第10回 2010年1月 今月の一冊
三島では、2010年第1回目の「今月この一冊」です。よろしくお願いします!
一同よろしくお願いします。 じゃんけんほい。
「THE 瀬名秀明」とにかく読んで欲しい一冊です
『パラサイト・イヴ』(瀬名秀明、新潮文庫) |
窪田僕の今月の一冊は、瀬名秀明さんの『パラサイト・イヴ』(新潮文庫)です。この本が大ブームになったのは確か中学生のころだったと思います。先日あらためて読み返したのですが、「これはブームになるはずだ」と思いました。
ホラーであり、科学小説であり、サスペンスであり、ミステリーであり、そしてラブ(恋愛)でもあるという、ジャンルを超えて「完璧か!」と。まさに「こりゃあ映画になるわ」という濃密さ。もうとにかく、おもしろかったです。
三島おもしろいよね。
窪田ポイントはなんでしょうかね。あんまりストーリー言っちゃうと良くないと思うんですけど、「あとがき」の異様な長さが気になりました。特に、いろいろな角度からの突っ込みに対する瀬名さんの真摯な態度や返事には、やっぱり科学者なんだなと感じられてよかったです。
三島読み出したら止まらない。
木村止まらないですよね。
窪田これが出たのは平成7年なので、15年前。今読んでも、ものすごく面白いです。とにかく読んでほしい本ですね。「THE 瀬名秀明」、よろしくお願いいたします。
全員えっ、もう終わり?
窪田はい。あんまり話すとあれなんで。
大越あれって何よ。
窪田まあ、そんな感じで、では次、大越さんお願いします。
「ここまでやるか・・・」
『人を喜ばせるということ――だからサプライズがやめられない』(小山薫堂、中公新書ラクレ) |
大越今日の私はこれです。小山薫堂さんの『人を喜ばせるということ――だからサプライズがやめられない』(中公新書ラクレ)。
小山薫堂さんはサプライズを人に仕掛けるのが大好きな人でして、これは、その小ネタを全部集めた本なんですが非常におもしろいです。「ここまでやるか」と思うくらい。
木村これも、おもしろいですよね。
大越小山薫堂さんは、社員の誕生日には必ず何かサプライズを仕掛けるそうなんですね。それで、自分自身は何をされるんだろうな? と思っていたら、その日は何もなくて、「今日は何もなかったな」と思って家に帰った。で、次の日の朝、新聞を見たら、その新聞がどうもおかしい。
よく見たら一面が、「放送作家小山薫堂 脱税容疑で強制捜査」と書いてある。サプライズ新聞を完璧につくって配達してたんですね。別のときには、クライアントの人がT-BOLANのファンだということがわかったので、「じゃぁ、みんなでカラオケに行きましょうか」ということになったと。で、そのカラオケにT-BOLANの本物のボーカル森友嵐士を仕込んでおいて、本当に歌ってもらって驚かせたり、なんてことをやっているんですね。
窪田すごいですね。
大越で、小山薫堂さんは、サプライズというものは食べ物の脂身のようなものだと、なくてもいいんだけど、脂身があるから非常に味わい深くなっているのではないか、ということを言っていまして、まぁ、我々のつくる本もこのサプライズが非常に大事なものではないかと思う次第であります。以上です。
三島ありがとうございました。
渡辺幻冬舎新書の『もったいない主義』とかでも人を喜ばせるエピソードがちょこっと出てくるじゃないですか。それが、この本にはいっぱい載ってるんですか。具体的なものが。
大越そうです。すごいですよ本当に。「ここまでやるか・・・」と。だから、この会社に入ったら絶対に楽しいでしょうね。そのサプライズ精神が小山薫堂さんの企画にも繋がってるんだろうなと思いますしね。
では次、渡辺さん。
ウォッチャーとしては衝撃の、高城剛『オーガニック革命』
『オーガニック革命』(高城剛、集英社新書) |
渡辺私は、集英社新書の新刊で、高城剛の『オーガニック革命』です。
高城剛さんって、かつて「ハイパーメディア・クリエーター」と呼ばれていて。僕が中学とか高校生くらいのころでしたかね、その頃から、妙に気になる存在として動向を追っかけていた人なんですよ。なので、本が出るたびに必ず買って読んでます。で、新刊が出たので早速買ってみました。
林あ、この本、店頭で見かけて私もちょっと気になってました。
渡辺世間的には沢尻エリカの旦那さんという、そっちで有名になってしまった方なんですけど・・・。この本は「オーガニック革命」ということで、ロンドンを中心としたオーガニック界隈のいろんな話が紹介されています。
ただ、僕はこのオーガニックというムーブメントについて、この本を読むことで何か知識を得たいのではなくて、高城剛ウォッチャーとして、彼の中で起こっている興味・関心の変化が知りたくて読んでいる、という読み方をしております。
いろいろ書いてあるんですけど、昔はスニーカーとか機材とか、それこそばんばん買い漁って、物にあふれて暮らしていた人が、今はスーツケース4個分くらいに自分の荷物が収まるくらいまで身のまわりを整理して、世界中を飛び回っている。で、オーガニックについて書いている。
つまり、オーガニック革命という本ではありますけど、高城剛の中のいろいろな感覚における革命みたいなものの、ひとつの記録でもあるわけです。そこがこの本の真のオモシロポイントなんだと思っています。
大越高城さんは前から「何をやってる人かわからない」と言われてますけど、文章を読むとすごい人だなと思いますよね。
渡辺すごい人だと思いますよ。本当に。けっこう極端な振れ幅をしているようですけど、とにかく、未来を肌で感じて、ちゃんと考えたことを、自らのこととして実践に移されているっていうところがすごいですよね。ま、沢尻エリカもそんなところに惹かれたのかなと。はい。
僕なんかも「ムダな持ち物は減らしたらいい」っていうのは日々実感しますけどね、スーツケース4個分ってどういうことだよ! って思いますもんね。「そこまで捨てられるのかよ」ってね。
大越しかし、あの高城剛が「オーガニック」と言い出すところが。
渡辺それが、昔からのウォッチャーとしては衝撃ですよね。
じゃぁ、次は男性陣最後の三島さんお願いします。
ダン・ブラウンより瀬名さんのほうがすごい
『ブレイン・ヴァレー』(瀬名秀明、新潮文庫) |
三島実は、僕も窪田君と一緒で、瀬名さんの『ブレイン・ヴァレー』(新潮文庫)です。
これは『パラサイト・イヴ』に続く第2作目です。「第2作目でこんなこと書いちゃったら、次どうするの?」と心配になるくらい濃い一冊です。
臨死体験をすると人はある種、神に近づくというかですね、臨死体験をした人はその後人格もいろんな経験値というものが一段階上がったような人間になっている、っていうレポートがアメリカであるんですよ。それと、UFOとかエイリアンに誘拐されて、そこで奇妙な経験をしたとかね。
で、そういうものと、臨死体験というものはすごく密接に繋がっていて、それはでも実は幻覚であると。脳の海馬と側頭葉の近くをある感じで刺激すると、見てしまう幻覚があるんだそうです。
それと、すごく土俗的な世界中に残っている神話的な話とか、そういうものを全部踏まえて、船笠村っていう何もないところに、その臨死体験を通して、臨死体験経験者をある一定の人数まで、世界中に増やすことによって、全人類をそっちの次元にもっていこうと考えている人たちのプロジェクトを舞台に描かれてるんですよ。
窪田おもしろそうですね。
三島シンクロニシティっていうじゃないですか。蛍も一匹が光ったら、全体がパッと光るとか。そういうふうに、ある臨界点を越えたら人類全部がそっちに動き出すっていうことは、既に実際に報告されていることで、それを生むための実験とかが行われてる。
でも当然なんか、歪んでいて、それによって変に発狂してしまう人たちも出てきてしまったりするの。で、果たしてどうなっていくか・・・っていう本なんですね。
途中は脳について専門的でむずかしいんですけど、その科学的な説明とかがホントにすごい。脳に限らずあらゆるものについての説明が半端なくあるっていう、科学をベースにしたエンターテイメント作品として渾身の一冊だと思います。
僕は、『ダ・ヴィンチ・コード』のダン・ブラウンより瀬名さんのほうがすごいと声を大にして言いたい。
木村すごいなあ。これ書いたの瀬名さんまだ20代後半の頃ですもんね。
渡辺また、上下巻っていうのが。
三島そう。霊長類の話から脳からUFO的な話から、臨死体験まで全部ひっくるめてエンターテイメントとして書かれてる、超大作です。
じゃぁ、次、林さんお願いします。
持つべきものは幼なじみだ
『太陽の塔』(森見登美彦、新潮文庫) |
林私はですね、森見登美彦さんの『太陽の塔』(新潮文庫)です。これは、森見さんが一番最初に書いて、日本ファンタジーノベル大賞を授賞した本です。内容としては、主人公が大学生で、男の子4人くらいでいつもつるんでいるんですけど、その中で主人公に恋人ができて、フラれているっていうところから物語が始まります。そこで語られる思春期独特の妄想がおもしろいんです。
何でこの本が今気になったかというと、この前XジャパンのTOSHIが「ホームオブハート」の脱退会見で声を震わせながら言った「持つべきものは、やっぱり幼なじみだなと思いました」という言葉で思い出しまして。
全員ほー。
林最後のほうで、主人公が彼女にフラれたときに、友だちが「幸福が有限の資源だとすれば、君の不幸は余剰をひとつ生み出した。そのぶんはもちろん僕がいただく」と、主人公に言うんですよ。この回りくどい言い方。照れながらの優しさ。同性同士特有のそういう信頼関係が染みて、いいな、と思いました。女子同士、男子同士でしか生まれない、あの不思議な感覚は何ですかね。お勧めの一冊です。
木村森見さんは、表現する言葉がおもしろいですよね。
大越私はこれを読んだとき、極めて端正な文章を書く人だなと思いました。この後に森見さんが書いた『走れメロス』とかのパロディーを読んでも、そうとう文学に親しんでる人だなあ、と。
三島京大はホンマこんな人たちばっかですよ。アパートの下でずっと待ってる人とかおるもん(笑)。
叡電(注:叡山電鉄)が夜中変なふうに走ったりする、そういう幻想を見るような雰囲気っていうのは、あの街にすごい漂ってる。だから、この本はとってもリアリティに富んだ小説だと思います。
大越なんか、雰囲気が「うる星やつら」っぽいですよね。学園もので、妖怪とか出てきたりして。
最後に辻さんが学びの姿勢を示してこの本が終わるのがすごく素敵
『フランス料理の学び方――特質と歴史』(辻静雄、中公文庫) |
木村では、最後、私は『フランス料理の学び方――特質と歴史』(辻静雄、中公文庫)です。
辻さんはもう言わずとしれた、辻調理師学校をつくった人なんですけど、私はこの本が好きで何回も読んでる一冊です。わたしにとっての良い本って、切り口は別々でも、結局行きつくところが同じことが多いんです。どの世界でも精神性とか学び方っていうのは同じだなと改めて感じさせてもらいました。
例えば、「学びの姿勢」が最初書いてあるんですが、フランス料理はどういうものかを学んで行くときに、師弟制度っていうものがあるんです。そこで、まずは絶対に師匠から言われたことしかやるな、と書いてあるんですね。
どうしても「自分だったらこうする」っていう気持ちが出てくるものだけど、それは学びの姿勢には邪魔するとあります。
「医食同源」という言葉がありますが、すべてのことは、すべてに関わっていると。人体もそう。フランス料理ひとつ追ったとしても、中世のヨーロッパ、フランスではどういう料理に影響を受けて、どういう食材があって、どういう調理のされかたをしたか、ということを辿って歴史も学ばなければいけない。
フランス料理のことが書かれているんですけど、多岐にわたっていろいろなことを教えてくれる名著だと思います。
窪田なるほど。
木村最後のほうに秋山徳蔵さんとの対談があるんですけど、秋山徳蔵さんという方は、宮内庁の料理番をつとめた人で、対談をされたときは83歳だったんですね。そこで辻さんが「これはどうなんですか? これはどう思うんですか?」って一生懸命聞いてるんです。
けれど、秋山さんは「それは知らない」とか「覚えがない・・・」って普通に言っちゃって、答えになってないんです。だけど、そのまま活字としておとされて、最後終るっていう、そういうのがまた素敵でした。
三島皆さん、どの世界でも同じこと言われますよね。
木村素敵な方の言うことは結局、切り口は違っても、同じところに学びがあるのかなと。
三島『開祖の横顔』(BABジャパン)っていう本で、合気道の開祖の植芝盛平先生の思い出を14人のお弟子さんが語ってるっていう本があるんです。そこで、毎日毎日同じことの繰り返しで、あるお弟子さんが「大先生、いつも同じことばっかりやらないで、たまには極意を見せて下さい」って言ったとき、周りの人たちは「あ、これは怒られるだろうな」って思ったそうなんです。けど、先生はこう言ったそうです。「私毎日、皆さんに極意を見せていますよ」と。
木村かっこいい・・・。
三島つまり、基本技の大切さっていうことを言いたかった、ということで、しかもそこに極意が詰まってるんだ、それを感じなさいよ、ということをその一言でおっしゃったんだと思いますが、いまそれを聞きながら思い出しました。
木村それも読んでみたいです。この本は最後に、辻さんが学びの姿勢を示して終わるっていうのがまたすごく素敵。
大越へー。
木村それに、経歴もおもしろいんですよ。
大越早大仏文科を出て大阪読売新聞社に入社、で27歳のときに辻調理師学校をつくった。すごいですね。
木村参考文献もたくさんあって、さっきの三島さんの話にもつながるかもしれないんですけど、この人はフランスの有名なコックさんからいろいろな参考文献をたくさん取り寄せてもらったり、街の本屋さんとかでパッと感覚でとって来たりとかして、読まなかったり積んであったりするですね。
だけど、そういう行為の先に、あるときものすごくいい本に出会うときがある。ということを書いておられたりして、日々集め学び新しい前へ進むっていう姿勢が本当に素敵だなと思いました。
三島みなさん、ありがとうございました。
本ってほんとおもしろいですね。人と語るともっともっとおもしろくなって、どんなに忙しくても、それだけで楽しくなってくる。そう感じた今年初めの座談会でした。皆さんの今年最初の「一冊」は何ですか?
