本屋さんと私

(上)『サマータイムマシーン・ブルース』(下)『曲がれ!スプーン』

 

 京都を拠点に活動する劇団・ヨーロッパ企画。
 1998年に結成して以来、「テレビゲームを思わせるトリッキーな地形や、SF・ファンタジーめいた世界観の中で、登場人物たちがモソモソと日常会話をつむぐ、といったスタイルの群像コメディを得意としており、年1回ほどの本公演ツアーを行っている(公式HPより)」それはもう、唯一無二のおもいっきり面白い劇団です。映画『サマータイムマシーン・ブルース』(2005年)、『曲がれ!スプーン』(2009年)の原作となる舞台を上演していた劇団として、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
 また、劇団の本公演だけではなくいろんな企画公演を行っていたり、映画祭やテレビ番組制作、ラジオなど、多方面にわたってコンテンツ制作を展開しているクリエイティブ集団といった一面も。

 とにもかくにもヨーロッパ企画の作品は、毎回わくわくドキドキ。公演の前日は、まるで遠足の前の日みたいな気分になります。とにかくおすすめ、むっちゃ面白い、と数年前から毎回公演を観に行っている編集部アライが、劇団の代表であり、劇団結成以来すべての作品の脚本・演出を担当されている、上田誠さんにインタビュー。
 現在絶賛ツアー中の新作『遊星ブンボーグの接近』の話から学生時代の話、京都で活動することについてなど、お話を伺ってきました。
 

(聞き手・構成:新居未希、写真:中谷利明)

第154回 コメディばかりつくるワケ。(上田誠さん編)

2015.09.28更新

上田さんのご実家であり、ヨーロッパ企画の活動拠点でもある通称「ヨーロッパハウス」にて



手元からはみ出した、ブンボーグの世界

―― 今回の新作『遊星ブンボーグの接近』は、なんと文房具がテーマの作品。文房具を使って作品を作ろうと思われた、きっかけがあれば教えてください。

左)『ビルのゲーツ』、右)『あんなに優しかったゴーレム』(ヨーロッパ企画)

上田昔から文房具が好きだったというのが大きいです。文房具をコメディにして作品を作りたいと思ったのは5、6年ほど前からなんですが、なぜかと聞かれると、ハッキリとは答えづらい(笑)。ぼくは、あまり演劇になってなさそうなことを題材にするのが好きなんですね。今までの作品でも、上下二段の舞台(『あんなに優しかったゴーレム』)やフロアがクルクル回るシステム(『ビルのゲーツ』)を取り入れたりしてきました。見せ方の工夫によって新しく物語れる領域が増えるということに、すごく可能性を感じています。

―― いま挙げられたなかでも『あんなに優しかったゴーレム』は、断面図を見ているような作りになっていたことがすごく印象に残っています。劇って一面しか舞台がなくて、平面的に展開されるものというイメージがそれまであったんですが、全然そんなことないやん、と。舞台なのに下に潜っていく構造に興奮しました。

上田この高さに舞台を立てると照明がうまく当たらなかったりするので、実は常識的にはあまりやらない舞台の形なんです。でもぼくはこういう仕掛けが好きなので、やるんですけど(笑)。けれど、常識をうまく崩していくというか、そういうのはやっぱり難しいなあというのは、今回の『遊星ブンボーグの接近』でも改めて感じます。

―― うんうん。

上田「内宇宙と外宇宙が一緒になって...」というような話は、劇にも小説にもけっこうあると思います。けれど文房具はそのちょうど間くらいの「手元の世界」というか、自分だけのパーソナルな領域。他人には入られたくないけど、ちょっと脳内からはみ出しているところにある物だと思うんです。その領域のことを語る方法が今までの演劇になかっただけで、それを編み出したら文房具ですごく面白いことをできるんじゃないかな、と思ったんですね。思いついたのはけっきょく、あらゆるものを「拡大する」という単純なことでした。だけどこの手法を実践することで、語れる世界は広がったなと。

 「手元の世界を大事にしたい」というか、いまやネットが普及して、10年前と比べてもびっくりするほどオンラインの世界が広がりました。ネットに、あらゆることが収斂されつつある。なので、手元のものをもう一度ちゃんと見るというのは面白いし、すこしバカンス的な気分になるんじゃないかなと思ったんですよね。


コメディは表裏一体

―― ヨーロッパ企画の作品は、基本的にすべてコメディですよね。上田さんは脚本・演出として、劇団を結成されてからずっとコメディを作り続けられてきていますが、また違ったものを作るご予定はないのでしょうか。

『苦悩のピラミッダー』(ヨーロッパ企画)

上田うーん、そう思いますよね......でも何を作っても、コメディ要素は入ってきてしまうかもしれません。コメディにするのって、意外と手つづきひとつだったりするんですよ。たとえば長篠の戦いで、織田軍が武田軍を壊滅させた鉄砲隊。あの隊列が三段階で入れ替わる仕組みって、なんかコメディっぽいなあとぼくは思うんですよね。

 以前『苦悩のピラミッダー』という、ピラミッドを建てる古代エジプト人の劇をやったことがあるんですが、それはピラミッドを建てる物語を10年史で描いたものです。ピラミッドも、一歩引いた目線で見るとコメディになる。

―― たしかに......。

上田現在の大きな建物をめぐるてんやわんやも、今だから社会問題に見えたり、それで苦しむ人もいてシャレにならない状態であったりしますが、引いた目線で見れば、それすらも「人間の営みの面白さの一つ」と感じられることがすごくあります。ちょっと引いて見てみると「あれ? ちゃんとコメディの構造になってるなあ」という感じがするんです。
 たとえばドラマを書くときでも、それがシリアスな感じになるのか、そのシリアスさが揮発してコメディになるのかということと同じで、すべて表裏一体だと思いますね。


ストーリーと台詞は、最後の枝づけ

上田ぼくは脚本を書くとき、ストーリーの優先順位が一番あとなんです。あまり舞台装置はとっかえひっかえもできませんし、なんだかんだいっても舞台は一枚の絵です。ぼくはその一枚の絵が大事だと思っていて。インパクトのある一枚の絵、たとえば「でかいゲートに人が立ち向かっている」「巨大迷路の中で貴族がうろうろしている」といった絵が見つかった後は、それをグッグッと伸ばしていく感じです。今回で言うと「大きな文房具があって、その文房具をみんなが観光している」という絵がなんとなく浮かんだので、それでひとつ公演ができるなーと思ったんですね。
 あと、タイトルがめちゃくちゃ大事です。実は一番最初にタイトルの締め切りが来るんですよ。話は決まっていないけど、タイトルだけを先に決めなくちゃいけない。なので、「自分が観たい劇ってこんな劇やな」とか想像しながらいつもタイトルを考えています。

―― へえー、面白い!

上田それにヨーロッパ企画の劇には、台本という台本が、稽古のはじめのほうにはないんです。

―― ええ! 劇って、みんなで台本の読み合わせをしてから稽古して......という光景をなんとなく思い描いてました。台本なしだと、どういうふうに作っていくのでしょうか?

上田正確に言うと、台本は最終的にはあります。たとえば、楽譜が先にあって演奏する音楽もあれば、バンドで合わせてるうちにできてくる音楽もありますよね。その後者に当たる、というのが一番しっくりくる説明でしょうか。
 まず言葉ありきで、そこに状況を加えていくことを大事にされる作家さんだと、言葉が核になっていると思います。ぼくはタイトルが核になっているんですが、そのあとはやっぱり地形そのものやその地形がどう変わるのかというシステムと、そこにどんな人がいるかを考える。そして最後に台詞が枝葉のように付くという流れで構築しています。ぼくのなかでは、台詞は後なんです。たぶん、テレビゲームをやっていたということも関係していると思いますね。

―― おお、なるほど。

上田ゲーム、とくに昔のゲームは言葉のない世界だけれど、話はわかります。そういうことで言えば、できるだけ舞台上の空間を、言葉なしで成り立つように作ることができれば、逆に言葉で自由に遊べるんです。
 言葉で全部説明しなきゃいけないとか、言葉に負荷をかけたり責任を負わすというのがあまり好きではなくて。「ずっと舞台上で適当なことしゃべってるな」くらいの感じがいい。だから、言葉の順番が遅いんですよね。

 なので、状況やキャラクターの設定をして、役者さんに自由に動いてもらって、どんなことをしゃべってもらっても大丈夫くらいの気持ちでやっています。野球のルールがしっかりしてれば野球になるみたいなもので、劇の構造が出来ていたら、そのなかで自由に遊んでもなんとなく劇空間ができあがる。そこからみんなでエチュードしてもらって、また言葉は言葉で磨かないといけないので、最終的には台本にして、その台詞を稽古するという段階がきます。だから、二回作っているような感覚ではありますね。



脚本を書くときは、とにかく読む!

―― 脚本を書かれるときには、けっこう本は読まれるんでしょうか?

上田今回の脚本を書いたときに読んだ冊数を数えてみたんですが、50冊くらい読んでました。すべてを熟読しているわけではないんですけど、やっぱり本はけっこう読みますね。

―― おお、50冊! 普段から本はよく読まれるんですか?

上田普段から読みますが、劇の脚本を作るときはとくに読みます。今回の『遊星ブンボーグの接近』だと、たとえば文房具の本はもちろんですけど、会社のペーパーレスにまつわる本も読みましたし、民芸品のくだりがあるので工藝の本とか、運慶の本を読んだりとか......。

―― ペーパーレスから、運慶まで!(笑)

上田あとは、ミシマ社さんから出ている『街場の戦争論』も読みました。文房具とは遠そうな本だけれど、遠そうなところがくっつくことは、やっぱりけっこうあるんですよね。
 完全にネタ探しのために読む本もありますが、たとえば「デジタルネイティブの時代が来たら、こういうふうに世界は変わっていく」というような本は、今回にかぎらずぼくの中にあるテーマというか、ずっと気になっている題材です。
 公演に直接的に関係しているものもあれば、公演中に役に立つかもしれないものもある、という感じですね。

―― なるほど。昔から本は読まれていたんですか?

上田そうですね、読んでいたと思います。けれど他人よりは......というくらいで、ぼくよりも本好きの人ってもっといると思うので、全然えらそうなこととかは言えないんですけどね。
 でも、小説より新書や専門書のほうが好きかもしれません。ロボットの劇をやるときはロボット工学の本を読んだりだとか、天気の話をつくるのに気象の本をいっぱい読んだりだとか、なんというか、よその領域から言葉を引っ張ってくるのが好きなんです。今回も、工藝の本の言葉たちを参考にさせてもらいました。

―― なるほど。よく行かれる本屋さんはありますか?

上田基本的に、京都にある主だった本屋さんには大体いくんですが(笑)、ブックファーストの四条大宮店さんが、ワンフロアなのにラインナップがとてもぐっとくるといいますか、「僕に刺さる」感じのラインナップになってまして、執筆もよくそのあたりの喫茶店でするので助かってます。

(つづきます)

   

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上田誠(うえだ・まこと)

1979年京都生まれ。1998年、大学入学とともに同志社小劇場に入団し、同年、劇団内ユニットとしてヨーロッパ企画を旗揚げ。ヨーロッパ企画の代表であり、すべての本公演の脚本・演出を担当。外部の舞台や、映画・ドラマの脚本、テレビやラジオの企画構成も手がける。

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