
東横線沿い、まちの名前に大学の名を冠する街、学芸大学。当の学芸大学自体は、小金井に移転しており、今はその駅名だけが残っている。それでも下町の風情漂う住みよい町としてみなに愛され続けている。
駅を出ると八百屋さんが「いらっしゃーい! いらっしゃーい!」と威勢よく野菜を売っている。その八百屋の2階はスナックで、デビッドボウイのようなメイクをしたママが昼過ぎに起きてきたり。
そんな町の駅から徒歩すぐに、流浪堂という古本屋がある。前を通りかかると、まるで映画の世界に出てきそうな本のぎゅうぎゅう感に、本好きでなくても足を止めてしまう。モノとしての本のよさを大切にするこのお店を営む二見さんを、今回は訪ねてみました。
(聞き手:森王子)
第13回 流浪堂 二見彰さんに聞きました
古本屋は、セッションなんです
二見さん(右)と相方の木村さん(左) |
―― こんにちは、今回はよろしくお願いします。
二見よろしくお願いします。
―― いつ来ても世界観ありますよね。とくに表紙のデザインとタイトルが目につく本がとても多いです。
二見ありがとうございます。古い本って面白いんですよ。こないだなんか、もう売れちゃったけど、『車窓から見る日本の植物』という本があって、よく考えてみるとこれおかしいですよね。
―― と言いますと?
二見だって、車窓から見るって、電車から見るわけでしょ? 歩きながらタンポポとか見るならわかるけど、動いているわけですから、遠くのは小さくて何だかわからなくて、近くのは動いているわけだからブレブレでしょう? どうやって確認すんだって(笑)
―― 本当だ(笑)。面白い。
二見車窓からっていうので、いろいろ本はあるけど、植物ねえ・・・
―― シュールですよね。お店のコンセプトを、あえて言うなら何なのでしょう?
ついつい手を伸ばしたくなるタイトル&デザイン。こんな本がたくさん。 |
二見うちは古本屋なんで、ほんとお客さん任せというか。もちろん市場に仕入れにいったりして自分たちの好きなものとかリクエストがあるものは買ってきますが、お店の雰囲気にあわせてお客さんが「うちに合うから」って持ってきてくれた本で、できていったようなものです。
―― 素敵ですよね。読むひとが、読む本を買う本屋の棚をつくってゆく。古本屋っていいですねホント。お店はもうどれぐらい続いているんですか?
二見2000年オープンで、今年で11年目ですね。相方と僕、ふたりとも同じ古本屋でバイトとして働いていて、それで独立してこの本屋をつくったんですよ。
―― やっぱり本が好きだったんですか?
二見いや、全然そういうわけではなくて(笑)。 僕は実は、18歳ぐらいからプロを目指してバンドをやっていたんです。大学も中退しちゃって。でもそのバンドが解散してしまって、なんか「あーあ」って感じで燃え尽きてしまって、プラプラしていた。で、旅行が好きなので、とりあえずお金を稼いで旅にでも出るか、と思ってたときに、先輩に「バイトやらないか」って誘われて、26歳ぐらいのときに初めて古本屋で働いたのが、この仕事につくきっかけでした。
それまでは別に、本も読んでいたことは読んでいたんですが、自分で本屋をやるほど好きではない感じでしたから。とにかく、バイトだからやってみようという、ただそれだけでしたね。
―― なんか『ちびまる子ちゃん』とかのエピソードに出てきそうな不良ですね(笑)。
二見たぶんバイトが古本屋でなかったら、今こうして古本屋をやってないでしょうね。八百屋だったら、八百屋をやってたかもしれないし・・・。
―― でも、古本屋で働いていてやっぱり面白かったと。
二見面白かったですね。棚をつくるとか、自分でセレクトしたものを並べて飾るとかそういうことが好きだったんですよ。本に惹かれたのではなくて、本の背表紙とか装丁とかに興味があって始めたんですよね。
それと、一冊から広がってゆく世界みたいなものが楽しかったんだと思います。装丁やカバーの色もそうだし、作家自身の周辺のことを知るのも楽しかった。たとえば、画家の宇野亜喜良の近くに天井桟敷の本を置いたり、寺山修司を並べたりとか。なんかそういうのがバンドに似てるんですよね。
―― と、いいますと?
二見バンドって、たとえばメンバーが何か曲の断片をつくってきたら、そこにドラムがリズムをつけて、ギターが肉づけしていくというような、"セッション"をやるでしょう。そうやってスタジオで曲が生まれてゆく。うちの本も、それと同じ感じで並べていったんですよね。
―― なるほど。たしかにそうですね。タイトルやデザインの特徴から、その本の隣に並ぶものが決まっていくというか。
二見そうそう。そういうバンド的な好奇心で始めてしまったんです。表紙の絵や文字で棚を飾ってゆく。それが始まりでしたね。あと、値段をつけるというのも面白くて。古本って、客観的な価値があるものは、自然に相場の値段が決まるじゃないですか。たとえば夏目漱石の『我輩は猫である』の初版だと、それだけで価値がだいたい決まる。でも、たとえばさっきの『車窓から見る日本の植物』は、客観的な相場というのが、あってないようなものなんですよね。
―― (笑)そうですね。とても面白そうではあるけれど。
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店内は古本がぎっしり。この世界観がついつい通いつめたくさせる。 |
二見そう。その面白いっていうのも、時代で変わるんですよ。たとえば時代が変わってしまったら、真面目な本が滑稽に思えることもあるし、著者が意図したこととは違う意味合いの面白さが生まれてゆくこともある。そこに値段をつけてゆく面白みっていうのがわかったんですよね。
―― なるほど、なるほど。
二見お客さんがその値段で買っていってくれたら、僕がつけた面白さの値段みたいなのが共有できたことになる。それって、すごく面白いんです。儲かったとか、そんなのとは全然違う感覚というか。
―― お金がモノとの交換でなくて、感覚の交換に使われるんですね。いやあ、面白い。
二見植草甚一って人がいて、あの『ワンダーランド(後の「宝島」)』の責任編集をしたり、映画とかミステリーとかジャズの批評とかをしていた有名な人ですが、その人なんて古本屋に行ったら、「この値段が適正だ」って言って、自分でそこに売ってる本の値段を書き換えて買ったらしいんですよね。なんかそういう感覚、僕はちょっとわかる気がするんです。
―― めちゃくちゃ面白いですね。でも、本をお金と交換するのって、本来そういう意味があるのかもという気もしてきます。
バンドマンゆえに、開店もバンド的
―― お客さんはどんな人が来られるのでしょうか?
二見うちの店は、これといった専門性もないので、年齢は20代前半から、バラバラですよ。OLさんも多いし、スタイリストさんや、デザインを勉強している人なんかもよく見かけますね。ネギを買い物バッグに差したおばちゃんとかも通ってくれてますね。
―― 入り口にある巨大な棚も、かなり楽しいですよ。すべて自作されているとか?
二見そうですね、店内の他の棚についても、主に相方の得意分野なので、いろんな材木集めてトンカントンカンやってます。まあ僕はアイデア担当みたいな感じで(笑)。見せ方としては、きれいに区切るのではなくて、できるだけあちこちを見て触れてほしいという気持ちがあります。
―― 手に取ったときに存在感がある本が多いですね。ここに来ると本ってモノなんだなって再確認してしまいます。
二見そうですね、自然とそういう本が増えていったんですよねえ。学芸大学という町的なものもあるかもしれないですね。学生が今でも多いし。お客さんが求める、「価値観を変えてくれる何かへの飢え」みたいなものが、作用しているかもしれないです。
―― 始めたときからこういう世界観だったんですか? お店は。
二見いや・・・何も考えなくて始めたようなもんだから、最初は3カ月ぐらいもてばいいかな、とか思ってたんですよね。
―― まさに、バンド感覚ですね(笑)。
なんと明治期の日本が発行していた海外旅行ガイド。こんな博物館未遂なものも、あるんです。 |
二見古本屋で働いていたときというのは、毎日同じとこに通って、時間になったら帰ってという感じで、つまりは社員みたいなもんじゃないですか。そういう毎日を過ごしていると、ついつい性格上、ポンと外に飛び出したくなるんですよね。今から思えば、何も考えてないから、ビジネスマンになりきれなくて遠回りしたところはありましたね。肉体労働やれば返せる借金だったし、なんとかなるだろ、みたいに思ってました。でも続いちゃったんですよね。
―― 始まりってそういうものなんですよね。
二見この業界には横も縦もつながりなかったですからね・・・。引くに引けない感覚だからこそ、始まるものがある。それが結局、この店の個性になっていったんでしょうね。
読み手がつくる本棚で、本との出会いをつくってゆく
―― いま、出版界では、電子書籍が話題になってます。
二見そうですね。
―― 情報としては紙の本と同じなのに、なんかリアリティ沸かないというか。
二見そうなんですよね、世代の問題だとも思うんですが、たとえばスターウォーズも新しいのと古いのがあるじゃないですか。どっちが自分にとってリアルかというと、古い方なわけで。あのカクカクした動きだったり、模型感のある背景だとか。もちろん映像の質はすごく上がってるんですが、映画のリアリティって、なぜかああいう昔のジオラマ撮影の方に感じてしまう。
―― わかります。本といっしょですよね。
二見想像力ですよね。人間はないもの、足りないものを想像力で補ってゆくところに面白みがある。ツチノコなんてその典型ですよね。
―― ありましたねぇ! あの変なブーム(笑)
二見ちょうどツチノコブームの頃、子どもで、本気で捕まえに行ってましたからね(笑)。不鮮明な雑誌の写真を手がかりにしてですね、行くわけですよ、森の中へ(笑)。
―― 今から考えるとすごいリアルさですよね! 今なら、インターネットで情報を集めて、ひたすら本当かどうか確認するだけとか、自分は行動しないでツイッターだけ見ているとかが普通になってしまっている。でもツチノコブームの頃は違った。みんなが本気でツチノコを、誰よりも先に見つけようとして動いた。流浪堂さんの本棚って、そういう時代のリアルさが求めた本、という状態で止まっているんですよね。そこがとても魅力的です。
二見アナログですからねぇ。うちは来てもらって、ここで過ごす時間そのものも味わってほしいな、なんて思っています。読むだけが本じゃなくて、出会うのも本だし、本と出会えるのって本屋さんだけですから。
―― それにしても、ロックンローラーから本屋、というのはキャラ立ってますね。
二見なんだろう、べつに古本屋だからって、本が大好きで大好きで仕方なかったり、本の話ばかりする必要というのはないと思うんですよね。たとえば八百屋さんが普段から野菜のことしか考えられなくて、もう、この世の他の何よりも野菜が好きだったりしたら、とっつきにくいじゃないですか(笑)。
そういうことだと思うんですよ。もちろん、お客さんにお勧めしたりするための知識は必要だけど、そんなのは、やってるうちについてくる。それよりも、本を通していろんな人に出会って、趣味の話や音楽の話をしているほうが、楽しいですよ。
―― ジャンルを超えたところでどれだけ話せるかというのが大切ですよね。そもそも読書は自分の人間性に水やりをするような行為だと思うんです。
気軽に遊びに来てくださいね! |
流浪堂 東京都目黒区鷹番3-6-9鷹番サニーハイツ103 TEL:03-3792-3082 営業時間:平日12:00~24:00 日祝日11:00~23:00 定休日:定休日なし |
二見そうですね。世界が閉じているかどうかが問題になってきますよね。たとえば本好きであるとして、それでも本好きじゃない人とも話せるし、音楽の話もできる、っていうのならいいんです。むしろ素晴らしい(笑)。そうじゃなくて、本のことしか話さないとか、本好き以外と関わりを持たないとかは、やっぱり世界が閉じているし面白くない。
そんなために本があるわけじゃないって、それこそ読み手に本棚をつくってもらう古本屋をやってるから思いますね。それに異業種や違う価値観って刺激になりますよ、毎日本に囲まれて、本買って売ってっていう暮らしですからね。
―― 古本だけで終らない古本屋。
二見それでこそロック。
―― ありがとうございました。
