西荻窪の「信愛書店」、高円寺の「高円寺文庫センター」、そしてブックカフェ「高円寺書林」。ご夫婦で3つの本屋さんを経営する原田ご夫妻。今日は奥様の直子さんにお話を伺いました。
信愛書店 原田直子さんに聞きました。
「この10年に、みんなパタパタやめていった」
―― こんにちは。ご無沙汰しております。

原田お久しぶりですね。お元気でしたか。ミシマ社さんは立ち上げて何年になるんですか?
―― こないだの10月で4年目に入りました。
原田もうそんなになるんだ。じゃあ、お取引がある書店もだいぶ増えてきたんじゃないですか?
―― いやいや、まだ全国で1000店舗もないです。僕は出身が岡山なんですけど、岡山市内は大きな本屋さんにしか置いてもらえていません。自分が高校生の時に通っていた小さな本屋さんとかにはうちの本は置いてない。これからがんばらないとな、と思います。
原田いま高校生の時っておっしゃったけど、そのころから6、7年はたってますか?
―― もう10年ぐらいですね。
原田その10年って、いちばん書店が廃業していった時期と重なりますよね。
―― そうなんですか?
原田だって、そうじゃないですか。この10年に、みんなパタパタやめていったわけよね。じゃあ、高校生の時によく行っていたお店って、今でもあります?
―― いや、ないですね。
原田ほらね。
―― CDとかDVDのレンタルもやっている複合店が近くにできて、半年もたたないうちにつぶれちゃったみたいなんです。
原田なんだか、今の出版界を象徴してるようですね。そのお店は郊外にあるんですか?
―― 郊外ですね。駅からも遠くて、新興住宅地っていうんですかね。建売の家がばーっと建っているような感じで。
原田まわりにはコンビニとかレストランとかがあるようなところ?
―― コンビニはその街に1、2軒しかないですね。レストランといってもファミレスで、その隣にスーパーがあったりして。個人のお店というよりは、そういう大きなチェーンのお店が中心になっているような場所なんですけど。
「お客様の日常ががらっと変わってきて」

原田昨日の新聞にね、有名なファミリーレストランのチェーン店がなくなるっていう記事があって。
―― あっ、見ました見ました!
原田あれにはちょっとびっくりしましたね。
―― そうですね。いつのまにか、最後の一店になってたんですね。
原田そうそう。西荻窪の駅前にはないからわからなかったんですけど。街道沿いにいくつもあるものだと思い込んでいたから、びっくりしましたね。しかも30年以上やってたっていうのを聞いて、「そんなに!?」って思いました。それだけがんばって広げたチェーンがなくなるっていうのは、大変なことだなって。
―― たしかにそうですよね。
原田私たちは本屋だから、本屋が減ってきていることを「大変だ、大変だ!」って言ってますけど、それだけじゃなくて、お客様と商品の関係というか、暮らしそのものが、ものすごく変わってきているんですよね。
―― なるほど。
原田それで、そのファミリーレストランも私たちから見たら「安いお店」っていうイメージがあったんですけど、新聞には「安さに負けた」って書いてあって。ファミレスが高いのか?って(笑)。
―― うーん、たしかに(笑)。
原田私も入ったことがありますけど、ランチが1000円とか1200円くらいでしょ? お茶だけでも入れるわけだし。それって高級でもなんでもないのに、650円とか700円のお店に負けるっていうのがね。これはちょっと、大変なことだなって思いましたね。
―― そう言われれば、そうですよね。
原田だから、普通のお客様の日常ががらっと変わってきている。そういう中で誰が本を読んでくれるのかとか、読むとしたらどういう形で読むのか、何に興味を持っているのか、何にだったらお金を出していいと思うのかを考える必要がある。選択肢が増えたとも言えるし、どう変わったのかがなかなか見えないことがもどかしいですよね。
―― なるほど。
原田だから本屋も普通のお客様に限りなく近づいていく努力をしないといけないですよね。人は本を読むものだ、みたいな考え方じゃなくて。
―― そうですよね。
原田いわゆる硬い本を読む人って、全国に2000人から5000人くらいだと思うんですよ。それよりも「なんか読みたいな」とか、「面白い本があったら教えてね」って思っている人が、ものすごくいるんですよね。だから、本と読者の結ばれ方みたいなものが、いろんな意味で成長したり、面白くなったりすればいいなと思いますね。
「あえて効率の悪い棚を持つ」

―― 僕は信愛書店さんの雰囲気が大好きなんです。とてもいろいろな本が詰め込まれているようで、すごく興味をそそられます。
原田うちのような小さな書店って、すごく効率が悪いんですよ。大きな書店も、結局ワンフロアでは数人のチームだから、やっていることってあんまり変わらないんです。たとえば10坪のお店でも30坪のお店でも作業っておんなじで、一度に10冊運ぶか3冊運ぶかの違いだけなんです。だから今の人数で、本当は何倍もの仕事を同時にできるんです。だけど何倍ものお客さんは入らないでしょ。
―― なるほど、そうですね。
原田20坪ぐらいの店って一人でできる規模でもあるんです。休憩のときにだけ交代してくれる人がいてくれたら、一人でもできるんじゃない? って。
―― でも、それはやらないんですか。
原田もちろんすごく有能な人ならできるかもしれませんけど、一人で20坪の売り場を完全に把握するって、ものすごく大変なことなんですよ。だって、人の関心ってそんなに広くないから。たとえば小説はすごく詳しいですっていう人は、婦人雑誌にはあんまり詳しくないかもしれないし。その逆もあるだろうし。
―― なるほど、そういうことですね。
原田ただ作業をやるだけ、つまりロボットみたいな仕事だったらできると思うんですけど、お客さんに「いやー、この人は15年前にもっと面白い作品を書いてるんですよ」っていうようなことを答えられる書店員を期待したら、それは一人では無理なんですよ。棚に、その人その人の持ち味が出ているからこそ、さきほどおっしゃっていただいたような魅力につながるんだと思うんですよ。
―― そこからきているんですね。
原田たとえばPOSレジの販売データを元にして、「置くのは上位30位まで、それより下は返品して良し!」みたいなルールに従えば、すごく簡単なんですけどね。たぶんこんな棚にはならないと思うんですよ。たとえば、自分が絶対良いと思って何年も置きつづけた本が、3年目にやっと1冊売れたりとかね。
―― おお~!
原田それはほとんど大いなる無駄なんですけど、そのお客さんは「よかった~、探してたんだよ」って言ってくれるんですよ。それを機械的にやって排除すると、もっと回転の良い棚が作れて、話題の本が常に並ぶようになるんですけど、それだとどのお店も一緒になりますから。効率の悪い棚を持っていることで「なんでこんな本を置いてるの? でもこのお店なら自分の探している本を探してくれそうだな」って思ってくれることもあるんですよ。
―― 「効率の悪い棚」というのがすごく面白いですね。
原田効率だけ考えたら、お店を閉めて店舗に貸せば、家賃収入だけで儲かるんですよ。それでも店を閉めずに書店をやるのには、社会的な使命感であったりとか、個人の充実感であったり、色々な意味があるんですよ。
―― 確かにそうですよね。
「小樽文学館から届いた本」

原田この信愛書店と高円寺文庫センターは普通の本屋としてやっているんですけど、ブックカフェとしてやっている高円寺書林では、自費出版の本とかもお店に合うものは積極的に扱っているんです。もちろんそれは1000冊とかは売れないけどね。30冊売るためにどういう見せ方をどうしようとか、そういう一つ一つを考えることが仕事になりますよね。
―― なるほど、自由度が高いんですね。
原田いまもちょうど、「ちまちま人形展」というのをやっていまして。小さなお人形を30体展示してるんです。(*注)
―― あっ、ブログで見ました。
原田それもなんでやることになったかというと、ある日突然、小樽文学館というところから本が送られてきたんですよ。心当たりがなかったから、なにかと思って開けてみたんですけど、「こういう本を作りました。ぜひ取り扱っていただきたくお送りしました」って書いてあるんですよ。
―― へー!
『一葉のめがね』(高山美香 著) |
原田高山美香さんの『一葉のめがね』(*注)という本だったんですけど、高山さんが作った「ちまちま人形」というミニチュアの写真とエッセイが一冊にまとまっていて、すっごく面白いんですよ。これは良いと思って、「ぜひこのお人形さんを展示させてくださいって」って、小樽にメールをしてみたんです。
―― それで、どうなったんですか?
原田そしたらね、「いま、ちょうど立川の書店で展示をやっております」って返事が来たんですよ。うちもたまたま一週間だけイベントの空きがあったので、急きょ展示をさせていただくことになって。
―― すごい偶然ですね。
原田小樽文学館の方もすごく喜んでくださって、立川からうちに移動するために、わざわざ北海道から来てくださったんです。
―― えー、すごいですね。
原田それで一緒に、その本を30冊置いてくださいっていわれたんですけど、一週間で30冊は無理だよな~って思ったんです。だって立川の書店でも、一カ月やって70冊しか売れなかったそうなんですよ。うちでは難しいだろうなって思ってたら、あっというまに完売して、すぐに追加の注文をしました。
―― さすがですね!
原田小樽では3000冊印刷したものが売り切れそうな勢いなんですって。だから、やっぱり本ってすごいなって思いましたね。
―― ほんとそうですよね。やっぱり本は面白いですね。今日は面白いお話をありがとうございました。

原田こちらこそ、そちらのお話を聞かせていただいて、なるほどって思いました。本に関わっている人たちってみなさん本当に一生懸命なんですよ。だからお互いに持っているものを生かして、一緒にやっていけたらいいなって思いますね。読者はちゃんといるわけですから。失敗をおそれないでやっていきましょう。
―― そうですね!今日は本当にありがとうございました。
(*注)「ちまちま人形展」は終了いたしました。
『一葉のめがね』(高山美香 著)につきましては、高円寺書林にお問い合わせください。
茶房 高円寺書林
杉並区高円寺北3-34-2
TEL:03-6768-2412
