本屋さんと私

 2012年大好評に終わった「昼間だけど百々ナイト!
 ゲストは、もちろん紀伊國屋書店梅田本店の仕入課・課長、百々典孝(どど・のりたか)さん。ミシマ社社員はもちろん、京都オフィスにいるジュニアたちも大好きな書店員さんです。
 おすすめされると、なぜだかむしょうに読みたくなる! そんな魔法使いみたいな百々さんの声を多くの人に聞いてもらいたく、ミシマ社では2011年から百々さんが選ぶ今年のナンバーワン「百々大賞」をご紹介いただいています。

 皆さんも一緒に参加していただく公開イベントとしては、2012年からスタートしており、今年で2回目になります。サポーターさん、読者の方、書店員さんなど、本当にたくさんの方にご参加いただき、めちゃくちゃ盛り上がった一日となりました!
 
 これから2回にわけて、先日12月15日に「ミシマ社の本屋さん」にて行われました第2回の模様をお伝えしていきます。

 初回の今日はいきなり「百々大賞」の発表です!

(聞き手:三島邦弘、文:寄谷菜穂)

第102回 今年もやりました! 第2回昼間だけど百々ナイト! 前編

2013.12.30更新


良い本の条件って。

百々紀伊國屋書店の梅田本店に勤務しております、百々と申します。普段はカウンターにはおらず、実は地下 4階に倉庫がありまして、そこに幽閉されています(笑)。日光の光はほぼあびません。

三島今日は前半で、一気に百々大賞発表! 後半に実際の百々さんのお仕事とか、これからの本、出版そして本屋さんが、どんなふうになっていくんだろうみたいな展望なども、熱く話せればなと思っております。

百々直前に、ハードルあげてきましたね!(笑)。
 僕、ずっと死ぬまで手元においておきたくなるような本で、一冊読むだけでいろんな方面から知識がが得られるような本じゃないと好きじゃないんです。

三島はああああ・・・

百々あと、コストパフォーマンスですね。

三島うああ。

百々一昨年の百々大賞『旅するウナギ』はオールカラーで¥3,990(税込)、宗教方面、民俗学方面いろんな方面の切り口があります。
 昨年の百々大賞『137億年の物語』も、オールカラーで¥3,140(税込)! コストパフォーマンス高いでしょ!? 紹介してからめちゃくちゃ売れて、紀伊國屋書店梅田本店だけでも850冊くらい売れましたよ。

三島やっぱり百々大賞の影響が・・・

百々いや、それは関係ない。

一同爆笑。

三島ハハハ(笑)。

百々ウナギについてめちゃくちゃ語れる人って素敵じゃないですか!?

三島あ〜。そういうの〜、たまらんですね〜。

百々そうそう。そういう本が好きなんです。それと今回百々大賞で紹介する本は、紙質がめっちゃいいんですよ!

三島紙質は非常に重要ですよね。良い本はそういう条件がやっぱり揃っています。それしかない、というくらいに思いますね。

百々はい。そうなんです。


意外や意外?! 気になる2013年の百々大賞は・・・?

三島早速、百々さんの話にいこうかと思うんですが。

百々僕が今年一番いいとも思った本は、亜紀書房から出ております、マイケル・ブースという方が書かれた『英国一家、日本を食べる』という本です。書評にも結構あがっていたので、皆さんご存じかもしれません。

 食べることが好きな人〜?

一同は〜い!(挙手)

百々嫌いな人、いないですよね! 日本人って皆食べることが大好きですよね。お母さんがつくってくれたご飯と漬けもんとお味噌汁だけでいい。それだけでうまいというあの感覚はなぜか、というところまで書かれているんです。

三島なるほど。

百々無形文化遺産で和食が登録されるのってなんか違和感ありませんでした?

三島ありましたね。なんで普通に食べている食べ物が、って。

百々ですよね。この本を読めば、なぜ和食が文化遺産に登録されたのか、わかります。

三島ほお〜。

百々料理界のトップはやっぱり和食ですね。どこの国の人にも真似できないです。海外の視点からみることによって、日常私たちが食べているものや民族性が、よくわかります。

三島たしかに、気になります。

百々マイケル・ブースさんは、料理の専門学校出身のフードライターで、紀行文などをかかれている方です。

三島フードライターなんですね。

百々そう。食べることが大好きで、世界各国の料理を作ったり、食べたりされて、それをいろんなところに紹介されています。そして、書き出しの一文目も紹介できないくらいの毒舌家なんです(笑)。

三島そうなんですか?

百々まずいものはまずいって、きっぱり。元々、日本食には興味があったんだけど「お前の知ってる日本食なんて、日本食のうちにはいらん!」と知り合いに言われたことがきっかけで、「そこまで言われるなら日本に行ってやる!」と、奥さん、男のお子さんふたりを連れて、100日間、日本にきます。

三島ほほお。

百々まずは東京、その後北海道で海の幸、京都にはいり割烹をたべ、大阪そして沖縄。最後に東京に帰ってくるんですがこの間にいろんなものを食べます。
 日本国内での民族性の違いにも触れていて、こういう土地だからこの味付けになっている、というような細かく鋭い分析もはいってます。

三島これは、おもしろそうですね。

百々「だし」の素晴らしさにも触れられています。だしってだいたいどこの国でもグツグツ何時間もかけて煮込んで味をだすものが大半でしょ。
 
三島はい。

百々和食では、かつお節や昆布、にぼしでささっとだしをとっちゃう。なのにあの素晴らしい風味。かつお節やだし昆布が出来上がるまでにいろんな行程があるわけですが、それを短時間で惜しみなく使ってしまう。そんな日本人の精神性についても触れています。

三島だし、いいですよねえ。

百々ほかにも、ブース家の子どもたちはこの旅を通じて生魚や、魚の目ん玉が大好きになるんです。ヨーロッパでは全然好まれていないんですけどね。

 ヨーロッパで給食にお寿司が出たとき、誰も食べられなかったんですが、ブース家の子どもたちだけは、皆の分まで全部食べちゃったりとか。「こんなうまいのに〜!!」って。
 ちゃんこ鍋を取材しにいった時に力士の把瑠都と組み合って、勝った話とかね。

三島え~まさかぁ。

百々いや、ほんとにバターン! と倒れたらしいですよ(笑)。それをみた弟はお兄ちゃんを大尊敬しちゃうんです。無邪気な子どもたちと、お父さん、奥さんのやりとりなんかがアットホームで楽しいです。家族愛っていいですよね。

三島へえ(笑)。

百々そこに、ブースさんの毒舌が全編はいっていて、強力なスパイスが唐辛子のようにピリっときいてくる。これ一冊で、日本と欧米の比較文化論、日本国内でも民族性のちがい、日本料理のすばらしさ、辻調グループの辻静雄先生の日本食に対するこだわりの深さ、服部栄養専門学校の服部幸應先生の恐ろしいまでの執念、大阪の粉文化と民族性とか、家族愛、SMAPのことなどいろいろあじわえて、すごく楽しめます。

三島なかなか盛りだくさんですね。

百々食のことだけではなく、いろんな要素が詰まっています。「そっちからくるか!」という感じで。毎回いろんな角度から、何度でも読み返せます。食べ物に興味がある人はぜひ! おすすめです。
 日本食が無形文化遺産になった記念ということもあるんですけどね。

三島百々さんはデカイ本しか読まへんのやと思ってたので意外でした。

百々そっちですか!(笑)。

三島まずサイズにびっくりしました。

百々過去の受賞本はサイズにこだわってるわけじゃないですよ(笑)。たまたまサイエンス系が続いたから僕の中では、この3冊で結構バランスとれているんですよ。

三島ん〜。とれているような気もしますが。大切なのは中身ですよね。

百々そう、そのとおり(笑)。

三島では! こちらを受賞作とさせていただき、マイケル・ブースさんに賞状を送らせていただきます!!


新たな発見がいっぱい! 読むだけでドイツに4年いた気分?!

三島本当は百々大賞の前に発表したかったんですが・・・僕の今年の一冊を発表させていただきます。

 光嶋さんの『建築武者修行~放課後のベルリン』です。彼が大学を卒業して から、ヨーロッパの建築事務所で働くんだ! とだけ決めて、ヨーロッパまで飛んでしまう、という本なんです。

百々ほお。

三島この本のおもしろいところは、ヨーロッパを旅している感じがあじわえる。と同時に、「ヨーロッパで働く」ということ、そしてその周辺がみえるところです。光嶋さんが、文学含め前衛芸術、オペラなどの芸術全般を観たり知ったり、長期休暇でイタリア、ポルトガルなどに行ったりするんですが、彼と一緒にまわっている感じになれるんです。ほかの旅行記とは全然違うな、って思ったんです。

百々今回の百々大賞と、似ている部分がありますね。

三島そうでしょ。ヨーロッパがみえてくるんです。

百々本当ですね。

三島僕は1975年生まれなんですが、夢として、海外で働くということがありました。働いていた会社を辞めるとき、旅にでたいという気持ちもありましたが、実は海外で働きたいと考えていたんです。辞表には「世界進出のため!」と書きました。

百々こんなこと書くやつはいなくていい、みたいな(笑)。

一同(笑)。

三島この本には、実際に海外に行き、そして働いてきた人の足跡が非常に細やかに書かれていて、読んだ後にこれでよかったんだ、と思えたんです。光嶋さんが代わりに働いてくれた、みたいな気持ちでした。
 
百々なるほど。

三島そういうふうに自然に思えた初めての本です。光嶋さんの視点と自分の視点がどんどん一体化していって、読み終わったときにはベルリンに4年くらいいたんじゃないかな、という気になれる一冊です。

百々へ〜!

三島面白いのが、日本の建築事務所って、いつか独立するというのがほぼ前提にあるのですが、ドイツの場合は全然ちがうんです。一度どこかの建築事務所に入ったら、そこでずっとやるんです。

百々そうなんですね。

三島彼の所属していたベルリンの建築事務所の同年代の人で、独立を希望していた人は30人のうち1人!

百々ほお〜!

三島理由として彼が書いているのは、戸建てが少ないことなんです。美術館や図書館、公共の施設などの大きな仕事をプロジェクトを、皆でプレゼンして勝ち取って、皆でやっていく、というかたちのようです。

百々ふむふむ。

三島日本だといろいろとあるらしいんです。光嶋さんの場合は、内田樹先生の道場兼自邸が、最初の作品。日本では、個人邸が作品になっていくという道が独立した建築家にはあるみたいです。ヨーロッパにはそういう道がかなり少ないというのも、おもしろかったですね。
 建築という分野では日本の方が独立思考が強いっていう。

百々なるほど。

三島あと、光嶋さんの教養がすごいんです。読んでいる本とか聞いている音楽とか。それがもう古今東西あらゆるものがはいってきていて。彼の本当にいいと思ったものが、心の湧き出る声として書かれているんです。

百々ほ〜、気になりますね。

三島彼のそういった一面を追っていくことで、「この映画もう一回みたいな」とか、「あ、これしらなかったな」とか、いっぱいあって。いろんなおもしろいものを知るきっかけにもなる本です。非常におすすめです。

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

ミシマ社編集チーム

バックナンバー