小さな会社でぼくは育つ

第4回 中小企業のメリットを享受するには?

2017.01.05更新

社長との距離がかなり近い!

 さらに、経験を積むことに関して、社長など意思決定の権限を持った人との距離が近いことも、中小企業ならではの利点です。

 若いうちに、いわゆるエライ人(ボードメンバーなど)と一緒にがっつり仕事することは、大企業では稀です。"ただ会社を継いでいるだけ"のバカぼん社長ではだめですが、優れた中小企業には、創業者であったり、大変革を図っていたり、または時流に抗い伝統を守り抜いていたりと、それぞれの矜持を胸にトップを張っている人がいます。そういう人たちと時空間を同じくすることからは、大きな影響を受けることができるでしょう。

 今回、インタビューした中には、「デスクが近いので、社長が他の人と打ち合わせをしている声まで聞こえてきます。そんなことからもいろいろなことが学べる」という話もありました。社長の声が届く距離にいるということは、取り組んでいる自社の仕事の意義を耳にする機会が増えるかもしれません。または、経営理念に代表される、会社のアイデンティティに触れて物語る社長もいるでしょう。
 経営学の研究には、仕事の意義や企業のアイデンティティを認識することが、職務満足に影響するという分析結果があります。朝礼のまくらになるような説教臭い話や理想論は、歳を重ねるほどに味わいがわかってくるものですが(そうなんですよ、若い人)、同様に仕事の意義を感じたり、会社が掲げた理念が腑に落ちたりするのにも時間がかかるものです。社長の近くで謦咳に接することができれば、その時間が短縮され、満足感をもって仕事に臨めるかもしれません。

 さらに、社長が貪欲に上を目指すようなタイプの人であれば、その目指す方向を一緒に見ることができます。経営コンサルタントの小宮一慶氏は、「散歩のついでに富士山に登った人はいない」という喩え話をされるそうです。これは、一流の頂(って何だろうとは思いますが)は、目指さなければ、そこにたどり着くことはできないということを意味しています。中川悠介氏(原宿カワイイ文化の仕掛人)は「ブームではなく、最初からカルチャーを目指していたから、カルチャーを創ることができた」と述べています(『#アソビ主義』マガジンハウス)。
 貪欲に、より高いレベルを望むためは、ある程度の高みを知っていることが必要です。早くから社長の近くで同じ方向を見ているうちに、巨人の肩に乗るような形で、同世代にはない視点をえることができるかもしれません。

 また、社長をはじめ意思決定に関わる人の数が少ないということは、フットワーク軽く新しいことを始めやすい環境といえます。経営資源に乏しい中小企業ですから、大きな動きはできないかもしれませんが、アイデア勝負は可能です。たとえば、みなさまご存じの通り、ミシマ社は業界の風雲児ことミシマ社長から、雑誌『ちゃぶ台』や「コーヒーと一冊」シリーズなど、次々と企画が生まれています。


「とはいえ、やっぱり忙しい」中でいかに育つか

 ただ、新たな挑戦の可能性というメリットは、一方で、よりいっそうの忙しさの種でもあります。
 ミシマ社の京都オフィスは、ミシマさんを含めてスタッフ5人。東京・自由が丘のメンバーを足しても10人。この陣容で年間10冊程度の本を出版し、日々ウェブサイトを更新し、平日夜や週末に書き手と読者をつなぐイベントを計画・運営されています。この連載担当のみっきーさんをはじめ、みなさんとても忙しそうです(昨年6月に東京で開催されていた「小!ミシマ社展」の様子をご覧いただくと、それがよく伝わるかも...)。

 ミシマ社にかぎらず、中小企業での仕事は忙しいものです(この時世、忙しいほどの仕事がコンスタントにある企業は恵まれているのかもしれませんが)。人には等しく1日24時間しか与えられておらず、そのうち仕事に投入できる時間はかぎられています。日々のルーティン業務に加えて、メールを開けば不測の事態、電話の向こうからは上司からのきまぐれパスなどなど、さまざまなことがあるでしょう。
 平凡な一大学教員である僕でさえ、貴重な午前中のフレッシュな時間が、メールの返信だけで消えていくことはざらにあります。なお、オーラルロバーツ大学のデビット・バーカスの研究によると、ある調査では、平均的な会社員は1日の就業時間の23パーセントをメールに費やし、一日で112本のメールを送受信しているそうです(ぞっとする数字ですね)。

 中小企業にも、多くのチャンスがあります。しかし、ただ中小企業で働いているだけでは、そのチャンスを活かすことはできません。早くからの経験、社長の近くで過ごす時間などの好機を実りあるものにするためには、応分の力をもっておきたいところです。日々の忙しい仕事に従事しながら、そのような力を、どのように身につければよいでしょうか。
 大企業であれば、人事部を中心に組み立てられた研修プログラムを受けることができます。その後も先輩が指導につくなど、手厚いシステムがあることは珍しくありません。一方、中小企業では、忙しい上に、元より人手が足りないものです。先輩が後輩を指導することは、言葉にする以上に大変です。「猫の手も借りたいときに、猫に餌をやってられるか」と酒場の隅に吐き捨てた友人女史がいました。後輩にかまっている暇なんて微塵もないぞ、と言うわけです。

 それでいて、「大きいところ(大企業)みたいに悠長に待ってられへんなあ」という切実な声を聞くこともしばしばで、早くに戦力になることが求められます。場合によっては、ほとんどの大企業で新入社員研修のコンテンツに含まれている、名刺交換の手順や挨拶の仕方、電話の受け答えといった社会人の基本マナーすら「そんなん、できるやろ」と教えてもらえないことすらあるようです(先輩も習っていないから、教えるスキルがないそうです)。
 
 職場において任された機能を担っていくためには、そして、中小企業という場のメリットを享受するためには、先輩からの手厚いサポートが臨めないからといって、手をこまねいているわけにはいきません。中小企業に勤める若者は(おっちゃんルーキーでもいいけど)、ある程度自力で、戦力と認められるレベルまで成長する必要がありそうです。

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神吉直人(かんき・なおと)

1978年兵庫県姫路市生まれ。京都大学経済学研究科修了。博士(経済学)。専門は経営組織論。神戸大学、香川大学を経て、現在は追手門学院大学経営学部経営学科准教授。研究の傍ら合気道にも足しげく通い、フットサルもお酒も(麻雀も)たしなむ。

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