本屋さんと私

 「8コマ漫画」という独自のスタイルを築き、ゆるやかなテンポと思わずくすりと笑ってしまうオチ、読んだあとは思わずほっこりしてしまうギャグ漫画の名手・木下晋也さん。
 『ポテン生活(全10巻)』『つくりばなし』、自身の子育て経験を描いた『おやおやこども。』など、やさしい視点のボケ・ツッコミに頬がゆるむ作品を多く手がけられています。

 そんなやわらかな雰囲気をお人柄からも醸し出す漫画家・木下晋也さんに、ギャグ漫画の作り方や本屋さんのこと、たくさんお話を伺いました。

(構成・写真:新居未希)


第195回 短距離型の読者です

2017.04.26更新


プロレスファンです

―― 本屋さんにはけっこう行かれますか?

木下本屋さんは、「この本を買いに行こう」と目的をもって行くことが多くて。何も買うつもりはなくぶらぶらするというのは、あまりしないですね。

―― どういう本を読まれるんですか?

木下やっぱり漫画ですかね。もともと読む量自体は少ないんですけど、漫画が多いかなぁ。あとはプロレスが好きなので、『週プロ』とか......。

―― おお、なかなか熱心なファンなんですね。プロレスはいつ頃からお好きなんですか?

木下小学6年生くらいにテレビで見てからですね。とくべつに誰が好きかというより、全般的に「プロレスが好き」って感じかもしれません。

―― 実はうちの会社、プロレスの本を出していまして......。

木下そうですよね! ぼく、三沢選手の本(『ドンマイドンマイッ!』)持ってます(笑)。あれはもともとウェブサイトの日記ですよね? そのサイトでずっと読んでて、それが一冊になったので、買ってまた読んだんです。

―― そうだったんですか...! ありがとうございます!

木下上京してからは一時期よく、後楽園ホールとかにプロレスを観に行ってましたね。子どもが生まれてからはあんまり行けてないですけど。


長い話が苦手なんです

―― 子どもの頃は、どういうものを読まれてたんですか?

木下「週刊少年ジャンプ」がバリバリの全盛期だったので、みんなが読んでるものはだいたい読んでました。まさに『ドラゴンボール』とかの世代なので。ギャグ漫画は、吉田戦車さんが『伝染るんです。』でブレイクしていたときで、そのあたりの作家さんは好きでよく読んでました。中崎タツヤさんの『じみへん』とか。
 あのー、小説とかは、ぼくは全然読めなくて...。

―― そうなんですか!

木下本が分厚くなってるだけでちょっと、「おもしろいとは聞いてますけど、ちょっとすみません」ってなるんです(笑)。
 やっぱり自分が描くものにも、そういうところがあるみたいです。三沢さんの本は日記ですけど、日記だったら一日一日が違うじゃないですか。小説でも、短編なら読めるんですけど、長いお話っていうだけで「すみません」と......。

―― ひとつの話のなかにずっと入っているのが、得意ではないということでしょうか?

木下そうですね、だから、星新一とかだとおもしろく読めるんです。

―― 「これだけは読めた!」みたいなものは、ありますか?

木下なんだろう。......全然出てこないということは、ないんでしょうねぇ(笑)。短距離人間なんですよね。なんでそうなっちゃんたんでしょうね。どうしてもページ数を見て、「あー、やっと50ページきた」とか思ってしまうんです(笑)。いくつかお話が入ってる本だったら、まずその話の終わりのページを確認しておいてから読み始めます。

―― 「これは20ページの短編やからあとページ数はこれくらいだな」というふうに。

木下読み手としては、ほんとひどい読み手ですよね(笑)。


『ポテン生活』木下晋也(モーニングKC)より。すごい読書ワザです。ふふふ


本屋さんの歩きかた

木下今回、この「本屋さんと私」のインタビューのお話をいただいてから、自分が本屋さんで何してるのかなと思って、実際に自宅の駅ちかくにある本屋さんに行ってみたんです。
 入ってまず何見てるかな、と思ったんですけど、やっぱりまず新刊本のコーナーを見ますね。「こんな本出たんだ」「村上春樹さんの新刊出たんだ。分厚いな、2冊分もあるのか...」と(笑)。

―― 上下巻は強敵ですね(笑)。

木下それから、漫画をひと通り見ます。子どもが生まれてからは、絵本コーナーに行くことも増えましたね。

―― 絵本を買われるときは、どう選ばれてますか?

木下絵本は、けっきょく本人が気に入らないと買っても読まないので任せるんですけど、任せると絵本じゃないものを買ったりするんですよ。『てれびくん』とか、ふろく目当てののものばかりにいっちゃうので、どうしたものかと思ってますね。

―― テレビくん強し、ですね。

木下それからぼく、立ち読みも苦手なんです。ブックオフとかで、平気で何時間も立ち読みしてる人っているじゃないですか。あれが信じられなくて。「よく集中できるな」と思っちゃう。体力がないので立ってるのが単純に疲れるというのもありますしね(笑)。さすがに絵本だとすぐに読めるので、「どういうお話かな」と見てみたりしますよ。
 このあいだ本屋さんに行ったときには、ヨシタケシンスケさんとか、いま人気のある絵本を見たりしました。あとは、プロレスのところをうろうろしたり。それで、「いろんな本あるなぁ」という...なんですかねあの感じ(笑)。

―― わかります、わかります。

木下「こんなに世の中には本があるんだ...」となって。おもしろい本はたくさんあるんだろうけど、手は出ないというか。自分が知らない本が、本屋さんには山ほどあって。
 自分も本を出す立場なので、この中から売れる本を出すってすごく大変なことだなと思ったりしてるうちに、ちょっと暗ーい感じになってきて(笑)。それでうろうろしてるあいだに、本というよりも立ち読みしてる人たちに気がいっちゃうんです。

―― 人間観察の側にいっちゃう。

木下韓流アイドルがたくさん載っているアイドル本をキャーキャー言いながら読んでる女子高生とか、すごく大きな楽器を背負って立ち読みしてる人を見て「それ重くないのかな...」と思ったり。そういうのを見ているのはおもしろいですね。
 それから「なんでこの本、ここにあるの?」という、誰かが置いていったような本を見るのも楽しいです。この前行った本屋さんは、普通の新刊本の本屋さんなんですけど、古書コーナーがあるんですね。それこそ小説全集とか、茶色くなった本とかがあるなかに、『忍たま乱太郎 シールブックの段』という本がポンと置いてあったんですよ。

―― 想像すると、シュール......(笑)。

木下そういうの見るのは好きですね。本屋さん、行くにしても、あえてそんなに広くない本屋に行くかもしれません。「この本屋で扱われているモノのなかで、おもしろいモノを見つけよう」くらいの気持ちで行きますね。


はじめて買った岩波文庫

―― 本は、これがおすすめというものはありますか?

木下定番中の定番ですが、『すてきな三にんぐみ』はずーっと、子どもにも「読んでくれ」と言われます。読みながら、自分が子どものときはそこまで思い至ってなかったことが、大人になってから読むと「あっ、そういうことだったんだ」とわかったりするのもおもしろいですね。
 あとはなんだろうな......ぼく、いま民話に関する漫画を連載で描いてるんです(ジモコロ連載「柳田さんと民話」)。ぼくの奥さんの姉の家に『民話全集』みたいなものがあるんですよ。子どものときにお母さんに買ってもらったものが残っていたらしんですけど、それを送ってくれたんで、ときどき読みますね。
 それからあと、本屋さんで最近これを見つけて......


―― へー、漫画の『坊っちゃん』なんて、あるんですね!

木下「漫画」と書かれているものの、普通のコマの漫画じゃないんですよ。1ページごとに絵があるんですよね。小説に縁がないぼくはもちろん、『坊っちゃん』は読んでないんですけど、物語がどういったものなのかを知っておくにはもってこいの本だと思いました。それこそショートショートじゃないですけど、これ1ページでひとつのお話みたいな読み方もできなくはないので。そうなるとぼくの得意分野というか(笑)。

―― 1925年初版本の復刻版と書かれてますけれど、これはいま見ると逆に新しい感じもしますね。

木下そうですよね。ぼくもそう思いました。漫画ってこういう体裁も取れるんだ、と。いまだってできるんじゃないかと思ったりしました。『わが輩は猫である』も出てましたよ。
 でも、まさか自分の人生で岩波文庫を買う日がくるとは...(笑)! そういう意味でも印象に残る一冊です。


(おわり)

   

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

木下晋也

1980年大阪生まれ。2006年、「Comic ギャグダ」(東京漫画社)にて『ユルくん』でデビュー。2008年、『ポテン生活』で第23回MANGA OPEN大賞受賞。単行本『ポテン生活』全10巻、『もここー』全2巻、『おやおやこども』などが好評発売中。Docomoエンタメウィークで『マコとマコト』など連載中。趣味はプロレス観戦。Twitter @kinoshitasinya

バックナンバー