ローカルメディアのはなし。

第8回 雑誌Re:Sのこと。その4「グローバルを疑う」

2017.02.22更新

 資本はなくとも、華やかな雑誌のみなさんと同じ舞台に立たせてもらえるんだという事実に、書店というメディアの包容力を感じた僕は、以降、当然のように書店員さんの存在を強く意識するようになりました。

 「なんだかわからないけれど『Re:S』は他の雑誌とは違う」と感じ、だれよりも早くアクションを起こしてくれたのは間違いなく書店員さんでした。当たり前ですが、書店員さんというのは、その土地で暮らし、その土地のお客さんを思いながら仕事をされています。書店員さんに限らず、地方で仕事をする人たちは、都会でバリバリと働く方に比べて、なんだかとても地味に映りますが、僕はそういった人たちの確かな仕事に触れるたびに、編集者としての使命がむくむくと立ち上がってくるのを感じました。


 当時、しきりに言われていた「グローバル化」や「グローバリゼーション」なる言葉を僕はずいぶん疑っていました。いや、正確に言うなら世の中で共有されている「グローバルな生き方」に対して、疑問を感じていました。

 僕はなにも世界規模で物事を考えるということを否定しているのではなくて、真にグローバルな生き方を考えたとき、それは世間で言われているような、英語力を武器に世界各地への往来を繰り返すような機動性を持つことなのだろうか? ということが疑問でした。もしそれが本当に僕たちの進むべき道なのだとすれば、上述の書店員さんのように、地方で真摯に考え続ける人たちを否定することにならないか? と。

 このことを話すと、ずいぶん驚かれるのですが、42歳の僕はいまだ日本を出たことがありません。日々、日本中を飛び回っているような印象の僕は、同じく海外にもよく行っているんだろうと思われるのですが、そこは僕にとってとても大事な境界なのです。

 決してネガティブに引きこもりたいわけではなく、言うなれば僕なりのグローバリズムの覚悟のようなものです。『Re:S』創刊の頃からもう10年、いまだに「英語くらい話せないと」的グローバルは増幅しているように思います。
 多言語を話し、世界各地に友だちがいて、もはや海外で暮らしていけるような順応力のある人は、確かに素晴らしいと思います。しかしそういう人だけが評価される世の中はおかしい。

 秋田県の『のんびり』で副編集長をしてくれていた矢吹史子は、日本どころか秋田県を出たことすら片手で数えられるほどしかないような子でした。そのことに対して彼女はコンプレックスを持っていて、けれど僕はそれは勲章だと言いました。ひとつの土地に居続けることの価値は、世界中を飛び回ることと同じだけの価値があるのだという当たり前のことを、どうして世の中の雑誌は伝えないのだろう? 僕は『Re:S』をとおして、それを伝えたいと思いました。


 自分が暮らす地域や、友だち、家族など、自分を形作る外側の世界から自分の内側へどんどん思いを深めていった先にはじめて本当のオリジナリティが確立されるのだと思うし、さらに突き詰めていくことで、人間としての普遍的な問いや、またその解にまで触れられる瞬間があって、そのほうが僕はよっぽどグローバルだと思います。

 『Re:S』の旅取材中、「このあたり、なんかええ風景やなあ」なんて思って車を降りてみると、近くに美しい神社があるという経験を何度も繰り返しました。最初は偶然だと思っていたのですが、あまりに何度も繰り返すうちにそれが必然であることがわかってきました。神社がきれいにされているということは、すなわちその地域のコミュニティがいまもなおしっかりと機能しているということで、だからこそ街全体の景観が守られ、思わず写真に撮りたくなるような風景が残されているのです。

 そしていまや、そのような日本の原風景は、海外からやってくる人たちが日本を感じる貴重な場所となっています。すなわち、個人が地域とコミットしていくその先にしか、グローバルな視点に耐えうるモノなんて生まれないと思うのです。

 多くの会社の採用面接で「転勤は可能ですか?」という質問があるといいますが、結局企業としては、「地元の祭りがあるんで休ませてもらいます」なんて人材よりも、地域や家族との繋がりが薄い人たちの方が都合がいいわけです。

 だからこそ都会のメディアでは、そういうしがらみのない機動性の高い人をもてはやすのかもしれません。経済至上主義な価値観のもと、来月からシンガポール支社へ。なんて無茶を正当化するのに、グローバルという言葉はとても便利ですが、個人と地域とのつながりを放棄するようなグローバリズムは、真のグローバル足りえないと僕は思います。

 だから僕は真摯にグローバルを思うほど、一見、真逆にあるような「ローカル」を『Re:S』という雑誌をもって伝えなきゃいけないと思ったのです。

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藤本智士(ふじもと・さとし)

1974年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌『Re:S』編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン『のんびり』、webマガジン『なんも大学』の編集長に。編集・原稿執筆した『ニッポンの嵐』ほか、手がけた書籍多数。自著に『ほんとうのニッポンに出会う旅』(リトルモア)。編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)、近著にイラストレーターの福田利之氏との共著『いまからノート』(青幻舎)など。

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