第2回 乳ガンとの出会い
体の薄く平べったいコアラが空を飛んでいる。
色は茶で、太く硬そうな体毛に覆われている。
その周りに、いっせいに小さな虫が飛んで来、コアラをぐるりと取り囲むと、視界を阻まれたコアラは前へ進めなくなり、墜落した。
奇妙なコアラの夢をみたのは、ガン告知を受けた頃だ。
在職中から体調が悪く、偏頭痛にも悩まされていた。
不安でたまらなくなる。その暗い波がすぎると、だいじょうぶ、という波がくる。その繰り返しの日々を過ごしていた。
朝めざめると、まず右胸を触る。
そして、しこりを確認。
それは心配をかける小さな分身のようだった。
三角帽子をかぶり、足は小枝のように細い。
おだやかな朝を迎えたときは、ひざを抱え体育座り。
心にトラブルが生じたり、飲み食いがすぎると、暴れていた。
その分身が、いまはもういない。
腫瘍は外科手術で取り去ってもらった。
私にしがみついていた分身は、遠くに行くしかなくなった。
からだは信じられないほどラクになり、私は本当に元気になった。
分身に振り回された私はじつに忙しかった。
退職してちょっと寂しくなるくらいじゃないかと思ったりしたが、ぜんぜん違った。一日のなかで感情は大きく上下し、考えることがいくらでもあった。勉強も必要だった。本も読んだし人にも会った。
私は得がたい体験をしたと思っている。
地球の運命とつながっている自分というものを、生まれて初めて真剣に考えたからだ。
これからも生きて、仕事をしたいと、思った。
