みんなのおむすび

第16回 佃煮屋のおむすび

2017.02.06更新

 ほかほかご飯に好きな具材を合わせるだけ。シンプルで安くて、だれにでも作れるおむすび。なのに、 口にすると不思議な満足感が――。そこに秘められた "おむすびの心" を探るべく、創作野菜料理家・宮本しばにが、日本中のおいしいおむすびを巡り、レポートをお届けしています。今回は、京都東山区で佃煮屋を営む「津乃吉」さんご一家のおむすびです。



 佃煮屋「津乃吉(つのきち)」は京都市東山区にあります。
 お店ののれんをくぐると、ちりめん山椒、昆布の佃煮、みその加工品、煮豆など、ホカホカごはんに合いそうな商品がずらりと並んでいます。どれもおむすびにも合いそう......。
 130年のあいだ米屋だったという津乃吉ですが、吉田和親さんがごはんに合うおかずを作りたいと、佃煮屋を始めました。息子さんの大輔さんが小学生のときです。今では親子二代で商品開発、製造、販売をしながらお店を守っています。



 津乃吉の商品はすべて無添加です。時代の流れでそうなったわけではなく、無添加にしたほうがおいしかったから、という理由からです。昔、お父さんは作った佃煮をまず子どもたちに食べさせて、「おいしい」と言ってくれたら商品化したそうです。なるほど、家族は嘘をつかないし、遠慮なく何でも言い合えて、信頼できる「お客様」ですね。

 「この店を継いでから食に対する意識が変わりました。津乃吉=僕なんです。佃煮はからだに入れるものだから良いものを使いたいし、お客様にも良いものを知って欲しいし、調味料もできるだけホンモノを使ってもらいたい。でも食は『おいしい、楽しい』が原点。そうじゃないと意味がないと思います」と大輔さんは語ります。

 津乃吉は大輔さんにとって表現する場であり、作品でもあるわけで、モノづくりに携わる人間としての嬉々とした誇りが、彼の言葉からひしひしと伝わりました。

 吉田家では大輔さんのお母さんがおむすびを握ります。おむすびを作るときのコツは? と聞いてみたところ「コツは何にもない。適当にね、笑。具が出てこんようにするだけ。でも硬く握るのはダメやねぇ」とお母さん。どう握ったらおいしくなるかは、お母さんの手が覚えているのでしょう。慣れた手つきでチャッチャと握ります。

 思うに、おむすびは「何でもなくなる。空気みたいになる」ところまで行けば自然においしくなるのではないかしら。考えたり、悩んだりするようでは、まだまだ。「おふくろの味」がそうであるように、手やからだが勝手に動いてくれるようになれば、味も自然にととのってくるのでしょう。お母さんがおむすびを握る姿を見ながら、そんなことを考えました。

 おむすびは「津乃吉の商品を一番よく伝えられる食べ物」なんだそうです。吉田家にとっておむすびは力強い応援団ですね。


ガス釜で炊くこだわりのごはん



 昔はかまどがあって、藁(わら)でごはんを炊いていたそうです。かまどがなくなってからも、ずっとガスの炊飯器。電気よりもおいしく炊けるそうで、元米屋のこだわりです。


自慢の佃煮をおむすびの具に



 津乃吉の商品である佃煮が、おむすびの具に。ちりめん山椒、昆布の佃煮、かつお味噌、山蕗の佃煮。近年、山に入る人が少なくなってきて、今では山蕗は貴重な食材です。ちりめん山椒は混ぜごはんにしてからおむすびにします。
 津乃吉の商品はすべて手作り。だから1日に作れる量は100〜500袋(瓶)/1商品です。おいしい、を追求するには当然ながら時間と手間がかかりますね。



 お母さんの手がしなやかに動いて、ふんわりとしたおむすびが出来上がり! おいしいおむすびはお母さんの専売特許みたいなものですね。

 大輔さんの娘さん、めいちゃんもこの日はおむすび作りのお手伝い。おむすびを食べる幸せな瞬間です。小さい頃の大輔さんがそうだったように、めいちゃんも津乃吉の味の評論家になるのかもしれませんね。

 親子3代がおむすびを握って食卓を囲む光景を見ながら、久しぶりに自分の子供の頃の「家族の団らん」を思い出しました。昭和の時代ってこんな空気感がありました。
 おいしいね、楽しいね、は食の原点だと思います。「どんな食物を摂取すれば健康になれるか」はたしかに大事かもしれません。でもそこには大切な何かが足りない。
「心を満たす食卓」。今こそ、このことをもっと真剣に考えたいな、と改めて思いました。
賑やかなインタビューとなりました。吉田家の皆様、ありがとうございました。




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おむすびの心 その十六
おむすびは無心で握れるようになるまで何度も何度も作る。
そして「おいしいね、楽しいね」の食卓を考えていこう。
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吉田大輔さん
「津乃吉」
京都市東山区新宮川町通五条上る田中町507-8
http://www.tsunokiti.com/

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文:宮本しばに 写真:野口さとこ

【文】宮本しばに(みやもと・しばに)
創作野菜料理家。20代前半にヨガを習い始めたのがきっかけでベジタリアンになる。結婚してから東京で児童英語教室「めだかの学校」を主宰。その後、長野県に移り住む。世界の国々を旅行しながら野菜料理を研究。1999年から各地で「ワールドベジタリアン料理教室」を開催。2014年10月には「studio482+」を立ち上げる。料理家の視点でセレクトしたキッチン道具&食卓道具のオンラインショップをスタートさせる。 著書に『焼き菓子レシピノート』『野菜料理 の365日』『野菜のごちそう』(以上、すべて旭屋出版) ほか。日本のソウルフードであるおむすびには日本独特の精神性があると感じている。売り物ではない「家庭のおむすびの心」の部分を、全国を歩きながら探索中。
studio482+

【写真】野口さとこ(のぐち・さとこ) 北海道小樽市生まれ。写真好きな両親の元、幼少期より写真に興味を持つ。 大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。 2011年、ライフワークのひとつである”日本文化・土着における色彩”をテーマとした写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで展示される。2014年12月より、移動写真教室”キラク写真講座”を主宰している。
http://www.satokonoguchi.com/

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