ビジネスパーソンにも、自分だけのスタイルにこだわる女性にも、そしておばあちゃんにも!? さまざまな世代に通じる、不思議な魅力の革プロダクト・エムピウの秘密をインタビュー。
後編では、革職人としての製作秘話や、作品のコンセプトなど、具体的なエピソードをお聞きしました。
「うんうん」と頷いてしまう哲学から、ものづくりの深い魅力の数々を知れるお話が満載です。(取材、文、写真 森王子)
前編はこちら。
第12回 建築家×革職人、エムピウの仕事(後編)
ひとりぼっちのときに生まれた、アイデアの重力
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村上雄一郎 元・一級建築士、現・革職人という異例の経歴と、独自の発想で生み出す革のプロダクトで注目を浴びる。「m+」でエムピウと読み、『村上雄一郎+誰か』という意味を持つ。 |
村上一人で始めた最初は、作家展でたまに売れたり、売れなかったりの繰り返しでしたね。もちろん食えるレベルではなく、設計事務所に勤めるかたわらやってました。それにしても日本に帰ってからの失速具合はひどかった。イタリアにいるときは「調子いいね?」って聞かれたら、「調子いいよ」なんて言ってたのに。
―― (笑)。
村上でも、そんなこんなでエムピウを1年ぐらい続けていたら、あるランドセルのメーカーから、デザイナー契約のオファーが来たんです。ランドセル屋さんって農家みたいなもので、冬から入学シーズンの春が勝負ですし、その後半年ぐらいは、販路はあることはあるのですがあまり見込めない。それでその間に、ファッションバッグを売りたいということで、そのデザインを頼まれたんです。その後、ランドセルのデザインもやらせてもらいました。
―― そうか。ランドセル屋さんって、一年で売れる時期が決まってますもんね。まったく気づかなかった。
村上ええ、それでやらせてもらったんですが、アイデアって、出るときはいっぱい出るんです。その仕事で、それを実感しました。
月にいくつかデザインのサンプルを上げるんですが、そのときに「あーこのアイデア、もうちょっと詰めたら良くなるだろうに」とか、「このデザイン、没になっちゃうの惜しいなあ」とか思うようになって。
さらにそうこうしているうちに、アイスタイラーズという青山の家具屋さんの革小物のデザインを始めたんです。ここでは打ち合わせしてショップオリジナルのデザインを一緒に決めていき、物を作って卸すような形だったのですが、これが結構忙しくなってまいりまして。それで段々そのような種類の仕事のほうが増えていきました。
―― エムピウという自分の作りたいものを追求する場と、働いて食べてゆくことが、そこで合致してきた、と。
村上そうですね。自分のブランドを作っていくために、どう動けばいいのか、何となく感覚がつかめてきた時期でもありました。そんなある日、1日遊びに出ていて帰ってくると、僕が作った財布の注文が、ファックスと留守電で山のように来てたんです。
あばあちゃんにウケた!? 驚きのサイフの誕生
村上 「これはどうしてだ?」と不思議に思ったんですが、その前日の朝日新聞に、僕の財布が出てたんですね。すっかり忘れて、遊びに行っちゃってた。
―― このトランクみたいな構造のサイフですよね。
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millefoglie エムピウのトップアイテム。革のグレードにもバリエーションがあり、シーンやファッションで選べるのが嬉しい |
村上ええ。その日はもう幸せな悲鳴を上げましたね。電話もひっきりなしにかかってくるし、ファックスの返事もしなきゃいけない。全国のおばあちゃんからのね(笑)。
―― おばあちゃんにウケたんですか!?(笑)
村上実はウチの火付け役はおばあちゃんなんですよ。電話やファックスでのおばあちゃんのやり取りがまた大変で・・・(笑)結局お届けは3カ月待ちぐらいになりましたね。
―― なぜおばあちゃんにウケたんでしょう?
村上なぜなんでしょうね? ペンケースもそうなんですが、僕は1枚の革をくるっと巻いて作るようなデザインが好きなんです。というのも、1枚の革で作ると、サイフの場合なら、一目でカード、お札、小銭が全部見られるようになるので、とっても使いやすくなるんですね。
―― おばあちゃんだけでなくて、それってすごく便利ですよね。あちこちひっくり返して探さなくていい。
村上そうなんです。しかもこれ、「こんなサイズで収まるのか?」ってよく思われるんですが、すごく沢山収納できるんですよね。
―― それはどうしてなのでしょう?
村上まずこのサイフを作るとき、自分がサイフに入れたいものを机の上に出してみたんです。カード、サイフ、小銭、あんまり多くないけどお札・・・(笑)どうやって入れよっか? ってね。
―― そうやってアイデアを練るんですね。
村上うん。それでサイフのかさばる原因って何なんだろうって考えたときに、「カードだ」と思ったんです。
―― なるほど。たしかにカードは多い。分厚さもいろいろだし。
村上でしょう? それで、普通のサイフは1ポケットに1枚のカードを入れるから、カードとカードの間に革が挟まっている。これがサイフを分厚くする原因になっているんです。そこから、どうやってカードをコンパクトに収納できるか、考えていきました。
―― なるほど、なるほど。
村上こうやって、机の上でトランプみたいにカードを重ねてみたんです。するとそれが一番ミニマムなまとめ方だとわかった。それでカードを束にして収納する構造を採用したんです。写真左のマチのある部分にカードを束にして入れることができるので、構造上これ以上かさばらない。
―― カードを入れてなくてもマチがあるからある程度の厚みがあるし、カードが入っても厚み自体は変わらない。結果的にサイフの厚みに変化はない。使っても使わなくても、この分厚さのままなんだ。
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今までかさばっていたカードが、写真右上のポケットにするすると全部収まるのは、ちょっとした感動すら覚える |
村上そうです。
―― このトランクみたいな形は、すぐに完成したんですか?
村上いえ、いろんな試行錯誤がありました。見た目もそうだし、折りたたみ方も初めはゴムで留めようかなと思ったんです。マジックテープ案もありました。でも「ビリッっていうのは安っぽくていやだな」と却下しましたが。マグネットも考えて、最終的に止め金にいきついた。ぱっと見、「使ってるうちに壊れないの?」と思われがちですが、実はこの"ぎぼし"という突き刺し型の留め金は、「ひっかかる」感じで留まる分には穴部分がかなりゆるくなってきても効き、かつ多少のサイズ調整もできるんです。
"発明チックな革"がエムピウのDNA
―― さっき僕はサイフを"トランク"に例えましたけれど、エムピウのデザインって、どこかで見たことはあるけれど、そのプロダクトでは今までになかった形をしてますよね。この発想ってどこから来るものなのでしょう? たとえばこのペンケースとか。
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rotolo 斬新な巻き取り式。入れやすく、取り出しやすい。見た目もかっこいいから嬉しい。ペンを使うのが嬉しくなる |
村上ペンケースはねぇ・・・相当パクられましたね。形はヘアメイクさんが持っているハサミの収納ケースのような、内部のそれぞれステッチで個別に道具が刺せるようにした構造はたくさんあるかと思いますが、僕のはマチの形が特徴的かと思います。
―― あ、ほんとだ。
村上この形は、入る容積が最大になる構造になっているんです。ペンを挟み込むのではなくて、「取り込む」「巻き取る」という考え方です。発明チックなことをしたいんですよね。バッグの世界って、アパレルメーカーとかで作っている人は、ほとんどが流行の色やデザインで考えていると思うんですが、僕は道具を見る目線でバッグを見ているんですね。
―― なるほど、なるほど。
村上たとえば刃物で言えば、「のこぎり」って、刃をあえてギザギザにすることで木が切れるようになる。これってすごい発想じゃないですか。ナイフとしては使えない刃の造りにすることで、ナイフでは切れないものを切る。すごい発明です。そういう道具を考えたいというのが根底にあります。名刺入れも、革の弾性を利用して留める仕組みになってます。
―― エムピウの名刺入れは、入れる名刺の厚みがあればあるほど、圧力がかかってはずれにくくなる。開こうとする力を逆に利用してるんですね。
元素から考えるプロダクトがエムピウらしさ
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センスあふれるプロダクトが生まれる場所は、いたって普通の作業場だ |
村上いつも「元の元」から考えたいと思ってるんですよ。サイフを作ろうとするときも、「二つ折りか長財布か」というレベルじゃなくて、「入れ物」「中に入れるものは何か」という元素レベルまで分解してから考えるんです。
―― ほうほう。
村上小銭もあればお札もある。カードもある。風呂敷みたいな発想から試行錯誤して、ダメなアイデアはボツにしていく。すると結局、普通のサイフの形になっていくんです。それで「やっぱりこうなるのか」と思っても、まだ手から離さずに、ずっと触り続ける。そうすると何かの拍子に、とてもいい感じの発想が生まれる。それを辿っても、ダメなときはダメなんですが、たまにそこからどんどんいい感じに進んでいくんですね。いつも作りながら、その糸口を探してるんです。時には紙で作ってみたり、それを合皮に置き換えたり、その結果、やっと本革で試したり。とにかく考えるときは手のひらの上で考える。2年以上試行錯誤することもあります。
―― エムピウらしさって言葉にすると何なのでしょう?
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やはり出ましたiphoneケース。上下で革の質を変えている。下部の柔らかい革をぎゅっとプッシュすると、iphoneを取り出せる仕組み。 |
村上自分でもよくわかってないんだけど、たぶん「トンチが効いてるモノ」ですね。実は、僕の頭の中にある、本当にトンチの効いたモノのイメージを実現したいなら、プラスチックやビニールを使ったほうがいい場合もあるんです。
サイフにしたって、あんなに良い革を使わずに、安い顔料ベタベタの革で低価格・大量生産したほうが合理的。しかしトンチの効いた形が面白いってことだけをウリにはしたくないし、僕は革が好きだから、革でやってしまう。そうすると、その革だからこその不都合を乗り越えて行くところで際立ってゆく個性、というか、「革なのに」感がどんどん出てくる。そこにうちのプロダクトの面白さがあると思うんです。
―― なるほど、なるほど。
村上そういえばさっき、あのサイフのこと"トランク"って言ってましたよね?
―― ええ。
村上あれをそのまま、トランクにしちゃうのもいいねえ。
―― あ、それはきっと素敵だ。
村上やってみようかなー。
―― 楽しみにしてます!! 今日は素敵なお話をありがとうございました。みなさんもぜひ一度、お店に行ってみてくださいね! お店の場所はこちらです!
