第12回 毛のある生活
湯船に浸かりながらゆらめく陰毛を見つめている。
人体のふしぎ。生命のふしぎ。
いったん私の全身から絶滅した体毛が、ふたたび芽生えている。
頭髪は自分では見づらいのだが、睫も眉毛も、濃く、力強く、これもすべて私の血でできているのかと思うと泣きそうになる。
毛の復活とともに、私はちょっとやる気になってきた。
前はなんかつらくて見れなかった「幻冬舎出版目録」を引っ張り出し、自分の作った本にマルをしてみる。
自分のだけでなく、本のタイトルごとに仲間たちの顔がうかび、大変だったけれど皆一丸となって働いた、楽しかった会社員時代の熱い血潮がよみがえってきた。
「ワイド! スクランブル」で中西哲生さんがサッカー、デンマーク戦での日本の勝因はずばり「一体感」だと語っており、中西さんの手書き文字の「一体感」を見て懐かしさのようなあたたかな気持ちがこみ上げてきた。
デンマークの首都はコペンハーゲン。
私が子どもの頃、父は世界中を飛び回っていた。
主に当時のソビエト連邦に用のあった父から、コペンハーゲン、アンカレッジ、ストックホルムの地名をよくきいた。
東西冷戦でソ連はシベリア上空をどこの国にも開放していなかったので、日本からモスクワへ行くにはまず羽田からアラスカへ、ホッキョクグマの上を通ってデンマーク、スウェーデンと三カ国を経由しなければならなかったのだ。
遠い国に、また行きたくなってきた。
これも血だろうか。
