しごとのわ通信

 ミシマ社とインプレスのビジネス書レーベル「しごとのわ」。11月刊行となった『社長の「まわり」の仕事術』上阪徹(インプレス)は、経営者の本...ではなく、経営者の「まわり」でばりばりと働く人たちのスキルと思考をまとめた一冊です。
 本書の刊行を記念して、11月30日に青山ブックセンターでトークイベントが開催!
 数多くの経営者にインタビューをし、本を書いてきた著者・上阪徹さんと、本書のデザインを担当いただいたデザイナーであり、ブックデザイナー・祖父江慎さんの「まわり」で8年働かれていた佐藤亜沙美さんに、トップの「まわり」で仕事をし、力に変えていくには......とお話を伺いました。

 今日から仕事に向かう姿勢が変わるかも!? 大盛り上がりの対談、前後編でお届けします。

(聞き手・構成:新居未希、構成補助:中谷利明)

その3 トップの「まわり」で仕事する 上阪徹×佐藤亜沙美 前編

2017.12.14更新


すごい人たちは一瞬にして人を見抜いてしまうので、素でいればいい(上阪)

―― 上阪さんは20年、ブックライターとして相当な数、経営者の方にもインタビューされていると思いますが、どんなふうにお仕事をされてきたのでしょうか。

上阪直接その部下として働いてきたわけじゃないですけど、ブックライターとして代わりに書かせてもらったり、雑誌などのインタビューをさせていただいたりしています。
 多く取材していて思うことですが、社長や経営者って、こちらが思っているほど相手のことを気にしていないんですよ。立派な人に会うからとビビっちゃったり、「大きく見せないといけない」と緊張していくことはなんの意味もなくって。すごい人たちは一瞬にして人を見抜いてしまうので、素でいればいいと、僕は思っていますね。

―― 上阪さんもはじめは会社員として働かれていて、そこからお一人でずっと書き物をされていって......。どういうふうに技を吸収されていったんですか?

上阪僕は師匠についたりしたことがなくって、ライターの先輩も友人もいない。業界に友達がいないんですよ(笑)。うーん、なんでしょうね、「僕が取材でいただいてきた、こんないい話がある」っていうのを、たくさんの人に知ってほしいんです。どうすればその話を、読者の人たちにトランスレーションして伝えられるか。そしてお役に立てること。そのふたつがモチベーションです。何かを参考にしたとかじゃないんですよね。
 社長に気に入られようとも思っていないし、なんとも思っていないから緊張もしないし......。ずけずけ聞きたいことを聞きます(笑)。読者の役には立ちたいとは強く思っていますけど、社長に気に入られようとか、そういう意識はまったくないんですよね。

佐藤『書いて生きていく プロ文章論』上阪徹(ミシマ社)の中に、「たった一人の読者を想像して、その方が目の前にいるという体で文章を書く」というふうに書かれていて。そこは私もまったく一緒だなと思いました。

上阪あっ、そうですか。

佐藤私もデザインをはじめるとき、ピンポイントで人物像を決めてしまうんです。服装、身長、眼鏡をかけてるかけてないまで、ピンポイントでその人だけを想像してつくる。いろんな制約、レスポンス、駄目出しがあっても、それがあるとブレないというのがあるんです。

上阪「ただ文章を書く」となってくると、真っ暗闇の中で一人でしゃべっているようなもの。目的も決まっておらず、ターゲットも誰なのかわからない中で、「ただ書く」って、僕にはできないです。必ず誰かの役に立つために文章は存在していると思っているので、そうすると明確な「誰か」がいないと、つくることは僕にはできないんですよね。


「おすすめポイントを教えて」と祖父江さんは聞くんです(佐藤)

―― 佐藤さんはブックデザイナー・祖父江慎さんの事務所(コズフィッシュ)に8年間いらっしゃったということで。ミシマ社も祖父江さんとは一緒にお仕事をさせていただいたことがあるんですが、こう、妖精のような印象といいますか......「祖父江さんのまわりで働く」って、ずばり、どんな感じなのでしょう?

佐藤妖精のような可愛らしい面がある一方で、仕事のやりとりをさせていただくときは、ものすごく鋭い祖父江さんの方が印象的でした。
 私がデザインするうえで、8年間ずーっと言われていたのは、「わかりにくい」「読みにくい」というところでした。可読性と「これだと読者がわからない」という、誰よりもまっとうなことを。おもしろい、おもしろくないっていうアイデアよりも、まずは「読者への配慮が足りない」ということでした。
 あとは、「知った気になって自分がデザインして、わかりにくくなっている」ということ。原稿を読んだり、打ち合わせで内容を聞いていたりすると、もうわかった気になって、初心に戻れなくなるタイミングがあります。そのタイミングで、最初に戻れるかどうかが一番大事だと思っていて。
 上阪さんの文章も、「読者はここわかんないだろうな」という要素をぜんぶ洗い出して、組み立て直してくれているという感じがします。だから、身体と頭に優しいというか。

上阪「読者に親切」ということはいつも考えてますね。僕は書くキャリアのスタートがコピーライターだったんですが、広告って不特定多数の人たちが見るから、わからない内容ってNGなんです。それをまず前提として、人は思った以上にものを知らないということを常に意識しながら、文章を書いてます。

佐藤なるほど。仕事を長く続けていると、知らないことが恥ずかしいと思ってしまったり、「これを聞くのってどうなのかな」というときがあるんですけど、祖父江さんは子どものように「これってどういうこと?」とわからないところを打ち合わせのときにきいていく。真っさらな状態で、「読者」になるんです。

上阪それはゲラを読んだりしながら、ですか?

佐藤祖父江さんはものすごく直感が鋭い方なので、ゲラを読まれるときと読まれないときがあるかと思いますが。。
 打ち合わせのとき、編集者に「作品のおすすめポイント」を聞くんです。「あなたが思うこの作品の魅力はどんなところですか」と。作品によっては、そこからイメージをバーッと広げていくのだと思います。

上阪そこをズバーッとくるんですね(笑)。それはおもしろいなぁ!


四つ角を抑えるな!(佐藤)

佐藤デザインするときって、わりと暴力性が大事になってくることがあるといいますか。

上阪暴力性、ですか! それは、「思い切り」ということですか?

佐藤思い切りというよりか、未読の読者になるつもり、といったらよいでしょうか。
 たとえばこの『社長の「まわり」の仕事術』だと、「文字で社長をつぶしちゃいけないかな」といったような、尊敬するあまりの配慮みたいなものがデザインを弱くする、ということがあって。読み込んで「素晴らしいなぁ!」と思ってしまうと、「素晴らしい」という気持ちを丁寧に表現しようとして、細かい表現になって、パワーが弱くなっていく。祖父江さんは「デザインは途中でやめる感じが大事」っていつも言うんですけど。

上阪途中でやめる感じが大事......。

佐藤デザインは「こんにちは」まで。完成させすぎない。完成させようとするとデザインは閉じていってしまって、棺桶のようになる、というふうに祖父江さんは言うんです。この本もイラストの配置をランダムにしていて、空間が抜けるようにきっちり四角に納めていないのも、読者の思考が入る余白をとるイメージでデザインしています。祖父江さんに必ず、「四つ角を押さえるな」と言われていたんですけど。

上阪「押さえるな」というのは?

佐藤四つ角をおさえるようにきっちりレイアウトしてしまうと、本に結界が張られてしまうから、コミュニケーションもしづらくなるっていうんですね。

上阪おお......すごすぎる!

佐藤というのは、デザイナーだとわかるかもしれないんですけど、四つ角を押さえると安心するんです、デザイナーが。版面が安定するので、ずっしりして安定したように自分は感じる。だから「できた」と思ってしまいがちなんですけど、それをグニャグニャって一回ほどかないと読者が入っていけなくなっちゃう。
 だから、8割くらいまでいったら手を離すということをいつもやるんです。これは、祖父江さんにずっと言われていたことですね。

上阪それは、仕事をしながら教えてもらった、という感じですか?

佐藤「これは通らないんだな」ということを、数を打って体でわかっていくというか(笑)。「祖父江さんが『う〜ん』って言う瞬間があるな」というのがなんとなく、何百回と聞いているとわかるんです。

上阪でも、親分のOKをとらないと仕事が終わらないわけじゃないですか。だからといって親分のやりたいものをつくるわけにもいかないでしょう。それはどうしていたんですか?

佐藤本気でやっていると実は伝わる、というのがあって。この本の中に出てくる「まわり」のみなさんは、社長さんのことを「鋭い」とおっしゃっていたと思うんですけど、なんとなくダメとか、なんとなくいいっていうふうに雰囲気で言ってるわけじゃなくて、「ここを押さえておけばOK」というポイントがあるんですよね。「読者のことをちゃんと考えている」「面として強い感じになっている」とか、あと一番大きいのは「心酔していない」。デザイナーが心酔していると気持ち悪くなる、というのがあるので、そこの心酔がない状態までもっていくことが大切なんです。

上阪心酔してちゃダメなんですか?

佐藤心酔すると、どうにもならなくなってしまうということがあります。あくまで客観的であるということが大切なのだと思います。

上阪そうか......。でもそのダメポイントはしっかり理解しつつも、ダメなのがいっぱいあると発想に制限が出てきちゃうことにもなるから、それは困らないんですか?

佐藤その作品によって「いいポイント」と「悪いポイント」というのがあるんです。たとえば幽霊の本だったら、四つ角の結界は張ってもいいんです。それが逆に遊びとして成立するので、結界張りが許される作品ということになります。毎回その作品によって遊びが変わるので、その遊びを自分が拾い上げていればOKという感じなんです。
 この作品でしかできない遊びが成立してれば、何も言われない、というポイントまでいくんですけど、なんとな~くレイアウトしちゃっていたり、小綺麗にまとめてたりしていると、「これって、この本じゃなくてもよくない?」と。「ここで大事にしてるポイントはなんなの?」と、懇々と、長時間コースでした(笑)。


 

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