とうとう今回が、「本屋さんと私――クラフトエヴィング商會編」の最終回です。
前々回、デザインにあえてノイズを封じ込めるというお話がありました。この話の延長線上から、今回のお話が始まります。
ノイズと本屋さん。いったいどういう関係があるんでしょう?
(聞き手:三島邦弘)
第44回 手書きとノイズと本屋さん
本屋さんの手書きのポップを読みに行く
―― ノイズを封じ込めるというお話がありましたが・・・。
篤弘ええ。「手書き」を「本屋さん」に結びつけたかったのですが、
本屋さんに並んでいる本は基本的に普通のフォントをつかったものですよね。手書きを使ったものもありますが、すべてが手書きということはまずない。
でも、唯一、かろうじて本屋さんが書いてるポップが「手書き」であることが多いですよね。あの手書きのポップによって、無機質なフォントでつくられたものがちょっと変わってくる。
手づくりの温かみがあって、そこで購買意欲もあがるし、人がつくって人から手で渡している感覚が手書きの文字で思い出される。だから、本屋さんの手書きのポップは、なるべく読むようにしています。
―― たしかに思わず読んでしまいます。
篤弘大事なことです。
浩美あれは、しっかり、読んでいないと書けないし、手書きで書くのは容易なことではないですから、それだけ情熱を感じますよね。細かい字でていねいに書いてあったりすると、どれだけそこに熱がこもってるかわかる。
―― そうですよね。
篤弘それはもう壁新聞と同じでしょう。ぼくがまだ六本木のデザイン事務所で働いていた頃、毎日、青山ブックセンターに通って間室さん(ABC六本木店の書店員さん)の手書きポップを読むのが楽しみでした。それを読んで毎日のように本を買ってました。
―― 買ってしまうことが多いですよね。
篤弘ポップを読みに行っていたわけです。壁新聞を読みにいくのと同じです。手で書いたものはそこにひとつしかないわけだから。
―― ポップを読みに行くんですね。それは、ネット書店ではできないことですよね。
篤弘そこでさっきのラジオのノイズとつながるんですが、本屋さんというのは混線が起きる場所なんです。さっきの壁新聞と同じように、視界が広いわけです。パソコンの画面より。そうすると、混線が起きる。目の端にノイズが入ってきて、思いがけない本に目がとまる。それが楽しい。
―― なるほど。
篤弘それが具体的にどうデザインに活かされているの? と聞かれても、それはわかりません(笑)。ただ、「そういうのがいいんだよなぁ」といつも思っている。
つくるときに「そういうのがいいよなぁ」ということを忘れないようにしているとしか言いようがなくて、ノウハウがあって誰かに教えられるものではないんですよね。
本屋さんには毎日行っている
―― 最後に、「本屋さんと私」ということで、本屋さんになりたいと思われたことはありますか?
篤弘いまでもなりたいと思っています。
―― クラフト・エヴィング書店があったら、そこは行きたいですね。
浩美同じ本でも、並べ方で、変わって見えるということはあるかもしれないですね。
篤弘いい本屋さんってそういうことですよね。棚見てるだけで楽しくなってくる。さっき言った、きれいな混線というか、いい感じの混線、つながりが起きて、刺激されるんでしょうね。
―― どれくらいの頻度で本屋さんに行ってらっしゃいますか?
篤弘毎日、行ってます。原稿を外で書いてるので、狩りに行く気分で、「じゃぁ行ってくる」と出かけてゆく。で、外で原稿書いたり本読んだりして、最後に本屋さんに必ず寄って、おもしろい本があったら買う。それと一緒に食材も買って、家に帰ると「今日の収穫は、この本とこの食材。料理はおねがいします」と相方に渡します。
街の行きつけの小さな本屋さんと、都心の大型書店と両方行きます。大きな本屋さんに行くときはどちらかというと、狙いを定めて「あそこにいた!」みたいな感じで本を見つける。小さな本屋さんは、自分の家の近くにある川、毎日見てる小川みたいな感覚ですね。
近くの川に釣りに行って、「今日の川の流れはこんな感じか」「昨日とちょっと違うな、あんなのが出てる」みたいな。その変化を見ていくのが楽しい。
自分の本音に、もう少し素直に
篤弘出かけるときはなるべく自転車に乗るようにしてます。あとは歩きですね。新宿の大型書店に行くのも自転車です。
―― あれですか、ロードレーサーみたいな。
篤弘いえいえ、あんまりスピード出ると危ないから(笑)。スピードを求めてないですから(笑)。
って、こんな話でいいんですか?
―― いや、本当にもう楽しいです。最近自分はノイズを排除してるんじゃないかなぁと、改めて思いました。「ぼくはそもそもそういうのが好きで始めたはずだったのに」と。
篤弘そうなんですよね。世の中がそうじゃないほうに行っちゃうといつのまにかそうなってますよね。ただ、一応、仕事なので、いくらノイズを出したいと思っても「やめてください」と言われたらもうさっとやめますから。
―― なるほど!(笑)
浩美「なんですかこのゴミみたいなものは? 消してください」って言われたら消しますよ(笑)。
―― 出すときは出すと。
篤弘気づかない程度に。「よ〜く見ると、なんか変だな、あれ? ノイズが入ってる!」みたいな。
―― デザイナーも編集者も書き手も読者も、忘れちゃいけないことが今日のインタビューに詰まっているような気がします。今日は本当にありがとうございました。
