第17回 2010年6月 今月の一冊(後編)
昨日に引き続き、ミシマ社メンバーおすすめの今月の一冊をお送りします。
「どのようにやるのか」が大事なわけで
『世界が指摘する岡田ジャパンの決定的戦術ミス〜イタリア人監督5人が日本代表の7試合を徹底分析〜』(宮崎隆司、コスミック出版) |
渡辺今月はワールドカップですよ皆さん。ということでサッカー本を。『世界が指摘する岡田ジャパンの決定的戦術ミス〜イタリア人監督5人が日本代表の7試合を徹底分析〜』(宮崎隆司、コスミック出版)です。
林へー。
渡辺岡田ジャパン、いつも似たような内容で、試合に勝てないじゃないですか。「フォワードが決定力不足で点が取れない」とか「一対一に弱い」とか、ずーっと言われておりますが。
本当に日本人の中では一流の人たちが11人集まってやっているのに、なんでそう同じせりふが繰り返されるのかなと。そういう思いがあったので、この本のタイトルを見たときに「これは読まないといけない」と思ったんです。
三島そうですか。
渡辺やっぱり何かあるはずだろうと。著者は、イタリア在住のジャーナリストなんですけど、この人も「まえがき」でこんなことを言ってるんですね。
「例えばディフェンスを改善すべきだと言う人がいる。だが、日本の報道を見聞きする中でそこで何をどう改めなければならないという具体的な答えが見当たらない。また、プレーすら連動していないと言われても、ではどうすれば連動するのかという明確な答えは残念ながらどこからも聞こえてこないのである。その曖昧さが同じミスを繰り返してしまう要因のひとつではないのか」
で、宮崎さんは、イタリア人の監督5人に日本代表のビデオを見せて分析してもらった。それがこの本なんですよ。
窪田なるほど。
渡辺そこで浮き彫りにされたのは、日本代表の選手たちは、守備の基本、チームとして連動する動きができてないということ。で、逆に日本の攻撃が機能してるときというのは、相手ディフェンスの連携が機能してないときなんですって。
あと、読んでておもしろかったのが、岡田監督がオランダの親善試合の後に「70分しかもたなかった」とコメントしたと。それは、岡田ジャパンは運動量で勝つということを基本に掲げていて、フォワードからもプレスをし続けて、その運動量で外国を圧倒していくというのを目指してるんですけど、体力が70分しかもたなかった。その解決策として、岡田監督は体力の向上の必要性を説いたと。
でも、著者は果たして問題の根っこをそこに求めるのが正しいのかどうかという疑問があると言っている。中田がパルマにいたときに監督をしていたウリビエリ氏いわく「前線からの激しいプレスは持久力と根性さえあれば90分間持続できるというものではない。もちろんシステムに手を加えればなんとかなるという類いの話ではない。懸命に走ること自体は当り前だとしても、その前に問題とすべきことはどのように走るか考え直すことではないか」と指摘したのだそうです。
僕はこういう文章を目にすると、なんかつい日々の自分の仕事に置き換えちゃって、すごく「はっ」とさせられることがあるんですね。いつも「どのようにやればうまくいくのか」悩んでいるので。僕はそういう読み方をしてしまったんですね。
例えば、編集サイドで「パブリシティが何日に出ます」という話しが出たとしますよね。編集サイドが前線からプレスにいったとする。でも、後ろで営業サイドのディフェンスラインがのびきっていて、そこに連動してこぼれ球を拾う動きをしなかったら、無意味になる。では具体的にどう動けば効果的か? だから、がむしゃらにやるというのは当り前だと思うんですけど、どうがむしゃらにやるか、というところに眼差しは向けられるべきだなと。
みんなひとりひとり日本代表という土俵に上がった以上、ちゃんとやろうと努めるのは当り前で、それを「どのようにやるのか」が大事なわけで、チームでやる以上「チームでどうやるか」「他の人が動いたら自分はどう動くか」あと、「他の人にこう動いてもらうことを信じて自分はどう動くか」と、そういうところに意識を向けることが必要で、サッカーで言うと「監督を変えろ」とかいう話もあるけれど、基本は誰が監督だろうと一緒だと思うんですね。
なんか、みんなにこの本を読んでほしいと思いつついろいろ言ってみたんですけど「じゃぁ、読んでみよう」とみんなに思ってもらえたかは微妙ではあるんですが。
木村はっはっは。
三島その通りですね。
渡辺すごいいい本だなと思いました。
木村なるほど。
三島決定的に違うのは一瞬の集中力だと思うけどね。結局、得点力不足ってずっと言われてることだけど、得点は頑張ったらとれるもんじゃなくて、80から100の力でずっと90分間走り続けることはあまり実は意味ないなと思うんですね。
相手のディフェンダーも全員屈強で、でもそこをくぐろうと思ったら一瞬だけど個人のスピードを150%のパワーを一瞬出せるかどうかだと思うんですね。
こいつ80分間歩いてるな、と思っても10分間は「え?」っていうくらい、どんなディフェンダーも絶対に止められない動きができるか。
日本って90分間みんなよく走るけど、1点もとれなかったら引き分けにはなれるけど絶対勝てない。
窪田そらそうですよね。
三島でもこの間のイングランド戦、川島をキーパーにしたのは正解だったよね。川島格好よかったですね。
木村格好よかったですね。
三島だから、僕は川崎フロンターレを基本にチームを組み立てるべきだと思っています。中村憲剛もやっぱり入れてほしいなと。
木村サポーターとしては(笑)。
三島中村憲剛を使ってほしい。岡田ジャパンの戦術ミスは、憲剛と川島をベンチに置いていることです(注:この時点までは川島は控え選手でした)。
木村見たいとこそこだけみたいな。
大越ありがとうございました。
渡辺とにかく、日本代表、目指せベスト4! じゃぁ、次、三島さん。
メモする人は頭がいい人よりいい仕事ができる
『日本ぶらりぶらり』(山下清、ちくま文庫) |
三島今日は『日本ぶらりぶらり』(山下清、ちくま文庫)です。
木村あぁ〜、超好き。
三島『ヨーロッパぶらりぶらり』(山下清、ちくま文庫)っていうのもあって、セットで読んでもらえるといいんじゃないかなと思います。今日はちょっと、齋藤孝先生風にいきたいと思います。
木村あ、そうなんですか・・・? じゃぁ、お願いします。
三島山下清のすごいところは、「放浪力とメモ力」です。実はこのふたつ目の「メモ力」というのがポイントだと私は気づきました。どういうことかと言うと、山下清先生は頭が弱いと自分でも書いてらっしゃる。ヨーロッパに行ってもトラファルガル広場とかいろいろ地名がひとつもおぼえられない。日本の地名の方がいいなということを書いてらっしゃるんですね。
でも、本で書かれている文章では、行った先々の細かい描写が全部入ってるんですよ。それはなぜかといったら、例えばロンドン橋の記述のときに「ロンドン橋、ここはメモをしなくてもいいから、これは世界中のどんな人でも知ってる橋ですね」と書いている。そこで「あ、そうか」と思った。
そういうような「地名」は山下先生もいろいろ回っていると忘れてしまう。けど、風景の描写とかはどういうふうにして描くかというと、放浪が終った後に八幡学園に戻ってきてそこで全部描いてらっしゃるんですね。風景は全部記憶で覚えてられるんだって。映像記憶力はすごい。
だから、ひとつひとつ記憶のメモにするということに対して力を注いでいるんですね。頭が弱いからこそ、人の倍しっかりメモをすることによって、普通の人ではできない細かい描写で人に何かを伝えられるんだな、と。
だから、脳みそじゃないっていうことですよ。IQじゃないっていうこと。いい仕事をするとか人を感動させるということは、きっちりきっちり丁寧に謙虚にひとつひとつのことをすることなんだなと教えられる一冊でもありました。ということで、今日は学びという観点からお話させていただきました。
窪田なるほどね。
三島あとおもしろかったのは、どうしても放浪してしまうと。「放浪しません」って誓約書には書いても、その1週間後にはまた放浪してしまうという話がまたおもしろい。精神病院に2回入れられるんだけど、それは1回目は甲府の駅で、冗談のつもりで裸になったらそこで捕まって、それで「冗談なんだ」って説明しても誰も聞いてくれなくて本当にすごい嫌だったと(笑)。そのときはお母さんが先生に事情を説明して引き取ってくれて助かったと。
2回目はお母さんがそうしたほうがいいと思って、もう一度病院に入れたらしいんですね。でも、それも耐えられなくなって、監視員がいないすきに風呂場から飛び降りて、そのとき足はケガしたらしいんですけど、逃げ帰ってきたっていう話があって、おもしろいんですよ。
そんなことがあったから、ことあるごとに「人前で裸になることはいけないということをあのとき知ったので」とか書いてあるんですよ。「もう2度と入りたくないから」みたいなことも言っていて(笑)。
木村おもしろいですよね。
三島ひとつひとつの経験を、忘れないんだよね。誰が何を言ったとか。それがすごいなと思いました。
大越やっぱりおにぎりはもらってるんですか?
三島そうそう。それがまたすごくおもしろくて、ある日宿屋に帰ったら、乞食がその宿屋からご飯を下さいといって、ずっと居続けてみんなが嫌がってるんですね。で、それを見て山下さんは「本当に芸がないな」と思ったらしいんですよ。
「この乞食はただ飯をくれ、飯をくれと言ってるばかりでなかなかどこうとしない。これは下手だ。僕だったらそのわけを話して、どうしてもくれないようならすぐ次の家に行く。だから大概3度3度僕は食べられるから、こういう乞食はしまいには悪いことをするかもしれない。だからオレも時々巡視員さんに疑られて調べられるんだろうと思った」
林かわいいですね。
三島けっこう戦略的にもらうことに頭を働かせてることを書いてるの(笑)。どうやったらもらえるか、とか、あんなふうにしたらよけいもらえないのに、とか書いていて、すごくおもしろいんですよ。
大越意外としたたかですね。
三島小学校に行ったら、「小学生に山下のおっさんですか? と聞かれて変な気がしました。すると小学生が「おっさんも絵がうまいんですか?」と聞くので自分のことはよくわからないので、「よくわからないだ」と言うとみんな笑うので、今度は小学生が「どうすると絵がうまくなるんですか?」と聞くので、それはなかなか難しい問題なのね、「ちょっと難しいだな」と言うと小学生が笑うので、僕もちょっとおかしくなりました」
林はははは。
三島もうなんていうか、あまりにも素直だからそういう偏見とかなくそういうことをさっと書ける。本当にすばらしいなと思いました。
あと、新聞記者の人が「暑い季節が好きですか? 寒い季節が好きですか? と聞くので、ちょうどいい季節が好きです。と答えるとみんな笑う」
何を言っても結局笑われる。みたいなことを書いていてるんですね。
この質問に「ちょうどいい季節が好きです」ってなかなか言えないと思うんですよ。
木村出てこないですよね。これを読むと、嫌いになれないというか、みんな大好きになってしまうようなものがすごく詰まっているんだなと思いました。素直で、一から十まで書いてあるのに、それが読みづらくもなんともなくて、気持ちがいいというか心地がいいというか。
三島有名になってからは、いろんな人と出会ってるんですね。
さらりとこんなことが書かれていたり。「松江から力道山と一緒に汽車に乗って鳥取を旅した」とか(笑)。
窪田力道山って(笑)。
三島「力道山と話してみたら肉をたくさん食べると見えて、そばにいると肉の匂いがした。今は日本一だと聞いたので、いつ世界一になるのですか? と言ったら、それはまだわからない、と言った」
「ちょっと腕に触らせてもらったが、僕のようにやわらかでなくて、たいへん固いのでやはり強い人の肉は固いものだと知りました」
木村そのまんまですよね(笑)。
三島これ読むと元気になるし、心もなんか洗われる。素晴らしいです。シンプルだけど本質的。そういう意味では、益田ミリさんの本ともつながっている気がします。
木村なるほどね。
三島シンプルだけど、とても大切なことが書かれている。
『日本ぶらりぶらり』と『ヨーロッパぶらりぶらり』をあわせてお読み下さい。
木村絵も素敵ですよね。
はじめ何がよいのかわかりませんでした
『その街の今は』(柴崎友香、新潮社) |
林今日は、柴崎友香さんの『その街の今は』(新潮社)です。これはある書店員さんが「哲学的な視点からこの本を分析する」というようなことを書いていて、気になって読んでみた一冊です。
木村へー。
林ちなみにこの本読まれた方いますか? いない。
私は、これを読んだとき、それこそ山下清さんと同じような、作家の思い込みなく、事実をそのままさらりと書いてるなと思ったんですね。それこそ、何も起こってないし、何かが始まっているわけでもなく物語が進んでいく。だけど、それがなんかすごくすがすがしいなと思ったんですね。「なんで、これを読んで哲学が出てくるんだ?」っていうくらい、普通の恋愛小説なんです。
主人公は28歳の女の子で、舞台は大阪です。飲食店でアルバイトをしていて、そのバイト仲間とのやりとりがどうやこうやって書かれている世界はすごいミニマムというか、小さい範囲で、全然世界的な話ではない。本当に日常の、常連さんと恋仲になったとか、それがあんまりよくない不倫だったりしたから、そこはよくないと思ったので新しい恋をしそうな女子の話、という、一言で言ってしまえばそれだけの話です。誰かが死んだり、シリアスな話は全然ない。
難しい話だろうと思って読んだので、すごく拍子抜けしてしまったんですね。「これだけ?」っていう感じでした。それで、ちょうど昨日知人と会って「この本読んだんですけど」という話をしたら、「私この小説すごい好きなんです」とかなり評価が高かったんです。
「どうしてですか?」と聞くと「出てくる人がすごくまっすぐで、自分ができること以上の話をいっさいしないから」と。たしかに、みな謙虚なんです。たとえば地球の環境問題とか政治について「あいつわかってない、ダメだ」みたいに言う人、どうにもならない他人の気持ちをどうにか変えようとする人がいない。その人は「等身大の日々を一生懸命生きている人たちの気持ちいい文章が書かれている」と言っていて、「そんなふうに読んでなかった・・・」と思ったんですね。そこで、もう一度読みなおしてみたら「なるほど」と思って、本の世界がまるっきり違って見えたんです。
なので、これを読んでどう思うかでその人が投影される本だなと思い、もし読んだことがある人がいたら「どう思いましたか?」と聞こうと思ったわけです。
木村そうかそうか。
林たぶん、自分の気分によっても違うんだと思うんですね。例えばこれを100年後に読んだときには「100年前の日本の若者ってこういうことなんだ」と思うくらい。変に、柴崎さんの思想が入っているというよりも、ただ事実とか、その暮らしが見える自然体がいいというか。
最初読んで全然ぴんとこなかったんですけど、読み返して「なるほど、これがおもしろいのか」と思ったりしました。
話の内容も、女の子特有の心理戦とか繰り広げられていて甘酸っぱいんですよ。すごく。主人公が、最初は全然格好いいと思ってなかった男の子に惹かれていく話とか、自分もまた20年後にこの本を読んだら懐かしいと思うようになるのかな? とか思って、ちょっとおもしろいなと思いました。予想外の変化を感じた本だったので、もしよかったらぜひ。
三島読もう。柴崎さんずっと読みたいなと思いながら、読んでなかった。
林つまらないと思う人にはすごくつまらないと思うんですね。登場人物も飛び抜けて個性的で魅力的というよりも、きちんと丁寧に生きてる人たちというか。
星野普通の街の女の子たちに話を聞いていくインタビュー集みたいなのを以前読んだんですが、それすごくおもしろかったですよ。本当に一般の方なんですけど、実はリアルにすごい恋愛体験とかしていて、そういうのと通じるところがあるのかなと思いました。
林『きょうのできごと』(河出文庫)もその知人にすすめられて、今度読んでみようと思ってます。
木村すごくよかったよ。
林映画にもなったんですよね。DVDでは、メイキングがあってその撮影現場に柴崎さんご本人が行くらしいんですけど、「すごく純粋でかわいい人だから見て」と言われたのでDVDも見たいなと思っています。という一冊でした。
ありがとうございました〜。
