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第2回

2限目:サッカー

2018.06.12更新

 先日、太田出版のクイックジャパン編集部の方から「今度やるサッカー特集で、サッカーを題材にした落語台本を作って欲しい」というオファーを頂戴しました。

 期間は2週間。特別好きなわけでもないサッカーについてネタが作れるかどうか自分でも確信が持てないまま、それでも二つ返事でOKしていました。

 これまでの経験則として、僕は何かしら題材を与えられたら、質や、作品としての普遍性・強度はともかくとして、ひとまずネタにまとめ上げることはできる気がしています。頂いた題材を自分なりの切り口で見て、考えて、ネタにできそうなほつれを見つけ出して、そこを広げて1本のネタまで昇華させていく。言葉で説明するとそういった作業でネタを作っていきます。

 数学好きの僕はこの一連の流れを関数みたいだなぁといつも思っています。頂いた題材Aを自分という関数f(x)に代入することで、f(A)というネタをアウトプットするイメージ。理論上はxにどんな題材を代入しても必ず「答え」=ネタが出力されることになります。

 そしてそれは僕に限らず、誰にとってもそうなのだろうなぁとも思っています。「数学者」という関数に「サッカー」を代入したら? 「編集者」という関数に「サッカー」を代入したら? 「料理研究家」は? 「画家」は? 「医者」は? 「大工」は? 「ダンサー」は?

 一口に言ったら「自分なりに考えてみる」という行為なんだと思いますが、用意された答えをただ読み取るのでなく、いつでも自分という関数に通してみるクセをつけるのは良い気がします。とりあえず無料で楽しめるし、良い暇つぶしくらいにはなるはずです。

 みなさんは「サッカー」という題材から何を作りますか? どんなことを考えますか? 1時間だけでもサッカーについて考えてみて欲しいです。

 以下は僕の場合を一例として書いていこうと思います。

 ネタを作るとき僕は題材からネタにできそうなほつれを見つけ出す作業から始めます。そのためにはとりあえず題材から連想できるイメージをすくい取っていきます。

 今回の場合だとこんな具合です。

 サッカー、スポーツ、球技、11人、フットボール、バックパス、ヒールパス、スルーパス、soccer、ロスタイム、サポーター、フーリガン、ブラジル代表、カナリア軍団、ハンド、唾を吐く、ループシュート、FIFAランキング、セリエA、GK・DF・MF・FW、スローイン、マイボール、レッドカード、イエローカード、バナナシュート、カズダンス、キャプテンマーク、シュートで終わる、松木さんの解説、また抜き、自殺点、コイントス、人工芝・・・

 とにかくサッカーにまつわる色々な要素をひたすら書き出していきます。そして書き出しながら、ちょっとした脱線でも瞬間的に感じたことを書き留めていきます。

 「soccerとcoffeeってスペル覚えにくかったなぁ」「JKのGK、JDのDJ」「前転しながらスローインする人いるけど、もっとアクロバチックに投げられないかなぁ」「イエローカードの裏に審判が何か書いてるイメージあるけど、あれって何を書いてるんだろう」「試合中にタイムロスしすぎて、ロスタイム42分とかになった試合」

 などふと浮かんだ脱線の中からネタに繋がりそうなものを探していきます。

 今回特に自分の琴線に触れた要素は「ボールは友達」「キーパーがキャッチしたあとグラウンドに寝転ぶやつ」「背番号」「蹴球」「フリーキックの壁」「サッカーボールの絵」「ユニフォーム交換」です。

 これらの要素にはネタにできるほつれがあるように感じました。なんでそう感じたかは説明できませんが、もしかしたらそれが自分のセンスと言えるのかもしれません。

・ボールは友達
キャプテン翼の主人公は「ボールは友達」と言うけど、じゃあ彼にとってスパイクは? ユニホームは? 相手ボールは? コーナーポストは? 彼にとっての元カノは何になる?

・キーパーがキャッチしたあとグラウンドに寝転ぶやつ
大事そうにボールを確保するけど、もっとキーパーがボールを大事に扱ったらどうなる? ぬいぐるみを可愛がるようにボールと戯れ合う? ボールとディープキスする? 添い寝する?

・背番号
実況「さぁ、ピッチの外では、背番号3・腕番号29・膝小僧番号7・胃番号394の岡野がウォーミングアップを始めました。」

・蹴球
キーパー目線だと「捕球」とか「止球」じゃないか。審判からしたら「笛吹」。それぞれにとってのサッカーを漢字で。

・フリーキックの壁
組体操みたいにして物凄い壁を作るチーム。

・サッカーボールの絵
サッカーのトップ選手たちは白黒で五角形が並びあっている定番のサッカーボールの絵を上手く描けるか?

・ユニフォーム交換
交換する人が見つからないと恥ずかしいから、誰と交換するか事前に交渉しておく。約束していた相手選手が怪我をして病院に運ばれてしまい、交換相手がいない。渡したユニフォームを親指と人差し指で汚いものを持つ感じで持たれる。

 感じたほつれを整理してピックアップすると上記のようになります。ネタのきっかけとしてはどれも十分ありえる感じがします。

 その中から、「フリーキックの壁」は調べてみたらヘンテコな壁を突破して点を取るというアプリが存在しているらしいので却下。「キーパーがキャッチしたあとグラウンドに寝転ぶやつ」は、漫画とかで実際にボールを愛でているビジュアルが見えたほうが面白そうなので却下。という具合に、今回の依頼に当てはまるものを残していきます。

 雑誌のあるページに落語台本が載せてあるだけだと、読者の方に読まれにくい気がしたから、ページを開けた瞬間にイラストだったりグラフだったりのビジュアル要素が目に飛び込んでくるのがいいなぁと思い、最終的には「蹴球」に決めました。

 イラストだけでよかったら、サッカーの有名な選手の名前と、その人が描いたサッカーボールの絵をひたすら羅列するだけでも面白い気がしたのですが、(「メッシはプレーはうまいのにボールの絵はめちゃくちゃ下手くそなんだ」とか「セルジオ越後さん、めっちゃリアルにボールを描くなぁ」とか、色々楽しめそうです)今回は、落語台本を求められている以上、会話劇のほうがいいと判断し、大学の蹴球部の群像劇にしようと。

 結果的に出来上がったネタは、大学の蹴球部が舞台で、GKでキャプテンを勤める主人公が部員を集めるところから始まります。「明日からうちのチーム名を蹴球部から捕球部に変える」と。それに対して部員たちは捕球部はキーパーの要素しかないからおかしいと反論をします。捕るのはキャプテン一人、残りの十人は蹴るのだから蹴球がふさわしいのだと。

 そこでキャプテンは本当に部員たちがボールを蹴っているのか探っていきます。ある試合における部員たちの行動を全て書き出し円グラフにしてみると、ボールを蹴っているのはわずかな割合でしかなく、大半は歩いたり走ったりしているだけであることが判明します。

 だったら「蹴球部」じゃなくて「歩行部」とかのほうが適しているんじゃないか、とプレゼンしていきます。果たして何という名前に落ち着くのか。内容が気になる方はクイックジャパン138号をご覧ください。

 僕という関数にサッカーを代入したら上記のような解が出てきました。みなさんはどんな解を導き出されましたか? 似てる部分があった? 全然違った? 機会があったら教えてください。

 (次回の題材は小石祐介さんの連載『今を歩く』の第10回『ファッションについて』にします。この文章を代入して出てきた解をここで書こうと思います。)

立川 吉笑

立川 吉笑
(たてかわ・きっしょう)

1984年生まれ。京都市出身。2010年11月、立川談笑に入門。わずか1年5ヵ月のスピードで二ツ目に昇進。「立川流は〈前代未聞メーカー〉であるべき」をモットーに、気鋭の若手学者他をゲストに迎えた『吉笑ゼミ』の主宰や、初の単著『現在落語論』(毎日新聞出版)の刊行、全国ツアーを開催するなど、業界内外の注目を集める。

立川吉笑ウェブサイト

この記事のバックナンバー

06月12日
第2回 2限目:サッカー 立川 吉笑
04月11日
第1回 1限目:オリエンテーション 立川 吉笑

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