ミシマ社の話

第58回 クオリティを超えて

2016.10.14更新

 「10周年イベントはしないんですか?」
 ときどき、そんなふうにお声がけをいただきます。
 何人かの方々は、10周年パーティーといったものをイメージされているようです。
 たしかに、お世話になった方々をお招きして、そういう機会をもつのが、会社としてただしいあり方だと思います。10周年というのは、一度きりのことですし、これ以上の区切りはありませんので。
 それを重々承知のうえで、そのような晴れがましい場をもつにはまだ早いという思いがあります。
 いまは、その自分のなかの声にしたがうことにしました。
 
 その代わり、というわけではありませんが、パーティー以上に喜んでいただける機会をつくっていきたいと考えています。
 そのひとつは、「創業10周年記念イベント」の各地での開催です。
 できるだけ多くの場所で、直接、読者の方々へ御礼を申し上げたいのです。
 この10年、読者の方々がミシマ社の本を買って読んでくださっていたからこそ、出版活動を継続することができました。このことは、どれほど強調してもしすぎるということはありません。本当に、本当に感謝の念でいっぱいです。
 そのことを自身の身体、肉声を通じて、読者の皆さまへお伝えできればと。そして、そのうえで、「これから」の思いを申し上げたく思っております。
 とはいえ、身はひとつ。各地といっても、ひとつきに訪れることのできるのはせいぜい1〜3カ所・・・。そのひとつひとつの場所で、皆さまにお会いできるのを心から楽しみにしております。(ちなみに、現在決まっているイベントは、こちらになります)
 もちろん、全国の書店さんにもご挨拶申し上げたいです。これは、この10年間の継続のひとつの証であるメンバーたちと手分けしながら、おこなっていきたく思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 *
 では、「これから」の思いとはどういうものなのか。
 簡単ではありますが、11年目最初の「ミシマ社の話」で述べてまいります(実は今年初の本コーナーなのですが・・・)。
 
 大掛かりなパーティーは開かない。代わって、全国行脚しイベントをする。しかし、イベントそのものが目的ではない。なぜなら、ミシマ社は出版社なのだから--。
 そう、ミシマ社は出版社なのです。イベントがメインであることはけっしてありません。
 つまり、作品がすべて。
 こう言って過言ではないはずです。たとえイベントでお伝えする機会がなくても、作品ひとつひとつがしっかりと語っていてほしい。出版社としての意思が反映された「これから」を物語っていてほしいし、そうあらねばならない。このように考えています。
 今後一年間出る本の帯に、「10周年記念企画」と謳うものが6〜8冊ほどあります。以前より進めていた企画が中心で、ミシマ社にとって、特別に関係の深い著者の方々の作品にたいして謳うことになります。ただ、この言葉を冠さない作品も、謳う作品も、思いや熱量はまったく変わりありません。
 すべての本において「一冊入魂」。
 これは創業以来変わらないことですが、これからの一年の発刊物において、より、その入魂度合いを高めていきたいと思います。
 本屋さんに置かれたとき、「お、これは・・・」と手にとらないではいられない本を。読み終わったとき、じわりじわりと読んだひとのなかで何かが開かれていくような本を。
 書き手の方々が思いをこめて書いてくださった原稿に、出版社としてできる「すべて」を詰め込み、ミシマ社からしか生まれないかたちにしていく。編集、営業、両方において、その一冊がまるで生き物であるかのような体温ある一冊をつくり、届けていきたい。そう、強く強く願っています。
 
 こんなふうに言うと、要は、クオリティの高い仕事をしていくということですよね、と思われるかもしれません。
 が、ちょっと違うのです。
 クオリティという言葉は、あくまでも「商品」に対して使われます。「品質保証」といった表現を見かけますが、これは、その商品が高いクオリティであることを保証します、ということです。最近では、クオリティの高い仕事、クオリティの高いサービス、といった言い方も耳にするようになりました。
 ただし、「クオリティの高い赤ちゃん」なんていう人は、どれほどビジネス志向の高い人であっても口にしないでしょう。
 くりかえしますが、クオリティはあくまでも商品に対して使われるもので、「生物」に対しては通常、使いません。
 とすれば、クオリティの高い・低いだけに固執していては、どこまでも「商品」にとどまってしまう。商品力の高いものは生まれるかもしれないが、「生物」の域までいくことはできない。
 クオリティを超えて。
 これが、この一年間、全社をあげてミシマ社がめざしていきたいことのひとつです。
 「クオリティの高い仕事」とともに、「いきいきとした仕事」を。「クオリティの高い一冊」とともに、「生命力の高い一冊」を。
 その可能性をぶれることなく、しっかりと追求していきます。
 11年目が始まりました。
 あらためて、これからもよろしくお願い申し上げます。
 

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三島邦弘(みしま・くにひろ)

1975年京都生まれ。1999年大学卒業後、PHP研究所に入社。単行本の編集者となる。2003年退社後、東欧などを旅する。同年10月、別の出版社で編集活動を再開。2006年10月株式会社ミシマ社を単身設立。「原点回帰」の出版社を標榜し、編集・営業・仕掛け屋などチームの枠を超え、「出版は全身運動である」という思いのもと、日々、奔走中。
「ミシマ社のblog」もがんばって書いてます。

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