みんなのおむすび

第17回 映像と食プロデューサーの「リセットおむすび」

2017.05.10更新

 ほかほかご飯に好きな具材を合わせるだけ。シンプルで安くて、だれにでも作れるおむすび。なのに、 口にすると不思議な満足感が――。そこに秘められた "おむすびの心" を探るべく、創作野菜料理家・宮本しばにが、日本中のおいしいおむすびを巡り、レポートをお届けしています。今回は、"Film×Food"から生まれるプロジェクトの仕掛人・岡田真紀さんのおむすびです。

 今回は京都の映像制作会社「CHANCE MAKER」の代表、岡田真紀さんを訪ねました。
一階は彼が経営するコーヒースタンド「WANDERERS STAND」。二階は映像を観るための広いスタジオスペースなっていて、奥にはキッチンがあります。「刺激的な人たちが集まる'場'を作りたい」というのが岡田さんの思い。いろいろなジャンルの人が集まり、食事をし、意見交換をしながらおもしろいコトやモノを創作していく、というのが彼の会社のコンセプトです。


 岡田さんが小さい頃、共働きで忙しかった両親が、彼と弟さんをいつも預けたのは能登半島に住む祖父母の家でした。
 夏休みはずっとそこに滞在し、祖父母から野菜の育て方や見分け方、魚のさばき方、お米の作り方、梅干しの作り方、五右衛門風呂の焚き方など、自給自足的なあらゆることを学びました。
 小学低学年のときに自分たちで能登の海水で塩を作り、ごはんを炊いておむすびを作ったこともあるそうです。

 小学生のときから料理をしていたという岡田さん。イギリス留学中、日本食が食べられなかったとき、日本人の友人の家に行くと真っ先にごはんを炊き、塩むすびを作り、食べながら何度も涙したそうです。
 そのぐらいおむすび好きの岡田さんは、今でも時々、休日の朝にごはんを炊き、おむすびを作ります。

 スタッフのまかないを作るときも、自らおむすびを握るそうです。握るときは大きくしたり、小さくしたり、スタッフに合わせたおむすびです。「今日はがんばったな」「次はもっとちゃんとやれよ」「お疲れさま」など、ひとりひとりにメッセージを込めて握ります。
 前職場では、スタッフが買ってくるお弁当を覗いては「クリエイティブな仕事をしている人間がこんなもの喰ってちゃダメだ」と一喝することも。若い人たちが彼についていく所以は、こんな彼の「親心」にあるのでしょう。
「良い仕事をするには、自分の身体を作ってくれる、口に入るものに気を使わないといけない。人を育てるには食事が大事」という信念と実践を続けていくリーダーは、とても頼もしく見えました。

 岡田さんにとっておむすびとは? という質問に「自分の時間に戻るためのスイッチです。おむすびを食べるとリセットされるんですよね」と答えてくれました。

「食」でリセットできるのであれば、食事の選択はとても大事になってきますね。自分にとってリセットできる食事はなんだろう......。心を鎮め、同時に明るくしてくれる食事。それが何であれ、大切な「記憶」を含む食事なのでしょう。

 カラダは心に従う、と私は思います。心を喜ばす食べ物はカラダに良い影響を及ぼします。おむすびは単に食べ物というだけではなく、心とカラダの力を蓄える、底力のある日本食の原点だと思いました。



こだわりのコーヒーとパン

 映像の仕事をする仲間たちを含め、みんながすぐにおいしいコーヒーが飲めて、小腹が空いたときも食べられる'場'。それが「WANDERERS STAND」。
 何度も試作を積み重ねてWANDERERS STANDのおいしい自家製食パンは作られます。


人のためにむすぶ"まかないおむすび"

 インタビューのときはリーダーとしての鋭い目をしていたのに、おむすびを握り始めたら無邪気な少年のようになった岡田さん。

 スタッフが日々パンを焼き、料理を作るキッチンです。
 キッチンにつながるスタジオスペースでは、これまで様々なイベントを開催しました。自社で制作したモンゴルのドキュメンタリー映像の上映とモンゴル料理を食べる会、モロッコ雑貨展示とモロッコ料理の会、中国の屋台と酒の会など、人+料理+モノを繋げるたのしい企画ばかり。キッチンはいつも賑やかです。

 自分の時間にもどるために、おむすびを握る。そしてスタッフがちゃんと育っていけるように、彼らのリセットのためにも、おむすびを握る。"親分"はいつも人のためにおむすびを作ります。

 おむすびに入れる食材は「ゆかり」が定番。
 今回は彼が育った能登半島の見慣れない海藻加工品たちも加わりました。
 わかめは手でちぎって混ぜごはんやおむすびに。また、昆布をぎゅっと濃縮させたような「玉藻(たまも)」はおむすびの具として使うそうです。

 まかないはスピーディーに作れて、みんなが仕事の合間にさっと食べられるように、あまり食材などにこだわらず、ちゃっちゃと作ります。
岡田さんのおむすびは少し小さめ。コロリと丸くて、かわいらしい。
おむすびの「心地良いサイズ」は当たり前だけど、みんな違う。

 この取材で岡田さんの、会社を統轄するリーダーとしての、スタッフ(仲間)に対する愛情と親心を、食を通して垣間見ることができました。父性本能というのは、こういう形なのでしょうか。若く、まだ経験の浅い部下たちを、おむすびでねぎらい、叱咤激励し、切磋琢磨しながら彼らと共存していこうとする岡田さんに、深く感銘を受けました。

 彼が育てた若い人たちが、いろいろな形で活躍されるのでしょうね。CHANCE MAKERの皆さま、良い作品をどんどん世に出すべく、おむすびを食べて頑張ってください!



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おむすびの心 その十七
おむすびを握り、食べながら、自分の時間にリセットしよう。
そして、親心の想いを込めて。周りの人たちにも握ってあげよう。
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岡田真紀さん
CHANCE MAKER(チャンスメーカー)
http://chance-maker.jp/
http://inspiring-pp.com/

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文:宮本しばに 写真:野口さとこ

【文】宮本しばに(みやもと・しばに)
創作野菜料理家。20代前半にヨガを習い始めたのがきっかけでベジタリアンになる。結婚してから東京で児童英語教室「めだかの学校」を主宰。その後、長野県に移り住む。世界の国々を旅行しながら野菜料理を研究。1999年から各地で「ワールドベジタリアン料理教室」を開催。2014年10月には「studio482+」を立ち上げる。料理家の視点でセレクトしたキッチン道具&食卓道具のオンラインショップをスタートさせる。 著書に『焼き菓子レシピノート』『野菜料理 の365日』『野菜のごちそう』(以上、すべて旭屋出版) ほか。日本のソウルフードであるおむすびには日本独特の精神性があると感じている。売り物ではない「家庭のおむすびの心」の部分を、全国を歩きながら探索中。
studio482+

【写真】野口さとこ(のぐち・さとこ) 北海道小樽市生まれ。写真好きな両親の元、幼少期より写真に興味を持つ。 大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。 2011年、ライフワークのひとつである”日本文化・土着における色彩”をテーマとした写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで展示される。2014年12月より、移動写真教室”キラク写真講座”を主宰している。
http://www.satokonoguchi.com/

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