作家の方々は、本屋さんとどんなつきあい方をしているんだろう。
自分が書いた本が並べられる場所にたち、どんなことを感じているのだろう。
そんな素朴な疑問からたちあがった連載です。
毎月、気になる作家さんに、本屋さんの「お話」をうかがいます。
本屋さんと私 ―― 井上章一さん編
第5回 『霊柩車の誕生』、自動車コーナーに置いてちょうだ~い(井上章一さん編)
「『霊柩車の誕生』が自動車コーナーにあるのを見たことがないですね」
井上私は書評をいくつか書かせてもらっているので書店はよく行くんですよ。で、並べ方とかやっぱり気になるんです。
―― 並べ方が気になりますか
井上気になりますね。
―― 書店に行かれると、まずどういう見方をされるんですか?
井上まず、自分の本はどう評価されてるかが気になりますよね(笑)。
―― そうですよね(笑)。
井上はい。
―― 最近出された本から見て回るのですか?
井上そうですね。で、それがまったくない場合でも、古いのがぽつりと残っていれば、まあまあええかなと(笑)。
―― (笑)。
井上で、あの。売れすぎたおかげで書店からなくなるということは、基本的にないでしょうしね。
―― 本当はそうあってくれていいんですけど。
井上そういうのは、出版社から連絡がくるでしょうしね。
―― それはそうでしょうね(笑)。声のトーンが3段階くらい上がって、「完売です!」と。
新刊コーナーに置いてあるのを見たとき、「おお〜」ってなるか、「まぁ 新刊の時期だからな」って捉えるか、先生はどちらですか?
井上ま、比較的この本(*『伊勢神宮』)は、大きい本屋さんだと新刊コーナーに置いてくれているんですが、ふつうは建築のコーナーですね。意外にないなと思ったのが、神社関係のコーナー。ここに置かれないですね。タイトルは、『伊勢神宮』やのに。
『伊勢神宮』(講談社) |
―― ああ、それは意外ですね。
先生としては、新刊時じゃなくなったときに、どこに一番置いて欲しいですか?
井上日本史と考古学に思いを寄せてるんですけれども、考古学コーナーで見たことないですね。片思いやな。
―― 内容的にはそちらに置かれるのが、しっくりくる本ではあると思うんですけどね。
井上べつの本に、話をうつします。若いころ、いわゆる処女作で、『霊柩車の誕生』という本を書いたんですが、あれが自動車のコーナーに行っているところを見たことがないですね。
―― なるほど、確かに自動車のコーナーってありますよね。
井上そこで一切見たことがないです。
―― それを、どう分析されました?
井上そうね。僕は、車の運転免許もってないんですよ。当時(1984年)も今も。で、男子は車の話好きじゃないですか。ま、このごろは車に興味を持たない若い人も増えてると思うんですが、僕が若い頃は、多くの男子は好きだったんです。
―― そうですね(笑)。
井上で、車の話が始まると、まぁ、その間は、「つまらん話やなぁ」って思いながら聞き役をするしかなかったんです。
―― なるほど。
井上ところが、宮型霊柩車に関しては、車の話題でありながら私がリーダーシップをとることができたんですよ。誰も知らんから(笑)。
―― 知らないですよね(笑)。
井上それがちょっと心地よかったんですが、自動車のコーナーにないんです。
―― なるほど。
井上『働く車』っていう子供向けの絵本なんかがあるでしょう。消防車やパトカー、トラック、そしてブルドーザーなんかが紹介されている。でも、そういう本には、霊柩車とバキュームカーがないわけですよ。
―― なるほど。バキュームカーもない。
井上バキュームカーもなかったですね。で、まぁそういう見すてられたものへ、なんていうか、ささやかな光を当ててあげたいという思いの本だったんです。でも、その霊柩車が、その後『働く車』に入ったっていう話も聞かないし。
―― あの本以降、特に先生の耳元には届かないんですね。
井上ないですね。書店でも、自動車のコーナーで見たことないですしね。
―― 当時は、そこに風穴を開けたいという、意気込みがあったのでしょうか?
井上そう。免許もなければ車の趣味もない私が、風穴を開けたという物語に酔いたいという思いがあったんですが。
―― やっぱり。あれを発刊された後も、周りのご友人達の間で、車の話の中で「おお〜 そういえば 霊柩車の......」という話には......
井上ならないです、そんな話はあんまりなかったです。
―― そうですか。
「『霊柩車の葬式』っていう本を書かなあかんな」
井上このごろ、宮型霊柩車ってもう都市部ではなくなり出してるでしょ。
―― そういえばそうですね。
井上このごろはね、特に注文しなければ、業者はあの車をもってこないですよ。
―― そうなんですか。
井上あれは、遠からず博物館行きですよ。
―― 子どもの頃、しょっちゅうっていうか、何かにつけみつけてたっていうのがあると思うんですけど、いま、そう言われれば普通の車ですよね。
井上まぁ、黒っぽい車にすることは多いですけどね。宮型霊柩車はもうあんまり使わないですね。
―― そうですね。
井上私は『霊柩車の誕生』という本を書いたんですが、いつかは『霊柩車の葬式』っていう本を書かなあかんなと。
―― そうですね。それは......ぜひ書いて下さい(笑)。
井上いやいやいや。
―― 面白いですよ。
井上はい。
―― それ、今日先生に言われるまで気づかなかったです。
井上そうですね。あんま、霊柩車の話ばっかりするのもあかんのですが、まぁ、いずれね、宮型霊柩車が絶滅すると同時に、本自体ももう意味がなくなって品切れになると思うんですよ。
―― 『霊柩車の誕生』が。
井上で、ついに、一度も車のコーナーに行かなかったなぁ......というふうになりかねない...。
―― 風穴開けられずに(笑)。
井上そうですね。そうなる前に、書店の方々へ、ささやかなお願いがあります。もう品切れになるだろう本を、一度でいいから自動車のコーナーに置いてやって下さい、と。
―― それはぜひ、実現させたいですね(笑)。
井上なかなか、うまく行かへんと思いますけど。
―― いやいやいや。
「絶対に置いてくれないのが、......」
――ご自身の本で意外なコーナーに行くというと何がありますか。
井上そうですね......。ま、私はいろいろなものを書いているので、かなりいろんなコーナーに置かれているんですが、絶対に置いてくれないのが、女流作家のコーナーですね......。ま、あたりまえやけどね(笑)。
―― その壁はなかなか高いです(笑)。
井上それで、逆に思うんですけど、あれは諸外国でああいうのってあるんですか?
―― 女流作家の棚。
井上はい。
―― いやちょっと不勉強で、全然わかんないです。
井上私もわかんないですけれども、海外で割と大きい本屋へ行くと、「文学」っていうコーナーはよく見かけるけれど、「女流作家」ってあんまり見たことがないような気がするんですが。
―― 確かに、そんなに分かれてないかもしれないです。
井上例えば、「歴史」っていうコーナーはあるけど、「女流歴史家」いうコーナーないでしょ。「美術」というコーナーあるけど、「女流美術」......
―― それはないですね。
井上女流画家いうのは、日常会話で言わんことないんやけどね。それに、演奏家なんか、ピアニストは女の人も多いじゃないですか。
―― 多いです。
井上だけど、「女流ピアニスト」コーナーってあまり見たことないじゃないですか。
―― ないです。
井上なぜ文学だけが「女流」なんかと。
―― 文学だけは必ずほとんどの本屋さんで分かれてますね。
井上はい。
―― 本屋さんで今度聞いてみます。
井上聞いてみて下さい。
もしはるな愛みたいな人がエッセー集出したらどうなるんでしょうね。
―― どうなるんでしょうね?
井上ま、架空の話ですけどね。日本の現行の法律では女の人と男の人が顔に怪我をした時には、損害補償金額は違うんですよ。基本的人権の平等を守っていないんですよ。
―― なるほど。
井上女の人が約4倍近くもらえるんですよ。確かね、1990年代にニューハーフは女性並、っていう判決が下ったんですよ。じゃあ、書店ではどうなんだ? っていう(笑)。
―― (笑)。
井上ついでに言えば、書店のコーナー分け自体が、ある種の社会科学的な研究テーマになるんじゃないかと。
―― あぁあぁ そうですね。
井上ジェンダー研究やっている人にはぜひ取り組んでもらいたいテーマです。
で、あの、レディースコミックって書いてあるコーナーもあるんですが、レディースノベルっていうのもあるのかな?
―― レディースノベル?
井上レディースコミックっていうのはありますよね。あれは、あの、読者層が女性ということなんですよね?
―― おそらく。
井上なんであれ、そのね、少女マンガもあるんやけど、なんでエロだけレディーなんやって(笑)。男の読むエロ、フランス書院あたりは、なんでジェントルマンズノベルにならへんのや。
―― そうですね(笑)。
井上あと、ボーイズラブコーナーとかありますよね。
―― ありますね。
井上アングロサクソンの国々では、ゲイ・レズビアンコーナーってのを、書店でよく見かけますけど、ボーイズラブという表示は見たことがありません。このごろ百合コーナーっていうのも出始めててね。
―― 百合?
井上あの......。女の子同士の。
―― へー
井上薔薇族に対しての百合族ですけれども。
―― 書店にありますか?
井上まぁ まだ少ないと思いますけど。
ま、いろいろ面白いなぁ、と思って。あの、書店はそうですね、社会学のレポートの宝庫だというふうに。
―― ほんとそうですね。あのジャンル分け見てるだけでも研究対象になりますよね。
井上そうです。
「僕の書いた本でアダルトコーナーにならんだやつもある」
井上で、自分の話になりますけど、僕の書いた本でアダルトコーナーにならんだやつもあるんですよ。
―― そうですか。
『愛の空間』(角川書店) |
―― あの、『愛の空間』とか?
井上はいはい、『パンツが見える』とか。
―― あれ、やっぱりそっちに行きましたか。
井上行ったことありますね。パンチラのノウハウ本やというふうに(笑)。
―― ハハハ(笑)。
井上タイトルを見て、どこ行ったらスカートの奥にあるパンツが見れるとか、そういうような。
それはちょっと、誇らしい気分にはなりました(笑)。
『パンツが見える。』(朝日新聞社) |
―― 最初に発見されたときはどうでした?まっさらな気持ちでそっちに行かれた時。
井上そうですね。最初に発見したときっていうのはまぁ いろいろ思いがありますけど、まず発見するようなコーナーに行っている自分がなかなかはずかしいですよね(笑)。
―― でも、先生の場合は研究含めてそこはウォッチされてると思うんですけども。「おぉ そこに自分も来たか」という気持ちでしたか?
井上そうでしたね。意外というか、でも、考えてみればわからなくもないな、くらいのことですけど。
―― ようここまで来たな、っていう感じですか。
井上そうですね(笑)。そうそうそう。あの......なんていうの。変な比喩ですけど......。ユーゴスラビアが解体された後に、コソボ紛争があってね、衛星中継でテレビ番組に、コソボ在住の日本人に話を聞くシーンとかを見てて、「ここまで日本人いってはるんやな」っていう思いに近いものを(笑)。
―― なるほど(笑)。
井上私も自分の本が、帝国主義的な支配を書店でくりひろげるとはとても思ってませんが、コソボみたいな遠い場所に、どこまでとどくかっていうのはやや気になります。
―― なるほど。
井上そういう意味でも「霊柩車の誕生」を自動車のコーナーに(笑)。
―― ぜひ(笑)。
次回「本屋さんとせつない恋」をお届けします

