いささか私的すぎる取材後記

第59回 遠い日の声2

2017.03.10更新

 幼い頃、映画館で叫び声を2度聴いた。
 今も、胸のどこかに響き続けている声だ。
 
 3歳の時は、高倉健の声だった。
 「南極物語」のラストシーン。
 南極を1年ぶりに再訪し、取り残して置いてきたタロとジロが生きているのを発見した健さんは「ウオオオーーー!!」と咆哮し、自らの存在を呼び掛ける。主人の声と瞬時に分かったタロとジロが氷原を駆け寄ってくる。ヴァンゲリスのテーマ曲が流れる。
 完璧に美しいエンディングである。

 6歳の時は、西田敏行の声だった。
「植村直己物語」でのワンシーン。
 犬ぞりで北極点を目指していた西田は疲れ果て、虚空に向かって「キミちゃーーーん!!」と叫ぶ。日本に残してきた公子夫人を想い、力の限りに声を解き放つ。クライマックスでもないが、私にとって何故か強烈な印象を残すシーンになった。

 2017年2月、西田に聴いた。あの叫び声について。

 「そうですか...。そんなふうに言っていただけるのは、本当にありがとうございます。恐縮です。そうですね、あれはアドリブだったと思います。植村さんの奥さんへの愛情の持ち方は、側にいるよりも遠く距離感を持って、あったかくて平和なところで待っていてくれるというところにあったと思っていました。北極でシロクマに襲われた時も、奥さんの写真を見つめていたそうですから。日本に帰れば心の安寧がある、だからリスキーな旅に出られるんだ、と感じていたものですから、表現者としてはそのようなことを表現したかったんですね。私自身、とにかく長期ロケでしたから、妻や子供たちに会いたかった。ちょうど北極に行っていた時は桜の季節で、自宅の側の桜並木が満開になっている写真が送られてきたんです。ああ早く帰りたいなぁ、奥さんや子供たちに会いたいなぁって思ったことを、植村さんの思いに重ねたんだと思います」

 私は思わず「ありがとうございます...」と言った。
 他に的確な言葉があるようにも思ったが、見つからなかった。

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北野新太(きたの・あらた)

1980年、石川県生まれ。学習院大学在学時に雑誌「SWITCH」で編集を学び、2002年に報知新聞社入社。以来、記者として編集局勤務。運動第一部読売巨人軍担当などを経て、文化社会部に在籍。2010年より主催棋戦の女流名人戦を担当。2014年、NHK将棋講座テキスト「第63回NHK杯テレビ将棋トーナメント準々決勝 丸山忠久九段 対 三浦弘行九段『疾駆する馬』」で第26回将棋ペンクラブ大賞観戦記部門大賞受賞。シリーズ「コーヒーと一冊」にて初となる単著『透明の棋士』を著す。

透明の棋士

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