小さな会社でぼくは育つ

第5回 「当たり前」の実践って、難しい

2017.01.21更新

 前回の最後に、中小企業では(どこでもそうかもしれませんが)、戦力と認められるレベルまで、時には自力で到達する必要があるという話をしました。実際は届かないにしても、「自力で到達する!」という気概はもっておきたいところです。

 では、あらためて、職場における戦力にはどのようなことが求められるでしょうか。

 この連載が決まってから、会社勤めをしている多くの人に時間をもらい、いろいろな話を聞きました(ありがとうございました)。その中で、ある大企業に勤める先輩に、漠然と「仕事ができる」という言葉に対するイメージを尋ねたところ、「当たり前に、当たり前のことをする」という答えが返ってきました。

 職場において、使える人材(決して好きな表現ではありませんが)、つまり戦力となるには、職場における"当たり前"ができなければならないというわけです。

 当然のことながら、会社が属する産業や各人が任されている業務、さらにはそれぞれの職場によって、求められる当たり前は異なります。そんな当たり前を踏まえたうえで、中小企業で働く人の共通項となるような事柄について考えてみます。

まず、日本の経営学の第一人者である一橋大学名誉教授の伊丹敬之先生は「当たり前のことを6割の人がおこなっていれば、その企業は優良企業である」という旨の話をされています。これは、当たり前のことの実行が、存外難しいということを意味しています。
 今、"存外"と書きましたが、当たり前の実践の難しさを実感している人は、決して少なくないでしょう。

 また、日本電産の永守重信氏(現会長)は「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」という言葉と6Sを重視されています。6Sは、経営管理においてよく掲げられる5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)に、作法を加えたものです。これらは、小学校のうちに親や先生から習うものであり、まさに当たり前のことと言えるでしょう。

 永守氏は、赤字企業をM&Aによって買収し、再生することに定評があります。赤字を計上するほどに落ち込んだ企業が、このような当たり前なことの徹底によって甦るという話に、驚く人もいるのではないでしょうか。


子どもの躾みたいな話、と言うけれど

 『日経ビジネス』や『週刊ダイヤモンド』のような、いわゆるビジネス誌にも、こうした当たり前に言及した記事が毎週のように掲載されます。
 たとえば、良品計画の松井忠三氏(現・名誉顧問)は、ウェブサイトのインタビュー記事で次のように述べています。

 やり切る風土を作るしかない。従って、「決まったことを決まった通りにキチンとやる」風土が必要だと考え、一つひとつのテーマに沿って、それを徹底的に取り組んだ。
例えば「朝の挨拶」。「きちんと挨拶しよう!」とポスターを貼るぐらいではやっていないに等しい。私は、本社で毎朝、3人の管理職が玄関で迎える運動を始めた。私自身も立った。当番制ながら、これをやり通した。そうすると朝の玄関での挨拶は日常的な当たり前の風景になる。子どもの躾みたいな話だが、愚直な一徹さこそ経営が忘れてはならない執念だ。
         (ダイヤモンドオンライン「今月の主筆」2016年6月13日掲載)


 "子どもの躾みたいな話"とありますが、このようなことが日本を代表するビジネス誌の記事になるのです。"記事になる"ということは、当たり前ながらも、それらが他社に比して突出するなど、編集者の興味を引く出来事であることを表しています。当たり前すぎてつまらないものをわざわざ掲載する雑誌はありません(たぶん)。

 以上のことから明らかなのは、家庭や学校で身につけるはずの数々の"当たり前"が、社会人としての根幹になり、会社においても有効であるという、至極当たり前の事実です。そして、それが十分にはできない人が、残念ながら一定数いるということです(自分のことは棚上げします)。

 あえて言揚げするようなことではないと思う気持ちもあります。しかし、当たり前に気づくことの困難、といった当たり前もあり、やはりここから話を始めなければならない、とも思っています。

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神吉直人(かんき・なおと)

1978年兵庫県姫路市生まれ。京都大学経済学研究科修了。博士(経済学)。専門は経営組織論。神戸大学、香川大学を経て、現在は追手門学院大学経営学部経営学科准教授。研究の傍ら合気道にも足しげく通い、フットサルもお酒も(麻雀も)たしなむ。

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