仕掛け屋だより

第15回 季節の自由が丘たより(カタカナ)

2011.12.21更新

第5回 カタカナ代表 河野純一さん

第15回 季節の自由が丘たより(カタカナ)

自由が丘の素敵なお店をご紹介する「季節の自由が丘」。
今回は自由が丘駅南口から徒歩5分、いつ行ってもひとつひとつの商品について丁寧に説明してくれる雑貨屋さん「カタカナ」の代表、河野純一さんにお話をうかがいました。
居心地よいお店の秘密を、少しだけお教えいただきました。
(文・写真:林萌)

ひとつひとつのものに、知ってほしいエピソードがあります

―― 大切な人、特にセンスのいい人への贈り物は、いつもカタカナさんで購入させていただいております。もしくはあげる予定がなくても、いつかあげたいと思わず衝動買いしてしまいます。

第15回 季節の自由が丘たより(カタカナ)

河野ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです。

―― ほかで見ないものばかりです。というか、見ているのかもしれませんが、ひとつひとつが特別なものに見えます。このツバメ活版堂のカードも、きれいですよね。

河野このカードは縁起がいいんですよ。ツバメ活版堂さんという活版印刷の作家さんがつくったもので、活版印刷の文字はいろいろな古い工場から譲り受けたものを使用されているようなのですね。なかでもこれは、鎌倉の鶴岡八幡宮で行われていた結婚式用の招待状を印刷していた印刷屋さんの活字を使用してつくったカードなんです。

―― 添えられたことばが「素敵なことがおこりますように」。なんだか、このカードを贈られた人には、ほんとうに素敵なことがおこる気がします。

第15回 季節の自由が丘たより(カタカナ)

河野そうですね。

そのときお客さんが来たので店内を見ていると、スタッフの児玉さんがお話聞かせてくださいました。

第15回 季節の自由が丘たより(カタカナ)

―― このこけし、可愛いですね。

児玉これは、群馬のこけし屋さんがカタカナ用につくってくださったんです。お店のロゴの色を使用していて「カタくん」と「カナちゃん」という名前もあるんです。どちらか片方買われた方も、その後「やっぱりさみしそうだから」と、もうひとりをお買い上げに見えることが多いんですよ。

―― たしかに、こうして並んでいるふたりを引き離してひとりぼっちにさせるのは、忍びなくなりますね。

児玉このペンも、じつはふつうに売っているようで、売っていないんです。

第15回 季節の自由が丘たより(カタカナ)

―― 割とどこでも目にする気がするのですが・・・・・・?

児玉これは、ぺんてるのペンなんです。通常は12本まとめて売られていて、黒、赤、青、グリーン以外の8色は、日本では単品で売っていないんです。なので、海外に輸出したものを逆輸入して、一本ずつ売っています。

―― なるほど。これはもう、ぜんぶの商品に物語があること間違いありませんね。ひとつひとつ、時間をかけて聞きたくなります。

河野やぁ、すいません。

―― いろいろな方が来て、接客も楽しそうですね。今、こけしなどを見せていただいておりました。

河野このミッフィーのこけしは、今すごい売れているんです。群馬の「卯三郎こけし」というこけし屋さんがたくさんつくってくれています。作業を分担しながら、職人さんが一個ずつ手作りでつくられているんですよ。

―― 細かなところまで丁寧につくられていますね。どれひとつとってもエッジが利いていて、つくられた背景を知りたくなります。

日本の本物の技術力を伝えたい

―― 河野さんはもともと、雑貨屋さんにいらしたのでしょうか。

河野ぼくはもともと、アパレル会社で働いていました。100年以上も続いている、老舗です。そこに20年勤めました。最後の5、6年は事業部をまとめる立場をしていたのですが、ふと疑問に思うようになったんです。ぼくは洋服が好きだし、今でも好きですし、「夢やスタイルを提供する」という思いでいたのです。ですが利益優先になってしまうと、とにかく安くつくって高く売る。そのサイクルをはやくし、売れない場合は値引きして売る、ということを繰り返していました。

―― それでは「洋服が好き」、という気持ちを保ちにくいですよね。

河野そうなんです。在職中はもちろん誇りを持って仕事をしていましたが、これは、自分がやることではないという気がしました。ぼくは前職で海外のバイヤーとのやりとりもしたのですが、そのとき「日本のもののクオリティは高い」と、どこでも評価されていました。特に身の回りのもの、ペンとかノートなどが好評なんです。日本って、まだまだ魅力的なものや人がたくさんあるんです。

―― 昔のもののほうが、シンプルでかっこいいものだったりしますよね。

河野あと、日本の技術を知るきっかけとなったことがもうひとつあります。今から5年くらい前、お嫁さんが病気になって、毎日抗がん剤みたいな強い薬を飲まなくてはならなくなったとき、副作用が出ると言われていたのですが、そのまま働いていたんですね。でもそのうちに食欲がなくなってしまって。ぼくは、おいしいものを食べさせたかったのですが、薬を飲まなくてはいけないので、食欲がなくとも何か口に入れなければならない。すると、どうしても毎日のお弁当が、作業としての食事になってしまうんですね。

―― ええ。

第15回 季節の自由が丘たより(カタカナ)

河野そこである記念日に、闘病がんばっているので何かプレゼントしようとほしいものを聞いたら「秋田のまげわっぱがほしい」というんです。百貨店に買いに行って驚いたのですが、お弁当箱が1万円もしたんです。そしてまげわっぱにごはんを入れて食べたところ、お嫁さんが「おいしかった」っていうんです。「味が、ぜんぜん違う」と。

―― ほう!

河野これってすげえ! と思いましたね。長い間続いている日本の技って、本当にすごいなと。昔からの知識が地元で綿々と受け継がれているんだと思いました。でも、まげわっぱって3000円以下で売っているものもあるのですが、白木を使っていなかったり内側にもウレタン塗装がされていたりで本来の木の良さが生かされず使う意味のないニセモノが、まげわっぱとして今たくさんまかり通っているんです。だから、お客さんには本当のまげわっぱを使ってほしいですし、ほかのものでも、ぼくが良いと思ったものしか置きません。

―― カタカナさんに置いてあるものは確かだ、という気合いが、お店から伝わってきます。

河野ぼくは「雑貨屋さん」をやりたいと思ったわけではありません。ツバメノートさんのように、昔からある良いものに囲まれたお店にしたいと思って始めました。「日本のかっこいいを集めたお土産屋さん」というコンセプトでお店を始めたいと思ったのですが、それなら外国の方もよく来るし職人さんもいるから最初は浅草で始めようかな、とも考えたのですが、なにか違和感を感じたんです。ちょうど前職の担当が自由が丘で客層も年中行事もよくわかっていたので、じゃあ吉祥寺か自由が丘かな、と思っていたのです。

―― 吉祥寺も候補にあがっていたのですね。

河野お店は、立地が大切なんです。立地が悪いと、認知度を高めるためにとても時間がかかります。ですから、ここはあえて激戦区で始めたいと思いました。そうして探しているうちにたまたま今の場所を見つけて、「ここだ」と、決めました。中学校まで上野毛に住んでいたので、もともとこの辺りになじみがあるんです。昔から、モンブランにはよく行っていました。

―― お店の「カタカナ」という名前には、どんな由来があるのですか?

河野これはね、すぐ決まったんです。ぼくは、日本のものを扱いたいと思っていました。でもそれは「和雑貨」じゃないんです。日本人は海外の文化が入ったとき、文化を受け入れることが得意な国民ですよね。それは、海外の言葉や表現を「カタカナ」という便利な言葉で変換できるからだと思うんです。今の日本にある表現を伝えようと思ったときに、ピッタリだと思いました、ですので、海外の言葉を転換する、漢字でもひらがなでもない「カタカナ」を、お店の名前にしました

第15回 季節の自由が丘たより(カタカナ)

―― なるほど。たしかにコンセプトにピッタリですね。ロゴも可愛いです。

河野これは「minna」というデザインユニットをしている長谷川くんがつくってくれたものです。「日本のかっこいいを集めたお土産屋さん」というコンセプトに共感してくれたようで、ツイッターがきっかけでいきなりメールをくれたんです。当時このロゴはなくて、ワードでつくった簡単な日の丸のなかに文字があるようなデザインの名刺を使っていたんです。

そしたら「河野さん、お店のロゴは、認知される上で重要です」って20歳も年下なのに説教されて(苦笑)。お店開店時だし資金もないなか、ここは費用をかけたほうがいいのかもしれない、と彼にロゴを依頼したんです。今思うと、あのときお願いしていてよかったです。長谷川くんにはその後もいろいろお願いしていて、こけしのカタくんカナちゃんをデザインしてくれたのも、長谷川くんなんですよ。

ものとの出会いは、2通り

―― しかしあのクオリティの品物の数々は、具体的にどのようにして集めていらっしゃるのでしょうか。

河野ぼくの場合、ものとの出会いは2通りありますね。人の紹介など出会いから知るときと、「こんなものないかな」と自分で探して見つけたときです。会う人みんなに「面白いものがあったら、教えてね」と伝えているので、たまに「河野さん好きそうなものを見つけたよ」と教えてもらえるんです。センスの合う人の紹介で出会うものは、いいものが多いので嬉しいですね。

―― なるほど。

河野ときどきお店でテーマを決めてフェアをしたりするのですが、探して出会うときは明確に「こんなものがほしい」とイメージがあって、そういったときですね。そうして探して出会ったときの快感が、忘れられないんです。この前「新春あんこフェア」という名前が浮かんだので、いつか「新春あんこフェア」をしたいと思っています。なんか、ことばの響きがいいですよね。極上のたい焼きとか、あんこの絵本なんかを集めたいですね。

第15回 季節の自由が丘たより(カタカナ)

―― 富士山フェアは、本当に素敵でした。ちょっと思ったのですが、例えば雑誌『ブルータス』で「富士山」という特集が組まれたら、きっと河野さんが集められたものの数々が登場すると思います。

河野なるほど。富士山フェアをしたときはとても好評で、富士山にまつわるカードから陶器、模型やおせんべいまで、ただ富士山のデザイン、という基準ではなく「これは」というものを集めました。

―― その職人さんのものに対する思いをみなさんに取材し文字にしたら、本当に一冊の雑誌になると思いました。

河野そうかもしれないですね。たしかにぼくは、あのフェアを編集的な視点で構成したのかもしれません。とても楽しいフェアでした。

―― そんなふうに集めたら、ひとつずつ丁寧に説明したくなりますよね。

河野そうなんです。ひとつひとつお伝えしたいエピソードがあるのですが、ありがたいことにたくさんお客さんがいらっしゃると、土日は特に、どうしても一人ずつ説明することができないんです。ですから、商品のポイントをまとめたカードを一緒に置いています。お話できなくても、お伝えできるように。

―― お店中のカードを読むだけで、あっという間に時間が経ってしまいそうです。どれもその物語とともに、だれかに贈りたくなりますね。

河野だってツバメノートの専務さんと話したとき、ノート一冊で3時間も話したんですよ。こんなにこだわった工程を経てつくられていることを、ぼくはどこの文具屋さんでも聞いたことがなかった。だから、ものに込められたこだわりや愛情を解説してお伝えしないのは、いけないことだと思っています。うちのお店は、雑貨屋さんでは類を見ないくらい、接客します。

―― ものへの愛が、溢れていますね。

河野そうですね。愛しているのかもしれない(笑)。だから、ものを雑に扱われると、怒りが湧くんです。お客さんは、もちろんありがたいです。ですが、お店とお客さんという関係の前に、人としてお互いに礼儀はあって、ぼくはガンコじじいとしてお客さんに「見る礼儀」を教えていると思っています。見たら、器はやさしく戻す。本は、あとが残らないように気をつけて見る。子どもはすぐ理解するんです。

「やさしくみてね」というと、素直にすぐそっと置いたり、気をつけてくれる。でも、大人はわかってもらいにくいですね。個人商店の役目と思って、長いスパンで街に恩返ししたいと思っているので、ガンコじじいはこれからも続けようと思います。

―― そういうお店が増えたら、あたたかい商店街になりますね。

河野ぼくは「町の交番」になろうと思っていて、ここにいると、よくほかのお店や名前などいろんなことを聞かれるんです。そんなとき絶対「わかりません」と言わないんです。パソコンで場所を調べたりして、できるだけ質問に応えたいと思っています。

―― その思いを、この安心感というかお店のやわらかい空気感を通して感じる気がします。

人の記憶に残るお店に

河野とても嬉しかったエピソードがあって、ある日、小学校3、4年生の小さい子がひとりで入ってきて、キョロキョロしてすぐ出て行ったんです。その二日後にまたひとりで来て。「何か探しているの?」って聞いたら「万年筆を探してる」って言うんです。お店で安い、でも書きやすい万年筆を扱っていたのですが、そのときちょうど売り切れてしまっていたので「取り寄せようか?」といったら「うん」というので、名前と電話番号を教えてもらおうとしたんです。

―― はい。

第15回 季節の自由が丘たより(カタカナ)

河野「電話持っていないから、お父さんの番号でもいい?」と言うので「いいよ」と教えてもらい、万年筆が届いたとき、お父さんに電話したんです。「息子さんが頼まれた万年筆が届きました」と。後日お父さんと一緒にみえて、525円を握り締めてダッシュで来て、万年筆を買ってくれました。

お父さんに聞いてみると、どうやら最初はお父さんがうちのお店で万年筆を買ってくれたようで、それを見た息子さんがほしくなったようなんです。その万年筆は、その子にとって初めての万年筆ですよね。きっと、初めての万年筆を買ったお店として、彼の心のなかにずっと残ると思うんです。嬉しいですよね。大人になってまた来てくれたらと思っています。

―― ・・・いい話ですね。長いスパンで、その場に根をおろす覚悟があってこその関係ですね。

河野まだお店をオープンして一年とちょっとですが、今は毎日すごく好きなことができて、楽しいです。独立してから仕事をしない日はなく、休みはありませんが、公私の区別がないので関係ないですね。今はそういう時期なんだと思います。いつか、連休とって休むかもしれませんが、今はいいです。お店に来るまえに、たまに走ってるのですが、走ると調子がいいです。

―― 来年は、どんなことをしたいですか?

河野今年はバタバタで終わってしまったので、来年は全国各地をとびまわって、埋もれている良いものをほじくりたいと思います。島根県とか、行ってみたいです。

―― おもしろいものがくるくる入れ替わるカタカナさんから、今後も目が話せませんね。本日はお忙しいなかお話くださり、ありがとうございました。


<お店情報>
カタカナ
ツイッター katakana_japan

〒158-0083 東京都世田谷区奥沢5-20-21 第一ワチビル1F
自由が丘駅南口から徒歩5分
Tel:03-5731-0919
営業時間 : 11:00~20:00
定休日 : 第1、3水曜日(年末は1月1日、2日がお休み。3日の営業日についてはWEBにて)

●「Happy Holiday Market」~12月25日 休業日なし
☆伊勢丹新宿店 本館5階 ステージ5にて開催中。
「日本のクリスマスギフト!」をテーマに、自慢の品を置いています。

●「NIPPONの遊び展」12月27日(火)~1月16日(月)
ベーゴマ、ケン玉、福わらい、ケン玉の本、おにごっこの本など
日本昔ながらの遊びどうぐや、まつわるモノを集めました。

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

ミシマ社仕掛け屋チーム

手書きのフリーペーパー「ミシマ社通信」をつくったり、書店店頭に飾られるPOPやパネルを制作する世界でたった一つしかない(?)チーム。
ブログ「春夏秋冬」もご覧くださいませ。

春夏秋冬

バックナンバー