インタビュー・ミシマガ「人」

第42回 デッチが行く! チェッコリ・金承福さん

2016.10.12更新

 こんにちは!今年の夏から自由が丘オフィスでデッチをしているリと申します。

 「リ」という名前からお分かりかと思いますが、私、韓国人でございます。しかし、生まれも育ちも日本の関東。親も同じ境遇なので、家庭内でもほとんど日本語。韓国語は大学で勉強するまでロクに話せませんでした(今も話せるかというと...)。

 そんな折、いい韓国語の教材はないかな~とネットサーフィンしていたところ...
なんと、韓国関連の本に特化したブックカフェが神保町にあるとの情報をキャッチ!その名も「チェッコリ~韓国の本とちょっとしたカフェ~」

 チェッコリとは、昔、韓国でおこなわれていた、学期終了後の先生と生徒による勉強お疲れ様パーティーを意味するのだとか。ブックカフェの名の通り、このお店では本の購入や韓国書籍の取り寄せだけでなく、韓国の伝統茶や伝統菓子を食べつつ店内の本が読めちゃうようです。

 興味をもった私は、さっそくホシノさんに企画書を提出してOKをもらい、チェッコリの運営母体・株式会社クオンの金承福さんにお話を伺ってきました。ちなみに、承服さんは以前にもミシマガジンに登場されていて、『我が家の闘争』のミリャンさんによるインタビューが載っています。


――本日はよろしくお願いします!あの、こちらミシマ社10周年記念Tシャツです。どうぞお納めください。

あら、ありがとう。私からもあなたにプレゼントがあってね...はい、この栞をどうぞ。


――おお、逆にお土産をいただいてしまいました。

その左の栞のイラストは、寄藤文平さんが描いたのよ。

――な、なんですと?!文平さんといえばミシマ社のロゴをデザインしたまさにその人ではないですか!そんなところでもチェッコリとミシマ社って繋がりがあったのですね...。
 ではでは、インタビューのほう始めさせていただきます。まずお店をはじめられたキッカケなんですけど、クオンで紹介した韓国文学を実際に読んでくれている人たちと交流するために、自前の場所がほしくて書店を構えたと伺ったんですが...。

その通りです。本屋をやれば買いにくる人の顔が見えるわけだから。あと、ただ本を売るだけなら大型書店でもできるけど、私たちはそういうところができないようなことをしようと思って。本の選定だけじゃなくオススメまでね。『ここまで韓国語勉強したけど何を読めばいいのか』ってお客さんに聞かれるから、そういう情報の発信をしています。Amazonも『この本を買った人はこれを読んでいます』くらいのアドバイスしかできないでしょう?

――たしかに、こまかいニュアンスとか質問できないですもんね。

それとイベントを開いて、本だけじゃなくて韓国文化とか、自分たちの知っていることを共有しようとしています。そこでは、必ずしも有名な人やものを取り上げるとはかぎりません。

――チェッコリのホームページを見ると、ほんとたくさんイベントが行われてるってわかりますよね。韓国文学をテーマにした旅行まで企画していると知ってビックリしました。

ツアーは毎年行っていますよ。今年も『土地』っていう韓国小説の日本語訳刊行を記念して、11月に統営って場所へ行くけど、あなたも来る?

――うーん、興味はあるんですけど学校が始まってしまうので...(笑) ところで、こういったイベントのアイディアやゲストスピーカーとのツテはどうやってつくっているんですか?


そうね、韓国の大学の友人とか日本留学のころの友人とか、クオンを立ち上げる前に日本で会社勤めしていた時のツテとか。でも、チェッコリに来るお客さんキッカケというパターンがすごく多いです。ここのお客さんは、なにかしら韓国関連の仕事していたり、情報持ってる人が結構いるから。その場の会話の流れで『それやろうよ!』ってなったりね。

――なるほど~、距離の近い小さな書店ならではの企画のでき方ですね。

ツテという話でいうと、韓国の友人の中には作家になっていたり出版社に勤めている人もいるのね。彼らの作品をうちで出したり、『最近韓国でどんな作品が人気なの?』とか情報を提供してもらったり。店内のデザインも、日本留学時代の大学の先輩に頼んだの。お金がなかったから。『立っている者は親でも使え』って精神なのよ(笑)」


――チャンゴという韓国の伝統的な太鼓が椅子になっています。素敵!

チェッコリって、会話を楽しみたくて来るお客さんが多いと思います。地方からのお客さんも増えてきていてね。訪問者用のメッセージノートがあるんですよ。

――けっこう分厚い...。あ、店内のイラストを描いている人がいますね!

あと、お客さんが読んでオススメしたい本をまとめて、来年にはチェッコリ編として一冊の本にしようと思っています。

――それは読んでみたいですね。そういえば、チェッコリは店長が金さん含めて七人いると...。

ええ、そうです。こちらは今日の店長の渡辺奈緒子さん。

渡辺どうも~。

彼女は絵本の翻訳なんかが専門で、他の店長もなにかしらのスペシャリストで兼任してもらっていますね。

――おお、パラレルワークというやつですね。

いろんな人の助けを借りてチェッコリやクオンを運営していてね。そのかわり、私たちも誰かのお手伝いをしたり。たとえば、韓国語の書籍を翻訳出版しませんかってエージェント的なことをしています。自分たちだけで出せる本には冊数に限界があるから、説明会を年に一度開いて、ほかの出版社さんたちに韓国語書籍の紹介をするんです。結構業績もよくて、50冊くらいは契約までいったかな。


――50冊ってだいぶ多いですね。韓国文学を広めたいのにどこからも出版を断られていたという以前と比べたら、大躍進ですね!

自分たちで韓国文学シリーズをやりだしたのは2011年からで、クオンを立ち上げた2007年当初はこういうエージェント業務が中心でした。出版のことを勉強するための時間も必要だったしね。そのためナナロク社を子会社にして印刷会社や取次さんとかも取引ができるようになりました。


――な、なんですと?!(本日2回目) それは知らなかった...。

みんな、なにかしら繋がってるのよ(笑)まあ、こうやって韓国文学という自分の知っている分野・好きな分野をビジネスにしてきたわけね。

―そうなんですね。 では、次の質問なんですけれど、金さんが事業を始められた当初と比べて、日韓関係っていろいろ変化してるじゃないですか。特に、日本国内で言うとヘイトスピーチとか嫌韓ムードが目立つようになってきたり。チェッコリやクオンを運営していく中で、何か悪影響はありましたか?

そういうのはないですね。やっぱりチェッコリのお客さんたちって、韓国をきちんと知ったうえで興味を持ってくれているから、そういう社会現象で揺れはしないのね。ヘイトスピーチする人たちって、韓国のことよく知らないし訪れたこともないような人たちばかりでしょう?それに、そもそも影響受けるほど大きなお店や会社じゃないからかもしれないね(笑)

――そうですよね。いま大学でも排外主義とか勉強していて、「ネットからの情報でしか知らないけど叩いてる」というのが、ほんとよくあるパターンなようですね。

そういうのはある程度の無視が必要かな。そういう勉強よりも、もっと自分が好きなこと勉強したら?

――お、おぉ...(笑) 話はまた変わりますが、日本の本屋と韓国の本屋ってなにか違いはあるんですか?

いや、違いはどの国でもあまり感じないですね。ただ、韓国では本の割引率が以前は自由だったんだけど、二年前から定価制が始まったのね。それで、一冊当たりの利益は誰が売っても同じになったから、いま若い人たちが立ち上げた独立書店が増えてきていますよ。それが最近おもしろい動きかな。

――じゃあ、結構いい兆しが出てるってことなんですね。

いい兆しかといわれると...。ビジネスというよりは、副業的な、自分の趣味みたいな感じがします。それで食べていけるの?って。ほんとは「これが本業ですよ」って言えるレベルの社会にしていかないといけないんだけど、本屋がビジネスモデルとしてまだ難しいとみられてるってことだから。それでも本屋をはじめる人が多いっていうのが、おもしろいなあと...。日本もそんな感じしない?

――たしかに!本屋さんもそうですし、まさにミシマ社のような小さな出版社もけっこう出てきてますもんね。なぜ似たような動きが同時期に起きてるんでしょうね?

東アジア圏の感受性が似てるからじゃない?台湾もそうだけど、いずれ中国もそうなると思いますよ。だから、もっと仲良くしていきたい。仲良くすれば、一緒にもっと面白いことができそうだし。そのためには、いまここで自分ができる最善のことをやるだけかなって。

――自分の持ち場でベストを尽くす、と。

そう、楽しみながらね。楽しさって大事ですよ。義務感とか使命感だけだと苦しくなるから。

――次なる目標ってありますか?

いままでは2000年代の作品を日本の読者に紹介してきたけど、これからはそれより前の大御所の作品も翻訳して出版していきたいですね。さっきも言った『土地』っていう小説は1969年に第一巻がでて95年まで出版された作品だし。

――ミリャンさんとのインタビューで語っていた、「北と南の分断などの時代的背景や社会的な要素が強くて、日本の読者にすぐウケそうにない」と昔の作品を敬遠していた当時とは、また状況が変わってきたということですか?

そうですね。新しい韓国文学シリーズで入口を広くしたので次は少し前の作品を紹介して幅があるってことを知ってもらいたいです。

――なるほど、これからどうなるか楽しみですね!


 インタビュー後、さっそくお店では、「応答せよ!」という韓国ドラマにまつわるトークイベントが。そのドラマについてはまったく知識ゼロでしたが、スピーカーの方たちがお話してくださった当時の韓国の様子や若者文化など楽しく聞くことができました。


<デッチの感想>
インタビューやその後の雑談で、金さんが「使命感とか義務感とか大げさなものとは
少し違う。」「やりたいことやポジティブなことにパワーを使ったほうがいい。」とたびたびおっしゃっていたのがとても印象的でした。わたしはわりと最近まで、韓国にルーツをもつ身として「韓国語すごくペラペラにならなきゃ!日本人のクラスメイトよりできるようにならなきゃ!」と力みすぎていて、韓国語を習い始めた当初の「今までわからなかったものがわかるようになる純粋な喜び」をだんだん感じられなくなっていた気がします。自分のペースで好きなようにのびのびと物事に向かいあうのが、結局いちばんいいのだろうなと感じました。金さん、チェッコリスタッフの皆さん、ありがとうございました!


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