2月16日土曜日、『〈彼女〉の撮り方』刊行記念トークショーが紀伊國屋書店横浜みなとみらい店にて行われました。トークのお相手はなんと・・・青山さんの8年半にわたる片想いのお相手であり、『〈彼女〉の撮り方』のなかにも鮮烈な登場をしてくださった、市川寛子さん。
大学受験前日の一目惚れ以来、16年の時を経てのご対談でしたが、実際にお二人が会われたのは今回でまだ数回目だとか・・・。大緊張の青山さんと、どこまでもキュートで素敵な市川さんのトークに、ご参加いただいたお客さまもミシマ社スタッフも、胸キュンなひとときを過ごさせていただきました。
どうぞお楽しみくださいませ!
(文:本木あやね・星野友里、写真:渡辺佑一)
『〈彼女〉の撮り方』青山さん・市川さん対談イベント
2013.03.14更新
【受験前日の出会い】
受験前日は、大学へ下見に行った後、バスで泊まる予定のホテルへと向かいました。そのバスの中に・・・。いたんです。ナナメ前方に、当時僕も持ってたマディソンスクエアガーデンのバッグ(懐かしい!)を横に置いた、ショートカットの〈彼女〉が。〈彼女〉の凜とした横顔を見た瞬間。僕は、完全に、一目惚れしました。「運命の人」だって、確信しました。(『〈彼女〉の撮り方』p3~4)
青山じゃあ、ちょっと紹介しようかな・・・市川さんです。
市川ありがとうございます。はじめまして、市川と申します。
青山ということで、その一目惚れした市川さんです(笑)。いやあ、変わらないですね。
市川いやいやそんなことないですよ(笑)。そんなこと言っても、一目惚れされてから今日で会うのは数回目なんですけどね。
青山そうなんですよね。
市川で、その一目惚れをしてから青山君のなかでいろいろなことが起きていたことを私は知らなくて、8年前くらいにそのことを初めて聞かされた時に「ああ、この人の中でそんなことが起こっていたんだな」って思いまして。
青山一目惚れされていたことには、まったく気づいていなかった感じですか?(笑)
市川うん。だって、普通の人って一目惚れしたなら、「どこから来られたんですか。」とか訊くじゃないですか。なのに、いきなり金貸してくれと言われて(笑)
「あの、あのですね。実は、財布を落としてしまいまして・・・」
「帰りの新幹線の切符は持っているんですが、筑波から東京までのバス代がなくなってしまって・・・」
「もしよかったら、なんですが、お金を少々貸していただけませんでしょうか?二〇〇〇円ぐらいで大丈夫ですので・・・」
完全に、怪しい人だったと思います。そしてもちろん、財布を落としたのは、真っ赤な噓です(バッグの奥にしまいました)。おそらく僕の顔は赤くなり、声は震えが止まらず、目は焦点が合ってなかったことでしょう。(『〈彼女〉の撮り方』p23~24)
青山たぶん、その時に僕のことを疑っていたと思うんだけど、すぐ貸してくれて。
市川うん、疑ってた(笑)。名古屋まで2000円で帰るなんて無理だろうなって。でもそこにも作戦があったんですね。
青山そうなんです。成功率の高い作戦を色々考えたんですね。
【新潟デート】

青山その後僕は不合格で浪人になり、合格した市川さんと1年間文通をしてですね。・・・文通といっても僕がほとんど一方的に書いていたんですけど(笑)
市川そうですね(笑)
青山さらに、一年遅れて同じ大学に入ったはいいものの、何を血迷ったのか旅に出て、その先々で手紙を書いていたんですね。アイスランドとか沖縄とかいろいろあるんですけど、市川さんのことをよく知らないから自分のことしか書いてないんですよね。
市川私に対してどうのこうの思ってくれているっていうよりも、青山君が自分のことについて考えたことを書いてくれていたんですよね。あの頃の年代の人たちって他の人のことを思ってもその人を通じて自分について考えてしまうというか。なので、青山君も私を通じて何か別のことを見ていた気がして。
青山一回新潟でデートもしてるんですよね。・・・というか、デートだと思ってました(笑)?
市川思ってましたよ。でもデートのわりには下調べしてなかったよね(笑)。
新潟駅からとにかく歩いて日本海まで行って(かなり距離があるのですが)、マリンピア日本海という水族館に行って、夕日を見て(といっても、けっしてムードのある感じではなく)再び新潟駅まで歩いて戻って、そのまま別れたはずです。とくに食事もしなかったと思います。かなりの距離を、ただただ歩いていたという記憶しかありません。なんという、駄目なデートなのでしょう!(『〈彼女〉の撮り方』p64)
青山だって僕の初デートですよ。
市川私も新潟でデートするのは初めてでしたよ。
青山本当ですか!
市川本当ですよ。
青山本当ですか。やったあ(笑)
市川(笑)
青山あの時に僕が告白してたら付き合えていた可能性はあったんですかね・・・いや、やっぱりいいです、それはきかないでおこう(笑)。それで、えっと、今はどうですか、一目惚れされてよかったと思いますか(笑)
市川(笑)。いや、でもこんなにカメラマンとして大物になっているとは思わなかったのですごく驚きました。青山君のものの見方が写真を通して人に伝わったことはとても幸運なことですよね。
青山そうですね。
【ショートカット好きの源流】
青山では、写真の撮り方についても少し話そうかと思います。前提として、カメラは邪魔者だという考えがあるので、写真を撮るときにカメラは身軽なものが良いんです。そのままで見ている顔が一番なんです。でも、カメラの不自由さが良いというところもあって、一見矛盾しているんですけど。例えば、『〈彼女〉の撮り方』の1ページ目に新潟でデートしたときの写真をいれているんです。
市川あ、あれ私の写真だったんですか!

青山そうですよ(笑)。写真家を目指す全然前の写真だったから、逆光で本人でも自分だとわからない写真ですよね。その当時の僕からしたら、顔もちゃんと写っている方が良いに決まってるじゃないですか。でもこの下手さも、逆に当時の距離感を表しているなって思うんですよね。・・・市川さんはずっと髪の毛短いでしょ?
市川長めのときもありましたけど基本的に短いですね。
青山ずっと短いよね。・・・「ずっと」ってずっと見ていたわけじゃないんですけど(笑)
市川(笑)。そんなにたくさん会ってないからね。
青山途中で気づいたんですけど、『〈彼女〉の撮り方』に出てくる女性ほとんどショートカットなんですよね(笑)
市川うん、そのこと書いてありますね。
・・・耳やおでこが出ているということは、要するに顔立ちがはっきりわかるので、髪の動きに惑わされることなく、表情の移り変わりを見ることができます。なので、〈彼女〉本来の姿を見ることができるような気がしています。(『〈彼女〉の撮り方』p180)
青山最後に奥さんの話も書いてあって、残念ながら市川さんは奥さんじゃないですけど(笑)、奥さんもショートカットなんですよね。だから、そのショートカットの源流はここにあるのかなって。
市川おお、源流をつくりだしましたか、私(笑)
【自己表現としての手紙と写真】
青山今日撮った写真をPC画面に出して皆さんに見ていただこうと思っていたんですけど。・・・ちょっと、僕はどんな女優を撮るよりも緊張しているのかもしれない(笑)もうちょっと上手く撮ろう。
市川なんだそれ(笑)
青山ちょっとむこう向いていてもらって良いですか。
市川はい。
青山緊張するときはね、むこうを向いてもらう。目を合わさないようにすると、緊張しないんです。
市川なるほど。
青山僕の作品『スクールガール・コンプレックス』も顔が写ってないんですよ。顔を見ると僕が緊張するからっていうこともあったんです。・・・『<彼女>の撮り方』を送らせていただきましたけど、読んでみていかがでしたか。
市川すごい赤裸々に書かれていて赤面しました。やべえと思いました(笑)。私が思っている当時の私じゃないけど、青山君から見た私がいて、その食い違いにすごいどきっとしました。私がそれを忘れてしまっているのか、青山君が作り出した私なのかわからないですけど。
青山多分、僕が作り出した空想の女性ですよね。
市川多分そうですね。この手紙をまた読み直しましたが「完璧にならないと受け入れられない自分を諦めることにした」というような内容が書いてあって、その部分を読んでみると、やっぱり自分を見ているんですよね。青山君のなかの世界っていうのは青山君にしかわからなくて、たとえば著名人の写真を撮る時も、青山君の心のなかにあるその方がそのまま見えているように感じるんですよ。
青山つまり写真を撮る行為というのは・・・なんだろう。
市川自己表現ですよね。
青山うん、そうですね、自己表現。だからさっき話していた技術面以外の部分も相当写るということなんですよね。
市川うん。写真のテクニック的なことは全然わからないですけど、青山君の見ている世界の切り取り方っていうのが支持されているんですね。
青山なんか・・・次の本のあとがきを書いてもらいたいですね(笑)。すごく明瞭な分析だと思います。ということは、市川さんに送っていた手紙で散々書いていたようなことを、いま僕は写真で撮っているということですよね。
市川そうですね。
青山その当時から変わってないってことですね(笑)。ということは結局僕は自己愛が強いっていうことですかね。
市川そうでないとは言い切れないですね。だって便せん5枚ですよ?
青山しかも便せん5枚が封筒3つですよ。三部作(笑)
市川そうだよ。だから浪人するんだよ(笑)
青山(笑)。浪人の後に書いたから良いんです。
市川ああそっか(笑)
【壊れない幻想】
青山女性を神聖視するのは男性によくあることだと思うんです。僕もそうだったんですけど、今その幻想を打ち壊した上でその分幻想をまた撮れるというか、壊れきったからこそ写真が撮れるんですよね。
市川うん。じゃあ、その幻想がいつ頃壊れたかっていうのは、この本を読めば、壊れていくさまを段階的に見れるんですね。
青山(笑)。でも市川さんとは会っていなさすぎて幻想が壊れないんですよ。会ってないというのは、危ないっちゃあ危ないですよね。これだけの数の手紙を書いていて、市川さんのことをまったく書いていなかったというのはやっぱり異常でしたよ。
市川でも、それはこの年代にはありがちというかね。
青山この年代って(笑)。同い年でしょ(笑)
市川そうだった(笑)。20代の頃にコンプレックスを抱えていらっしゃったんですね。
青山なんでしょうか、写真を撮ることって自分を赤裸々に出すことなのかなって。その出し方をコントロールするのがプロフェッショナルなんですよね。この自己愛に満ちた手紙も今の写真の撮り方に繋がっているんですね(笑)
じゃあ・・・最後にお聞きしたいんですけど。
市川うん。・・・なんだろう(笑)
青山ご結婚はまだなんでしたっけ。
市川まだですね。
青山じゃあ、結婚するときは、結婚式の写真を僕が。
市川本当ですか!
青山僕が泣きながら撮るという(笑)
市川(笑)。恐縮です。
青山一案として心に留めておいてもらえれば。まあ複雑なんですけどね。
市川まだ会うの数回目なのに(笑)
青山そのことによって僕はまた自分で十字架を背負うっていう自己愛だよね。
市川そうだね(笑)
青山いや、でも、一般の方なのに流暢なトークでしたね(笑)
市川いやいや、茶々いれさせて貰えて楽しかったです。
青山(笑)。ありがとうございました。
市川こちらこそありがとうございました。




