似合わない服 ミルコの六本木日記リターンズ

第1回 はじめに

2017.06.19更新

 まさか自分の人生に、ふたたび六本木日記を書く日がおとずれるとは。
 まったく考えていなかった。ふしぎなことは起こるものだ。
 だがこうなったということは、これでいい。そこにはきっと何かある。
 人生はおそらく、ぜんぶちゃんとなっている――にちがいない。

 会社をやめて、がんになって、闘病をしたことは、前に書いた。
 乳がん闘病記『毛のない生活』(2012ミシマ社)は、抗ガン剤治療でいったんぜんぶ抜けた毛が生え始めたところで終わっているが、このたび5年ぶりに続編が出ることになった。
 <その後、私はどうしたか?>についての本である。

 通勤がなくなり、通院もなくなり、東京を離れ実家に帰った私は、闘病以降に考えたことをいつかまとめたいと思ってはいた。
 しかしその内容があまりにも暗いため、はたしてこれは本にしていいものなのだろうか?とも思うようになった。
 亡くなる人もいたなかで、私は生きた。
 けれども闘病後がハッピーかといえば、決してそんなことはなかった。
 病院を出てからが闘いの本番だったのだと、考えるようになっていた。
 そんなことを言ってしまうと、無念にも先に逝った方に申し訳ない、などと逡巡もした。
 ところがここへきて、その真っ暗な話を、本にまとめてくださるという。
 「五年生存」はがん克服のキーワードになっているが、そのタイミングでミシマガジンに『五年後、』を書かせていただいたことが、きっかけとなった。
 そして浮上した、「六本木日記」の復活。
 そうか、これはもしかして、私がちゃんと学んだかどうかを、天に試されているのかも?
 ああ神様のテストなのか、と思えば腑に落ちそうだ。
 六本木について書くことは、過去の自分と向き合っておさらいすること。
 それによって学びをたしかなものにしなさいという、神様からのメッセージなのかもしれなかった。
 なぜなら、――
 乳がんは癒えたものの、なにかがずっと、ヘンだった。
 私は、自分は変わったのだと思っていたが、本当にそうだろうか?

 たとえばあのとき、私は本にこう書いた。

きっとこれがベストなのだと思っていた体重が、ガックリ落ちた。
好きな洋服が借り物のようになってしまったが、もう私はキャリアウーマンではないのだから、素敵なスーツに用はない。ついでに頭の禿(は)げてしまうのだから、ますますおしゃれに用はないのである。(『毛のない生活』2012)


 ここで気を付けなければならないのは、ではあのスーツはなんだったのか? ということだ。「借り物のようになった」のではなく「もともと借り物だった」とすると――?

 変わったかに見えた、その正体は、そこで使った時間とお金と物の旅。
 私は、Spend Somethingをしていただけ?
 私は変わったのではない、元に戻っただけだった――?

 このあとしばしのあいだ、私の過去をめぐる旅、におつきあいいただけますよう――
 どうぞよろしくお願いします。

2015年9月~2016年2月までミシマガで連載されていた、「5年後、」に大幅に加筆・修正した書籍『似合わない服』が、今年8月後半に発刊になります!!本連載は、その発刊を記念した、期間限定連載です。

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山口ミルコ(やまぐち・みるこ)

1965年東京都生まれ。出版社で20年にわたり、さまざまな本をつくる。数々のベストセラーを世に送り出した末、2009年3月に退社。闘病を経て作家活動に入る。著書に『毛のない生活』(ミシマ社)、『毛の力 ロシア・ファーロードをゆく』(小学館)がある。

毛のない生活

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