本屋さんと私


 本当に起こったらいいのに! というわくわくしたお話で、子どもはもちろん、大人も魅了する児童文学作家の岡田淳さん。私(デッチ・國井)ももれなくその一人です。

 2017年2月に出版された、『水の森の秘密』「こそあどの森の物語」シリーズが12巻をもって完成しました。その原画などの展覧会が7月15日から鎌倉文学館にて開催されています。初日は岡田淳さんご本人がオープニングギャラリートークをされました。今回の取材は、岡田さんの物語に惹きつけられたデッチの「ぜひお話を伺いたい」というインタビューのお願いを快く受けてくだり、トーク後にお時間を頂いて実現しました。

 岡田さんの物語は、読んでいるだけでいつの間にか不思議な世界へと連れて行ってくれます。そして、読み返すと自然と心が元気づけられるような気がします。岡田さんはキラキラした目で、好きな本のことや心に置いておきたい大切なことをお話ししてくださいました。全3回のインタビュー、ぜひお楽しみください。

(聞き手・構成:國井沙也香、写真:星野友里)

第198回 デビューのきっかけをつくってくれた本屋さん

2017.08.09更新

自分の身に沁みこんでいる本たち


―― 『ドリトル先生航海記』以外のお好きな本も教えていただけますか?

岡田『アーサーランサム全集』も好きです。ヨットの話なんだけどね。上の展覧会(鎌倉文学館で開催中)を見ても、ヨット好きなんだろうなあっていう感じでしょ? 乗ってる機会はそんなにないんですけどね。『アーサーランサム全集』は12巻あって、それが全部ヨットの話でね。主に夏休みに、ヨットでいろんな冒険をするっていうそういうお話がとっても好きで、そういう世界があったらいいなあって。

 そうか、『宝島』も挙げなきゃいけないね。これも船の話だけど。中学生ながらそれを読んで、言葉でここまで描けるんだってことを知ったというか。今、この歳になってこういう言い方してるけど、そのときはそういう言葉では思わない(笑)。ただ、ありありと場面がわかる、っていう感覚がね、自分にはとっても感動的で。古本屋で20円かなんかで買った。佐々木直次郎っていう人が訳した、新潮文庫のもの。

 ジム・ホーキンズという主人公の少年が、海賊ハンズをやっつけるシーンなんかほんとにわくわくして、手に汗を握るっていう。それはおそらく、文章で、ある物語を表現できるっていうことを、感覚的に教えてくれた本かなあと思う。

 あとは、高校時代には、グリムとかアンデルセンとか、まあたくさん読んだ。同じ中学校から行った友だちがいなくって。かといって積極的に友だちを作るっていうタイプでもなかったんですね。だから、休み時間をどう過ごすかというと、文庫本がいいだろう。しかも、グリムとかアンデルセンなんかやったら、休み時間でひとつ読めたりする。だからポケットに文庫本を入れていて、たくさん読んだね。


 高校初期に佐藤さとるさんの『だれも知らない小さな国』を読みました。そのとき、なんていうんだろう、恐れ多いことながら、「おお、日本の童話もここまできたか!」って思ったんや(笑)。何様やな(笑)。
 高校時代の後のほうでは『星の牧場』という、庄野英二さんの作品、これなんかもものすごく好きだった。それはねえ、高校の演劇部の後輩がプレゼントしてくれた。
 だからわりとたくさん読んでると思う。その年代にたくさん読んでるっていうことが、まあおそらく、物語の文法というか作り方というか、そういうふうなものを自分の身に沁み込ませたような気がします。


〈ひつじ書房〉の平松二三代さん


―― 「本屋さんと私」というコーナーにちなんで、本屋さんにまつわるエピソードをうかがえたらと思うのですが、なにかありますか...?

岡田ありまんがな~!(笑) 一番はじめに書いた話が『ムンジャクンジュは毛虫じゃない』といって、授業でやるために考えた話なんだけども、それを文章にしたら面白いんじゃないか、と思って書いたわけです。書いては挫折し、読み返してはまた書きというのを続けて、300枚ほどのものになって、それをグアっと綴じて。

 近所に子どもの本専門店の〈ひつじ書房〉というのがあるんです。そこのおばちゃんは、かつて神戸中央図書館で児童書の司書をしておられた。子どもの本については、すごく自分の意見をお持ちの方。それで、この人に読んでもろて、なんか感想をうかがおうと思って持って行ったら、読んでくれて。

 考えてみたらね、客とはいえ、そんな分厚い原稿用紙300枚も、ごっつう時間かかるわけですよ。それを読んでくれて、これは世に問うべきものであるということで、じゃあこの本だったらどこの出版社がいいか、と考えてくれた。本屋を始めるにあたって東京の出版社をまわったりして、傾向みたいなこともちゃんとわかってるわけ。その作品、そのとき偕成社だって思われたんですよ。それで、偕成社の営業でまわってくる人にそれを渡してくださった。

 当時、偕成社に相原さんという名物編集者がいらっしゃいましてね。その人が僕のとこ訪ねてきて。「ムンジャクンジュというのは面白いですから」と。そこまで聞いて「うわあ、本になんねんや!」と思って。そしたら「面白いですから、書き直しなさい」「ええっ?!」って(笑)。「あれは面白いけれども、300枚はいらん。200枚で書ける話や。だからこのいらんところ、私だったらこういうところは......」と言って、青鉛筆でこう、ずっと線を入れてある。「赤でやったら朱を入れられたって怒る人がいますからね」って。青でも一緒じゃ! と思った(笑)。

 それでまあ僕は、今日ただいま児童文学作家として。だから、〈ひつじ書房〉の平松二三代さん、この方がいなかったら僕は存在してないんです。神戸の摂津本山という駅のすぐ北側に〈ひつじ書房〉があります。ずっと続けてほしいなあと。


『こそあどの森の物語』シリーズ、完成


―― 最後に、今回、20年以上続いてきた「こそあどの森シリーズ」が12巻でいったん完成して、今、どんなお気持ちでいらっしゃいますか?

岡田終わるなら12巻だと思っていました。『ドリトル先生』も『アーサーランサム全集』も12巻だし......。うーん。終わってホッとした気持ちと、寂しい気持ちと、両方ありますよねえ。また、そういう世界が書けるような気がしないではないし、けれども、いったんこうして完成と言ったからには、みたいなね。まあねえ、複雑な(笑)

 全然別のアプローチ、みたいな感じで......というふうなことがあるか、いやどうか? みたいな(笑)。まあ今のところはまだ、実は終わったっていう実感がないって言うんが正しいかな。現に、開けばそこにあるっていう、彼らはあそこにいるっていうそんな気がするから。

 私は人生初めてのインタビューでしたが、岡田さんはやさしく丁寧にお話ししてくださいました。本当にありがとうございました。

 鎌倉文学館での展示は、お話のストーリーを考える際に岡田さんが実際にお描きになったスケッチブックがあり、お話ができるまでの過程を見ることができました。本には書かれていないことまで知ることができ、本を再び読んだときにさらに楽しめそうだなあと思いました。また、挿絵の原画は本で見る以上に迫力があり、本当に来てよかったと思いました。岡田さんのお話の世界をより楽しめると思います。ぜひ行ってみてください。

   


鎌倉文学館
特別展 子どもたちへ、未来へシリーズ7
「岡田淳の世界」

2017/7/15(土)~2017/9/18(月・祝)


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ミシマ社編集チーム

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