ミシマ社の話

第62回 禁じ手解禁? 3年ぶりの新シリーズ

2018.01.09更新

「コーヒーと一冊」というシリーズの立ち上げを告知したのは、もう3年前に遡ります。
 読者の皆さんに向かっては「かつての本好きカムバック!」を呼びかけ、あえて100ページ前後の「薄い」本にしました。また、書店との共存共栄をめざして、「本屋さんに利益を」の思いのもと6掛け買切という取引条件を採用しました。
 おかげさまで、創刊から2年の間に11冊を刊行。昨年の春に、ひとまず「第1期」を終えることができました。
 現在、「第2期」を検討しており、できれば来年スタートできればと思っています。

 さて。
 2018年4月、3年ぶりに新たなシリーズを立ち上げることにしました。
 その名も、「手売りブックス」。
 今回のシリーズ名は、「つくる」ほうからではなく、「届ける」ほうから考えてみました。
 「こういう」発想でシリーズ名がつけられることって、あまりないような気がしていますが、どうでしょうか?
 多くは、そこで表現したい、伝えたい中身から発想して、その思いをシリーズ名に込めているように思えます(「寄り道パンセ」「14歳の世渡り術」など)。私たちにおいても、「コーヒー一杯飲む間に一冊を」という願いのもと、本の厚みを「薄く」した「コーヒーと一冊」が同様です。
 つまり、どういう本をつくりたいか、が本の形状やスタイルを決める。
 これは、きわめてオーソドックスなシリーズの考え方でしょう。
 ところが今回、シリーズ名を支える考えの根っこに、「届け方」「売り方」のほうを置いたわけです。「どういう形状の本か」という作りに関する問いよりも先に。
 実はこれ、これまでミシマ社が「禁じ手」としてきたことでした。
 そうです、ミシマ社12年目にして初めて「禁じ手」を解禁とするのです。
 「売り方」から逆算して「作り方」を考えるという禁じ手をーー。


 と、勇ましく宣言したあとでなんですが、正確には禁じ手解禁ではありません。
 たしかに、「手売りブックス」の名の通り、「手売り」、つまりハントゥーハンド、という「売り方」をめざすのが本シリーズです。純度100%で「売り方」から発想されたシリーズ名です。
 ただし、禁じ手としている「マーケティング」による発想ではないのです(まあ、広く捉えれば、手売りもマーケティングの一つでしょうが)。
 「どうやったら売れるか」を最上位に置き、現在の市場でもっとも売れ筋のものを分析し、それに「合う」ようにつくっていく。それが典型的なマーケティングによる逆算の作り方です。
 それを、しない。
 直感のアンテナに引っかかった「おもしろい」からのみ始める。
 世間で売れているかどうかはいっさい関係ない。
「そういう」本作りをこれまでつづけてきたつもりです。
それは、当然のことながら、新シリーズでも踏襲します。
 スタート地点は、売り方、届け方を意識することであっても、「いっぱい売る」ことを目標にしているわけではない。むしろ、その反対ともいえる、少部数を前提に、より温かな届き方をめざします。
 これまで以上に、マーケティング主導の世間の流れを断ち切り、新たな気持ちのいいちいさな流れを生み出したい。
 そんな強い意思をもって、立ち上げます。

 この11年、ミシマ社がおこなってきた「届け方」でさえ、世間の流れから自由ではあったわけでありません。マーケティングをしない。と言いつつも、現在の市場の流れにある程度は巻き込まれざるをえませんでした。
 まあ、当然といえば当然です。
 商業出版であるかぎり、現在の市場から完全に逃れることなど不可能ですから。
 ただし、その網からもう少し自由であってもいいはず。
 少なくとも、すべての本が、書店販売を中心とする一元的な売り方のなかで届けられる必要はない。
 その網からこぼれおちるところで、届けられる本がもっとあってもいいのではないか。
 たとえば、著者や出版社が直接読者に手渡しするような形で。


 では、手売りにすることで、「つくり」はどう変わるのでしょう?
 それは、これから手をうごしてみて、つくり始めてみてのお楽しみです。
 現段階で間違いなく言えることは、届け方がちがえば、作り方も変わってくる。
 これまでの商業出版ベースでは作ることのできなかった「作り方」が可能になる。
 ちょっとデコボコ感はあるかもしれなくても、手にとった方々にとって、特別に愛おしさが育っていくような中身と外見をもった一冊一冊が生まれていく。
 少部数でありつつも、あくまでもミシマ社っぽく、多くの人たちに開かれたかたちでありたいです。
 そんなシリーズを、デザインを手がけてくださる名久井直子さんとともに、わくわくしながら考えていこうと思います。

 創刊は、「みんなのミシマガジン」で長期連載をしていただいたこの方々の5冊を予定しております。

・いしいしんじ『きんじょ』
・松 樟太郎『究極の文字をめざして』
・佐藤ジュンコ『おんなのめしあるき』(「おんなのひとり飯」改題)
・丹所千佳『よろしな。』
・宮本しばに『みんなのおむすび』
*すべて仮タイトルです。


 いま、私のなかでは、「手売りブックス」と名づけたことで、「つくり方」の幅がぐぐーんと広がったように感じています。
 本屋さんにとりましても、本シリーズが出ることで、新たな売り方が見つかるきっかけになりましたら嬉しいかぎりです。
 以前書きましたように、「実験の時代」に私たちはいます。
 書店、出版社ともに、手探り、手作りで、道なき道を歩んでいきましょう。
 決められたことをたんたんとやるだけでなく、日々、新しいことをやっていく。そこに価値が生まれていく。
 こんなおもしろい時代に、私たちはいるわけです。
 そのことを自覚し、あとは遠慮なく、ぞんぶんに楽しむだけです。

 2018年。楽しみな一年が始まりました!

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三島邦弘(みしま・くにひろ)

1975年京都生まれ。1999年大学卒業後、PHP研究所に入社。単行本の編集者となる。2003年退社後、東欧などを旅する。同年10月、別の出版社で編集活動を再開。2006年10月株式会社ミシマ社を単身設立。「原点回帰」の出版社を標榜し、編集・営業・仕掛け屋などチームの枠を超え、「出版は全身運動である」という思いのもと、日々、奔走中。
「ミシマ社のblog」もがんばって書いてます。

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