第5回 抗がん剤の福作用
トラの肉の串焼きを食べる夢をみた。
それが抗がん剤だというので食べることになったのだった。
来年がトラ年というのとなにか関係があるのだろうか。
「抗がん剤の不快感から逃れるすべはない」
と本で読んではいたが、そのとおりだった。
どれほど吐いても、髪が抜け落ちても、痩せ細ろうとも、それでも人生は続くしよいことが全滅するわけではけっしてない。
私は同じ病いの友を得たし、20年離れていた家族との時間を持てたし、きつかった靴が穿けた。外に出れない時間を使って、さぼっていた日本史の勉強やバディ・デフランコのコピーもした。
そのうえ私の腹に、丹田が出現した。
ヘソ下ゆび三本。おさえてみると、まさに"たん・でん"というふうに、池のごときくぼみをたたえているではないか。
貝原益軒先生も、中村天風先生も、五木寛之先生も、私の敬愛する先達はみな丹田のことを書いている。
「ついに丹田を見つけました」
合気道をやっているミシマさんにメールを送ると、すぐに返事がきた。
「それはおめでとうございます 丹田は命の中枢です」
命の中枢、素敵だ。私はそれが欲しい。自分の長年望んでいたものが、そこにあるような気がした。
バディ・デフランコ=クラリネット奏者
ミシマさん=ミシマ社社長
