今日の一冊バックナンバー

  • Sep

    01

    『困難な結婚』内田樹(アルテスパブリッシング)

    『困難な結婚』内田樹(アルテスパブリッシング)

    題名を見て「やっぱり結婚は難しいことなのか」と思った方、ぜひこの本を手に取ってみてください。結婚、恋愛、人とのつきあい方などの疑問に、Q&A方式で内田先生が答えていきます。結婚に対して「なんだかもやもやする」や「腑に落ちない感じ」を、軽くしてくれるような一冊。「それが言いたかった」と思わず頷くほど、すっと馴染む言葉の数々がたくさん。今結婚している方もしていない方も、したい方もしたくない方も、あなたのそのもやもやの正体、内田先生が解き明かしてくれるかもしれません。

    (ミシマ社 岡田千聖)

  • Sep

    02

    『2.43 清陰高校男子バレー部』壁井ユカコ(集英社)

    『2.43 清陰高校男子バレー部』壁井ユカコ(集英社)

    東京から故郷の福井に越してきた灰島は、バレー部で幼なじみの黒羽と再会します。バレーにひたむきになるあまり、人と上手くコミュニケーションをとれない灰島。灰島に出会ったことで、葛藤しながらも自分のバレーを見直していく黒羽。登場人物たちの心理描写が細やかで、まるでこのバレー部のマネージャーになって彼らを見ているかのよう。ただの爽やかなスポーツ小説ではない臨場感があります。一気読みしたくなる作品です。

    (ミシマ社 岡田千聖)

  • Sep

    03

    『しろねこくろねこ』きくちちき(学研)

    『しろねこくろねこ』きくちちき(学研)

    この絵本を読んで亡くなった大切なともだちを思い出すことができました。普段はしんどく思い出さないようにしていたのに。優しく思い出せました。

    (ミシマガジンサポーターさん)

  • Sep

    04

    『ブータン、これでいいのだ』御手洗 瑞子(新潮社)

    『ブータン、これでいいのだ』御手洗 瑞子(新潮社)

    まさか会社帰りに寄ったカフェで、あやうく泣きそうになるとは思いませんでした。しかもこんなお気楽なタイトルの本を読んで。幸せの国、ブータンの幸せは、国が与えたものではなく、彼の地の人々の「幸せ力」の高さなんだな...。それにしても著者のようになめらかな知性よ。

    (ミシマガジンサポーターさん)

  • Sep

    05

    『アクロイド殺し』アガサ・クリスティ/羽田詩津子訳(ハヤカワ文庫)

    『アクロイド殺し』アガサ・クリスティ/羽田詩津子訳(ハヤカワ文庫)

    クラシック・ミステリ、とりわけ英国ものが大好きで、だいたい毎日そういうものを読んでいる私の原点的作品。
    震えるくらいにおもしろい作品にいくつも出会ったけれど、これ以上に「灰色の脳細胞」が痺れるほどの衝撃を受けたものはまだないように思う。未読の人をみつけるたびに、「いいなぁ」と羨ましくてたまらない。あと、「アクロイド殺人事件」じゃなくて「アクロイド殺し」ていうのも、なんか好きです。

    (ミシマ社の本屋さん 助っ人 久保田佳奈さん)

  • Sep

    06

    『シェイクスピア/シェイクスピア詩集』吉田健一(平凡社ライブラリー)

    『シェイクスピア/シェイクスピア詩集』吉田健一(平凡社ライブラリー)

    エリザベス朝の演劇入門からはじめ、主要作品を解題していく名著「シェイクスピア」と、吉田健一が愛した十四行詩を訳出した「シェイクスピア詩集」をひとつにした贅沢な一冊。
    シェイクスピアの素養があれば、英米文学は千倍おもしろく、もちろん、ミステリもその例外ではない。ピーター・ウィムジイ卿やエラリー・クイーンなんか、謎解き以外で喋っていることの半分くらいは引用なんじゃないのか(かっこいい)。
    私もシェイクスピアの一節を引用したり、詩を暗誦してみたい...とおもって本書を手にとってみても、清水徹氏が解説で"典雅な抒情性"と表した、その夢みるような美しい訳にうっとりしてぼんやりしているばかりである。

    (ミシマ社の本屋さん 助っ人 久保田佳奈さん)

  • Sep

    07

    『近代文化史入門 超英文学講義』高山宏(講談社学術文庫)

    『近代文化史入門 超英文学講義』高山宏(講談社学術文庫)

    シェイクスピア、英国庭園、絵画、ロビンソン・クルーソー、テーブル、夏目漱石、博物学、シャーロック・ホームズ、写真、不思議の国のアリス...。
    これを読む前と読んだ後では、世界が変わる。「光」はこんな風に当てるのか。「見える」とはこういうことか。私にとっての"知恵の樹の実"である。折に触れて読み返す座右の書。

    (ミシマ社の本屋さん 助っ人 久保田佳奈さん)

  • Sep

    08

    『後鳥羽院 第二版』丸谷才一(ちくま学芸文庫)

    『後鳥羽院 第二版』丸谷才一(ちくま学芸文庫)

     我こそは新じま守よ沖の海のあらき浪かぜ心してふけ
    後鳥羽院といえば、承久の乱、悲劇的半生、御霊の祟り、というちょっとこわいイメージだったのが、本書を読むうちにすっかりファンになってしまった。ゆったりと朗々たる帝王調、ユーモアとアイロニーのにじむその歌の魅力的なこと。藤原定家とのスリリングな関係もおもしろい。丁寧な解釈と鑑賞で代表的な歌を読みすすめていくうちに、王朝和歌のおもしろさにぐいぐい引き込まれる。本歌どりによって果てしなく複雑に幾層にも広がりゆく世界。それは奥深い日本文学の世界でもある。

    (ミシマ社の本屋さん 助っ人 久保田佳奈さん)

  • Sep

    09

    『阿房列車』内田百間/一條裕子(小学館)

    『阿房列車』内田百間/一條裕子(小学館)

    元祖乗り鉄エッセイ、内田百閒『阿房列車』を漫画化。せりふが(新潮文庫版の)原文だけで構成されている。原作を活かしたどころではなく、そのおもしろさを倍増させたような漫画化作品の傑作である。どぶ鼠ことヒマラヤ山系君なんか、あまりにイメージそのまま、最初にみたとき笑ってしまったくらいだ。何にも用事がないときに旅館でごろんと転がり、にやにやしながらこの本を読みたい。とてもたのしい一冊です。

    (ミシマ社の本屋さん 助っ人 久保田佳奈さん)

  • Sep

    10

    『食器と食パンとペン』安福望(キノブックス)

    『食器と食パンとペン』安福望(キノブックス)

    現代歌人の短歌に合わせたイラストがとても詩的!! どのページをみてもほっこりします。 

    (ミシマガジンサポーターさん)

  • Sep

    11

    『1ドルの価値/賢者の贈り物 他21篇』O・ヘンリー/著、芹澤恵/訳(光文社古典新訳文庫)

    『1ドルの価値/賢者の贈り物 他21篇』O・ヘンリー/著、芹澤恵/訳(光文社古典新訳文庫)

    この光文社古典新訳シリーズが好きで、少しずつ集めています。望月通陽さんの絵も一冊一冊本の内容に合わせて変わり、色もその著者の出身国ごとに変わるので本棚もカラフルになって嬉しいです。本書は短編集で、なかでも僕のお気に入りは表題作の「賢者の贈り物」。若夫婦がお互い一番大切なものを犠牲にして、クリスマスプレゼントを用意するのだけれど...。読んだら「あぁ...」ってなります。

    (ミシマ社 田渕洋二郎)

  • Sep

    12

    『ガールフレンド』しまおまほ(P-Vine BOOKs)

    『ガールフレンド』しまおまほ(P-Vine BOOKs)

    しまおさんの「ガールフレンド」を読んで自分の友だちのことや家族のこと、まわりの男子とか女子のこととかに想いを巡らせます。「女友だち、男友だち」がとっても好きです。

    (ヨーロッパ企画 石田剛太さん)

  • Sep

    13

    『K氏の遠吠え 誰も言わへんから言うときます。』 江弘毅(ミシマ社)

    『K氏の遠吠え 誰も言わへんから言うときます。』 江弘毅(ミシマ社)

    ときどき一年に一度くらい「これは!」という本と出会うもので、この本がまさにそうでした。うちの新作本公演「来てけつかるべき新世界」もここから始まったんでした。グルメ記事や外食のことについて「いろいろぶっちゃけた」本です。食べログのこととかサイゼリヤのこととか。そしてお店に行って食べることってこんなに面白いことだったんだということがわかります。

    (ヨーロッパ企画 上田誠さん)

  • Sep

    14

    『すべてがFになる』森博嗣(講談社文庫)

    『すべてがFになる』森博嗣(講談社文庫)

    ミステリーは子どものときからいろいろ読んできましたが、トリック特殊すぎる! でもすごい! タイトル! ってなった本でした。もちろん目を引くのは、この科学的、工学的なトリックや推理なのですが、一番魅力的だったのは、主に登場人物たちの日常として描かれる、大学工学部の研究室の描写の数々。すごく研究室にあこがれて、これが読みたくて次々と続編を買い込んだものでした。工学や建築学に憧れがあるかたには、超オススメの一冊です。

    (ヨーロッパ企画 酒井善史さん)

  • Sep

    15

    『煩悩短編小説』せきしろ、バッファロー吾郎A(幻冬舎)

    『煩悩短編小説』せきしろ、バッファロー吾郎A(幻冬舎)

    心優しきユーモア先生たち、せきしろさんとバッファロー吾郎Aさんの共著です。108文字で綴られた108編のめくるめく煩悩短編小説。108の文字列から滲み出るお二人の個性を読み取るのも大変楽しいです。おすすめいたします。

    (ヨーロッパ企画 角田貴志さん)

  • Sep

    16

    『ハルとミナ』濱田英明(メディア・パル)

    『ハルとミナ』濱田英明(メディア・パル)

    写真家濱田英明さんの写真集です。もう素晴らしいの一言です。本当にいろんなことを考えながら写真を撮ってるんやろうなと思います。僕もいつかはこんな写真が撮れるようになりたいと憧れております。

    (ヨーロッパ企画 諏訪雅さん)

  • Sep

    17

    『わたしは目で話します』たかおまゆみ(偕成社)

    『わたしは目で話します』たかおまゆみ(偕成社)

    透明なアクリル板にひらがなの50音や数字が書かれている文字盤。ALSという神経難病で声が出なくなった作者は、この文字盤を使って話す。ボードを見る患者の目の動きをヘルパーは一つひとつ声に出して読み取る。B6版231ページのこの本は、こうして綴られた。

    (ミシマガジンサポーター EishiNさん)

  • Sep

    18

    『アルテリ 二号』アルテリ編集室(橙書店)

    『アルテリ 二号』アルテリ編集室(橙書店)

    熊本からとどいたちいさな文芸誌。石牟礼道子さん、渡辺京二さん、新井敏記さんといった書き手のが言葉がたんたんと並びます。地震のあと、熊本で静かに紡がれた言葉たち。さらりと読めるがゆえに読後感があとを引く本です。

    (ミシマ社 鳥居貴彦)

  • Sep

    19

    『中沢啓治著作集1 広島カープ誕生物語』(DINO BOX)

    『中沢啓治著作集1 広島カープ誕生物語』(DINO BOX)

    広島に住んでいた幼少期に市民球場に行って以来、住むところは変わってもずっとカープファンです。こんなに強いシーズンは久しぶりすぎて、多少優勝見知りしてしまってますが、そんな今こそ読んでいただきたい一冊です。

    (ヨーロッパ企画 土佐和成さん)

  • Sep

    20

    『燃えよ剣(上下巻)』司馬遼太郎(新潮文庫)

    『燃えよ剣(上下巻)』司馬遼太郎(新潮文庫)

    この本で歴史小説、司馬遼太郎さん、そして歴史が大好きになりました。もうとにかく主人公の新撰組副長・土方歳三が格好良い。読みやすい文体で、人間味あふれる喧嘩師の青春と恋が描かれていて、死ぬそのときまで清々しく美しい。かくありたい。

    (ヨーロッパ企画 中川晴樹さん)

  • Sep

    21

    『俳優のノート<新装版>』山崎努(文春文庫)

    『俳優のノート<新装版>』山崎努(文春文庫)

    リア王の役に挑む山崎努氏本人による詳細な手記本です。役作り、台詞覚えの苦労、食事...等々、あらゆる演劇本の中でも、ここまで「演じること」の具体的な手続きを記述した書物は珍しいと思います。本番前、緊張でナーバスになるときにいつもこの本の言葉を反芻してます。「意図的に気分転換を計っても、あのうきうきした気分は作れない~気持ちが沈殿している日でも焦らずに待つだけだ」。巻末の香川照之さんの解説もたまらんです。

    (ヨーロッパ企画 永野宗典さん)

  • Sep

    22

    『ファンタジックショップ エルフさんの店』 高柳佐知子(亜紀書房)

    『ファンタジックショップ エルフさんの店』 高柳佐知子(亜紀書房)

    小さい頃から、本の中に出てくる架空のお店や食べ物に憧れがあります。『ぐるんぱのようちえん』に出てくる大きなビスケットや『アイスクリームの国へごしょうたい』のアイスクリーム、わかったさんやこまったさんが作る、お菓子や料理も食べたくてしょうがなかった。最近読んだこの『エルフさんの店』の中にも、魅力的な品々がたくさん出てきます。好きで夢中になったものって、いつまでもかわらないんだなぁって思い出させてくれた本です。

    (ヨーロッパ企画 西村直子さん)

  • Sep

    23

    『いちご同盟』三田誠広(集英社文庫)

    『いちご同盟』三田誠広(集英社文庫)

    中高校生のときに三田誠広さんの小説を何冊か読んでまして、そのときにこの「いちご同盟」も読みました。思春期特有のなんというかな気持ちが描かれていて主人公に影響受けまくって、最終こいつは私だ! となってました。そして読んだ後やましい気持ちはいかん! と何日間か禁欲生活を送りました。今でもたまに思い出してダメな自分を律しようとするときがあります。自分の中から邪鬼を追い出したいときにぜひ読んでください。

    (ヨーロッパ企画 本多力さん)

  • Sep

    24

    『女、今日も仕事する』大瀧純子(ミシマ社)

    『女、今日も仕事する』大瀧純子(ミシマ社)

    一読して若松さんへの言われようにおどろきを隠せないです。しばらくして、広汎な人間どうしのコミュニケーション問題でもあるのではと、思うに至りました。

    (ミシマガサポーター 三浦裕子さん)

  • Sep

    25

    『変なお茶会』佐々木マキ(絵本館)

    『変なお茶会』佐々木マキ(絵本館)

    世界のあちこちからみんなで集まってお茶会をする、というだけのとってもシンプルなお話です。私はこの絵本の、色がすきです。どれくらいすきかというと、使われている文字の色まですきなくらい。最初に本屋さんで見かけたときも、このカバーの色にひとめぼれでした。全部のページをポストカードにして、お家のいろんなところに貼ったら、すごくいい感じになるんじゃないかなあと思っています。

    (ミシマ社 長谷川実央)

  • Sep

    26

    『俳優の仕事 俳優教育システム 第一部』 コンスタンチン・スタニスラフスキー/著、 岩田貴 ほか/訳(未来社)

    『俳優の仕事 俳優教育システム 第一部』 コンスタンチン・スタニスラフスキー/著、 岩田貴 ほか/訳(未来社)

    図書館という空間は不思議な魅力を感じます。なぜかは自分でもよく分かりません。そう言いながら、学生の頃は月に4~5回ぐらいのペースで、お邪魔していたと思います。専ら宿題や課題の為に、図書館にある書物に用事があったのですが、近くにあるラーメン屋や洋食店で昼飯を食べるといった楽しみのおまけだったようにも思えます。だから、図書館には本当にお邪魔していたのです。結構、長時間いることも多かったのですが、そうそう勉強そのものが長続きしているわけでもないので、散歩がてら、図書館の書架を徘徊するのです。そっちの方が占める時間は長かったかも・・・、いや、長かったです。そんな時に見つけたのがこの本でした。実際には『俳優修業』という題名で、後に改訂版としてこの『俳優の仕事』が発行されています。当時、ジェームス・ディーンのブームがあったので、僕もなんとなく興味が向き、その頃はよく映画コーナーに立ち寄っていたので、その辺りの本をかなり手に取ったと思います。腰を据えて読むでもなく、借りるわけでもなく、ただその場で立ち読みして時を過ごしていました。そんな中、たまたま手に取った『俳優修業』を読み始めると、何時間も立ち続けていたことに気付かないほど吸い込まれてしまいました。それまでは、スタニスラフスキーという名前は全く知りませんでしたし、バレエなんて興味ありませんでしたが、スタニスラフスキーが芸術を探求していく様子に引き込まれずにはいられなかったのだと思います。この本に出会う前と後では芸術に対する考え方は随分変わりましたし、それ以上に、芸術と向き合う人たちに対しても尊敬の大きさが変わりました。そして何より、何かを探求し挑戦していく人の姿が感動をもたらす、真に美しいものだと気付きました。・・・そう考えると、この本の僕の中の支配率は、かなり大きな数字になっているのではないかなぁ、ということになりそうです。

    (北海道 喜久屋書店小樽店 金田憲治さん)

  • Sep

    27

    『あなたに不利な証拠として』ローリー・リン・ドラモンド/著、駒月雅子/訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)

    『あなたに不利な証拠として』ローリー・リン・ドラモンド/著、駒月雅子/訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)

    警察小説の魅力の奥深さに初めて気づかされた作品。ミステリー賞を受賞した作品として勝手な思い込みを持って読み始めました。勝手な思い込みというのは、アリバイ崩しやトリックを見破る、といったどんでん返しを期待して、ということです。ハラハラドキドキにわくわくする、大好きです。でも、それだけじゃないんだ。
    ここにあるのは、どれもが個性的な作品ばかり。静かな個性の物語。警察官とそれをとりまく人々の関わりから生まれる物語。そこでは、一面的な謎解きを超えた、ミステリーの世界が広がっていて、静かに躍動する。どこかで覚えた言葉、センス・オブ・ワンダーが身近に感じられたのです。警察小説であれば、「マイアミ・バイス」や「西部警察」(古い!?)のような活劇を期待するのは今も同じです。ただ、好きだったかどうかは思い出せなくても、忘れられないのは「ヒルストリートブルース」だったりする。そんな自分の思い出とも出会うきっかけをくれた小説。

    (北海道 喜久屋書店小樽店 金田憲治さん)

  • Sep

    28

    『Banana fish』(全11巻)吉田秋生/著、(小学館文庫)

    『Banana fish』(全11巻)吉田秋生/著、(小学館文庫)

    あまりマンガは読まないかもしれません。そんな僕ですが、ハマったということになるのが、この Banana fish です。知ったのも10年ほど前なので、この作品の連載時期から考えるとかなり時間差もあります。文庫版になっているものを読んだので、最初は知らなかったのですが、少女コミックの連載として掲載されていたというのには驚きました。文庫版で読んでいたからかもしれませんが、手のひらに乗るちいさなページの上で繰り広げられるドラマが、大作映画のような壮大なスケールで展開していく、・・・圧倒されました。人間の心理が描かれる場面ではゆっくりと、アクションシーンでは息継ぐひまもないほど、読者の僕のページを捲る速度が実際に変化しているようで、登場人物たちの呼吸そのものが僕の呼吸になっていたのではないかと思えるほどでした。マンガに対して、"おもしろい"を超える表現を持ち合わせていない僕に、「探さなくてはならないな、Banana fish に相応しい形容詞」と。そういう記念碑のような作品になっています。

    (北海道 喜久屋書店小樽店 金田憲治さん)

  • Sep

    29

    『完全言語の探求』ウンベルト・エーコ/著、上村忠男、広石正和/訳(平凡社)

    『完全言語の探求』ウンベルト・エーコ/著、上村忠男、広石正和/訳(平凡社)

    子どもの頃は誰でも一度は夢見るのではないでしょうか。ドリトル先生のように動物たちとお喋りできたらいいな、と。野に咲く花のまわりを舞う蝶々を見ると、自然は僕たちを取り残して調和している、それが羨ましかった。同じ瞬間を共有していても、違う世界を見ている寂しさを感じていたのではないかと思います。理解したい、分かり合い分かち合いたい、そんな感情が生まれながらにして人にはあるのではないでしょうか。人間の世界では互いの無理解から生じる争いが絶えません。『完全言語の探求』は、謂わば人間の理解したいという願望の現れであり、挑戦です。何故、この世界には様々な言語が存在するのか。バベル以降の言語の混乱と争いは呪縛なのか。本書は丹念に史料を分析し完全言語の再建を試みるが、同時に多種多様な言語が存在することの素晴らしさも浮き彫りにする。言語の違う人々が、歩み寄って建設的に塔を求めるなら、バベルの意図に近づくのかもしれない。

    (北海道 喜久屋書店小樽店 金田憲治さん)

  • Sep

    30

    『ダブル・スター』ロバート・A・ハインライン/著、森下弓子/訳(創元SF文庫)

    『ダブル・スター』ロバート・A・ハインライン/著、森下弓子/訳(創元SF文庫)

    信念に基いて生きる人々に憧れます。困難に向き合う人々を応援します。人の為に自己犠牲を厭わない人々を尊敬します。悪しき権力に立ち向かう人々に夢を見ます。真理を追い求める人々に心を奪われます。小説の主人公というのはそういうものです。だから共感できるのだと思います。そして、僕が『ダブル・スター』の主人公ロレンゾに肩入れするのは、川に流れがあるのと同じくらい自然なことなのです。確かに完全無欠の絵に描いたようなヒーロー像とはいえません。かなりかけ離れているかもしれません。しかし、彼は自分にしかできないと信じている芸術的技巧で世界を救うため、いや、もっとスケールは大きくて、宇宙を危機から救うため、全身全霊を注ぎ込むのです。それも人知れず、自らの正体を隠し通さなくては成り立たない筋書きの中で。影に徹する彼の姿は読者である自分が見守り続けるだけ。名声のためではなく、与えられた役を信じる力が、世界を動かすのです。

    (北海道 喜久屋書店小樽店 金田憲治さん)