今月の特集1


 たとえば『サピエンス全史』が世界的にベストセラーになっていたり、"ビッグデータ"関連のビジネスが注目をあつめたり、「世界の全体像を俯瞰的に把握したい」という欲求は、人間にとって根源的なものなのだろうな、と感じます。
 けれども、「私自身は、このことについてどう感じているだろうか」「このことについてどう考えるだろうか」という足元を、しっかり見据えて言動や行動をスタートしないと危うい、とも感じるのです。

 とはいえ、言うは易し、行うは難し。
これだけ情報が溢れる世の中で、"自分で考える"というのは思っているより難しく、自分の意見を言っているつもりが、世間で言われていることのつまみ食いになっているような気がしてきたり、「おかしいのではないか」と思うことがあっても、自分の感覚に自信をもてずに口をつぐんだり、道のりはなかなか困難です。

 『ウソつきの国』の担当編集として勢古さんとお仕事をさせていただき、感じたのは、勢古さんは、長い会社員経験や、読まれてきた膨大な書籍を、一つ一つ咀嚼して、"自分で考える"ことを地道にコツコツと積み上げられてきたのだ、ということでした。
 これは、そう簡単にできることではないと思います。この積み上げには近道がなくて、調子よく"いいとこ取り"をする人たちを横目に見ながら毎日を流さずにまじめに生き、そうしているからといって、誰かに褒められるわけでもないからです。
 
 三島も書いていましたが、ウソが蔓延して毎日のニュースをにぎわせることに虚しさを感じる昨今、読みたいのは、そういう方の言葉ではないでしょうか。
 そういうわけで、ミシマ社メンバー一同、それぞれが選んだ勢古さんの本を、ここに紹介させていただきます。22日発売の『ウソつきの国』と合わせて、ぜひお手にとってみてください。
(星野友里)

勢古浩爾さんを読もう(ミシマ社メンバー一同)

2017.02.21更新

『ビジネス書大バカ事典』(三五館)

「成功」という言葉とどう付き合えばいいのかについて、大変示唆に富んだ一冊。世間の風潮とかそういう表面的なことに踊らされず、「もどき」は「擬き」だと喝破する勢古さんの「まっとうさ」がたまらない。原典を丹念に読み込んでいくからこその力強さ。いわく、"人生はつねに「成功」の上位にある"。読後、「ああがんばろう、まともに生きるのが一番だ」と、そんな当たり前の大切さが心から湧いてきた僕なのでした。




『自分をつくるための読書術』(ちくま新書)

「自分」とは、さがすものではなく、つくるものだと、勢古さんは言います。そして自分をつくるとは、「弱さ」を否定して「強さ」につくりかえようとするのではなく、「弱さ」の意味を問い、それをハガネのような「弱さ」に鍛えあげるのである、と。この言葉を味わうだけでも、本書を読んでよかったと思います。そして、"読書という、とびっきり地味で静的な方法"によって、いかにして自分をつくるのか、勢古さんの経験を元に、数々の名著が紹介されます。大学生、新社会人、若い人たちにぜひ、読んでもらいたい一冊です。




『定年後のリアル』(草思社文庫)

 仕事を定年してからどう生きていくかを、中小企業で30年以上勤め上げた勢古さんが綴る。......が、これまたメディアの喧騒する「セカンドライフ」「健康」「お金」なんてもの知ったこっちゃぁない、まぁそんなに毎日爆笑するほど楽しいわけではないけれど、嫌いだった雨も「いいなぁ」と思える感じの日々を生きてまっせ、という肩の力が抜けた「リアル」が心地よい。夢や希望を売りにする退職本なんて読んでいる奴はそもそもその時点でダメ、というまえがきにも笑った。なんというか、そんな気張らんでも結局は他人の人生にはなれないわけやしな、と定年からまだまだ遠い私も、ふにゃりと安心した。

『会社員の父から息子へ』(ちくま新書)

 お守りのような一冊だ。「わたしたちは、それらの諸価値のなかから自分に合うものを選ぶ。選んで改変する。自分仕様に削り、付け加える。そこから人生観が生まれる。わたしはそれを「ふつう」が一番、としたのだった。もともとボーッと生きていたのである。ただなんとなく世間に対する反感だけがあった。自己PRしたがる人間が好きではなかった。そのくせ、わたしも他人には認めてもらいたがっていたはずである。けれど、群れるのがいやで、ウソくさいつきあいが嫌だった。ひとりで自由に生きたかった。日本人の人間関係はいやらしい、と思っていた」――でもそんな勢古さんは34年間、会社員として生きたのだ。「ふつう」の会社員として、自分の信じる義を貫き、生きてきたのである。だからこそきっと、これほど本書に勇気づけられるのだ。ときに「しゃんとしろよ」、ときに「それでいいんだぞ」と、本当に親父に励まされているような気持ちになる。読んでから、自分はこういう言葉を待っていたのだと気づいた。勢古さんは、「おれはふつうだ」とおっしゃるかもしれないが、こんなに沁みる「ふつう」の言葉は、ないと思う。




『結論で読む人生論―トルストイから江原啓之まで』(草思社文庫)

 人生論。人生について古今東西の偉人たちはいろいろなことを言ってきた。聖書やコーランから始まり、哲学書、自己啓発書と呼ばれるジャンルのものまで。人生について、よい生き方について語られるとき、人はただ立ちすくむしかないのではないだろうか。すくなくとも僕はそうだ。そうですね、それが正しい生き方かもしれませんね、と。でも勢古さんは人生論をそのまま鵜呑みにすることなく読み解いてゆく。素直じゃないといえば素直じゃない。そんなにつっかからなくてもいいのに。その姿勢がじわじわとしみてくる。大切なのは人生論をたくさん読むことではなく、たくさん読んだ後に自分はどう生きるのか、ということなのかもしれない。

『白洲次郎的』(洋泉社)

 日本一かっこいい男、白洲次郎を勢古さん描きます。プリンシプルに忠実で、どこまでもプリミティブに考える男。終戦直後、GHQとのガチンコの折衝にあたり、その後は実業家として電力会社や民間企業の役職を歴任します。圧巻だったのは、河上徹太郎と今日出海の鼎談の様子。「何だい、お前は。」と問われて、白州は「俺は百姓だ。」と答えます。『ちゃぶ台vol.2』で鷲田先生も言っているように、百姓は「百の仕事」をするということが語源であり、言葉も原点に立ち戻って使う白州なのでした。




『まれに見るバカ』(洋泉社)

 有名・無名問わず、世の中の「バカ」たちを勢古節でバッサバッサと斬っていく本書。まじめに語っていたかと思えば、「ふてえ野郎だ」とか「このババア」とか、時々「フツーのおじさん」が顔を出してきて、笑ってしまいます。「バカ」を論じて勢古さんが私たちに問うのは、「人としてどうあるべきか」というとてもシンプルなこと。そして、口先や小手先にはとても厳しい。「ちゃんと、しよう」と背筋をしゃんとさせてくれる一冊です。




『思想なんかいらない生活』(ちくま新書)

 「思想」があれば生きていける。あるいは「思想」なしでは生きられない。様々な「知識人」の思想論をよく見かけるが、果たして「ふつうの人」たちに必要なものなのだろうか?あらゆる「知識人」たちをメッタ切りにしながら、「思想なんかなくてもきちんと生きていける。」と勢古さんは言う。さらに勢古さんは、さまざまな思想本を取り上げて「いったいなんのための思想か」と問いかける。「ふつうの人」たちに贈る、勢古さん独特の思想論。勢古さん節、読むほどにクセになります。


   

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