本屋さんと私

 「8コマ漫画」という独自のスタイルを築き、ゆるやかなテンポと思わずくすりと笑ってしまうオチ、読んだあとは思わずほっこりしてしまうギャグ漫画の名手・木下晋也さん。
 『ポテン生活(全10巻)』『つくりばなし』、自身の子育て経験を描いた『おやおやこども。』など、やさしい視点のボケ・ツッコミに頬がゆるむ作品を多く手がけられています。

 そんなやわらかな雰囲気をお人柄からも醸し出す漫画家・木下晋也さんに、ギャグ漫画の作り方や本屋さんのこと、たくさんお話を伺いました。

(構成・写真:新居未希)


第194回 派手なツッコミや絵柄は描けないからこそ

2017.04.25更新

ハイテンションなツッコミは描けない

―― 漫画は、よし、描くぞ! と思って描き始めるのか、ネタ帳みたいなものがあって、書き溜めて「じゃあこれを描こう」というふうにされているのか。どういうふうに作られているんですか?

木下うーん、両方ありますね。考えようと思って、喫茶店とかに入ってうんうん言いながら出すときもあれば、散歩しているときにおもしろい人がいて、そこからポンっと「これでいけそう」というものが出てくるときもあります。

―― 木下さんの漫画は、ドカンと派手なギャグがちりばめられているわけではないですよね。大阪のご出身ですが、いわゆる「大阪のお笑い」と、ちょっと違うところがあるなぁという感じがします。

木下たしかに、大阪の「お笑いでっせ」みたいな感じではないですよね。なんでそれがないのかは、自分でもあんまりよくわかってないです。昔から新喜劇も好きで観てましたし、コテコテのお笑いも好きなんですけど、自分が描くとなるとそういうものが出てこないところがあります。

―― うんうん。

木下大阪的なお笑いが好きな一方で、「ボソッと言ったことがおもしろい」「シュールなものがおもしろい」という気持ちもあった。そういうものが出ちゃったんでしょうね。漫画で、「◯◯やろー!!」みたいなハイテンションなツッコミや絵柄は、ぼくには描けなかったし(笑)。




(上)『つくりばなし』木下晋也(モーニングKC)より。相撲ファンは思わずニヤける...。
(下)『もここー(1)』木下晋也(モーニングKC)より。


8コマ漫画とストーリー漫画ってどう違う?

―― 木下さんは『ポテン生活』のような8コマ漫画以外にも、『マコとマコト』のようなストーリー漫画も描かれてますが、この違いはどうですか?

木下ぼくは、基本的に自分にはストーリーは描けないと思っていて、未だにちゃんと描けているとは思ってない(笑)。『ポテン生活』みたいな、一話完結のような形でしかできないと思っていたんですけど、お話しをいただいて、「描ける」「描ける」と持ち上げてもらって、流されちゃって(笑)。いまストーリーものを描いてはいるんですけど、どうすればもっとうまく描けるんだろうと思いながらやってますね。

―― なるほど。ストーリーは、登場人物が毎回固定されているというのが大きいんでしょうか?

木下もちろんそれもあります。ひとりの人間を突き詰めて描いていく、みたいなことは『ポテン生活』には必要のないことでしたし、そういう難しさもありますね。あとは単純にお話を進めていくことの難しさ、主人公にどういう障害を与えて、それをどう乗り越えさせるのかを考えるのも、難しいです。

―― 『ポテン生活』のなかでも、いくつか「あっ、このキャラまた出てきた」というのがありますよね。シリーズものというか。それはまた、ストーリーとは違う?

木下そう、違うんです。あれはもう、ハードを作って、パターンを変えて量産するというやり方なので。結局はそのシリーズのなかに出てくる人たちも、どういう人たちかわからなくても成立しちゃうものなんですよ。

―― たぶん、逆のほうが難しい人もいるし、木下さんみたいにストーリーのほうが難しいという人もいるんでしょうね。

木下そうなんですよね。ふだんストーリーを描かれていて「4コマとか描けない!」という方もいるんですけど、「いやいやいやいや...」と思っています(笑)。


オチから逆算して考える

―― オチを1ページごとにつけるというのは、想像しただけでも「オチ何個いるねん!」という感じになると思うんですよね(笑)。でも、そういう脳の鍛え方なのかもしれないですね。

木下そうかもしれないですね。ぼくの場合、お笑いの作り方なんだと思います。ショートコントを考えるやり方で漫画を考えている感覚ですね。ストーリーは本当に、映画とかドラマを考えるやり方なんだと思います。
 まずオチがはじめにあって、このオチをどう見せたらわかりやすいかと考えて、「じゃあ、おばあちゃんがいるな」と展開していくので。「おばあちゃんが出てくる話」で「最後にオチをどうつけるか」ということではないんですね。

―― オチから逆算して考えるということなんですね。

木下それが多いですね。設定ものも多いですけど。「美容院でどんなことしたらおもしろいかな」というふうにも考えたりします。

―― なるほど。ちなみに私は、『ポテン生活』の駄菓子屋のおばあさんと口の悪い子ども2人の話が好きで!

木下これも、「すごく汚い言葉で罵り合う子どもとおばあちゃん」というアイデアがはじめにあって、それをいろんなパターンで見せていく間に、後付けでその人たちの人となりが固まっていくという感じですよね。

―― 8コマ漫画って、何回でも読めてしまうのが不思議なところですよね。ストーリーものだと、ストーリーを覚えているので「ああ、わかるわかる」となる。けど8コマ漫画があれだけ1冊のなかに収録されていると、オチが頭から抜けてしまっていていつもたのしいです。


(つづきます)

    

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木下晋也(きのした・しんや)

1980年大阪生まれ。2006年、「Comic ギャグダ」(東京漫画社)にて『ユルくん』でデビュー。2008年、『ポテン生活』で第23回MANGA OPEN大賞受賞。単行本『ポテン生活』全10巻、『もここー』全2巻、『おやおやこども』などが好評発売中。Docomoエンタメウィークで『マコとマコト』など連載中。趣味はプロレス観戦。Twitter @kinoshitasinya

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