本屋さんと私


 2カ月前のことです。営業タブチは本屋さんでの外回り中。ふと、文芸書の新刊コーナーに目をやると、そこにはなにやら色っぽい表紙の本がありました。なんとなく手に取り、最初の一文に衝撃を受けるやいなやレジに持っていったその本のタイトルは『腐れ梅』。小説家で、歴史学者でもある澤田瞳子さんの新刊です。この本の秘密に迫りたい、とさっそく取材の依頼書をお送りしたところ、快く引き受けてくださいました。
 ということで、今回の「本屋さんと私」は、澤田瞳子さんにご登場いただきます。『腐れ梅』の話、歴史小説を書くこと、読まれてきた本、よく行く本屋さん、そして京都のこと......。いろいろ伺いました。全3回のインタビュー、本日は2回目をお届けします!

(聞き手 新居未希、田渕洋二郎 構成 田渕洋二郎)

第200回 歴史小説を書くということ

2017.09.13更新

小説家になる前

―― どういう経緯で小説の道に進まれたのですか。

澤田生まれも育ちも京都なので、何かと歴史を身近に感じていた、というのもあるのですが、実際は「ロストジェネレーション」という世代で、就職氷河期だったんです。院卒でもなかなか厳しくて、アルバイトをしていました。

―― そうだったのですね。

澤田歴史を生かしたお仕事ができないかを考えて、歴史のエッセイなんかをちょこちょこ書いていました。でも、もうちょっと独自性と蓄積のあるものをと思って小説を書くことにしました。 

―― もともと、書くことはお好きだったのですか?

澤田中学高校は文芸部だったので、親しんではいたのですが、あまり仕事にするつもりはなかったですね。大学では大学でしかできないことをやりたいなあと思って、能楽部に入りました。笛と大鼓をやっています。

―― そういえば読売新聞で連載されている「落花」は、音楽のお話ですよね。

澤田そうです。もともと音楽は好きですね。中学高校がキリスト教主義の学校だったため、毎日賛美歌を歌っていましたし、人の歌声も大好きで。カラオケも好きですよ。


―― そうなんですね!

澤田クラブの後輩たちがすごく上手いんですよ。合唱をやってた子とかもいて。でも、私は聞くほうです。

―― ......聞くほう??

澤田ほとんど歌いませんね。彼らの方がはるかに上手いんで。でも、後輩たちに私がカラオケ行きたい、っていうと、「姐さんが、カラオケ行きたがってるから」、って歌いに集まってくれるんです(笑)。


古代でデビューすればチャンスが2回。

―― 大学では奈良時代を専門に歴史学を学ばれていたんですよね。

澤田そうです。もともと先輩から「資料が少ないから」という理由で古代をすすめられたんです。でも実際少ない材料で色々考えているほうが、性にあっているみたいで。小説家として最初にデビューした頃は、「歴史小説といえば江戸時代か、戦国時代か」という時代で、古代を舞台に書くと言っても相手にされませんでした。

澤田それでも担当の編集者さんとは、「やっぱり古代がやりたいよね」という話になりました。「江戸をやってダメならそれまでだけど、奈良をやってダメならまた江戸をやればいいんだ、チャンスが2回ある!」って言ってくださって。それでいざやらせていただいたら意外に良かった、ってことになりまして。

―― そんなやりとりがあったのですね。普段は、どんなふうにして執筆をされているのですか?

澤田資料からイメージを膨らませていく感じです。年表を書いて、事実を落としていって、その間をどうやって結べばもっとも整合性があって面白い話ができるかと考えていますね。

―― 外せない事実もあったりするので、歴史小説ならではの苦労もありますよね。

澤田そうですね。でも歴史小説って、お題小説の側面が大きいと思うんです。「こういったテーマ」、「こういう登場人物」を使って、「物語」を作りなさい、というような。よく歴史小説は史実には忠実でないといけなくて、いわゆる「動かしてはいけない柱」が何本も立っているから書きにくそう、と思われがちなのですが、私は「柱から立てるほうが難しくない?」って思うんです。

―― なるほど。言われて見れば。

澤田あと、私はけっこう、視点人物をころころ買えちゃうんです。視点を1人に定めて書いたほうがいいよと言われることもあるんですが、いろんな人物にしゃべらせると、世の中の矛盾であったり、すれ違いであったりが出てきて、それが面白いな、と思っています。そういった人間同士の食い違いの中にも、「歴史」が生まれる素地ありますし。


気になるネタ集め

―― 「これは小説になるな」という瞬間はどんなときですか?

澤田意外と多いのは、新聞を見ているときですね。「発掘でこんなことがわかった」なんて記事があると、これいけそう! と思うときがあるので、一応家では新聞を2紙とっています。あとはそれをいろいろストックしていって、編集者さんと話しているときに思いつきますかね。

―― 従来の定説が裏返ったり、最新の学説もよくニュースを賑わせていますよね。

澤田そうですね。でもあまりに最新の学説を取り入れて小説を書くと、読者さんがついてきてくださらないこともあるんです。だから、ある程度は読者さんのイメージに沿うこともある。あと、先輩作家さんとのやりとりの中で、僕は書かないんだけど、こんなのはどう? ってこともありますよ。

―― 歴史小説業界、奥が深いです。

(つづきます)

    

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澤田瞳子(さわだ・とうこ)

1977年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業。同大学大学院博士前期課程修了。2010年『孤鷹の天』でデビューし、翌年に第十七回中山義秀文学賞を受賞。2013年『満つる月の如し 仏師・定朝』で第三二回新田次郎文学賞を受賞。2016年『若冲』で第九回親鸞賞を受賞(同作は第一五三回直木賞の候補作にもなった)。他の著書に『日輪の賦』『泣くな道真 大宰府の詩』『与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記』など。

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