「働くからだ」のつくり方

第10回 健康なからだは、正しい歩き方と靴選びから!

2017.07.21更新

この連載から生まれた書籍『長く働けるからだをつくる ――ビジネススキルより大切な「立つ」「歩く」「坐る」のキホン』が、7月14日発売になりました。「人生100年。からだが資本!」。体調管理のキホンのキは「立つ」「歩く」「坐る」。自分のからだのこと、本気で考えてみませんか? ミシマ社とインプレスが立ち上げたビジネス書レーベル「しごとのわ」より発刊。どうぞよろしくお願いいたします!


 振り返ってみると、歩行訓練はわたしのリハビリの柱でした。
 歩行器や杖がいらなくなっても、すぐにスタスタと歩けたわけではありません。
 股関節そのものの問題や筋力が落ちていることに加え、膝や腰にも痛みがあったため、どうしても歩き方がおかしくなってしまう。筋トレやストレッチと並行しながら、1年以上かけて、理学療法士さんと地道に歩き方を練習したのです。
 それに訓練のときは何とかなっても、病院の外は危険がいっぱい。坂道やら、デコボコやらに体力を奪われ、歩いているうちに、だんだんと歩幅も小さく、脚を引きずるようになってしまって......。そこそこ自信を持って歩けるようになったのは、ごく最近のこと。リハビリのかなりの部分を、歩き方の修正に費やしたのではないでしょうか。

 ところでみなさんは「正しい歩き方」とはどんなものか、ご存じでしょうか。
 かく言うわたしも、股関節の手術をするまでは、自分がどんな歩き方をしているのか、あまり意識したことがありませんでした。小学校のとき、運動会などのために行進の練習をした以外、「歩き方を教わった」という記憶もない。
 実は、学校で習うあの行進は軍隊式のものだとか。某国の一糸乱れぬ軍事パレードを想像すればわかりますが、ああいうキビキビした歩き方は膝や腰に負担がかかる。健康面では問題があるのです。

 では、どんな歩き方が理想的なのでしょう。
 簡潔に言えば、「体幹を意識して」歩くことだと思います。からだの軸をまっすぐに保ち、骨盤から前に踏み出すようなイメージで歩くのです。
 「えっ、骨盤から前に踏み出すって、どういうこと??」と思う方も多いかもしれません。詳しいことは、7月14日に発売になった『長く働けるからだをつくる ――ビジネススキルより大切な「立つ」「歩く」「坐る」のキホン』にも書きました。
 歩くという動作は、誰もが当たり前にやっているけれど、ほんとうに奥が深い。
 健康維持の「キホンのキ」とも言えるのに、正しい歩き方を教えてもらったり、自分の歩き方を見直したりする機会はほとんどありません。
 リハビリの過程で、膝や腰に負担をかけない姿勢や歩き方をじっくり時間をかけて教えてもらえたことは、大きな収穫でした。以前の姿勢や歩き方を続けていたら、もし事故に遭っていなかったとしても、将来的に膝や腰に深刻な痛みが出ていたかもしれない。そうなれば、「ロコモ→寝たきり」の道を一直線に進んでいたかもしれないのです。
 健康のためにジョギングを習慣にしている人もいますが、(着地のときに体重の3、4倍もの衝撃を地面から受けるため)ジョギングは膝や腰、股関節への負荷が大きい。そこで専門家が勧めるのが、速めのウォーキング。ロコモ予防にも、ウォーキングは最適なのだそうです。軽く肘を曲げ、うしろに引く感じで腕を振ると、速く、リズミカルに動けます。
 ただし、注意すべきは、自分に足に合ったクッション性のある靴を履くこと。ウォーキングのときだけではありません。普段の生活でも、靴選びは慎重にしたいもの。靴は足やからだ全体の健康をも左右するからです。

 この連載の第6回でも書いたように、下駄やぞうりの暮らしが長かった日本人は、靴との上手なつきあい方を知らないようです。「靴の正しい履き方」や「靴の選び方」を教わる機会もないため、足に合わない靴を履いている人がほんとうに多い。以前のわたしもそのひとりでした。
 靴に注意するようになったきっかけは、やはりリハビリです。
 歩き方のトレーニングをしていたとき、筋力はかなり回復したのに、膝の痛みでうまく歩けないときがありました。さらに足首も少し不安定でグラグラしていて......。そこで担当の理学療法士さんから「靴のインソールを工夫してみてはどうですか?」と提案されたのです。
 本格的なものはオーダーしてつくるそうですが、とりあえず市販のもので試してみることに。手はじめに、土踏まずのアーチ部分をサポートするジェル状のパッドを敷いてみたところ、たったそれだけで歩行が安定したのです。着地のときの膝の痛みも軽減され、かなりびっくりしました。
 このパッドは「土踏まずサポート」「アーチ・クッション」という名称で、ドラッグストアなどで手に入ります。パッドを入れる位置の微調整は、少し難しいかもしれません。でも、自分の足のアーチにビシッとはまれば効果を感じられるはず。当時はそれだけで満足し、「自分専用のインソールをオーダーする」という決断には至りませんでした。
 「靴も大事だな」と、認識を新たにしたものの、リハビリもまだ途中。長い距離を歩くことがなかったので、正直、靴のことはそれほど気にならなかったのです。

 やがて通院リハビリも終わり、活動範囲を少しずつ広げるなかで、靴の問題を真剣に考えるようになりました。ヒールの高い靴は、怖くてはけない。かといって、フラットな靴が必ずしも歩きやすいわけではない。たとえ土踏まずサポートのパッドを使っても、靴そのものがしっくりこない場合はやっぱりつらいのです。
 手持ちの靴をすべて並べてみたものの、「これなら安心して歩ける」という靴はほとんどなくて......。以前なら、少々足に合わなくても無理をして履いていましたが、股関節のことを考えると、もうそんな無茶はできません。靴が合わなければ、うまく歩けない。そして、うまく歩けなければ、腰や膝、股関節に悪影響があると学んだからです。

 仕事でもはけるデザインで、なおかつラクに歩ける靴を探さなければ。
 そんなわけで、靴屋めぐりがはじまりました。
 ところがこれが、思いもよらぬ苦難の旅路だったのです。
 きちんとサイズを測ってもらったところ、わたしの足の幅はとても狭い。そして――これがもっとも問題なのですが――そんな足にぴったり合う既製品はほとんどないのです!

 靴のサイズといえば、23センチとか26センチといった足の長さ(足長)のことだと思っている人がほとんどでしょう。でも、サイズには、足の太さを表す「足囲」(親指の付け根と小指の付け根をメジャーでぐるっと一周させて測る)や「足幅」を示す「ワイズ」というものがあるのです。
 ワイズは「E」「D」などのアルファベットで表記します。店頭でよく見かけるのは(「E」よりも幅広の)「EE」や「EEE」の靴ですが、JIS規格による靴のサイズには、「D」よりも細い「C」「B」「A」、さらには「AA」「AAA」もある。ちなみに、わたしの足のサイズは24か24.5の「AA」。そんな幅の狭い靴は、品揃え豊富な都心のデパートでも見つかりません。
 「日本人の足は甲高幅広」。長い間そう言われてきたためか、靴売り場には幅の広い靴しか並んでいない。「自分の足も甲高幅広だ」と思い込んでいる人も多い。
 ところが、現代日本人の足は、実はかなり細くなっているのです。わたしが特殊なのではなく、特に若い女性には「幅が狭く、甲が薄い」の足の人が増えているのだとか。
 生活様式の変化で日本人の足も変化しているのに、市場がそれに対応できていないということでしょう。

 合わないメガネが眼に悪いように、合わない靴を履き続けていると、外反母趾などの足の変形や、さまざまなトラブルを引き起こします。
 幅が大きすぎる場合、靴の中で足が前にすべり、「捨て寸」としてとってあるつま先の空間に指先が押し込まれてしまう。そこで指が不自然に曲がって縮こまり、歩くたびに激痛が走る――そういう状態が続くと足の変形につながるだけでなく、腰痛の一因になるようなアンバランスな歩き方になってしまうのは必定。また、足が靴の中で安定せずに動くため、その摩擦でタコやウオノメ、靴擦れなどができるのです。
 日本人の大人の6~8割は何らかの足のトラブルを抱えている、とも言われるほど。
そんなあれこれをお伝えしたくて、先述の新刊『長く働けるからだをつくる』では、まるまる一章を靴のことに費やしました。
 若いときは筋力があるので何とかなっても、合わない靴で足やからだに負担を強いたそのツケは、年齢を重ねたときに関節の痛みなどとなって現れる。まずは足を計測し、自分の本当のサイズを知ることからはじめてはいかがでしょうか。

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かじやま すみこ

ノンフィクション作家。神戸大学卒業。テレビ局制作部勤務を経て、渡米。ニューヨーク大学大学院で修士号取得。アーティストや企業経営者の人物ルポのほか、女性の生き方・働き方、ソーシャルビジネスなど幅広いテーマを追いかける。書評家や放送作家としても活動中。
2014年秋、交通事故に遭ってから、からだについて深く考えるように。歩くこと、座ること、車椅子の座り心地……。見過ごされがちな、だけど大事なあれこれを掘り下げる日々。
主著に『紀州のエジソンの女房』(中央公論新社)、『そこに音楽があった 楽都仙台と東日本大震災』(文藝春秋)、『トップ・プロデューサーの仕事術』(日経ビジネス人文庫)、『35歳までに知っておきたい最幸の働き方』(ディスカヴァー21)など。

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