本屋さんと私

 先月、発売となった『家のしごと』
 装丁デザインを手がけてくださった名久井直子さんとの初めての打合せのときに、「イラストをお願いしたい方がひとり思い浮かんでいるのですが、あと2~3日自分の中で寝かせて、もう一度ご連絡してもいいですか」と仰っていただき「もちろんです」とお返事。
 そしてちょうど3日後、「やはりこの方にお願いしたいです」といただいたメールに書かれていたのが、後藤美月さんのお名前でした。

 後藤さんにイラストをお願いすることになった、とミシマ社メンバーに伝えると、仕掛け屋ハセガワが「えーーーー! 後藤さんの絵、超好き~!」とハイテンションに。雑誌や装丁のイラストで見かけて、ずっと気になる存在だったそうです。

 そうして描いてくださった、このイラスト。はみ出る元気さとぬくもりを、本書にもたらしてくださいました。そしてハセガワ情報によると、どうやら絵本のお店で働いていらしたことがあるらしい...。これは一度ゆっくりお話をうかがってみたい! ということで、今回、「本屋さんと私」にご登場いただくこととなったのでした。

 今回の絵のこと、本のこと、仕事のこと...3回にわたってお送りします。

(聞き手:星野友里、長谷川未央、構成補助:衣笠美春)

第191回 ここにいたら、ずっとここにいたいと思ってしまう

2016.12.20更新

ここにいたら、ずっとここにいたいと思ってしまう


後藤メリーゴーランドは、本屋さんと喫茶店、雑貨屋さん、上には文化センターと子どものアトリエがあって。私は、子どもが絵を描くアトリエを手伝いたかったんです。子どもが絵を描くところを近くで見たかったから。だけどそこはもう人がいっぱいだったので、企画室といってイベントの企画をしたり、作家さんの講演の手配をしたりするところで、正社員になって働いたのが二年です。

―― 働きながら、絵も描いていらしたんですか?

後藤そうですね。読書会みたいなものが月に何回かあって、スタッフは参加したほうがいいんですけど、「絵を描きたいから」と言って行かなかったりして、すごく不真面目な店員でした。
 イラストレーターになるにはプロよりも描かなくてはいけない、と思っていたので、毎日帰ったら必ず描くようにしていました。

―― その頃は、どんなものを描かれていたんですか?

後藤私、空っぽなので、いつも描きたいものなんて何もなくて、「描かなきゃ」と思って描いていました。その頃は、色んなものを見て、刺激を受けたものを描いたりとか。切り絵の手法をしたのは、思ってもいないかたちが見えて、これは馬になったとか、山羊になったとか、そういう偶然的なもので絵が描けるから楽しかったんだと思います。

―― そして東京へ。

後藤そうですね。メリーゴーランドはすごく楽しいんですけど、ここにいたら炬燵みたいだから、ずっとここにいたいと思ってしまう。それはいけないんじゃないかと思って、辞めますと言って、辞めました。


泥の水をすするような

後藤東京に行って、もう本当に、泥の水をすするようなというか(笑)。いやもう本当に、早くお金稼がなきゃと思って、日雇いの試食販売のような仕事もやったんですけど。試食するやつを床に全部落としちゃって、「泣きたくなるね」って、近くにいたおばさんに言われたんですよ。本当に泣きそうになりました。早くちゃんと定職に就こうと思って、毎日同じところに行く仕事に変えたんですけど。

―― 本の装画のお仕事は、どのように始めたんですか?

後藤今からその時のことを思い出すと、失礼なこともいっぱいあるんですけど。イラストレーションといえばやっぱり、すぐ思い浮かぶのが本の表紙とか雑誌の何かというので、そういうところに作品を送ったりして売り込みをして、それで少しずつお仕事を。

―― 今回、本のデザインをしてくださった名久井直子さんとは、本の装画などでよく一緒にお仕事をされていると思うのですが、出会いはどういうものだったんですか?

後藤玄光社さんの『イラストレーション』という雑誌のチョイスというコンペで、名久井さんが審査員の時に選んでくださって、それが2009年くらいですかね。その後すぐにお仕事をいただいたというわけではないんですけど。


連載300回分の挿絵

―― イラストレーターとして、初めの頃のお仕事など、印象に残っているものはありますか?

後藤そうですね、朝倉かすみさんの新聞連載の挿絵のお仕事をいただいた時が、イラストレーターとしてやっていけるかも、と思った時かもしれないです。連載で、300回分くらい描きました。

―― 300回...すごいですね。新聞連載だと、本の全体像が見えない中で、何を描くかというのはどうやって決めていたんですか?

後藤朝倉さんの文章は、ここですよ、というのが光るんですよ。「はっ、ここか」と思って、その場面を描いて。
 でもそれにトンチを効かせないと、と思っていたんですね。ただこの人の横顔を描くんじゃなくて、テキストにリンクさせて、穴から見えているようにしようとか、思い浮かんだ場面を上から見たり、下から見たりして。それが楽しかったですね。でも後からつなげてみたら、部屋の位置関係の辻褄が合わなくなっていました。その新聞の担当編集者さんが、「この家はこういう間取りのようだからこれに合わせて描いて下さい」と言って間取り図を作ってくれて。

―― 一年間、ある種の修行のような。

後藤本当は駄目なことなんですけど、最初の時と最後の時では絵が変わっているんです。長期連載をしている漫画家さんみたいな感じで。他のイラストレーターさんが連載で描いているのを見ると、すごく上手で、もう恥ずかしくなるんですけど。
 朝倉さんとは今もまた連載の挿絵のお仕事をさせていただいているんです。こうやってつながっていくのがすごくいいなと思うから、ちゃんとその時の仕事を、その時点で自分ができる精一杯真剣にやろうと思います。


(つづきます)

    

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

後藤美月(ごとう・みづき)

1981年、三重県四日市市生まれ。
名古屋デザイナー学院卒業後、三重県四日市の子どもの本専門店・メリーゴーランドに勤務。2008年7月に上京する。FM802 digmeout・RECOMMEND artist登録
「プロフェッショナル イラストレーター集団 イラストレーターズ通信」会員

バックナンバー