今月の一冊

 年越しを間近に控えた12月20日。
 自由が丘--京都のミシマ社オフィスをSkypeでつなぎ、にぎやかに執り行われた「今年の一冊座談会」。
 選定基準はなく、とにかくおすすめしたい本を各自が持ち寄りました。パートさんの赤穴、デッチの上田、渡辺(久)も飛び入りで参加してくれました!

 小説、実用、人文など、ジャンルを問わずおもしろそうな本が、続々。
 持ち時間の1分を、ほぼ全員がことごとくオーバー。「ホ〜」「はあ〜」「へ〜」など、それぞれの想いが熱く飛びかう座談会となりました。

 普段から書店さんに足をはこぶ機会がおおいミシマ社メンバー各々の、一押し本にどうぞご期待ください。

(文・寄谷菜穂)

第16回 2013年 今年の一冊座談会

2013.12.31更新


こんなノンフィクションがあることに、感謝

新居仕掛け屋チーム新居です。ではさっそく。私は『こんな夜更けにバナナかよ』渡辺一史(著)(文春文庫)を紹介します。
 筋ジストロフィーという進行性の重度身体障害をもつ、鹿野靖明さんと、鹿野さんが亡くなるまでに関わったボランティアの方たちとの物語を綴ったノンフィクションです。
 介護、障害、ボランティアという枠にくくりきれない、なにか大きなものがこの本にはあります。
 読んだあともずっと頭から離れませんでした。

星野単行本読みましたけど、しばらくひきずるようなインパクトがありますよね。

新居単行本は約10年前に発刊されているんですが、文庫化される際、脚注などが大幅に加筆されているそうです。なので単行本を読んだ方も、ぜひもう一度!

平田バナナはなんででてくるんですか?

新居ボランティアの人は、不眠症の鹿野さんに付き合わされて、よく何回も夜中にたたき起こされるんですが、ある晩、鹿野さんがおれはバナナが食べたいんだ!! バナナ持って来い!! って言い出すんですね。
 ボランティアの方はもちろん、なんでこんな夜更けにバナナやねんっ!! ってなるんだけど、その時にフッと何か越えて、もう、この人の言うことは何でも聞いてやろうって思ったそうなんです。
 それが、この本の中でも重要な節目なんです。

平田なるほど~。


一家に必要なのは大黒柱ではなく、最高の2本柱!

平田営業チーム平田です。私が選んだ一冊は、『2人が「最高のチーム」になる―― ワーキングカップルの人生戦略』小室淑恵・駒崎弘樹(著)(英治出版)です。
 
 共働きかつ子持ち経営者である小室淑恵と駒崎弘樹が、男女双方の立場から、共働き夫婦の今後や具体的な生活術について語っています。
 
 この本の面白いところは、なぜ夫がそういう行動をするのか、どうすれば解決するのかを、女性側の視点だけではなく、男性側の視点からも解説してくれているところです。私は今年結婚したんですが、ぶちあたった問題のほとんどがこの本に書かれています。
 
一同へええ。

平田コミュニケーション術から時間術まで、すぐに実践できることがみっちり紹介されているので、共働き夫婦やこれから結婚する方におすすめです。

長谷仕事に応用できそうなところはありましたか?

平田コミュニケーションは、仕事も家庭も同じようなものなんだよっていうことが書いてあります。
 仕事だと、冷静に伝えられるけれど、家庭ではなんでやってくれないんだよ!って、自分の主張を押し付けがちになっちゃうじゃないですか。

長谷押し付けてるんだ(笑)。

平田仕事の方が家庭に応用できるんだな~ってのが発見でしたね。


九億五千万分の一の確率の出会いに、鳥肌が!

寄谷編集・営業チーム寄谷です。私が選ぶ今年の一冊は『喪失の国、日本』M・K・シャルマ(著)山田和(訳)(文春文庫)です。この本は、できた経緯がものすごく魅力的なんです。
 
 訳者である山田さんがインドで偶然見つけた手製本があって。読むことができたのは『日本の思い出』というタイトルだけ。でもなぜだか気になってその本を購入するんですが、1年後再びインドをおとずれた山田さんに、不思議な出会いがおこるんです。
 パキスタンの国境付近のちいさな町で、見知らぬ中年の男性から食事に誘われるんです。
 周囲からとめられても、やっぱり気になって出かけるんですね。食事が済んで、1年前のあの本を男性にみせたところ・・・なんと! その男性こそ本を書いたまさにその人だったんですよ。

一同ほお〜!!

寄谷すごいでしょ、神の巡り合わせとしか言いようがない。
 この本が日本語に訳されたこと自体が奇跡なんです! 
 
 インド人である著者シャルマさんの視点からみる、経済の高度成長と崩壊を通じた日本人の精神の変化も興味深いです。

三島英国人一家、日本を食べる』(編註:2013年百々大賞受賞作です。百々大賞発表の様子はこちら!)と似ていますよね。外国人から見た日本っていう点で。


生き方の答え、此処にあり。

長谷仕掛け屋チーム長谷です。私の今年の一冊は福田恆存の『私の幸福論』(ちくま文庫)です。
 福田さんは全集、文庫本以外の自著の単行本を書かれるときは、歴史的かなづかいを意識してつかわれていますが、この本は若い人々を対象にしたものなので、とても読みやすいです。

 目次を見ると一見女性向けに見えますが、ここで書かれていることは男女関係なく、一人ひとりが対峙し考えなくてはならない孤独や生き方です。
 心をふくめ自分を自分で操ることが大切という考えが根底にあり、恋愛や仕事といった読者の悩みに対して、厳しく、ときにやさしく、自分で考えられるように誘います。
 いままで読んできた本に繋がる言葉も多く、自分自身の環境や考え方が変わったときにまた読みたくなるにちがいない、何度も読み返すであろう一冊になりそうです。

三島福田さんはすごいですよ。何読んでも面白いし、劇的なんだよね。

長谷読んでいて、「はっ!!」ってスイッチを押される言葉がいっぱいありました。

三島ちなみに、日本人がシェイクスピアを読めるのは、福田さんが訳しているおかげ。
 シェイクスピアの英語って、古語で非常に難しい。普通では訳せない感じなんだけど、日本語でもドラマチックに読める。それは福田さんの訳があるからなんですよ。

一同へえ〜!


目からウロコ。これからは内臓で生きる時代!?

池畑営業見習い池畑です。それでは僕の一冊を。『内臓とこころ』三木成夫(著)(河出文庫)です。

 こころとは、内臓化された宇宙のリズムである。夜型人間の秘密、宇宙のリズムと食と性など、わたしたちの身体に刻まれた進化の記憶を子どもの発達過程をたどるなかで、ヒトも宇宙の一部だという事実を思い出させてくれます。

 自分の身体を理解して折り合いをつけていくための助けにもなるかもしれないですね。
 文庫版の表紙はちょっとこわいんですが、中身はとっても優しくてまるいです。なんたって保育園での講演記録ですから。
 まさに内臓で読む一冊。ミシマ社12月の新刊『あわいの力』とあわせて読むと幸せになれるかも。

赤穴内臓系と心のこと両方書いてあるんですか?

池畑そうです。脳と心というのが混同して語られがちだけれど、もっと内臓の観点から心をみたほうがいいというのをおっしゃっていて、内臓と心の関係性もしっかり語られてます。


ささやかに、正直に。心温まるエピソード集。

渡辺営業チーム渡辺です。私の一冊、いかせていただきます。
 『最近、空を見上げていない』はらだみずき(著)(角川文庫)です。

 この本は連作短編集で、出版社に勤めるごくふつうの営業マン・作本を中心に、書店員や編集者、作本の同級生に光を当てた物語が展開され、本にたずさわる者たちが描かれている一冊です。
 
 この小説にスーパーヒーローやすごい人は出てこない。どこにでもいるような、自分の思いにささやかに正直に生きている人たちの、決して劇的ではないかもしれないけれども大切なエピソードが、はらださんの手によって紡がれていて。これが、心がポッと温まるような読後感です。
 ミシマ社の『善き書店員』の世界観にも通じるような。なんか励まされたんですよ。

長谷なるほど。

渡辺当人にとっては重要なエピソードも、他人からしたら些細なことかもしれない。でもそうやって各々が各々の物語を生きているわけです。
 大事なのは目の前の相手が紡いできたであろう物語にもっと敬意を持って接することだよな、なんてことをふと思った次第です。

新居その作者の方は他にどんな作品だされてますか?

渡辺サッカーボーイズ』のシリーズと、『ホームグラウンド』とかです。
 出版営業が主人公というのがあって、感情移入してしまったっていうところですね。またなんか読みたいなぁって思いましたね。


筋の通った生き方かっこいい。粋なおじいちゃんの名推理。

上田 京都デッチの上田です。私が選んだ一冊は『さよならドビュッシー前奏曲』中山七里(著)(宝島社文庫)です。

 下半身が不自由で要介護の認定を受けている、車いすの老人玄太郎が日常生活で起こる不思議な事件を名推理で解決していきます。
 全体を通して描かれる、一本筋の入った玄太郎がかっこいい。正しいことは正しいし、間違っていることは間違っていると、主張を曲げずに、行動していく。また、曲げないでいられるだけの力を玄太郎が築き上げてきたことがいい。

 本自体は小さな物語5つの短編集で、とても読みやすいです。また、全3巻のシリーズですがどれから読んでも楽しめます。

平田上田さんは、ミステリーを好んで読まれるですか?

上田地味なミステリーが好きです(笑)。人が殺されたりとか、グロテスクじゃないやつ。

渡辺重要ですね~。


装丁、紙。全部含めて「本」だということを教えてくれた大切な一冊。

渡辺(久)京都デッチの渡辺久也です。思わず頬ずりをしたくなる本、物欲をかき立てられる本、どうしても自分の本棚に並べたい・・・ということで僕が選ぶ一冊は、『星を撒いた街』上林暁(著)/山本善行(撰)(夏葉社)です。(編註:リンクを下にスクロールしていくと、『星を撒いた街』がでてきます。)
 
 こういう見方で本を買ったのは初めて。もう製本から帯、スピンに至るまで作り手の「愛」を感じる作品。やっぱり紙って偉大だなぁ、と。
 私小説などを集めた短編集で、小説家上林暁としてではなく、一人の人間としての悩みを、幻想的に書かれていらっしゃって、綺麗な小説です。

 妻の病気にふさぎ込んでしまう自らの心を月見草に託す「花の精」が私は一番好きです。繊細さとたくましさ、月見草をめぐってその両面が美しく描かれているのが印象的で、素敵な作家に出会えたました。

新居文体とかが綺麗ですよね。

渡辺(久)「ミシマ社の本屋さん」をお手伝いしたおかげで、出会うことができました。(編註:ミシマ社の本屋さんで取り扱っています。)

三島それはよかったです。


就活で暴かれる人間のエゴ。

赤穴 パートの赤穴と申します。私の今年の一冊は『何者』朝井リョウ(著)(新潮社)です。

 今年の上半期直木賞をとったことでも話題になった一冊です。
 自分と同年代の若者が、就職活動を通して他人を見下したり、見下されたりといった心理が描かれていて、自分のエゴや黒い部分を見つめざるを得なかったです。衝撃を受けた一冊として、おすすめしたいと思います。

一同ふむふむ。

赤穴読者は主人公の目線から、他の就活生を見ているけれど、その目線すらもエゴイスティックなものだったんだなと、最後には気づかされ、いろいろと反省の気持ちで一杯になりました(笑)。

寄谷リアリティありますね。


簡単というのは手抜きではない。コツと技、です。

星野編集チーム星野です。私の今年の一冊は、みっきー(編註:新居は社内でみっきーとよばれています)に教えてもらって買った、『一人ぶんから作れるラクうまごはん』瀬尾幸子(著)(新星出版社)です。

 今年間違いなく一番多くページを開いた本で、言葉どおり、私の血となり肉となった一冊です。今年から一人暮らしを始め、目標が体重維持と健康だったのですが、この本のおかげでなんとか達成できました。

一同よかった(笑)。

星野一人暮らしだと、お料理自体は嫌ではなくても、買った野菜などを使い切れずに冷蔵庫で腐らせてしまったりすることで、一気に気が滅入ってやりたくなることが多いのですが、この本で紹介されている食材の下準備を実践するようになってそういうことがなくなりました。

新居紹介した私より星野さんの方が使っている気がする(笑)。

星野どのレシピも簡単で美味しいので、働く女性たちにぜひたく読んでほしいなぁと思う一冊です。

新居基本的にぶちこむだけなんですよね。

平田いろいろあるレシピ本の中で、このレシピ本は何がちがうんですか?

星野食材の保存の仕方の解説が秀逸なんです。
 お肉はゆでて、ゆで汁と一緒に保存しとくほうがいいとか、青菜でも種類によって茹で時間が違うとか。簡単なんだけど知らなかった情報がいっぱいです。


岩波茂雄に「原点回帰」を見る----。

三島社長の三島です。では最後、私が(本を取り出す)。
岩波茂雄 リベラル・ナショナリストの肖像』中島岳志(著)(岩波書店)。

 出版人として、編集者として、そして一人の経営者として。言論統制吹き荒れる時代を、この出版人はいかなる態度で臨んだか。それを知るだけでも一読の価値あり。

一同あ~

三島なんやねん! その残念そうな反応は。
(編註:三島はミーティングや飲み会などことあるごとに、この本をおすすめし、熱弁をふるっているため、メンバーはもうお腹いっぱい状態なのであります・・・本は、とっても素晴らしい本です。)


 さてさて、皆さんはどの一冊が読みたくなりましたか?
 座談会では、最後にひとり一冊ずつ指差し投票した結果、今回は私ヨッセーこと寄谷推薦の『喪失の国、日本』がえらばれました。
 人からのおすすめを聞くと、いつもとはちがった視点で本選びができておもしろいですよね。
 みなさんのご感想や、おすすめの一冊もぜひ教えてください。お便りお待ちしております。

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