脳内会議

第12回 脳内会議を豊かにするために

2013.03.27更新

これまでを振り返ると、大きく2種類の『脳内会議』について書いてきました。
ひとつは、他者によって引き起こされるアクションに対処する"受動型"脳内会議
もうひとつは、自分や他者の傾向・特徴をつかむために観察する"能動型"脳内会議
どちらも、「とき」と「場合」の空気を嗅ぎ分け、その場で(おそらく)正しい態度や判断をする技術として紹介しましたが、"受動型"であれ"能動型"であれ、どれだけ自分自身や自分が置かれている環境を客観視することができるか―――いわゆる鳥のように上から物事を見るような習慣を身につけられるかどうかが、ポイントになります。

"物事を客観視する"―――良く聞く言葉ですが、具体的にどうすればよいのでしょう。「客観」の反対後は「主観」ですが、みなさんはこのふたつの違いについて普段から意識されていますか? ビジネスの現場では、「主観」なのか「客観」なのか区別があいまいなままで物事が進んでしまうことがあります。しかし、そういった場合は、議論は拡散する一方でなかなか収束していきませんし、正しい判断や決裁ができにくくなることが多いです。今回は「主観」と「客観」があいまいになりやすいケースをご紹介しながら、その違いについて解説していきたいと思います。

みなさんは面接をする機会はありますか? 「面接をされる経験」はあっても「面接をする経験」は少ないかもしれませんが、面接というのはまさに、「主観」と「客観」がごちゃまぜになりやすいケースなのです。

<ケーススタディ>
あなたは、会社の新卒採用の1次面接を任せられました。人事からは「学生時代のエピソードを聞いて、わが社の社風に合う人がどうか判断してほしい。要は"一緒に働きたい人物かどうか"を見てほしいんだ」と言われました。面接時間は30分で、同時に3名を面談して選考をしなくてはなりません。学生に質問できるのは、多くても3問が限度です。あなたなら、次の3問をするならば、どちらの質問項目を選びますか?

■質問① 
A.学生時代に最も頑張ったことは何ですか?
B.学生時代を通して続けていることは何ですか?

■質問②
C.①の中で、成功した経験を教えてください。
D.①の中で、苦労した経験を教えてください。

■質問③
E.②を通して学んだことは何ですか?
F.②に至った要因は何だと思いますか?

いかがでしょうか?
結論から言ってしまえば、選択肢の前者(A、C、E)は学生の回答も面接官の印象も「主観」になりやすい質問で、選択肢の後者(B、D、F)は「客観」になりやすい質問です。
後者は、最終的に学生を判断しやすい「客観」的な情報が拾え、かつ2次面接の面接官への申し送りも的確にできやすいというメリットもあると考えられます。では、前者と後者の違いを細かく見ていきましょう。

まず質問①。「頑張ったこと」と「続けていること」の違いです。
「頑張ったかどうか」は、個人の尺度の問題です。よくあるのは「××サークルとして活動し、3年生のときには部長としてチームをとりまとめました」というもの。学生は確かに頑張ったのでしょうが、そのサークルの部長がどれほどの責任度や難易度があったのかは、なかなか判りにくい。また面接官も自分の体験と比較して「自分の学生時代の方がよっぽど頑張ったよ。この学生はたいしたことないな」と勝手な尺度を持ってしまう危険性があります。一方「続けていること」は、客観的な事実になりやすい。「小学校から柔道をやっていて、現在は道場で小学生向けに指導をしています」とか「小さな頃から童話が好きで、自作の童話を書き続けています」など、継続性のある事実を引き出すことができるので、その学生が持っている資質やポテンシャルなどを類推しやすくなります。

次に質問②。「成功した経験」と「苦労した経験」。
質問①にも近いですが、「成功(失敗)」は個人の尺度になりますが、「苦労した」は客観的事実が表出しやすくなります。「成功」も「オリンピックで金メダル」クラスであれば、それはすごい!となりますが、「××学生選手権で準決勝進出」と言われても正直わかりにくい。中途採用であれば、仕事の成果を聞くことに価値があると思いますが、学生の成果はあまり選考には役立ちません。「苦労した」経験については、成果が出てようが出てなかろうが、何かしらか壁にぶつかったとき、その学生がどうやって乗り越えた(乗り越えようとした)かの客観的事実を聞くことができるはずです。もし"壁の乗り越え方"についての回答が、「とにかく思い続けることです」「気合いで乗り越えました」など主観的発言になってしまう学生ならば、仕事に対してもそのような姿勢で臨むだろうと思われます。仕事のミスの原因を聞いたら「自分の気合いが足りませんでした!」と答える人と、少なくとも僕は一緒に働きたくはありません。

次に質問③。「学んだこと」と「至った要因」。
「チームワークの重要性について学びました」「人の意見に耳を傾ける大切さを知りました」などの回答自体は、とても素晴らしいものですが、その学生が"本当に"それを学んで身に付けているかどうかは判別できません。"主観で言えるきれいごとはいくらでも創作可能"なのです。一方「至った要因」は、ある事象のプロセスを分解し、どこに問題があったのかを振り返る作業が必要になります。質問②の「苦労した経験」の流れで、自然とその苦労の要因を分析しその要因を解決すべく何かしらかの努力をした、と整理して語ることのできる学生は、仕事の際にも同じアプローチをするだろうことが類推できます。「至った要因」そのものよりも、その要因を発見するに至った経緯を聞くことで、その学生の"思考の習慣"を知る方が重要なのです。

新卒採用面接というのは、「短い時間で学生の資質を判断しなければならない」面接官と「短い時間で自分をアピールしなければならない」学生がぶつかり合う場です。よくありがちなのは面接官が「好き、嫌い」の主観で判断し、自分と似たタイプばかり次に進め、違うタイプは落としてしまうこと。会社組織は自分と異なるタイプの人もいっぱいいて、多様性の中でチームが作られているにも関わらず、面接では「好き、嫌い」判断で選考してしまうのは、会社にも学生にも不幸なことです。また口のうまい学生の"作られたエピソード"に騙されてしまう面接官もいます。そうならないためにも、できるだけ「客観的事実」が集まるような質問を投げかけ、その事実を基に選考をしていく必要があります。

なんだか『脳内会議』ではなく『正しい新卒採用面接の仕方』というタイトルにした方がよいのでは、という展開になってしまいましたが、僕が言いたかったのは、コミュニケーションを通して「(おそらく)正しい判断」をするためには、できるだけ客観的な事実を集め、その情報から判断する"客観視の習慣"を身につける必要があるということです。

以前の原稿で僕は『脳内会議』の基本姿勢を、
「相手を完全に理解することはできない、という前提に立つ上で、理解するための努力を怠らないこと」
とし、基本技術を、
「つねに物事を俯瞰し、総論OK各論NGになりがちな議論のボトルネックがどこにあるのかを冷静に把握しつつ、取引先や会議参加者の"前提"を確認しながら適切に相手との擦り合わせを進めていくこと」
と書きました。『脳内会議』の基本姿勢や基本技術を支え、かつより豊かな『脳内会議』を行うためにも、"客観視の習慣"は欠かせない要素なのです。

"客観視の習慣"を身につけるためには、ビジネスの現場で日々行われているコミュニケーションの中で、どの情報が「主観」でどの情報が「客観」なのかを、意識しながら過ごしてみてください。最初はよくわからないかもしれませんが、意識し続けていれば、あるとき急に「主観」「客観」の境目がわかるようになってきます。また、物事が決裁される現場にいるときは、どのように決裁されていくのかを観察することで、「主観」情報と「客観」情報の重要性の差が理解できるようになっていくと思います。

***

12回に渡って書いてきた『脳内会議』ですが、今回でいったん筆を置かせていただきます。僕のつたない経験をもとに、ビジネスですぐに活用できそうな技術を中心に書き記してきましたが、少しはお役に立てたでしょうか。ちょっとしたコミュニケーションのズレを修正するとか、チームとしてのまとまりが弱い原因をつきとめて改善するなど、どちらかと言えば"地味な"ネタが多かったので、期待外れの方もいらしたと思います。

自分自身の仕事を振り返っても、「加湿機をフロアに設置するべきか否か。それはレンタルがいいのか、購入した方がいいのか」から「3ヵ年の中長期的戦略を立案するために事業のスコープを明確にする」まで、大小あらゆる議題をこなしてきたのですが、どの議題にも共通するのは"会社とはチームで成果を出すもの"であり、その根源には"他者との合意形成をいかにうまく・円滑に行うか"があると思っています。ですので、「コミュニケーションのズレ」「チームとしてのまとまりが弱い」を解決することは、多くのビジネス現場での課題解決につながるはずと信じ、そういったネタを多く取り上げてきました(もちろんそれだけでは解決できない、経営的な課題は存在しますが)。

悩んだり、喜んだり、傷ついたり、うぬぼれたりを日々繰り返す中で、脳内にはあなただけの体験が蓄積されていきます。その体験の蓄積を活用する技術が『脳内会議』そのものであり、よって『脳内会議』には正解もなければ、終わりもありません。たとえどんなに技術が磨かれようとも、日々の悩みや痛みがなくなることなどありえません。しかし技術が磨かれることで、日々から得られる"体験の質"は、どんどん研ぎ澄まされていきます。それが新鮮で、刺激的で、楽しい。僕は、次なる未知の体験を得るために、今日も『脳内会議』を繰り返していきたいと思います。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

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藤井大輔(ふじい・だいすけ)

1973年 富山県生まれ。1995年 株式会社リクルート入社。以来、編集・メディア設計職に従事し、主に『ゼクシィ』『ABROAD』『ダ・ヴィンチ』『住宅情報』『都心に住む』等に携わる。

2003年9月『R25』を立ち上げ、編集コンセプト・ネーミング・コンテンツラインナップを立案する。

2005年4月『R25』編集長に就任。2012年3月まで『R25』フリーマガジン・デジタルメディア戦略担当。

現在はシニア向け温泉予約サービス『ゆこゆこ』の経営企画室長。著書に『R25のつくりかた』(日本経済新聞出版社)。

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