先週掲載しました「前編――飼うも食べるも未知の世界」にひきつづき、今週も「内澤旬子さんと三匹の子豚――後編」です。
説明抜きに、早速いきましょう!
(聞き手 三島邦弘)
第6回 内澤旬子さんと三匹の子豚(後編)―獣医にすり寄る奇跡の豚―
ペットのように豚を飼う
―― 豚を飼うにあたり、名前もつけられてましたね。
内澤名前はつけましたね(笑)。
―― いろいろ反対の意見もありましたか?
内澤まあ、反対というか、ペットとしてじゃなくて一応家畜として飼うので、「ありえない」っていう反応というか。
「賢治の学校」のように学校教育で豚を飼っていたところは、基本的に名前はつけないようにして線引きをすると読みました。『豚がいた教室』(原作:豚のPちゃんと32人の小学生――命の授業900日)は、子どもたちが名前をつけてしまって、最後、情がうつって食べられなくなっちゃうんですけど。でもね、まあ1人で飼うので、それは心配なかったですね。
―― そうですか。
内澤誰かと一緒に飼うと面倒くさいじゃない。食べるのかわいそうになっちゃった時とか。
―― 必ず意見わかれますからね。
内澤だから、私の独断で飼いたかったんですね。そのぶん、体力的にはしんどかったですけど、まあ、そこの部分は全然ぶれなかったのでよかったです。
よくも悪くも人の意見聞かなかったので、「それでも、なんとか肉になった。以上」みたいな感じです(笑)。
―― 「見たか!」って感じですよね。
内澤「何だ、あの意地っ張りは」ってみんな思ってると思いますけどね(笑)。
―― プロの方々の意見もあまり聞かなかったんですか?
内澤結果的にそうなりましたね。
農家さんもそれぞれ一家言あって、みんな言うことちがうんですよ。それで、1人にだけ聞いてるとそこの飼育方法になっちゃうんですね。そうすると、そこしか取材しないみたいになっちゃうし。だから、結局「みんなと距離をとる」みたいになりましたね。
―― 適度に。
内澤そうそう。だから、方針がなかなか決まらなかったり、いろいろ後手にまわったりで難しいところもありましたけどね。
―― じゃぁ、個人で豚を飼うとしたら、これで「内澤方式」が出来上がりましたね。
内澤反面教師でしかないですけどね(笑)。
でも、『満州養豚手引き』とか、昔の養豚の本を読んでると、今と全然違うんですごい面白いですよ。
―― へー。
内澤あまり知られてないと思うんですけど、農業も畜産もこの30、40年でものすごくドラスティックに変わってるんですね。昭和2年発刊の養豚手引き書なんて、「どこの国の話ですか?」っていうくらいですよ。
「ブラッシングして、かわいがってあげましょう」とか書いてあって。
―― そうなんですか。
内澤「話しかけろ」とか。
―― 扱いとしてはペットですね。
内澤そう、昔の養豚は農家さんの副業だったので、趣味として楽しくなることを進めてるんですね。「馴れ合うことで、管理がしやすくなる」とかね。
―― なるほど、コミュニケーションとれてるから(笑)。
内澤そうそうそう。
―― それは教科書として書かれてるわけですよね?
内澤満州の農務局とかが書いてます。だから、読みながらみんな大爆笑してますよ。
私が話しかけながら豚を飼ってたときは、プロの方たちにしてみたら噴飯ものって感じでしたけど、一昔前まではそうやって養豚してたんですね。
―― 内澤さんの養豚のスタンスが昔のスタイルとあってたんですね。
獣医にすり寄る奇跡の豚

内澤実際、うちの豚は人に馴れてましたからね。人が塀のところまで来ても逃げないっていうのは、今の農家さんとか業者さんからしてみたら「すっげー変」な状態らしいです。
「豚って逃げないで馴れるんだなあ」って、みんな言ってました。
―― 確かに。豚って臆病だって言いますものね。
内澤うん。獣医さんとか白衣着てる人がくるとみんな「来た来た来たー」って、逃げるのが普通なのに、うちの豚はむしろ「ふんふんふんふん〜」とかいいながらすり寄って長靴とか噛み噛みしたりしてね。
―― ははは(笑)。
内澤白衣着てワクチンの予防注射うちに来ても、逃げないからすごく楽だって(笑)。
「いい子だねー」って近寄って行って、必殺仕事人みたいにこう、注射をドスって刺してね。そのときはやっぱり「ギョョョョョー!!」とかって鳴くんですけど、他の2匹はそれに全然動じてなくて。
―― へー(笑)。それで、注射うち終った後はどうなんですか?
内澤そう。うち終った後も何事もなかったように獣医さんにすりすりしてるんですよ。だから、「君たちはいったい何ものなんだ?」って獣医さんも驚いてました。
それで、普通はどうなんだろうって、見学させてもらいにいったんですね。
―― はい。
内澤そうしたら、もうすごいことになってて(笑)。
豚房に20頭くらい豚をみっちりギューギューにしておくんですね。それで、青スプレー片手に注射機もって、その中に入って行くんですよ。で、ドンッて刺して充填している瞬間に、スプレーで注射済みの目印をかける。でもその間、もう「ギョョョョョー!!」とか、「グォォォォォー!!」って走りまわるんで、ほんとすごかったですね。
みんな、ぐしゃぐしゃになってました(笑)。
―― すごいなぁ。
内澤強烈でしたけど、面白かったなぁ。
反対に、うちの豚はのほほーんとして、「遊んで遊んで」すり寄っていくのも面白いんだと思いますけどね。
―― やっぱりこう、現代の豚であっても、育て方、飼い方でそれだけ変わるんですね。
内澤変わりますねー。
―― 獣医にすり寄っていくなんて、すごいですね。
豚は結界を感知する
内澤うちの豚、馴れてるんですけど、脱走したんですよ。
―― へー。
内澤小屋の鍵をちょっとかけそびれたときに、三元豚の夢ちゃんがちょろちょろって出ていっちゃったんですね。
―― はいはい。
内澤で、普通なら、人間が寄ってくと怖くてばあーっと走って逃げるじゃないですか。動物とかって。だから、「やばい・・・」と思って焦ったんですけど、夢ちゃんの場合、テクテク歩いてて、地面のにおい嗅いだりなんかして逃げないんですね。
―― ははは(笑)。
内澤引っ張ったりすると、走って逃げようとはしましたけどね。でも、引っ張らないで「よしよし」ってやってる分には、止まってるんですよ。
―― すごい。
内澤で、なるべく刺激しないように、「さ、こちらへこちらへ」と誘導して豚小屋の扉まで連れてきてね。でも、最後は扉で他の2匹が「あれ、なんか外に出てる。いいないいな。おれもおれも」みたいになってたので、そいつらを押さえながら入れるのはすごい大変でしたけどね。
―― そうですよね。
内澤最後は、耳としっぽを持って無理やり入れたもんだから、夜中の12時くらいに「ギョョョョョー!!」とか絶叫されて。向かいの家の電気がパッパッパってついたりしてね。
―― ははは(笑)。でも、小屋の目の前にある道路に逃げないってすごいですよね。
内澤走って逃げなかったのは、馴らしてるせいじゃないかって言われましたけどね。
―― まさに教科書の「馴致させる」を実行して。
内澤そう「管理しやすくさせる」っていう。それと、三元豚の夢ちゃんはわりと結界を大事にするタイプだったんですかね。
―― 結界張ってあったんですか(笑)。
内澤いや、あの豚とにかく怖がりだったから、怖かったんですかね。屠畜場に出すときも、結局1回逃げちゃうんですけど、やっぱり国道まで出なかったですね。なんか国道には出ないっていうか、敷地内で謳歌しているみたいな。ほんと内弁慶なところありましたから。
―― でもすごいなあ、なんか、敷地もわかるもんなんですね。ここまでが自分たちの内澤家だと。
内澤そうそうそう。
―― それ不思議ですよね。別に線が引いてあるわけじゃないじゃないですか。
内澤そうなんですよ(笑)。だからきっと、結界が彼らにはあるんですよ。で、結局、それをうまいこと誘導して小屋に連れ戻すんですけどね。
―― おもしろいですねぇ。
内澤でも、屠畜場に出すときは、みんな騒然としちゃって、「とめろー!」とかって言っちゃってね。頑張って引っぱるんだけど、みんなしてひきずられちゃってとめられなくて。
でも国道の前で自主的にとまってくれるんですよ(笑)。
―― ははは(笑)すごいですねー、つい最近までそんなことが行われていたなんて。
内澤ちょっとだけ、映像も残ってますけど、その時はビデオ係が引きずられちゃったので録れてないんです。
―― 残念ですね。
内澤でも、面白かったなぁ。
もう一度飼いたい・・・
―― でも、日本でまず個人で豚を三匹飼って、殺して食べるところまでやってる人って、内澤さんをおいてそういないですよね。
内澤そうなんですかね。
―― こんなに面白い瞬間をやってる人ってそんなにいないと思いますけどね。
内澤でもまるごと全部1人でやるってことには、いろいろ無理があるということはわかりましたね。だから次やるとしたら、もう1人ではやらないですね。
あとはもう、絶対出荷します。買い戻してソーセージにしたり、焼き豚にしたり、自分で食べるところまでやるのは無理だなって思います。
―― そうですか。
内澤「いかに付加価値をつけるか」とか、「1頭まるごとどうやって売るか」みたいな、「生産者がどうやって売る道があるのか」っていうことまで気にしながらっていうのは、難しいですね。でも、豚はもう一回飼いたいなって思います。
―― んー、でも、それがすごいって思いますね。先日その話を聞いたとき、「ま、また飼うんだ」って思いました(笑)。
内澤まあ、可愛いかったし。だけど次は子豚というか、出産からやりたいですね。
―― へえー。それは可能なんですか?
内澤今度は子豚を購入するんじゃなくて、母豚(ぼとん)を飼おうと。ようするにお母さん豚を1頭購入すれば出産から見られるなと。
―― へー。そうなんですか。
内澤まあ、今回のことで、農家さんのやり方が段々わかってきたので、「それだったら、こういうやり方できるかな」ってアイデアも出せるようになりました。
もしも自分の名が豚名になったなら
―― 僕、最初にこの話を聞いたとき、「三島さん、豚に三島さんの名前つけたらどうします?」って何の脈絡もなく突然聞かれたんですよね。
内澤そうでしたっけ? あのときいろんな人に聞いていて、みんなに絶句されてたんですよ(笑)。
―― そうそう「みんなに聞いてるんだけど?」って言われてて。僕、たぶんためらったと思うんですよ。かなり躊躇して悩んだと思います。考えたこともなかったので(笑)。
内澤そうそうそう。だから、もしあのとき三島さんが「いいですよ」ってためらわなかったら、「クニちゃん」でしたよ、確実に。あれは、伸二と夢明と秀明だけがためらわなかっただけであって。
―― このお三方はためらわなかったんですね(笑)。
内澤そうそう。で、あのとき『牛を屠る』(解放出版社)の佐川光晴さんにも聞いたんですよ。「豚に光晴ってつけてもいいですか?」って。
そしたら、「なんでおれの名前を豚につけなきゃいけないんだよ?」って。「おれは牛派だ」と言わんばかりに(笑)。
―― たしかに(笑)。
内澤そんな感じで、みんなに「どう? 名前つけてもいい?」って聞いていて。
―― まぁ、嫌なわけではないんですけど、ちょっとあのときはなんて答えていいかわからなかったっていうのが正直なところです。
内澤大抵みんなそうでした。
―― 「それ、最後には食べられるんですよね?」って
内澤そうです。「食べますし、去勢もするんです」っていうと、「それは嫌かもしれない・・・」って言ってね。
―― でも、平山夢明さんとかは、「いいよ〜」っていう感じだったんでしょうね。
内澤そうそう。「ん? いいよ」って感じだったから(笑)。あの方肉食べられないんですけどね。
そのとき、秀明さんは、隣りにいた担当編集の方だったので「じゃぁ 僕もよろしくお願いします!」って感じで(笑)。不幸にも。
―― みんなに豚として認知されてしまって。
内澤いや、まぁでもね。フルネームで呼ぶのはさすがに抵抗があったので、だいたい上の名前で夢ちゃんとか秀ちゃんとか伸ちゃんって呼んでましたけどね。
シアターイワトの雑誌には、伸ちゃんが載ったんですけど、あれだけ「内澤伸二」って書いてあって、ちょっと悪いことしたなぁって思いましたね。名前とられた本人は何も知らないと思うんですけど。表紙「内澤伸二」って書いてあって(笑)。
―― そうですか。伸二は伸二でけっこう通ってましたよね。
内澤けっこうブログにも書いてましたからね。そうなんですよ。伸ちゃんだけは伸二って呼んでたかもしれないですね。
―― いやぁ、今日は本当に楽しいお話ありがとうございました。
これから、豚小屋解体ですよね。がんばります!
ということで、取材後、私・三島とライター・松井氏は、時折はげしい雨に見舞われつつ、豚小屋から小山のようなおが粉をかき出す作業に打ち込んだのでした。
僕たちが運んだおが粉。小山ひと山相当です・・・ |
ほんとにあのときは助かりました!! おかげさまで2日後に無事、小屋を解体することができました!! 大感謝です。・・・内澤
2日後に解体された豚小屋の前で。 |
