脳内会議

第3回 相手を理解できてますか?

2012.08.21更新

自分以外の他者によって引き起こされる受動型脳内会議では、相手の言葉や仕草に対しリアクションをしながら、相手の期待値やお互いの信頼関係の度合いを量ることが重要だと、前回(僭越ながら)記しました。

どんなビジネスでも、会議や打ち合わせが皆無な現場は存在しません。人と人とが何かしらか"擦り合せる"ための行為を総称したものをビジネスと呼ぶ、と考えても差し支えないほどです。しかし、いったい我々は何をそんなに毎日、擦り合せているのでしょうか?

コミュニケーションの本質は、相手を理解することである――どこかで聞いたことがあるフレーズですし、まぁその通りだよね、なんて特に疑問も抱かない人も多いかと思いますが、僕個人としてはちょっと違和感を覚える言葉です。もし相手を理解することができるのであれば、なぜ我々はこんなにも日々、擦り合わせを行っているのでしょうか?

ここで再びカツオくんの登場です。

カツオくんは親友の中島くんを放課後に野球を誘いたいのですが、明日は算数の追試があり、カツオくんはその勉強をしなければなりません。お昼休みに廊下で悩んでいるところに、中島くんがやってきました。

「おい、磯野。なにしてるんだい?」
「中島、ちょうどいいところに来た。今日、放課後、野球しようぜ」
「あれ、磯野は明日テストがあるんじゃなかったっけ?」
「そうなんだよ、でも野球もしたいし。。。 なぁ、中島、どうすればいい?」
「えっ、そんなこと言われても。。。」

この後に続く、カツオくんのセリフを2種類、考えてみました。
まずはパターンA。

「なぁ、中島。ぼくたちは、親友じゃないか。ぼくの気持ち、わかってくれるだろう?」
「ま、まぁ、わかるけどさ」
「来週、隣町との試合があるし、ぼくにとっては野球の方が大事なんだよ」
「うーん、でも野球に集中するためにも、テストはちゃんと合格しないと、また追試になるよ」
「そんなことわかってるさ。先生や父さんみたいなこと、中島に言われたくないよ。親友のくせに、なんでわかってくれないのさ」
「磯野こそ、ぼくのことわかってないよ。ぼくは磯野のためを思って言ってるのに。とにかく、今日はぼくも他に用事があるし、野球はしない」
「なんだよ、中島のわからずや!」

次にパターンBです。

「中島はどう思う? ぼくは野球に行きたいんだけど」
「気持ちはわかるけど、今度のテストも落ちたら、また追試だろう? さらに野球ができなくなるじゃないか」
「それはそうだけど」
「それに、実は今日、ぼくも他に用事があってさ。ごめん」
「わかったよ、ありがとう。話を聞いてくれて」
「いや、こっちこそ、役に立てなくてごめん。勉強がんばって、明日はすっきりした気持ちで野球しようぜ」

ずいぶん極端な会話の事例で申し訳ないのですが、パターンAはカツオくんが一方的に、中島くんは親友なのでカツオくんの心の葛藤を理解してくれている、と思い込んでいる状態です。"人と人は理解できる"前提に立つことが行き過ぎると、自分の意思に沿わない相手の意見が反論に聞こえてしまい、しまいには「なんでこの人は自分のことをわかってくれないんだろう」となりがちです。相手に甘えている、とも言えるかもしれません。
パターンBでは、自分の意思を伝えつつ、まずは相手の意見や反応を求めます。相手の意見に自分が賛同できれば納得すればよいし、賛同できなければ「なぜ、その意見になったのか」の背景を教えてもらえればよい。自分の意思ははっきり伝えているので、相手も意見を出しやすくなります。

今回のケースでは、中島くんに用事があったのでカツオくんのテストとは別の理由で野球ができなかったわけですが、それを引き出すためにはカツオくんには会話の隙間というか、リアクションの幅が必要です。そのためにも、"お互いが理解できている"前提よりも、"お互いが理解し合おうと努めている"前提の方が、一方的にならずに済みますし、リアクションを繰り返す中で相互の考えを擦り合せていくことができます。

これまでの言動や事象から導くと今回のケースもおそらくこうなるだろう、という想定が上手な人は、脳内会議が上手な人と言えます。("想定内"なる言葉を流行語に推し上げたIT実業家がいましたが、彼の脳内会議レベルはさぞ高かったことでしょう)。とはいえ、自分が相手を理解できる前提に立ちすぎて、相手のニーズを汲み取る作業を怠れば、脳内会議は空振りに終わってしまうことが多くなるでしょう。そういう意味でも、前回お話したリアクションの技術は、相手のニーズの源泉や変化をその都度確認するためには、欠かせないものだと思っています。

コミュニケーションの本質は、相手を完全に理解することはできない、という前提に立つ上で、理解するための努力を怠らず、前回擦り合せた地点からズレていないかどうか、ズレたとしたらそれは誰のどんな理由によって引き起こされたのかを、日々確認し合うことである――かなり長いですが、僕はそのように考えています。
相手のニーズは常に変わるし、そもそも完全に理解することは不可能である前提で脳内会議をした方が結局「トク」であることを経験的に学んだからなのかもしれません(単に、元来の僕の性格が捻くれているだけともいえます。。。苦笑)。

特にビジネスの現場では、製造している商品や運営しているサービスが、常に「内的な要因」と「外的な要因」のふたつの圧力を受けており、非連続的に変化するのが当たり前です。それならば相互の理解を突き詰めるよりも、相互の理解が浅くても現時点で共有/共感できる目的や課題解決を擦り合せる方が、スピードは速いですし、修正も利きやすい(2010年以降で、ネットだグローバルだと連呼されているようなビジネス現場で活躍されている方には、特に判断のスピードがやたら求められる傾向にあるのでより実践的だと思います)。そういう意味では受動型脳内会議のゴールは、相互理解ではなく相互共感/共有、もしくは相互の妥協点をできるだけ高い地点で擦り合せること、だと言えそうです。

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藤井大輔(ふじい・だいすけ)

1973年 富山県生まれ。1995年 株式会社リクルート入社。以来、編集・メディア設計職に従事し、主に『ゼクシィ』『ABROAD』『ダ・ヴィンチ』『住宅情報』『都心に住む』等に携わる。

2003年9月『R25』を立ち上げ、編集コンセプト・ネーミング・コンテンツラインナップを立案する。

2005年4月『R25』編集長に就任。2012年3月まで『R25』フリーマガジン・デジタルメディア戦略担当。

現在はシニア向け温泉予約サービス『ゆこゆこ』の経営企画室長。著書に『R25のつくりかた』(日本経済新聞出版社)。

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