みんなのおむすび

 2016年10月、ミシマガで「みんなのおむすび」を大人気連載中の料理家・宮本しばにさんのレシピ集『野菜たっぷり すり鉢料理』(アノニマ・スタジオ)が発刊になりました。

「擦る」だけではなくて、たたく、つぶす、おろす、あえる......ええっ、こんなすり鉢の使い方があったの!? と、その新しさと可能性、そしておいしさにびっくりして、すり鉢の魅力を再発見できる一冊です。
 素敵なお料理のお写真の数々は、この「おむすび」連載でもおなじみ、野口さとこさんが撮られています。

 今回は著者である宮本しばにさんと、企画・編集を担当された友成響子さんに、すり鉢料理の魅力をうかがいました。前後編でお届けします。

(聞き手・構成:新居未希、写真:野口さとこ)

番外編 『野菜たっぷり すり鉢料理』刊行インタビュー(前編)

2016.11.24更新


どうして、すり鉢のレシピ本を?

しばに今まで、すり鉢のレシピ本は一冊も出てないんですよね。まるで私たちを待ってくれていたかのように(笑)。

友成すり鉢って、台所道具としては持っている人はだいぶ少なくなってしまっているんだけれど、男性でも女性でも、すり鉢のことを知らない人ってあまりいないんですよね。すごく不思議なんですけれど。

―― どうして、すり鉢の本を作ろう、ということになったんでしょうか?

しばに15年くらい前に、幼稚園のお母さんたちに料理教室をしたとき、すり鉢ひとつでできるクッキーをみんなで作ったんです。すり鉢ひとつで全部完了するから、子どもたちと一緒に作れるし楽しいなと思って。そしたらそのとき、半分以上の人がすり鉢を持っていなかった。それが結構ショックでね。みんなが持っている道具だと私は勝手に思っていたから。それがずっと頭に残っていたんですよね。それもあって、自分がお店をやるときにはすり鉢を扱いたい、とは思っていたんです。だから実際にお店(studio482+)を始めることになって、本でも使わせてもらっている加藤智也さんのすり鉢に出会えたときは「これだ!」と思いました。あるとき「すり鉢をもっと広めたいんです」という話を何かのセミナーの帰りに友成さんに話をしたら、すごく関心を示してくれて。

友成その前から、しばにさんから土鍋やすり鉢で作る料理のお話を聞いていて、私自身もとても惹かれていたんですね。すり鉢だけで作る料理の本があったら役立つんじゃないかなって考えていたんです。
 とにかく、しばにさんがすり鉢を使って作られるお料理たちが新鮮でした。和だけじゃなくて、洋・中・エスニック、何にでもすり鉢を使っている。スパイスをすり鉢でつぶしたり、すり目でにんにくをおろしたり。それにすごくびっくりして。
 すり鉢って、懐かしくてレトロ、面倒だけど手間をかけてやるスローライフの象徴、みたいなイメージを持っている人が多いと思うんです。だけど、そういう懐古的な過去のものじゃなくて、バリバリ現役の調理道具なんだとハッとさせられて。

―― それは私も、この本を拝見して感じました。え、和食じゃなくてもいいんだ、麻婆豆腐、カレー、パスタにすり鉢......どういうこと!? と(笑)。

友成そうなんです(笑)。すり鉢では精進料理しか作っちゃいけないんじゃないか、みたいなイメージが、なんとなくあったりしますよね。古いものを大切にという想いも、しばにさんはもちろんお持ちなんですけど、本として伝えていきたいのは、いまの食生活に合うような新しいすり鉢の形もあるんだよ、ということだなと。

しばに私のなかでは、もともと"新しい"という感覚ではなくて、ほんとに普通のことだったのね。当然のように、すり鉢って何にでも使えるよね、という感じだった。マヨネーズだってすり鉢で作れるし、ホールスパイスもすり鉢で擦ったら絶対おいしいよなあ、とか。それを面白いと言ってもらえたのは、逆に驚きでもありました。
 本を出すということになって、改めて自分の料理を見直してみると、「あれ、これもすり鉢で作ったほうがおいしいんじゃない?」というものもけっこうあったり。麻婆豆腐もそうですね。

―― 私のなかでは、すり鉢=胡麻和え、みたいなイメージだったので、びっくりでした。まさに"創作料理"だ! と。

しばにでも全部のレシピをオリジナルで作っていたり、ゼロから創作してたりっていうわけではないんです。世界中にいろんなお料理があるけれど、それぞれの古典的な作り方、伝統的なレシピというものをちゃんと大事にしたいと思っていて。それを、たとえば日本のお野菜に合うようにすこしアレンジする。そういうふうに創作しています。


しばにさん愛用、山只華陶苑のすり鉢

―― 実は私も、しばにさん、友成さんの作るすり鉢お料理のおいしさに惹かれて(何度かご馳走になっている)、すり鉢を買ったんですよね、しばにさんのところで。

しばにそうそう、すごくうれしかった〜。

―― それ以来、ポテトサラダでもなんでも、すり鉢にとりあえず突っ込んでます(笑)。ボウルと違ってそのまま食卓に出せるのもいいですよね。

しばにそうそう、調理したボウルをそのまま食卓に出すのはすこし気がひけるけど、すり鉢は器としてもいいから、そのまま出せるんですよね。

友成うんうん。でもすり鉢も、昔ながらの大きなものだと、ちょっと難しいですけど、たとえばこの本での撮影で使っているすり鉢みたいに、小ぶりで見た目も素敵なものが最近は増えてきているようですね。

しばにこのすり鉢は、加藤智也さんという多治見焼の陶芸家さんが作られているものなんです。出会ったのはいつ頃だったかな......東京の、家事道具を置いているお店で見かけて、すっごく素敵で、ラブレターを書いたんです。それから直接会いにいって(笑)。
 はじめて使ったときはショックに近かったんです。ゴマってこんなに香るんだって。

友成もちろん、この本のレシピは、加藤さんのすり鉢じゃないすり鉢で作っても、大丈夫なように考えられています!


(左)加藤智也さん。山只華陶苑七代目。
(右)直線と曲線が混じり合う「波紋櫛目」のスリ目。このスリ目を9年かけて作り上げた。特有の擦り目を入れるための道具も全部自作。従業員はできなくて、加藤さんにしか作れないシロモノなので、たくさんは作れない。右利き左利き関係なく使うことができる。


(後半につづきます)

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文:宮本しばに 写真:野口さとこ

【文】宮本しばに(みやもと・しばに)
創作野菜料理家。20代前半にヨガを習い始めたのがきっかけでベジタリアンになる。結婚してから東京で児童英語教室「めだかの学校」を主宰。その後、長野県に移り住む。世界の国々を旅行しながら野菜料理を研究。1999年から各地で「ワールドベジタリアン料理教室」を開催。2014年10月には「studio482+」を立ち上げる。料理家の視点でセレクトしたキッチン道具&食卓道具のオンラインショップをスタートさせる。 著書に『焼き菓子レシピノート』『野菜料理 の365日』『野菜のごちそう』(以上、すべて旭屋出版) ほか。日本のソウルフードであるおむすびには日本独特の精神性があると感じている。売り物ではない「家庭のおむすびの心」の部分を、全国を歩きながら探索中。
studio482+

【写真】野口さとこ(のぐち・さとこ) 北海道小樽市生まれ。写真好きな両親の元、幼少期より写真に興味を持つ。 大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。 2011年、ライフワークのひとつである”日本文化・土着における色彩”をテーマとした写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで展示される。2014年12月より、移動写真教室”キラク写真講座”を主宰している。
http://www.satokonoguchi.com/

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