本屋さんと私

第91回

『重版出来!』 著者:松田奈緒子 発行:小学館 価格:580円(本体552円)

 ことのはじまりは営業ワタナベがメルマガの編集後記に、『重版出来!』を読んで痺れた、というエピソードを書いたことでした。これに、京都の新人ミッキーが激しく反応。「私も一昨日、『重版出来!』読みました!!!途中でめっちゃ泣きました。・・・わたしも黒沢心に負けんとこうと強く心に決めた一日でした。」
 さらに自由が丘メンバーヒラタが反応。「わたしも昨日渡辺さんに借りて読みました!むっちゃいいね!!むねアツやね!!なんて素敵な仕事に携わってるんだろうと誇らしくなりました。」。・・・同時多発的にミシマ社内を席巻した『重版出来!』。

 柔道に青春を捧げた主人公、黒沢心が体当たりで挑む、漫画の新米編集者という仕事。編集、営業、書店員がチーム戦で漫画を「売る」姿を描くストーリーは、私たちが日々している仕事ともぴったり重なって、読んでいるうちに仕事やる気モードが全開に。もちろん出版業界にかぎらず、就職活動中の学生さんや新入社員の方、いろいろな業種で働くみなさんも、読めば元気倍増間違いなし。
 今回は作者の松田奈緒子先生に、制作秘話と本屋さんのお話をうかがいました。第3日目、第4日目には、編集ご担当の山内菜緒子さんにもご登場いただいています。どうぞお楽しみください!

(聞き手:星野友里、東江夏美、吉田美里、構成:東江夏美、吉田美里)

第91回 『重版出来!』こぼれ話 その1

2013.08.06更新

ダンス研究中

――重版出来ダンス(編集注:主人公や登場人物が踊るダンス)って松田さんが考えられたものなのですか?

松田そうです。あっ、こうかな? こうかな? って、一回自分で踊ってみてます(笑) 経験としてヒップホップダンスを習いに行かねばと思っているのですが、いつもバタバタして、結局予約が入れられない日が続いていて。
 それで今、ムーンウォークだけはできるようになりたいと思って、Youtubeで"誰でもできるムーンウォーク"を見ながら一所懸命練習してるんです。

一同 爆笑

第91回 『重版出来!』こぼれ話その1

松田難しいんですよ! できます?

――できません!(笑) というよりも、やってみようと思ったことがないです。

松田えっ、マジで・・・?

――でも、ムーンウォークは、たしかにちょっとやってみたいような・・・。

松田ムーンウォークはパントマイムに似てるんですよ。旦那と一緒にこうじゃない?こうだよ!とかって言ってやってるんですけど、いやぁ、うまくならないですねぇ。


五百旗頭さん

――珍しい名前で気になっていたのですが、登場人物のひとり、五百旗頭(いおきべ)さんの名前の由来はありますか?

松田新聞とか雑誌とかを読んでいて「なんじゃこの名前!」っていう苗字を、ストックしているんです。

――そうなんですか!

松田やっぱりこう、名前が印象的でないとキャラクターに色がつかないので。全部同じ名字というわけにもいかないですし。ただ、五百旗頭さん、ネームを描くときにめんどくさいということに、この間気がついたんですよ(笑)

――たしかに、画数多いですね(笑)

松田いおきべの「き」ってどんな漢字だったっけ、とか。

――もし五百旗頭さんという苗字の方がこの漫画を読んだら大喜びですね。

松田多分水軍系ですよね。統領かなんかに与えられた名前じゃないかな。知らんけど(笑)


最初に頭にあった絵

――1巻の見開きページの背景が全部ベタの黒なのが印象的だったのですが、何か意図されていますか?

松田背景が黒なのには今気づきました(笑) 見開きのビジュアルエフェクトというのは大事にしています。上村一夫先生という漫画家さんが見開きを多用されるのですが、私は上村先生が大好きで、すきあらば見開きをどんどん入れたいっていう気持ちは常にあるんです。でも、物語のタイミングで、入れられるときと入れられないときがあって。

――そうなんですね。

松田やっぱり、漫画にしかできないことなんですよね、見開きって。

――たしかに小説ではいきなり開いて、ドンって2行だけ「俺たちが 売ったんだよ!」って書いたらどんだけ演出してるんだ!ってなりますね(笑)

松田それと、今話していて思い出したんですけど、見開きのシーンって最初に頭にあった絵ですね。

――最初に頭にあった絵、ですか。

松田最初に頭にあった絵で、そこにあったセリフを言わせるために、お話を作っています。ここがもう、絶対の見せ場だから、そこは動かさずに、他のところを動かしたりして作っていますね。


「がんばれ」といってもいいのかもしれない

――第1巻は、主人公の心ちゃんとともに、漫画を売ることに興味が持てずにやる気のなかった営業の小泉くんの成長が印象的です。「がんばって」という言葉をめぐる心ちゃんと小泉くんの反応の違いは、どういうきっかけで描かれたのでしょうか?

松田私、人からいろいろ言われるのが大っ嫌いなんです。なので、がんばってください、がんばってがんばって、とがんばれのインフレが起こって嫌だ、という小泉くんのセリフは、私の意見だったんです。

―― なるほど。

松田がんばるときはがんばるし、いちいち言うなよって思っていたんです。でも、もしかしたら、それってプレッシャーをかけられるのが嫌だ、っていう弱さだったんじゃないかな、って気がついたんですよね。
 オリンピックに出る人とかマラソンランナーは、がんばって、と沿道の声援をうけて、それで「元気が出た!」とよくインタビューで答えていますが、それはたぶん、受け止める力があの人たちにはあるからだと思ったんです。だから、受け止められる人にはガンガン言っちゃっていいと思うんです。
 人によってはそれがプレッシャーになる人もいるから、その辺はこう見極めながら。 いま、全体的に「がんばって」って言っちゃいけないとか、声かけちゃいけないみたいな雰囲気があるけれど、そうじゃなくて、みんな言いたいことを好きに言っていった方が世の中が狭くならない気がするんですよね。


    

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