からだのなかの微生物

第9回 「生きている」ってなんだろう?

2016.03.01更新

 私たちは生きています。
 では、「生きている」状態って、どのような状態だと思いますか?

 いろいろな意見があるはずです。それこそ古代の時代から、人は「生きている」ことについて考えてきました。このテーマは、哲学的にも面白いテーマですが、今回は生物学的に考えてみましょう。

 人間が生きている。具体的にはどんな状態でしょう?いろいろ考えられます。

 身体が動く。
 考えられる。
 五感がはたらく。
 呼吸をしている。
 心臓が動いている・・・
 
 それぞれ、私たちが生きている中で、身をもってわかる現象です。しかしながら、これらは生きている状態の1シーンを切り取った現象ともいえます。

 もうちょっと長い時間軸で考えてみましょう。
 「生きている状態」と「死体」を比較してみます。この両者、時間が経過すると決定的に異なる現象が起きてきます。

 死体は時間が経つと腐ります。
 腐るという現象は、ミクロの視点で見れば、カビや細菌などの微生物が、私たちの身体を栄養分として利用して増える現象です。

 私たちの身体は、物質的に見れば、炭水化物、タンパク質、脂肪など、豊富な有機物で構成された栄養の塊です。
 炭水化物の塊である「パン」を放置するとカビが生えてきます。タンパク質や脂質の豊富な「牛乳」を放置すると微生物が繁殖して臭くなります。
 物質的に見れば栄養の塊である私たちの身体も、本来ならば、微生物にとって、この上なく上等なご馳走に見えるはずです。事実、死体は微生物の働きによって腐り、やがて自然へと帰っていきます。

 それにも関わらず、通常、生きている状態の人間は、そう簡単には腐ったりしません。
 「生きている状態」と「死体」を、時間経過という視点で比較してみると、腐らない、つまり、微生物が繁殖しない。このことが「生きている」ことのポイントとなってくるようです。

 連載の第1回では、私たちのからだは、微生物にとっては「お菓子の家」「お菓子の街」という表現をしました。
 この魅力的な街には、微生物の侵攻から守ってくれる「兵隊」がたくさんいます。

 兵隊にはいろいろな仲間がいます。

 侵入した微生物を「食べる」もの。
 侵入した微生物の「情報を伝える」もの。
 兵隊たちの活動を「鼓舞する」もの。
 侵入した微生物を無力化する「飛び道具を使う」もの。
 微生物に浸食されてしまった仲間を、「仲間ごと排除する」もの。

 これらの仲間たち。具体的には、白血球やリンパ球などと呼ばれる細胞たちは、それぞれ協力し合いながら役割を果たし、私たちの身体を微生物の侵攻から守ってくれています。これらの統制の取れたシステムが「免疫」と呼ばれます。

 人間が「生きている状態」。それは免疫システムが働いている状態とも言えます。

 私たちは、生きる為に食事をし、有機物の塊である身体をつくっています。身体を構成する物質が有機物であるからこそ、私たちは複雑な生き方(身体を動かし、考え、五感がはたらき、呼吸をし、心臓が動き・・・)ができているのですが、反面、微生物たちにとっては美味しそうな"ご飯"の対象となっています。

 私たち人間は、肉食動物や草食動物の関係に見られるような「食う/食われる」という関係から脱却したように見えていますが、ミクロの視点で見れば、微生物たちとの「食う/食われる」の戦いは今もまだまだ続いているのです。

 私たちの身体の中のミクロの世界では、私たちの分身とも言える細胞たち、白血球やリンパ球などが、侵入してきた微生物たちと、まさに食う/食われるの戦いを繰り広げています。

 私たちが「生きている状態」を支えている、からだのなかのミクロの戦いについて、今後も詳しく紹介していきます。

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早川昌志(はやかわ・まさし)

1987年生まれ。微生物の研究をしながら、微生物に関する教材を作ったり、イベントの企画をしたりしています。

現在は、神戸大学大学院理学研究科生物学専攻博士課程在籍、日本学術振興会特別研究員(DC1)。

Twitterアカウント → @Markchloro

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