本のこぼれ話

2007年7月に株式会社クオンを創立、韓国の書籍の翻訳出版などを手がける金承福さん。代表の三島もブログに熱い感想を綴った『楽器たちの図書館』をはじめ、クオンさんの書籍は京都のミシマ社の本屋さんでも、販売させていただいています。

一方、同じ2007年9月、未来の夫ヒロシに出会い、つき合って3カ月で結婚、そこからの怒濤の夫婦生活を綴ったミシマガでの連載が、先月『わが家の闘争 ~韓国人ミリャンの嫁入り~』として書籍化された趙美良さん。

今回はミリャンさんから金さんに、『韓国文学のいま』というテーマでインタビューをさせていただきました。初対面ながら、「まだ知られていない韓国の文化を日本へ、そして日本の文化を韓国へ・・・」という共通の想いをもつお二人の話は、大きく盛り上がりました。

(聞き手:趙美良、星野友里 文:奥村薫子)

第25回 韓国文学のいま

2012.11.05更新

とにかく留学に行きたかった

ミリャン韓国人同士で日本語で話すのも不思議な感じがしますが・・・(笑)よろしくお願いします。

がんばります。

ミリャン前に、韓国の本がどれだけ今日本に来ているのか、ということが知りたくて調べたことがあるんですが、その時に「なぜ韓国の文学は日本で売れないのか」という趣旨のクオンさんの記事を拝見して、「同じことを考えているな」と思って興味を持ちました。金さんはいつ日本に来られたんですか?

私は日本に来て20・・・年、そこでもう数えるのをやめましたが(笑)。

1991年に、韓国の大学を卒業してすぐ、留学で日本に来ました。日本の大学を卒業したのは97年でしたが、その頃ちょうど韓国は金融危機を迎えていて、韓国に帰っても職がないという噂を聞いていたので、日本で働き始めたんです。はじめは広告会社に入り、韓国セクションで営業の仕事をしていたのですが、その会社が韓国セクションの仕事を廃止するということになり、クビになりました。

その時社長に「今までの仕事でかかわってきたお客さんを引き継いで、新しく会社をつくったらどうか」と言われたのがきっかけで、小さな広告会社を立ち上げました。会社の社長になったんですね。元々は留学の目的で日本に来ていたので、まさか会社をつくることになるとは思いませんでした。はじめは、とてもしんどかったです。

ミリャンもともと日本へは、何を勉強するために留学したんですか?

本のこぼれ話『韓国文学のいま』

金承福さん

演劇が好きだったので、はじめはイギリスに留学したいと考えて準備を進めていました。韓国では1988年にオリンピックの開催をきっかけに「世界旅行自由化」という政策が行われ、誰でもパスポートを作って海外へ出ていくことが可能になったんですね。私はその時ソウル芸術大学に通っていて、学内でも自由化をきっかけに留学に行く人が増えていったので、その雰囲気に呑まれて(笑)。

でも、留学のことを父親に相談したときに「イギリスは遠い」と言って反対されて。私は末っ子だったので、可愛かったんでしょうね。

ミリャンわかる気がします。

それで「じゃあ近ければ良いのね」と言って、日本に行くことにしたんです。外の世界を見たいと思う気持ちが強かったので、とにかく留学に行きたかったんですね。

ミリャン金さんにとっての88年と同様、私が韓国で大学1年生だった97年(前述の金融危機の年)にも、英語を勉強しないと就職できないという話があって、留学が盛んになったんですね。それで私も留学したんです。

プロデュースする役目を担う

ミリャン金さんは、元々は演劇がお好きだったんですか?

演劇の世界は面白いな、とおもっていましたね。韓国の大学では文芸学科で詩を専攻して、演劇や映画のシナリオを書いていました。日本でも日本大学の芸術学部に通って、演劇の評論について学びましたね。

ミリャンその後、広告会社に勤務して、現在に至るんですね。

学生時代から、芸術を表現する側ではなく、評論したり、距離をおいて眺める立場にいました。ある意味ではプロデューサーのような存在ですね。その後広告会社に入ってからも、営業をしながら広告制作に関わり、プロデュースする役目を担ってきました。そして社長になって、本当のプロデューサーになりました。
一見つながりのない経歴のように映るかもしれませんが、私は自分が歩いてきた今までの道はものすごくつながっているんだと感じています。

実は、クオンを立ち上げてからもその広告会社は続けているんです。ウェブの制作やパンフレットの制作など、編集プロダクションのような仕事を行っています。今年で12年目になります。

ミリャン株式会社クオンを始めたきっかけは?

こんな良い作品を日本で広めたいと思って、色々な出版社に「面白いので出してみませんか」と声をかけてみたんですが、韓国文学が日本で成功した例は、まだあまりないんです。なので、日本の出版社、特に大手はリスクを考えて出版に踏み切らないことが多い。

ならば、自分で出版すれば良いんじゃないかと思って。そんな単純な理由で、会社を始めました。

ミリャンすごいですね。

2000年を境に雰囲気が変わった韓国の文学

本を作るのはすごく楽しいです。けれど、売れないですね(笑)。

ミリャン私も韓国の本を日本に紹介したいと思っているのですが、出版社へ営業をしていて感じるのは、今、日本で受ける韓国の本はダイエット本やレシピ本などの実用書がほとんどだということですね。小説は、すごく面白いと思った本を提案してみても「映画化されたら書籍化も検討できる」と言われることが多くて。

似たような経験をしていますね。私はそこで、悔しいから出版社を立ち上げたわけです。

ミリャン日本の本が韓国でベストセラーになった例は多いんですけどね。

私もあまり詳しくはないんですが、今、日本の文芸の書籍は、年間1000点近く韓国で出版されているみたいです。逆に、日本で翻訳出版される韓国の文芸ものは、多くても年間20点ほどです。文化にバランスをとる必要はないと思っているのですが、やはりバランスが悪いなあと思ってしまうこともあります。

それに、韓国の良い本を知らずに死んでしまう日本人は、かわいそうだなと思いますね。だからこそ、日本語で翻訳して出そう、という発想を持ちました。韓国のものでもそうでなくても関係なしに、良いものを共有したい。それが原点になっています。

本のこぼれ話『韓国文学のいま』

ミリャンさん

ミリャン私も、韓国の本を夫にも読ませたいのに、日本語訳がないんですよ。その経験がもとになっていますね。

金さんは、韓国の本のどのような点が日本では受け入れられないんだと思いますか?

私は、3つの理由があると考えています。一つ目は、日本の編集者は韓国語がわからないので、興味も湧いてこないのだろうということ。二つ目は、年に20点ほど韓国の本が日本で出ているなかで、ベストセラーになった本がまだないということ。これが出版に歯止めをかけています。三つ目は、韓国は文学の世界の発達が日本に比べてとても遅れていたので、洗練された文学に触れてきた日本人が韓国の文学を読んでも関心を抱くことが難しいのかもしれないと思っています。

でも、時代は変わってきていますよね。2000年以降韓国には若手の作家がたくさん出てきて、韓国文学の世界観も広くなってきている。それに目を向けてほしいと思いますね。

ミリャン小説の雰囲気が変わったということですか?

今では、私が学生時代に勉強していたころとはまた別のジャンルの小説が出来上がってきているなと感じます。2000年を境にそういった小説が増えたように思います。こういった小説なら日本の若い人にも受け入れやすいし、面白いだろうと思っています。

ミリャン私の考えでは、韓国でベストセラー作品が生まれるには、その作品に戦争の歴史など、韓国はこうやって苦労してきた、という時代的背景が込められていなければならないという風潮がある気がします。でも、そういう作品は日本では受けない。日本では、ミステリーなど単純に楽しめるような小説に人気があるから。韓国の苦労話のようなものは、受け入れられないんじゃないかなと思いますね。

それは確かにありますね。

ミリャン金さんは、そういった内容ではない小説を選んで出版しているんですか?

本のこぼれ話『韓国文学のいま』

都市は何によってできているのか
価格(税込)2310円
パク・ソンウォン著
吉川凪訳

そうですね。今出版しているシリーズ(※)では、普遍的な内容のもの、どこの国の人にも受け入れられるような中身の小説を選んで出版したいと考えたんですね。

なので、すべて2000年以降の作品に絞って翻訳出版しています。基本的には編集者として私自身が読んで、これは良い、と思ったものを出版します。社長っていいものですよ。

ミリャンすごいですね(笑)。

※:「新しい韓国の文学」シリーズ。韓国で文学的に高い評価を受けている小説作品を日本語に翻訳し、シリーズ化したもの。
シリーズ第5作目の今作(最新刊)は、実力派ストーリーテラーとして韓国でも高く評価されている作家、朴晟減(パク・ソンウォン)の傑作短編集「都市は何によってできているのか」です。ぜひ、ご一読ください。

カッコよく遊ぶ

でも、やはりお金はすごくかかりますね。

ミリャン特にどんな部分にかかりますか?

本を作る全ての工程にですね。著者と契約して、翻訳する際にも費用がかかります。装丁にもこだわりたいので、紙の選定やデザインにも。カッコよく遊ぶのにはお金がかかるな、と日々感じています。

お金はかかるけど、社長の仕事ってすごく面白いです。この仕事をしていなければできなかった経験がたくさんあります。ミリャンさんもやってみたらどうですか?

ミリャン考えてみます(笑)。では出版する本は、若い著者の作品から選ぶようにしているんですか?

若い著者に限っているわけではありません。ただ、私が読んだ本のなかから選ぶようにしていますね。私は本を読むのが好きで、1週間に2~3冊は読んでいます。韓国では日本と同じように文芸誌もたくさん出ているので、たとえば読んでいて気になった短編があったとき、その著者の作品を調べてたくさん買って、自分のなかでいいと思った部分にずれがないかどうか考えます。それでもやっぱり面白いなと思えたら、著者と連絡をとりますね。

ミリャン出版社ではなく、著者本人と連絡をとるんですか?

はい。大学時代の知り合いのつてなどで、作家の知り合いが多いこともあって著者の方とは連絡をとりやすい環境にありますね。もちろん、クオンはまだ小さな出版社なので、有名な作家さんには断られることもあります。その点、苦労も多いです。皆に認めてもらえるような出版社にしていくには、まだまだ時間がかかりますね。

ミリャンそうですね。でも、頑張ってほしいですね。

これから、どんな本を出版していきたいですか?

この小説シリーズで日本に作品を出した著者の方の他の作品も、出版できたらと思っています。少なくとも一著者に対して3作品ぐらい。今回は小説文学のシリーズですが、今後は同じ著者さんたちが書いたエッセイシリーズを出したり。日本のアーティストの方に写真やイラストを手がけてもらうことで、コラボレーションした作品をつくりたいとも考えています。そうしたアイデアをもとに、どんな本なら書籍化できそうか考えて、アンテナを張っています。

ミリャンひとつ気になったのですが、韓国の本はどのようにして取り寄せているんですか? 郵送ですか?

インターネットで注文して、送ってもらっています。高いですが。
あとは広告会社の仕事の方では出張も多いので、クライアントに会いにいく際に、現地で100万ウォン分くらい買ってきます。

ミリャン本だけで? すごい。スーツケースでもって帰るんですか?

スーツケースだと重量オーバーになることがあるので、日本の自宅にEMSで送ってしまいますね。その方が値段も安いので。

ミリャン本だけで10数キロになるんじゃないですか?私も韓国に帰った際には本 を持ち帰るのですが、せいぜい3冊ぐらいだったので・・・すごいですね。

私は箱でバーンと送っちゃいますね。社長はね、そうするの。

ミリャン(笑)。

本のこぼれ話『韓国文学のいま』

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金承福(きむ・すんぼ)

韓国生まれ。1991年に韓国の大学を卒業後、日本に留学。
1997年に日本大学芸術学部を卒業、日本の広告会社に就職。
韓国セクションが廃止されたタイミングで、自ら広告会社を立ち上げ、
今年で12年目をむかえる。2007年には、韓国文学の翻訳出版などを
手がける株式会社クオンも設立。今まで日本にあまり紹介されてこなかった
現代の韓国文学を翻訳出版している。
第1弾『菜食主義者』をはじめ『楽器たちの図書館』、『長崎パパ』、『ラクダに乗って』、『都市は何によってできているのか』などが発刊され、話題を呼んでいる。

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