2009年6月10日(水)13:00~
今月の「この一冊」 ゲスト:アノニマスタジオ三谷さん

この対談が行われた6月10日は、水曜日。
水曜日と言えば、ミシマ社からほど近い自由が丘3丁目にあるおいしいお米屋さん「白山米店(ミシマガでもレシピを連載中!)」のおいしいお弁当が食べられる日です。
今回、「ごはんとくらし」を大切にした本作りをしているアノニマスタジオの三谷さんをゲストに迎え、週に一度のおいしいお弁当をいただいた後、各自オススメの一冊を発表しました。
第3回 2009年8月 今月の一冊

三島約半年ぶりとなる今月の「この一冊」ですね。今回は特別ゲストにアノニマスタジオの三谷さんがいらっしゃってくださいました。
木村ありがたいことです。
三谷よろしくお願いします!
三島では、さっそく始めましょうか。じゃあ......大越さんから。

大越私からですか。
渡辺......大越さん、ひょっとしてそれ、まだ読んでないんじゃないですか?
大越......鋭いですね。
(一同爆笑)
渡辺見ればわかりますよ。
大越でもいいっすよ、私からで。これです。『働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法』(駒崎弘樹、ちくま新書)。著者は、ベストセラー『「社会を変える」を仕事にする』(英治出版)を書いた駒崎弘樹さんです。日経ビジネスオンラインの書評で取り上げられていて、面白そうだな、と思って買ってみました。この方、学生時代から倒れるくらい毎日働いていて、社会人になってからもずっとワーカホリックだったそうです。で、経営者となり、自分の部下にもそういう働き方を求めていたのですが、あるときに、このままじゃいけないな、今の自分はおかしいな、と気づくんですね。しかしどう自分を変えたらいいか、わからない。思い悩んでいたときに、たまたま経営者の先輩から、ルー・タイスというアメリカ自己啓発界のナンバーワンのおじさんのセミナーに参加することを勧められまして......。
渡辺え、ルー・タイスが出てくるんですか?
大越ええ、出てきます。
渡辺それは意外ですね。
(編集部注:ルー・タイス氏については、脳機能学者、苫米地英人氏の著作、『努力はいらない!「夢」実現脳の作り方』(マキノ出版)などに詳しく載っています)
大越そうなんですよ。で、ルー・タイスに出会い「働き方と、人生を変えねば」とつくづく思ったらしく、仕事は9時から18時までで、以降帰る!ということを決めるんです。それを行うために「今日死んでもやらなければならないことは何か」を書き出し、それしかやらないと決める。例えば1時間半の会議が3つあったとしたら、残りの3時間でやるべきことをいかに終わらせるかを考えて実行するんです。そしたら、あっさり終わってしまった。今までの俺の働き方は何だったんだと、気づくわけです。よく聞く話ですけど「働く」は「『はた』を『楽』」にすることであって、生活全般含め、自分と自分の周りにいる人が働きすぎで不幸になっていることは「働く」ことじゃない、と言っているんです。日本人の働き方を変えることで、ひいては日本を変えようじゃないか、ということが書かれた一冊です。
三島面白そうですね。
大越 また文章がうまいんですよ。実体験なので非常に読ませます。ということでまだ半分ぐらいまでしか読んでいないのですが(苦笑)、私もこれを見習って、自分の働き方に革命を起こそうと思っている一冊であります。以上です。
一同おおー(拍手)
木村いいまとめでしたね。
渡辺新刊で出てるの知ってて買おうかどうしようか迷ってたんですけど、俄然読みたくなりました。
大越自己啓発本にありがちな、うさんくささがない。最初にルー・タイスに会ったときも「このオッサン怪しいんじゃないか?」って視点をちゃんと持ってるんですよ。
渡辺ざっくばらんなんですね。
大越そうそう。
三島なるほど。いいっすね。 三谷さん、どうですか?
三谷こういうふうに進むんですね。たしかに読みたくなりました。面白い!
三島「あなたが今日から日本を変える方法」。サブタイトルもすごいね。
渡辺タイトル会議も、もめたんじゃないですかね。
三島これいいですね。駒崎さん、という人がよく表れている本ですね。ありがとうございました。では二番手、どうですか。
渡辺私ですか。私は今回、マンガでございます。えーみなさん、みなもと太郎の『風雲児たち』(リイド社)という本をご存知でしょうか。
一同知らなーい!
渡辺これを知らないで死ぬのは絶対損です。
木村えー。
渡辺「大河歴史ギャグ漫画」というジャンルでして、みなもとさんは幕末に活躍した日本人を描きたかったのですが、そこを描きたいがためになんと400年前の関が原の合戦から描いているのです。
三谷ほんとだ。表紙が坂本竜馬なのに、開いたら関が原!
渡辺まさに「大河」たる所以はそこにあるんです、はい。薩長、土佐、というのは、明治維新のときに主体となって動く藩になってくるのですが、著者はその原点となる動きを関が原の合戦に見出しているのです。僕、『海岸線の歴史』(松本健一、ミシマ社)にも出てくる林子平や高山彦九郎をよりよく知ったのはこのマンガです。
木村あ、ほんとにまさにギャグ漫画ですね。「ベチーン!」とか「バコーン!」って擬音が。
三島笑える?
渡辺笑いは割とベタな感じで、最後に客注ならぬ「ギャグ注」というものがあります。
三島ほんとだ。そらすごいなぁ。
渡辺というのも、連載していたときに流行っていたことと今にズレがあるので、背景を説明する必要があるんです。
木村マニアックだなー。
林なんか、そこも含めてこの本、渡辺さんっぽいですよね。
渡辺ありがとうございます。 とにかく歴史のダイナミックさや、目の前のことに至るロングスパンでのものの見方、あと歴史は人が動かすといった点を感じられるスゴ本です。はい。
亜希子これ、一巻で完結なんですか?
渡辺や、二十巻。
亜希子えっ、二十巻?
渡辺二十巻の後に、まだ「幕末編」っていうのがあと十巻ぐらい。で、年に一巻ずつ出て、まだ続いてるんです。
木村年に一回なら、まだ買えますね。
渡辺しかもまだ終わってないんです。もはやどこへ向かおうとしているのか、多分著者自身もわからないんじゃないですかね。
三島すごいなぁ。たしかにちょっと読んでみたい。歴史の勉強振り返るときとかね。なるほど。ありがとうございました。では三番手。
林では私で。えと、まだ読み途中なのですがすごく面白いのが、三島さんオススメの『本格小説』上下巻(水村美苗、新潮社)です。日本から単身アメリカへ行き成功した男性の話をめぐり、つながる人々の話です。まだ恋愛なのかミステリーなのか何が始まるのかわからないのですが、読み進めざるをえない何かを感じています。あ、木村さん読みました?
木村もちろん。
林設定とかすごいリアルなんですけど、あれって本当にあった話なんですかね。
三島最後まで読むとわかるけど、たぶん、違うと思うよ。
木村うん、さすがに、あれは。結構、最後まで読むと......。
三島一番最後まで読んでから主人公の名前をパソコンで検索したけど、出てこなかった。
林そうなんだ! それにしては思わせぶりな書き方ですよね。前書きも異様に長いし。
三島プロローグ、200ページもあるよね。
三谷おぉ!
林それだけでもう、引き込まれてしまって。まだ上巻までしか読んでいないんですけど、私の中の主人公像が「男前なんだけど寡黙な人」という、もう、続きが気になって仕方ない人で。こう......あぁダメだ、全然うまく説明できてないですね。
三島『本格小説』は、彼らの人生に自分が巻き込まれてる感じがして、もう読み出したら止まらないよね。
林下巻をゲットしたいと思います!
三島壮大な、世界だよね。 ありがとうございました。では次。
亜希子はい、私のオススメは『桜雨』(坂東眞砂子、集英社文庫)です。
木村あ、坂東さんのその作品、読んだことない。読みたい。
亜希子坂東さんを取材すると聞いたとき、今まで作品を読んだことがなくて、どんな文章書く方なんだろう、これは読まなければと思って読み始めたんです。文章も上手だし、歴史的背景とか郷土の資料を集めて綿密に取材されて書いているので、すごい現実味が濃い小説です。内容としては、恋人と別れて全てをやり直したいと思っている出版社に勤めている女性が、古いアパートに住み始めるってとこから物語が始まります。そして仕事の中で「ある女性の絵」に出会い、その絵を描いた人を探し始めるんですね。
木村ふんふんふん。
亜希子小説は、最初に登場した女性が絵を捜し求めていく話と、その絵に描かれた女性が生きた戦争中の話が交互に進行されていきます。個人的なオススメ読みどころは、戦争という時代を生きた女性が、もう1人の女性と男の人(絵の作者)をめぐって葛藤するところです。最後に、現代と戦争中の話が、「ある女性の絵」を通じて現代に繋がり(実は同じアパートの1階と2階に住むもの同士だった)、こういう背景だったのか、というのがわかるんですけど、描かれている人間(女)の情とか怨念とかが坂東さんらしく、また坂東さんにしか描けない世界だと思ったので、おすすめの一冊にしました。
木村情とか念って、ほんとに怖いよね。怖くて読み切れないのもあったくらい。
亜希子わかる。
木村小説でここまで剥き出しになれるっていうのが、作家さんだなぁと思う。
亜希子合う合わないがあるとは思うのですが、1回体験して欲しい世界観です。
三島今、日本が見ないでいようとしている、ほんと土着的な、庶民の生活を炙り出していて書いている方ですね。
木村読んでみたい。
亜希子ぜひぜひ。
木村では次、私ですね。今読んでいるのはこれです。『トウキビ』(金繁美由紀、北海道新聞社)。農業初心者、31歳のフリーライターの女性がメノビレッジという農場に取材に行ったとき、その取材で食べたご飯がめちゃめちゃ美味しくて、食べることが大好きなその女性は農作業をするようになって、その中で自分の今までの概念が崩されてく、というお話です。やっぱりライターをされてる方なので文章がお上手で、とっても読みやすいです。
三島へー。
木村例えば「疲れたら休むってものすごく大切」という章では、さっきの大越さんの本でも言われていたんですけど、限られた時間の中で今自分に何かできるか、自分の体と相談しながらおいしいもの食べてちゃんと暮らすことがいかに大事か、ということについて考えさせられる本です。最後にはレシピも載っているんですよ。
三谷すごくおいしそう! しかも可愛いですね。
木村全部白黒なのに、ここは4色使ってて写真もキレイですよね。「レイさんのパンケーキ」、これ作ったんですけど、すごいおいしかった。難しいものは何にもないんですよ。

三谷牛乳とオリーブオイルだって。オリーブオイル入れるんだ! 意外だけどおいしそう。
木村そうなんです。生地はモチモチです。簡単なレシピがパラパラっと載っていて、装丁の裏も写真がいっぱいです。
林すごい、可愛いですね。
三島楽しそうだなー。北海道って感じがする。
木村ね。北海道新聞社さん、ときどきハッとさせられるような本出すんですよ。これは書店員さんにオススメしていただいたのですが。
三島これはなかなか、読みたい本ですね。はい、ありがとうございました。
三谷では私のおすすめを。『吉田電車』(吉田戦車、講談社文庫)です。WEB現代に連載されていたもので、吉田戦車さんが電車に乗り、降りた駅で麺を食べて帰ってくる、というだけの本です。やっぱり、吉田戦車さんの『伝染るんです。』(小学館)って最高に面白くて、この面白さはどういう日常から生み出されるのかな、と常々不思議に思ってたんですよ。
木村うんうんうん。
三谷吉田さんの作品は登場人物たちの関係性が独特で、いろんなものを同レベルに捉えるんです。『伝染るんです』でも、人間の隣にカブトムシのサイトウさんが住んでいたり、カワウソくんとカッパくんが普通に話していたり。この本も全く一緒で、IKKIコミックの偉い編集長も自分の小1の子どもも、とろろそばに乗っているパセリも全員が同レベルで。強烈な個性の登場人物たちとのコミュニケーションを、吉田戦車さんが描くとこんなにいきいきと面白いんだなって思います。
三島ふーん。なるほど。
三谷実はこの前に『吉田自転車』(講談社文庫)っていう本もあるんです。「ナイスバイク号」という名前の自転車に乗って多摩霊園に置いてこようとしたり、その切り取り方もほんと独特なんです。漫画だけでなくて文章もすごく面白くて、挿絵も素晴らしいです。
三島すごいっすね。
三谷ほんとすごいんです、この人! という本です。以上です。
木村読みたくなりました。
三島ありがとうございました。じゃあ最後は僕ですね。これ(前に置いた本を見る) ......と思いきや、ちょっと違うのにします!
一同えー!!
三島これです!
木村ああ!
三島『1Q84』(村上春樹、新潮社)。あえてやります。......これは、止まらないです。1984年の東京を舞台にした、そうあったかもしれないストーリーが書かれています。これまでの村上作品とちょっとだけ違うなと思ったのは、すごい地に足着いてる感が以前よりあることなんです。村上作品って目に見えていない世界を描いていて、これも当然そうなのですが、そっちの世界のその言葉で書いていたものだから、自分たちとまったく無関係だったものが、これは登場人物も基本的に名前があるし、村上作品って記号的な名前で日本人かもわからないし、『海辺のカフカ』まではそうだったと思うのです。けどこの作品では、苗字もあって名前もあって、こっちに降りてきて書いているな、って雰囲気がありました。
木村ふーん。
三島それと比例して、社会の描き方も一応現実に合わせて書いているのが今までと違うな、と。作家のすごさの一つは、どれだけ高い視点を持ちえるかどうかだと思っていて、村上春樹にしか見えない広い世界が緻密に一語一語構築されていて、彼にとっては見えていることを書いているにすぎないのだけど、その壮大さと深さに圧倒される本ですね。......こういう「とてつもない知の語り部」っているんだなぁ、と改めて感じた作品ですね。
大越私も昨晩読み終えました。とにかく村上春樹は、セリフがうまいですね。下手な小説だとセリフで、「や、やばい。に、逃げろ!」とか、不自然きわまりないのがあるじゃないですか。
林その例え、わかりやすくていいですね(笑)
大越村上春樹の場合は、例えばタクシーの運転手とかが、「こんなこと言うやついねーよ」と思うくらいキザなセリフを言うのですが、それがちっとも恥ずかしくならない。ぞぞぞっとしない。うまいよなぁって思います。
三島そうそう。それと、あと少し日本に近づけて書いてる気もしました。これまで日本の古典の引用とか無かった気がする。
林何か引用してるんですか?
三島平家物語をすごい長文引用しているんだけど、それにはすごい衝撃を受けて。
林それ聞いて俄然読んでみたくなりました。
木村こんなに読者が待ってくれている作家もいないですよね。すごいと思う。
渡辺みなもと太郎か、村上春樹か、ってぐらいだよね。
林そこ繋げるんですか!
三島一年に一回。待ちに待った最新作(笑)
大越宗教、カルトというテーマも、『アンダーグラウンド』(講談社文庫)から10年以上経って、ようやく小説にできるようになったんでしょうね。
三島そう、題材に実感がこもってる。それが今までの本と全然違う。村上春樹ってあんまり主人公とか登場人物に託して自分のこと書かないけど、この本は違っていて。
大越自分のこと書いてますよね。
三島うん。その感覚は『ノルウェイの森』(講談社文庫)以来な気がする。やぁ、これを読んでいるのは幸せな時間でしたね。
木村私は今回の本はちゃんと理解できるのか、っていう不安もありつつ。
三島ということで以上、みなさんオススメの「この一冊」でした。ありがとうございました!
一同 ありがとうございました!

三島ではさて、今回のベストワンを決めましょう。みなさん、決めましたか?
林......。本て、そのときどきによって読みたいもの変わりますよね。だから今選ぶと、今の自分が読みたいものになってしまいます。
三島それでいいんだよ。 では「せーの!」で指差しましょうか。せーの!!
一同おおお!!
三島大越おすすめ『働き方革命』2票、三谷さんおすすめ『吉田電車』4票! ということで三谷さんの『吉田電車』が優勝です!

三谷わーい! 嬉しい! ありがとうございます。
三島いやいやこちらこそ、ありがとうございました。
三谷みなさん、ぜひ読んでみてくださいね◎
