理想と現実、理論と実践、表と裏、S(出版社)とM(ミシマ社)......。「出版社をつくる!」、「ミシマ社のばあい」という二つの視点から、100年後のミシマ社メンバーに向けて、「ミシマ社が目指すもの」を語る。
第9回 出版100年構想
この一月ほどずっと考えていたことがある。
出版社はこれからどうしていけばいいのか。
今、出版界にとって、一番の問題は何か。
考え抜いた末に、明確な結論が出た。
というわけではない。
ただ、きっとこういう方向性でいけばいい、というものは見つかった。
今回は、趣向をちょっと変え、そのことを話したい。
結論からはじめよう。
「日本全国に出版社を」
これに尽きる。
出版をとりまく環境は、わかりやすいほど逆風が吹いている。
デジタルコンテンツの普及、活字離れ、あいつぐ雑誌の廃刊、そのあおりからくるリストラ、新卒採用の激減・・・・・・そうした現象を分析材料として、出版の未来を予測する人たちもいる。
それはそれで意味はある。だが、そうした分析は、あくまでも評論家の仕事であって、僕らの仕事ではない。
僕らはその内部で日々戦う、プレイヤーなのだ。
「どうなるか」を傍観しているばあいではない。
「どうしていくか」を真剣に考え、行動していかねばならない。
たしかに本は売れにくくなっている。
困った、困った。とみんな口をそろえて言う。
だが、一体、何が困ったというのか。
ためしに、出版関係者が周りにいたら、ぜひ聞いてみてほしい。
「何が困るのですか?」
そう訊ねて、
「未来だよ!」
と即答がくれば上等。ただし、そのときの「未来」は、出版界にとっての未来か、それともあなたにとっての未来か。
もし、あなたの生活がぐらつくから、という理由であれば、話はもっと困ったことになる。
今、本が売れなくて困っている理由は、何も、将来の生活が不安になるから、というレベルではない。もはや、そういう悠長な段階は終わっているからだ。
いま問題なのは、未来に向けた「出版人口」が減っているという現実だ。
出版人口というのは、読者の数ばかりではない。
出版社、編集者、ライター、デザイナーをはじめ、出版というものにかかわる人の絶対数をさす。
とりわけ、問題にすべきは、未来の出版を担う人たちが、「つくる」という行為に参加できなくなりつつある現状だ。
経営悪化による新卒採用の中止、フリー編集者の一斉解雇、雑誌廃刊によるデザイナーとの契約解除・・・・・・。毎日のように、こういう話を耳にする。
刻一刻と、これまで出版を支えてきた人たち、そして、これから出版を支えるべき人材の受け皿が消失しつつあるのだ。それが、「今」の出版界のリアルである。
つまり、仮に一流作家、一流出版社、をピラミッドの頂点とすれば、ピラミッドとなる三角形の底辺部分が、どんどん崩れていっているということだ。
理由は二つ。
ピラミッドの上に位置するところから、どんどん、ドロップアウトが起こっていること(受け皿なき流出)。
にもかかわらず、新規参入もなく、新人が生まれない、どんどん閉じた状態に向かっていること(流入なき流出)。
当然、上部でポコポコと空いた間隙を埋めるため、下からその空隙へと移動が起きる。空隙のない、きれいな正三角形に戻ろうとする。そうして、ふたたび隙間のない正三角形になったときには、その面積は、一回り小さなものになっている(シュリンクする正三角形)。
ここで話をわかりやすくするため、Jリーグの例をとりあげたい。
この「シュリンクする正三角形」の状態とは、Jリーグでいえば、新人選手が増えないまま(アマチュアからプロへの道が閉ざされたまま)、すでにプロになった選手だけでサッカーをしていくということにほかならない。しかも、これまでプロだった人たちがどんどん抜け落ちていくという中で。
まさに負のダブル・スパイラル。
なぜダブルかといえば、上記のとおり、アマからプロへの道なき状態で、プロのプレイヤーの数が逓減していくしかない現状がひとつ。
もうひとつ。
それこそが問題なのだが、プロへの道が閉ざされた状態で、アマチュア選手あるいはアマチュア以前の選手の卵たちは、何を思うだろうか?
「どうせがんばっても、サッカー選手になれないんだ」
そう思わないだろうか。そうして、ほかの競技やまるで別の職業へと、早々に舵を切ることになるのではないか。
これが一番おそろしいことだ。
Jリーグは、1993年の発足以来、日本全国各地にクラブチームをつくる動きをとってきた。それによって、サッカー人口の底辺は大幅に広がり、サッカー自体の国際レベルも比較にならないほど高まったことは言うまでもない(Jリーグ以前は、ワールドカップに一度も出場できない国だったのだから)。
いま、出版界は、そのいちばん恐ろしい事態に向かいつつある。
「出版社の仕事をしたいけど、どうせ、門はぜんぶ閉じてるし。がんばってもなぁ・・・」
「早いうちに、将来性のある仕事をめざすのがいいかも」
このような諦念を喚起して仕方のない事態がおきつつあるのだ。
しかし。
これこそ、なんとしても止めなければいけない。
出版社の人たちが、「全力をあげて」取り組まなければいけないことだ。
「つくり手」になる受け皿を。
これは、僕自身の経験からも強くいえる。
学生のころ、お世辞にもいい生徒じゃなかった。パワーをもてあます、ぐれ気味の高校生みたいなものだ。
「何かやりたい。その思いは世界を突き抜け、宇宙に到達するくらい強烈にある。けど、いったい何をどうやればいいんだろう?」
そんな学生時代を経て、運良くPHP研究所に入ることができ、編集者の仕事にめぐり合うことができた。
その瞬間から、自分の中ですべてが変わった。
まさに水を得た魚のように、仕事に打ち込んだ。一瞬一瞬が「学び」の現場。
早く編集者として一人立ちしたい。その一心で、がむしゃらに疾駆した。
そうして、めちゃくちゃ楽しい編集生活がはじまった。
「僕は日本一楽しい仕事をしている!」
それは、新人以来、一貫した僕の素直な感想だ。
自分自身のことを振り返ると、あのとき編集という仕事に出逢えていなかったら、いったい自分は今頃どうなっていただろうか。想像したくもないけれど、すこし怖い。
だが、この問いはいまやバーチャルなものでなくなっている。
僕は運良くこの仕事をできている。だから満足、これからの人のことは知らん、というんじゃ、あまりにも無責任だ。
閉ざされつつあるプロへの道を、もう一度開かなければならない。
いや、これまでの道をもう一度開くのではないのかもしれない。
新しい道、つまり、全国に出版社が点在し、共存共栄するという道を開かなければいけないのだと思う。
せめて、そのきっかけとなる動きを、はじめたい。
正直、いまのミシマ社は自分たちのことで精一杯だ。
それに、ミシマ社だけで何ができるかわからない。
しかし、手をこまねいているわけにはいかない。
未来を切り開く、一人の才能と出会い、それが開花する可能性が少しでもあるかぎり、動かねばならない。
でなければ、座して死を待つのみ。
それは、本を愛する人たち、これまで素晴らしい本を残してくれた先人への冒涜にほかならない。
沈み行く船を黙ってみてました。なんてことは誰が許しても自分が許すことができない。
だから、微力ながらも、やっていこうと決めました。
まずは、寺子屋ミシマ社を、すこしずつ、東京以外の場所で行っていきたいと思います。
わが町に出版社を、とお考えの方、ぜひお知らせください。
いざ、未来へ!
出版の未来を拓くことは、イコール、未来そのものを拓くことにほかならない。
次回、「わが町に出版社を」、今回の補足&実践的プランをお伝えします。
