尾崎世界観×寄藤文平 いま、表現者であるということ(1)

第1回

尾崎世界観×寄藤文平 いま、表現者であるということ(1)

2018.04.28更新

尾崎世界観さんの書き下ろし小説がミシマ社の雑誌『ちゃぶ台Vol.4「発酵×経済」号』(2018年10月19日発売)に掲載されます!→詳しくはこちら

0408-1.pngこんにちは! ミシマンです。ミシマンが今気になるあの人に、訊きたいことをインタビューしていくこのコーナー。記念すべき第1回目のゲストはこのお二人です。

 2018年5月11日に日本武道館公演「クリープハイプのすべて」を開催するロックバンド、クリープハイプのボーカル&ギターを担当する尾崎世界観さん。小説『祐介』や、エッセイ集『苦汁100%』『苦汁200%』(文藝春秋)を発表するなど、ミュージシャンとしての活動にとどまらず、作家としても活躍されています。

 そしてデザイナーの寄藤文平さん。これまでに数多くの本の装丁やアートディレクションを手がけ、おなじみのミシマ社ロゴマークをデザインしてくださったのも寄藤さんです。そして今回リニューアル創刊したミシマガにも、デザイン監修として携わっていただいています。

 デザイン、音楽、小説・・・形は違えど表現の世界で第一線を走りつづけるお二人。「10年前はどんな生活をしていたの?」「お二人にとって表現って何?」「これからの表現はどうなっていくの?」こんなことをお二人に訊いてみました! 2日間にわたってお届けします。

(聞き手:三島邦弘)

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覚えているのは、いいこと?悪いこと?

0408-1.png10年前って、どんな生活を送ってたんですか?

ozaki-icon4.pngクリープハイプは、来年の11月で今のメンバーになってちょうど10年なんです。10年前は、ライブのお金も全部自分たちで出していて、地方にライブに行くときも行き帰りの交通費は全部自分たちで出していました。当時は週末だけETCが1,000円だったんですよ。ライブ当日に着いて、ライブをして、深夜12時を超えて高速に入ると通常料金になるので、打ち上げもせずにすぐ荷物をまとめて帰っていました。現地の滞在時間が5時間ぐらいで、往復の時間がものすごく長かったですね・・・。

かといってお客さんもあまりいないので、後で怒られるのはわかっていたんですけど、嘘の名前をリストに書いて、ライブ前までは不穏な空気にならないようにしていました。

0428-0002.pngそれが10年前だとすると、今とはすごいコントラストがありますよね。僕も仕事のルーチンが少しは変わったとはいっても、そこまでの変化はないです。

ozaki-icon4.png当時はライブをやれるだけでありがたいと思っていましたね。

0428-0002.pngその状況が苦しいっていうことでもなかったんでしょうね。

ozaki-icon4.pngそうなんです。あとは貧乏なバンドというのにちょっと憧れているところもあったんだと思います。今の活動はそういう意味では恵まれているし、不自由がないので、逆に10年後に今のことをどうでしたかと言われても、あまり思い出せないと思います。武道館でライブをやったとか、このCDを出したとかは覚えているかもしれないですけど。

0428-0002.pngよっぽどイベントがくっきりしているものでないと、記憶には残らないですよね。

ozaki-icon4.png記憶は不自由なことのほうが残りますよね。いい人より嫌な人のほうが覚えています。

0428-0002.pngそれって「嫌なことのほうを覚えている派」なんだと思う。僕もそうです。でも、いい人のことしか覚えていなくて、嫌な人のことを忘れちゃう人も結構いるんだよね。

0408-1.pngへ〜。表現をする人の中にも、「いい人のことしか覚えていない派」の人っているんですか?

0428-0002.png増えてるんじゃないでしょうか。そういう人は作るときの動機も全然違うんですよね。

0408-1.pngそれってどんなふうに違うんですか? それから表現って、そもそもどこから始まるんですか?

ozaki-icon4.png僕なんかは内臓に手をつっこんでひねり出して作っているのに、そういう人に限って「降りてくる」とか胡散臭いことを言うんです。そういうのは嘘だろうと思っているんですけど。

0428-0002.pngよくわかります。嘘だろうって思うのは多分、「嫌なことのほうを覚えている派」の感覚なんだよね。

ozaki-icon4.png僕はよく「メンヘラ」とか「サブカル」と言われるんです。それは自分の中からがんばってひねり出すという過程で、そう思われる要素が入り込むんでしょうか?

0428-0002.pngいいことしか覚えていない人からすると、その過程が病んでいるように見えるっていうのはあるかもしれないですね。

ozaki-icon4.png「いいことしか覚えていない派」の人は、何かを作るときの視点として、あまりネガティブなところをひっぱりださないんでしょうね。僕は癖でどうしてもネガティブな部分を見てしまうんですけど、それは自分の作品に対してもそうで、とにかく嘘がないようにというか、それは気をつけていますね。だから周りの表現に対してもそういう癖が付いてしまっているんです。

0428-0002.png僕もいいことよりもむしろ違和感とか、これはちょっと気になるなっていうところから考えをはじめていくみたいなところがありますね。

ozaki-icon4.pngでも、いいものから先に感じることができるというのは本当に幸せなことだと思います。

0428-0002.pngそうですよね。そういう人もいるんだっていうことを、僕はこの数年でようやく理解した気がしますよ。

変わらないままでいるといずれ新しくなる

0408-1.png最近は表現に対して、TwitterとかSNSで普通の人たちのいろんな声が出てくるようになったじゃないですか。そうすると作るものに対して魂を入れるとか、パッションを込めるっていうことに対して、無意識のうちに制約がおこっているんじゃないかと思ってたんですけど、10年前と今、この間に変わったことってありますか?

0428-0002.pngSNSが普及したから自分の作り方が変わったかと言われると、そうでもないですね。でも、そういう情報にまつわる環境が変化しても変わらないものは何だろうといったことはよく考えます。

ozaki-icon4.png僕は何か言われたりすることが増えたというよりは、言われたことが耳に入ってきやすくなったのかもしれないですね。元からそういう批判はあっただろうし、何か言ってくる人はいたんだろうから、それがSNSが普及していくことで、聞こえてきやすくなって気になるというのはあります。

0408-1.png尾崎さんって、そういう声を自分から積極的に調べられていますよね。

ozaki-icon4.pngそうですね、自分から調べます。相手に先に手を出させておいて、あとでやり返すという手法ですね。

0428-0002.png手を出してもらうことでエネルギーに変えるわけですね。

ozaki-icon4.pngSNSを見ないと決めて我慢しても、結局見てしまうんですよ。見ないうちにどんどんたまってくるし、自分の免疫が下がっているときにまとめて批判の声を見ると気持ちがやられてしまうので、そうならないように定期的に見ていますね。

あとは、自分のマイナスイメージを調べておかないと、何かを発言するときに俺ってこんなふうに見られているんだなというのがわからなくて嫌なんです。たとえば、こいつこうだよなと言われていることがあって、それを知らずに、そこにまた引っかかるようなことを発言するという自分が許せないんです。だからそういう意見があるんだったら、自分が実はどんな感じに思われているのかを先に調べて発言するようにしています。

0428-0002.pngうんうん。

ozaki-icon4.pngそれとやっぱり周りに気を遣ってくれる人が多いというのもあります。ミュージシャンとして表に出ていると、レコード会社の人もスタッフさんも、僕に向かって悪いことを言わないんですよ。もし普段から近くに厳しいことを言ってくれる人がいたら見ないと思いますけど、なかなかいないですね。その寂しさとか葛藤があって、やっぱり正直に言ってほしいという気持ちが強いんです。

要するにワガママなんですよ。褒めてほしいけど、褒められすぎると文句を言うという。最悪なんですけど、そういう性格なんです。だから、何も気を遣ってこない人にしか頼るしかないときもあるので、その最たるものがTwitterとかのエゴサーチだったりしますね。

0408-1.pngいやぁタフですね〜。

ozaki-icon4.pngそれと思うのは、ずっと同じところにいたら、勝手に周りが変わっていくから逆に自分たちが新しくなっていくんですよね。

バンドを始めてから10年ぐらい経ったときにしんどい時期があったんですけど、周りでいろんなバンドがメジャーデビューしたりブレイクしたりするなかで、ずっと同じことをやっていたんです。そしたら急に歌詞に注目してもらえるようになって。そのときはネガティブな感情をありのままに出してつきつめていくということが時代に合っていたんだと思います。それでまた今、それを指して色々という人もいるんですけど、また何年か経って変わってくるのであれば、そこにずっと居続けさえすればいいかなと思います。無理に時代に合わせていくと、足場が無くなって沈んでいくんでしょうね。

0428-0002.pngやっぱり波があるんだと思うよね。

(つづく)

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プロフィール

尾崎 世界観(おざき・せかいかん)
1984年生まれ。東京都出身。クリープハイプのヴォーカル・ギター。2012年4月にアルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャー・デビュー。2016年6月に初小説『祐介』(文藝春秋)、2017年5月にエッセイ集『苦汁100%』(文藝春秋)を刊行。2018年5月11日に約4年ぶりとなる日本武道館公演『クリープハイプのすべて』の開催が決定。www.creephyp.com

寄藤 文平(よりふじ・ぶんぺい)
グラフィックデザイナー。1973年生まれ。1998年ヨリフジデザイン事務所、2000年有限会社文平銀座設立。広告やプロジェクトのアートディレクションとブックデザインを中心に活動。 著書に『死にカタログ』(大和書房)、『元素生活』(化学同人)、『ラクガキ・マスター』(美術出版社)、共著に『ウンココロ』(実業之日本社)などがある。

ミシマガ編集部

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

 

編集部からのお知らせ

尾崎世界観さん、『ちゃぶ台』に登場!

2018年10月19日発売の『ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台vol.4 「発酵×経済」号』に、
尾崎世界観さんの小説「祖父と」が掲載されています!

chabudai4_shoei.jpgミシマ社の雑誌 ちゃぶ台vol.4 「発酵×経済」号


クリープハイプ新アルバム発売!

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クリープハイプの新アルバム『泣きたくなるほど嬉しい日々に』が
2018/9/26(水)に発売されます。
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ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台vol.4 「発酵×経済」号

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