似合わない服 ミルコの六本木日記リターンズ

最終回 インペリアル六本木フォーラム

2017.09.18更新

2015年9月〜2016年2月までミシマガで連載されていた、「5年後、」と本連載に、大幅に加筆・修正した書籍『似合わない服』が、8月20日に発刊になりました!!


 社長に退意を告げた日のことは、よくおぼえている。
 朝出社してすぐに、お時間くださいと社長に言ったら「いまいいよ」と言われて二人で社長室へ移動し、直接話した。
 自分の気持ちはいちばんに社長に話すと決めていたので、他の誰にも打ち明けていなかった。それと同日ちょうど届くように、私は二通の手紙を用意し、インペリアル六本木フォーラムの前の、郵便ポストに投函していた。
 一通は、いちばんたくさん本をつくらせてもらった作家へ、もう一通は、いちばんたくさん仕事をさせてもらった芸能プロダクションの社長へ。つまり私は同じ日に三通の辞表を、提出したことになる。

 私はこれまでの人生で三度、会社をやめているが、辞表を書いたのは、三度目のみだ。
 辞表は、『会社の辞め方』という本を見て書いた。あの本はどこへやったかな~、あの本があればミルコ版『会社の辞め方』が書けたかも?・・・そうだトロンボーンの中島君にあげた。これから書くなら文芸書よりもビジネス書のほうが出版社に喜ばれるかもしれない。いまさらなんだが本を返してほしい、中島君よろしく。

 これでも会社をやめるときには、ずいぶん多くの人が引き留めてくれたものだった。
 あのときの私にあたたかい声をかけてくれたみなさん、本当にありがとうございました。
 会社時代を振り返ってみると、当時の私たちはほんとうによく働いたと思う。
 まず、社長が休まない人だった
 早起きで、朝から晩まで、社長だった。
 迷惑なほど記憶力がよかった。
 どんな事柄についても鮮やかに喋った。
 全社員をよく見ていた。
 社員ひとりひとりの先にいる作家、仕事、人間関係、についてもおそろしいほど知っており、つねに細かく目をくばっていた。
 あれぐらいしつこく徹底的にやらないと仕事はものにならないのか・・・そう思うと、気が遠くなった。
 そんな社長のもとにいれば、社員はおのずと「結束」する。
 「結束」は楽しかった。一時代であったけれど、当時の会社は、いまも眩しい。
 あれを壊してしまったのは私自身か、それとも時の流れだったのか、これだという答えを出せないまま時を過ごしているものの、私がこうして考えている時間にも、きっと当時の仲間もいまを生きながら考えている。私の人生も、みんなの人生も、それぞれめぐっている。みんなグルグル。生きているあいだにいつかまた、重なりあうことがあるかもしれない。

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山口ミルコ(やまぐち・みるこ)

1965年東京都生まれ。出版社で20年にわたり、さまざまな本をつくる。数々のベストセラーを世に送り出した末、2009年3月に退社。闘病を経て作家活動に入る。著書に『毛のない生活』(ミシマ社)、『毛の力 ロシア・ファーロードをゆく』(小学館)がある。

毛のない生活

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