グリックの冒険』とともに、忘れられない本です。ちなみに、私が読んだのはハードカバーですが、現在は岩波少年文庫でも出ています。

    (青森県弘前市 ジュンク堂書店弘前中三店 鳥羽隼弥さん )

  • Jan

    29

    『ホビットの冒険』J.R.R.トールキン(岩波書店)

    『ホビットの冒険』J.R.R.トールキン(岩波書店)

    中学に入っても運動が苦手なのは変わらず(それでも部活は結構頑張りました)、ファミコン、スーパーファミコンでのRPG(ロールプレイングゲーム)にはまっていました。ドラゴンクエストとかファイナルファンタジーとかですね。その時にたまたま友達に勧められて始めたのが、TRPG(テーブルトークアールピージー)です。わからない人には本当にわからないでしょうが、要するにコンピュータのなかでやるような冒険を、何人かの友達で集まって机の上でおこなうものです。それぞれが戦士や魔法使いになりきって、サイコロ(ダイスといいます)を転がしながら、冒険をするわけです。私がやっていたのは、SF作家の山本弘さんや『ロードス島戦記』の水野良さんなどがつくったソードワールドというものでした。
    TRPGについて語るのが本題ではありません。こういったところからファンタジーの世界にはまっていったのです。そこで否応なく聞くのが『指輪物語』とその作者トールキンでした。いつかは読んでみたいと思っていましたが、当時は評論社の新板が出る前で、書店でも図書館でも見つけることができませんでした。そこで『指輪物語』の前史である『ホビットの冒険』を読んだのです。
    瀬田貞二さんの訳はちょっと独特なのですが、私は味があっていいと思います。映画の『指輪物語』を見た時に、なんで指輪の持ち主だったゴラムについて、ゴクリじゃないんだ、と不満に思ってしまったくらいです。
    中学校の図書館にあったのはハードカバーでしたが、岩波少年文庫に上下巻でおさめられています。また、原書房から、山本史郎さんの訳で『ホビット』として刊行もされています。

    (青森県弘前市 ジュンク堂書店弘前中三店 鳥羽隼弥さん )

  • Jan

    30

    『ラヴクラフト全集〈4〉』H.P.ラヴクラフト(創元推理文庫)

    『ラヴクラフト全集〈4〉』H.P.ラヴクラフト(創元推理文庫)

    高校に入り、指輪物語も読了した私は、ミステリやホラーといったジャンルにも興味をもつようになりました。といっても、お金があるわけでもないので、もっぱら文庫本、特に創元推理文庫とハヤカワ文庫の棚を中心に、本を選んでいました。その時に出会ったのが、創元推理文庫のラヴクラフト全集です。中学でTRPGをやっていたので、その名前は聞いたことがありましたが、読んだことはありませんでした。そこで買って読みだしたのですが、これがとにかく面白かったのです。
    ラヴクラフトが目指したのは宇宙的な恐怖だ、と言われます。といっても、宇宙怪獣などがあらわれて町を破壊するとかではなく、人類以前のモノ(邪神、旧支配者)がもたらす人間には想像もできない恐怖、とでもいうのでしょうか。直接的にどうにかなるのではなく、心理的にどんどん圧迫されていき、最後に迎える破局。それが私には新鮮でした。
    「インスマウスの影」の収録された1巻、神話体系の名称となった「クトゥルフの呼び声」の2巻、名作「未知なるカダスを夢に求めて」の6巻を差し置いて、4巻を選んだのは、
    「狂気の山脈にて」「宇宙からの色」という宇宙的恐怖(コズミックホラー)の代表作と思われる作品が入っているからです。
    ちなみに、1974年の1巻刊行から33年たった2007年、別巻下をもってようやく全集が完結しました。

    (青森県弘前市 ジュンク堂書店弘前中三店 鳥羽隼弥さん )

  • Jan

    31

    『内田百閒集成8 贋作吾輩は猫である』内田百閒(ちくま文庫)

    『内田百閒集成8 贋作吾輩は猫である』内田百閒(ちくま文庫)

    大学時代はほとんど本を読まずに過ごしてしまいました。そして就職。就職先が書店だったため、また本を買い集めるようになったのですが、そんな時に筑摩書房から、文庫版で『内田百閒集成』(全24巻)が刊行されたのです。
    日本の幻想文学はあまり読んでいなかったのですが、評判も良かったので試しに読んでみたところ、見事にはまってしまいました。それからは古本屋で福武文庫や旺文社文庫の百閒があれば買うように・・・。
    内田百閒といえば、師の漱石『夢十夜』を継いだような名作『冥途』や、ユーモアの極致『阿房列車』、そしてネコ好きにはたまらないであろう『ノラや』など、数々の作品がありますが、そのなかでもこの『贋作吾輩は猫である』は、登場人物たちの会話の面白さ、そして死んだはずの借金取りが現れる話に、ユーモアと幻想という百閒先生の特質が表れていると思います。

    (青森県弘前市 ジュンク堂書店弘前中三店 鳥羽隼弥さん)