今月の特集1

 9月に発売となった『うしろめたさの人類学』、おかげさまで各紙誌で取り上げていただき、好評4刷となりました。

 著者の松村圭一郎さんと代表三島は、実は大学時代からの友人でもあり、このたび著者と編集者という立場としては初めて、代官山蔦屋書店さんにて、対談イベントが実現しました。2人の対話から浮かび上がったのは、『うしろめたさの人類学』と、三島が編集長をつとめ10月に発売となった『ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台 vol.3 「教育×地元」号』との、共通点。

「うしろめたさ」をキーワードに、大きなメディアでは語られない、未来への可能性の萌芽について語らいました。
2日間にわたりお届けします。

(構成:角智春、写真:池畑索季)

松村圭一郎×三島邦弘「うしろめたさ」から始まるおもしろい時代(1)

2017.12.11更新

構築しなおす時代に生きる

三島今年の9月にミシマ社から、『うしろめたさの人類学』が刊行されました。著者の松村圭一郎さんとは、ミシマ社の創業前から「一緒に本作りをやろうね」と言っていましたので、この本については「丸11年かかって、ついにできた!」という思いでいます。本づくりが始まったのは11年前からですが、実は、僕と松村さんは20年来の友人なんです。

松村そうですね。いままでに、もう数えられないほど何度も二人で語り合ってきましたね。

三島僕たちは、大学一年生のころにヨットのサークルの仲間として出会いました。何も知らない若者だったあのころから、夜な夜な勝手に、二人で世界や未来のことを語り合っていた(笑)。

松村そのあと三島さんは編集者になり、ミシマ社を立ち上げた。わたしは人類学の研究の道に進み、大学の教員になって、2009年から13年まで「みんなのミシマガジン」に、「構築人類学入門」という連載をしました。それをもとに『うしろめたさの人類学』が作られることになったのです。三島さんの編集は徹底していて、原稿を何度も何度も読み直して、毎回どこかにチェックの鉛筆が入るんです。つねに「はじめて読んだの!?」というくらいの新鮮な目で原稿を読んでくれる。そうした共同作業のなかで、ぎりぎりまで書き直しを重ねながら、この本が作られました。

三島実は今日も読み返してきたのですが、みなさん、この本、やっぱり、めっちゃ面白いですよ(笑)。松村さんが使われている「構築人類学」という言葉って、すごく面白いんだなと改めて思いました。「これまでの「構築されている」という批判から、「どこをどうやったら構築しなおせるのか?」という問いへの転換。それがこの本の目指す構築人類学の地平だ」という部分。読んでいて、ガツーン!ときました。

松村そこですよ、三島さんに何度もつっこまれて、最後まで書き直したところ!(笑)

三島世の中の仕組みや関係を「構築しなおす」という主題がさらっと書いてあるんですが、やはりここに、この本のすごさが凝縮しているなと思います。そこで僕が思ったのは、ミシマ社の雑誌『ちゃぶ台』がやろうとしていることと、松村さんの本とがつながっているということです。『ちゃぶ台』はミシマ社から年に一度出ている雑誌で、第一号では「移住と仕事」、第二号では「食と会社」、そして今年10月に刊行した第三号では「教育と地元」を中心に、これからの生き方を考えるというテーマを扱っています。『うしろめたさの人類学』を読んで、『ちゃぶ台』も「構築しなお」そうとしている雑誌なんだなということに、初めて気づきました。

松村『ちゃぶ台』を最初に読んだときに、三島さんとわたしの問題意識が重なっているなとまず思ったのは、「なぜいまだに、東京に人がたくさん流入してくるのか?」という問いが第一号の冒頭で示されているところでした。高度経済成長期以来の、東京を中心とした経済モデルが、いまほころび始めている。単純に言うと、日本全体としては人口が減少していて、経済規模が縮小していこうとしている。それにも関わらず、東京への流入人口だけは増えている。そこには、この社会の歪みを真正面から受け止めずに、これまでのやり方で延命治療しているような不自然さがある。そういう問題意識から出発した『ちゃぶ台』を貫くテーマのひとつが、「仕事」なんですよね。

三島そうですね。必ずしも、金銭を媒介とする仕事だけをさすわけではありません。が、現代では仕事といえば金銭の媒介だけを前提としがち。そして、そのお金にしがみつきすぎているように思います。

松村社会が動いているのであれば、私たちの働き方も変化していくべきなのに、みんなどこかで何かが違うと思いながらも、いままでのやり方を続けている。『うしろめたさの人類学』を読んで「うしろめたい」という言葉に反応してくださった人が多くて、わたし自身、驚いています。ひとつには、自分の仕事など、いまのやり方がどこかおかしいと薄々、気づきながらも、なんとなくそれを続けていることへの「うしろめたさ」があるのかもしれません。
 でも、自分の働き方にうしろめたさを感じているということは、本来はこうあるべきだとか、こうしたいとか、自分が向かうべき次の変化の方向が見えている証だとも思うんですよね。『ちゃぶ台』は、その変化の兆しや在処(ありか)を、いろんな著者がいろんな角度から書いている雑誌なんです。

三島たとえば、 『ちゃぶ台』の舞台のひとつである山口の周防大島では、東京にいると見えにくくなってしまう新しい動きが、農業をはじめとしてどんどん出てきているんです。
 松村さんが『うしろめたさ』でやろうとしていることは、「国家」や「市場経済」といった大きなシステムが固定されたものとしてあるように思われるけれども、そのせいにするのは一旦やめよう、ということなんですね。そうではなくて「わたし」が変わることで、わたしとシステムの世界とのあいだに、スキマが生まれる。「わたしから関係を変えていくことで社会も変わっていく」という可能性が、この本では丁寧に追われています。それはまさに、『ちゃぶ台』が取り上げている未来についての可能性と一致する。

「うしろめたさ」は、変化の方向がみえてきた証

松村『ちゃぶ台 Vol.3』は、どうして「教育」をテーマにしたんですか?

三島自分のまわりに子どもたちが増えてきて、「教育」というテーマがより身近になってきたときに、いまの学校の単一的なありかたに違和感を覚えたんです。いまは、子どものときから我慢をさせるのが当たり前、という教育がなされている感じがあって。勉強はしたいときにすればいいし、「宿題を欠かさずやって、学校にも遅刻せずに行く」という生きかただけが全てではなくていいと思います。そういうことばかりだと、たとえばそのやり方が働き方にも延長されて、自分から主体的になにか動こうというふうになりづらくなるかもしれない。

松村よくわかります。わたしも、大学の教壇に立って学生に教えていますが、ときどき授業中にマイクを置いて、うつろな目をしている学生に「本当に学びたい?わたしの話聴きたい?」と訊きたくなるときがあるんです。多くの学生は、興味があるかないかではなく、単位が足りるかどうかとか、たまたまその時間が空いていたから、といった理由で授業を選ぶ。「決められたことを決められた通りにやる」、「何か別の目標のために我慢して勉強する」といった小学校以来の教育システムが、本来自由に学びたいことを学べる場であるはずの大学にまで深く浸透しているんですね。それはやっぱりおかしい。学びたいという意思のないところでは、本来、教育は成り立たないはずなんです。

三島もちろん、仕事や学びにおいて我慢をしなければならないときはありますが、良い我慢と、単に自分を蝕んでいくだけの我慢がありますよね。後者は自分を傷つけるし、誰にとってもよくない。もちろん、好き勝手に生きることは難しいです。でも少なくとも、仕事や学びのなかに、理不尽な我慢よりも面白いことができるだけ多くなるほうが良いと内心は思っている人が多いのではないでしょうか。

松村みんな、面白くないと思っていても、やらなければならないと信じてやっている。おやつを我慢して宿題したり、なんとなく大学に入るものだと思って受験勉強をしたり、仕方なく髪を黒く染めて就活したり。先ほどの仕事の話と同じで、そういう我慢が、水面下でうしろめたさを発動させているひとつの理由だと思います。
 でも、そういうことが「おかしい」と気付いてうしろめたさを抱く人が多いということは、ひとつの希望かもしれません。うしろめたさが芽生えているのは、自分のなかに次の変化の兆しが見えてきているわけですから。

三島たしかに、うしろめたさの感覚を持っていることは希望になりうる。今日の対談のタイトルも、「これからの時代には「うしろめたさ」が要る?」となっています。

松村「うしろめたさ」は、「他者に共感できる力」とか「想像力」の根元にあるような感情のひとつだと思います。それは、世界で他の人と関わって生きていくなかで人間の中に発達した共感の能力です。他の人を見て、「自分はなんでこうなんだろう」と思える力です。その力はみんなもっているんだけど、多くの人がそれに蓋をして、頭で「こういうふうにやるものだ」と考えて自制している。「おかしさ」に気づいていても、なかなかパッとは動けない。だから、うしろめたさは「要るか要らないか」ではなく、「みんなの中にすでにあるけど、なかったことにされている」もののような気がします。

  


『うしろめたさの人類学』の発刊を記念したイベントを全国各地で開催します!

◆<岡山>ことばを考える、ことばで考える ~いま僕らに人文学が必要な理由~

日程:2017年12月16日(土)15:00~17:00
場所:岡山大学津島キャンパス 文法経講義棟 20番教室
講演者:河野通和氏(ほぼ日学校長)
司会:松村圭一郎(岡山大学文学部)
※入場無料・事前申込不要。


◆<福岡>松村圭一郎さん×三島邦弘トークショー

日程:2018年2月9日(金)19:00ころ開演予定
場所:カフェ&ギャラリー・キューブリック
※正式告知・受付は近日開始予定です。

◆<熊本>地元熊本・凱旋イベント「うしろめたさ」からやり直す~熊本も世界も、こんなことから変わります~松村圭一郎さん講演+対談(相手:三島邦弘)

日程:2018年2月10日(土)
   14:00 開演(13:30 開場)
会場:長崎書店3F リトルスターホール
入場料:1,000円(当日会場入り口で頂戴いたします)
ご予約:長崎書店 店頭 もしくは電話 096-353-0555
    メール info@nagasakishoten.jp  まで

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