本屋さんと私


 2カ月前のことです。営業タブチは本屋さんでの外回り中。ふと、文芸書の新刊コーナーに目をやると、そこにはなにやら色っぽい表紙の本がありました。なんとなく手に取り、最初の一文に衝撃を受けるやいなやレジに持っていったその本のタイトルは『腐れ梅』。小説家で、歴史学者でもある澤田瞳子さんの新刊です。この本の秘密に迫りたい、とさっそく取材の依頼書をお送りしたところ、快く引き受けてくださいました。
 ということで、今回の「本屋さんと私」は、澤田瞳子さんにご登場いただきます。『腐れ梅』の話、歴史小説を書くこと、読まれてきた本、よく行く本屋さん、そして京都のこと......。いろいろ伺いました。全3回のインタビュー、本日で最終回です!

(聞き手 新居未希、田渕洋二郎 構成 田渕洋二郎)

第201回 本の話

2017.09.14更新

―― 小さいころから小説も読まれていたのですか?

澤田銭形平次が好きでしたね。ちょうどテレビでやっていたこともあって。「捕物帖」が好きだったんですね。小学校の頃からなぜか読んでいました。
子どもらしい読書体験も一応言っておくと、世界の童話は好きでしたね。今でも大事にそれらの本はとってあります。

『銭形平次捕物控』野村胡堂(光文社文庫)

澤田中学生くらいになると、新潮社さんの日本ファンタジーノベル大賞ができたんですね。あれがまた挑戦的な作品が多くて好きでした。そのころ、ティーンズハート、ホワイトハートっていう、いわゆる少女小説やラノベの走りになる本が出ていたのですが、片っ端から読んでいます。

―― 片っ端から!

澤田はい(笑)。ティーンズハートなどで書いてらした作家たの方々は、毎月もしくは隔月ペースで新刊を出してらしたんですけど、それがいかにすごいことだったかってことに、自分がプロになって気づきました。


―― 他にはどんな本を読まれますか?

澤田マンガもよく読みますよ。最近は、歴史マンガも増えましたよね。歴史小説だと、プロットで採用されなさそうなものでも、マンガになっているものが多い。


『天は赤い河のほとり』はヒッタイトがテーマなのですが、これを小説でやりたいといってもなかなかOKは出ません。それに『シュトヘル』は、西夏文字を題材にしているお話で、時代小説家の中でも人気の漫画なんですけど、これも文だけだけだとなかなか難しいですね。

―― 歴史のマンガといえば、学校の図書館にあった『日本の歴史』も懐かしいです。

澤田定番ですよね。漫画の世界で歴史に興味を持った人が、少しでも歴史研究だったり、小説のほうに来てくれると嬉しいです。あと最近は、杏ちゃんが歴史小説をとっても読んでらっしゃって、ラジオなどでご紹介くださっています。そういうところから入ってもらってもいいかもしれません。

―― ちなみによく行かれる本屋さんはありますか?

澤田四条通りにある、ジュンク堂書店京都店さんが多いですね。高校生のとき初めてジュンク堂に行って、こんなに大きな本屋さんがあるんだ! って感動したんです。あと、現在、家の一番近所にあるのは大垣書店さんなので、そこにもよく行きますね。
研究所については昔ながらの古本屋さんもとても充実しているので、古本祭りにも時間があれば行きます。


バーにも行きます

―― 他に京都でよく行かれるところはありますか?

澤田バーですかね。知り合いがバーに詳しくて、よく連れられて。カクテルコンペティションという、バーテンダーさんが自分の作ったオリジナルカクテルや課題カクテルを作る大会があるんですが、そちらもたまに見に行きます。何かを生み出す、という仕事である点については自分と共通するところもあり、学ぶことも多いです。私、飲めないんですけどね(笑)!

―― そうなのですね、すごい......!

澤田でも、バーって飲めなくても落ち着けるんですよ。オリジナルカクテルを作ってくださるような店だと、ノンアルコールのものも出してくださるので。先斗町のウォッカバー ナカニシさんにはよく行きますね。いつもロシアンティーを頼んでますけど。


海外歴史小説も書いて見たい

―― 今後はどんな作品を書いてみたいですか?

澤田今手直ししている作品は、天平時代の藤原四兄弟の時代です。天然痘が流行った時代なのですが、ちょうど仏教も入って来たばかりのころなんです。
貴族たちは仏教を信じているけど、それは民間レベルまではおりていなくて。天然痘に翻弄される市井の人たちが何を信じるかというと、怪しい民間宗教なんですよね。民間宗教の中で、かき回されていくっていう話を書いています。

―― 面白そうです!

澤田一般的なイメージでいくと、奈良時代=仏教とイメージだと思うんですが、でも実際は全員が信じていた、というわけでもなくて、そこの齟齬の部分が書けると面白いかなと思います。

―― 日本以外でも描きたい題材などあるのでしょうか?

澤田東欧のほうは面白そうだなって思いますよね。日本はあまり外圧はなかったですけど、東欧の国々は様々な外圧にさらされながらも、自国のアイデンティティーを保っていく、という過程がすごく気になります。

―― 最後に、日本の歴史教育って、ともすれば教科書に何を使うかという問題でも争いが起こりがちな印象を受けるのですが、これはなぜなのでしょうか。

澤田難しい問題ですが、ひとつ言えるのは、確固たる歴史観というのが国全体で確立されてないんですよね。いろんな歴史観が林立して、まだまとまったものがない。そういうなかで、誰からも批判を受けない授業をやろうと思ったら、用語だけを教える詰め込み教育になってしまう。それでストーリーが強調されなくなればなるほど、歴史は「つまらないもの」になってしまうのではないでしょうか。

―― 本当にそうですね。

澤田とくに明治以降の歴史観をどういう風に組み立てていくのか、というのは、まだ混乱の中にあります。今年は大政奉還150年で、来年は明治になってから150年。そろそろ明治の見直しをやるべきだよねという話もよく聞きます。

―― おお!

澤田歴史の教科書だと出てきませんが、巫女さんと言いながら体を売る人もいれば、あの巨大な大仏も元からあったのではなくて、それを作った人たちがいる。昔も我々と同じような人が生きてて、同じような人がいろいろ考えていたんです。歴史というのは過去ではあるんですけれども、決して遠い存在ではなくて、今に繋がっているということが伝わると面白いかなって思います。

―― ありがとうございました。


   

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

澤田瞳子(さわだ・とうこ)

1977年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業。同大学大学院博士前期課程修了。2010年『孤鷹の天』でデビューし、翌年に第十七回中山義秀文学賞を受賞。2013年『満つる月の如し 仏師・定朝』で第三二回新田次郎文学賞を受賞。2016年『若冲』で第九回親鸞賞を受賞(同作は第一五三回直木賞の候補作にもなった)。他の著書に『日輪の賦』『泣くな道真 大宰府の詩』『与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記』など。

バックナンバー