ミルコの六本木日記

第44回 平松洋子さんの「小鳥来る日」

2013.03.01更新

会社を辞めて通勤がなくなり、治療が終わって通院がなくなり、東京にいる理由を失った私は実家に帰った。
実家の庭に老梅の木があり、小枝の伸びる根元に小さな巣箱を母が置いていた。
そこにはよく小鳥が来る。
去年は初めてたまごがかえり、雛が生まれた。
小鳥の赤ちゃんたちはほんとうによく鳴く。
ヒマな私はしょっちゅう居間の窓から庭をながめ、巣箱に注目していた。
親鳥が時々やってきて、ごはんをあげているようだった。

「巣箱のそばに行くと親鳥が警戒するからあかんで」と父は言いながら、自分は何度も見に行っていた。
雛が大きくなり巣立ってゆくのをこれから見れるかと楽しみにしていたが、あるときぱたりと鳴き声がやんだ。

「もう巣立っちゃったのかな?」

しばらくそっとしておいたのだが、一日たち、二日たち、とうとう見にいくと、赤ちゃんたちは、亡くなっていた。
巣箱の底に、数羽折り重なるように横たわっていた。
かれらの待っていた親鳥が、戻らなかったのだ。

平松洋子さんから、新刊「小鳥来る日」(毎日新聞社) をいただいた。
毎日新聞に連載されていたエッセイがまとまったのだ。
平松洋子さんとは面識がないのだが、中の一編で私の本のことを書かれているので送ってくださったのだ。
心から嬉しく、そしてたいへん恐縮している。
まだお会いしたことのない平松洋子さんは、観察することと感じることの名人だ。
私ごときが言うまでもないが、そのエッセイの見事な一編一編にしたをまく。
じっくり味わいながら、毎日数編ずつを読んだ。

作品をつらぬいているのは「待つ」である。
この本にかぎらず、平松洋子さんをみんなが好きな理由の、大事なひとつなんだと思う。
ぐんぐん走って、置いてきてしまったものに、ふと気づく瞬間を 「待つ」
すぐの結果を求めて苦しくなってしまう時を乗り越えられるように 「待つ」
人間だけが生きてるんじゃない地球の呼吸とともに 「待つ」
消えた片方の靴下や、「裏」ではなくじつは「表」の"足の裏" や、太陽の方角に甲羅を向け、首をびょーんと高らかに伸ばし切っている亀さんや、おとなになって再会した「ひみつのアッコちゃん」・・・などなどに、自分が待つこと、自分を待ってくれていた人やものーーをしたためて、平松さんは「待つ」の貴さと愉しさをおしえてくれる。


あるもの、ないもの。両方には同等の意味がある。または、こうもいえるだろう。不在は、じつは確かな実在のかたちでもある、と。 <中略>
こんなふうにしげしげとすきまをみたことがなかった。がぜんその気になって焦点をずらすと、そこには無数の青い文様が点在しているーー。目を凝らすと、なかには雲の白もあった。はじめて眺める意外な模様に意表を突かれ、飽きなかった。
ーー「レース編みのすきま」より(平松洋子著・「小鳥来る日」)

二十年ぶりに実家に帰った私をさらりと迎えてくれた両親に、感謝している。
こんな言い方はしたくないのだが家族のもとに帰った私は思い知る。「私は愛されたかった」のだと。


〜お知らせ〜

女性のからだ情報誌「PiNK」(2013年春号 ・3/15 頃発行/ フリーペーパー ) に、サバイバーストーリーを書きました。

朝倉かすみさんの「夏目家順路」( 文春文庫・4/10 発売 ) に解説を書きました。

フラメンコダンサー マリア・パヘス氏について書きました。(PHPスペシャル3/10発売号)

ジャズ作曲家 狭間美帆さんについて書きました。 http://kobejazz.jp/

新しい連載 「ブルーノート入門」  http://www.jazz.co.jp/


秦組公演「タクラマカン」に音楽班で出演します。
2013年5月31日(木)〜 6月9日(日)(東京)、6月11日(火)(大阪)、計11日公演
【東京公演】あうるすぽっと(東池袋)
【大阪公演】サンケイブリゼホール

お問い合わせ:オフィス・REN tel.03-5829-8031(平日12時〜18時)

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

山口ミルコ(やまぐち・みるこ)

プロデューサー、編集者として出版社で20年、現在はフリーで芸能、文芸のさまざまな企画にかかわっている。趣味は楽器演奏。「ジャズジャパン」、フリーペーパー「BIGBAND!」、富士通テンの音楽情報サイトKOBE jazz jp などにエッセイを書いている。
著書に『毛のない生活』(ミシマ社)がある。

http://kobejazz.jp/

毛のない生活

バックナンバー