今月の特集1


 2016年11月25日(土)、山本ふみこさん著、『家のしごと』が発売となりました。
 暮らしのことを綴ったエッセイというのは、実はミシマ社では初めてとなる一冊。

 装丁:名久井直子さん、装画:後藤美月さんによるカバーは、手触り、色味、そして生き生きとした"家のものたち"が印象的です。そして、そのカバーを開いてすぐの見返しと別丁扉(本文とは違う紙で付いている扉ページのこと)がまた、素敵なんです...! ぜひ店頭でお手にとって、見てみてください!

 今回は、著者の山本ふみこさんのお宅に、編集を担当させていただいたミシマとホシノがうかがいました。エッセイの中に登場する家族のみなさんにもお会いできて、「ああ、これがあの台所か」などと、初めてなのに懐かしいような不思議な感覚...。
 美味しすぎるランチをいただきながら、発刊に寄せてうかがったいろいろなお話を、2回にわけてお届けいたします。

(構成:星野友里、写真:三島邦弘)

『家のしごと』山本ふみこさんの"家"にうかがいました!(後編)

2016.12.06更新


これ、十割蕎麦だわ

 今回のご自宅訪問では、山本さんの手作りランチをいただくという、なんともぜいたくな体験もさせていただきました。メニューはグラタン(ものすごくおいしいホワイトソース!)とお蕎麦という不思議な組み合わせだったのですが、そのお蕎麦が物議を醸したのでした...。

山本さん(テーブルの上のコンロでお蕎麦をめんつゆにくぐらせながら)今日のお蕎麦、これいつもと違って十割蕎麦だわ...。ポロポロしちゃって。ダイシマさん(山本さんの旦那さん)に、ミシマさんたちに食べていただくから、って伝えて買ってきてもらったら、張り切っちゃったんだわ。いつものでいいのに!

梓さんそういうところあるよね。気持ちはわかるけどね。

 厳しいお二人。じつは本書でも、山本さんの怒りの矛先が旦那さんに向く場面がいくつも書かれています。たとえば...。

「いまはそんな理路整然とした解説も弁解もいらない。こういうときはさ、わたしに歯向かわないで!」
ある日わたしは夫に向かってこう叫んだ。いまとなっては何を怒っていたのだか思いだせないのだが、わたしは怒っていて、こうなったからには放っておくか、うんうんと相づちを打つかしてもらいたかった。
ひどい云い分ではあった。歯向かうな、なんてね。夫にはあやまらなかったけれど、わたしは密かに恥じていたのである。

(p54「わたしに歯向かわないで!」より)


「山本さんでも家族と大げんかとか、されるんだ...」と、ミシマ社メンバー一同、原稿を読みながら妙な安心感をもったのでした。こんな、どの家族にも形を変えてあるであろう、でも外からはなかなか見えない出来事が綴られているのも、本書の醍醐味。ちなみに十割蕎麦は、とっても美味しく、その後、取材に顔を出してくださった旦那様が淹れてくださった珈琲も、それはそれは美味しかったです。


おじいさんを助けました。

 次は、山本さんらしいこんなエピソードを。

梓さん母が、毎月決まった時間に決まった場所に行く用事があって、あるとき一緒に家を出ようとした私の準備に時間がかかってしまったんです。普段なら待ち合わせの30分くらい前には着いていないと不安というくらいの人なのに、私を待っていたせいで、「母が何かに遅刻する」というのを人生で初めて見て。「ごめんね」と何度も言っていたら「大丈夫、こないだおじいさんを助けたから」って言うんです。

山本さんああ、その話か。

梓さんよく聞くと、その日の一週間前に、目の前で倒れたおじいさんを助けてたそうなんです。その出来事を1週間繰り越して、今週遅刻した理由に使うという話だったんです。

山本さんそうそう、その日に変えるだけだからね。ウソじゃないよね。ちょっと繰り越しているだけ。まあでも、「おじいさんが倒れて」って説明しようとしたけど、まわりはそんなに興味なさそうで、聞いてなかったけどね。自分を落ちつかせる方便にしたんだと思います、わたしは。

梓さん繰り越すってありなんだ、と思いました。

山本さん物語って大事よね。


連絡帳を投げていた

梓さん先日、すごく久しぶりに小学校のときの友だちが遊びにきたときに、ふんちゃん(山本さん)って変わったお母さんだったよね、と言われて。子どもたちがワイワイしてたら、電話をしていたふんちゃんが受話器の口を押さえて、くるっと向きを変え、「うるさい!」って連絡帳投げてたよねって。

山本さんそれは今も同じだよね。

梓さんいや、いまはもう少しましかも。それとか、高校時代の友だちが、うちに住みつくみたいになっていたことがあって。母が、「いいよ、泊まっていきなよ!」とか言って、ずっと居させてしまうようなところがあって。私が習い事を終えて家に帰ってくると、もう友だちが先に家にいてご飯を食べているような。最近その子と話していたら、(山本さんは)自分の世界にまったくいない種類の大人で、なんでもありなんだ、と思うことができたって言ってくれて。ああ、そうなんだって。

山本さんでたらめなおばあさんになるのが夢なんです。それと、ひとのでたらめを許す人になりたい。私の本を読んでくださっている方の中には、山本さんというと「割烹着を着ている落ち着いた人」だと思われることもあるようなのですが、今回の本では「でたらめな人なんです」というのが伝わるといいなと。

 ぎこちないというのも大事ですよね。本来、人はみな初めてのことばかりで、ぎこちないはずなのに「ぎこちなくないように見せる」ことが多すぎる気がして。ミシマ社さんはぎこちないところが素敵なんです(光栄です!)。これからも「でたらめ」とか「ぎこちない」を研究していきたいと思っています。

 取材をさせていただいている間に、三女の栞さんも、少しだけ顔をだしてくださいました。本書に出てくる栞さんのエピソードが個人的に大好きなので、最後にそこを紹介してレポートを終わりたいと思います。

ぱりぱりっと音がする。
その場が一瞬張りつめる。
台所からそっと覗くと、高校の制服姿の三女が何か食べている。きゅうり。ぴん、とあたりを張ったのは、きゅうりを嚙む音だった。卓の上に、晩ごはんのおかずとしていの一番にのせたぬか漬けの器から、つまみ食いをしている。(中略)
こんなことのどこがそう思わせたものか、これは、この夏の記憶のなかでもっとも印象深い出来事であった。驚くべき気象災害もあり、悲しみも怒りも少なくはなかった記憶のなかで、明るさを灯している。

(p100-101「ぱりぱりっ」より)


 そして最後の最後に、今回『家のしごと』を展開してくださる書店向けに、仕掛け屋ハセガワがつくったPOPとパネルがとても素敵なので、おまけで紹介したいと思います。訪問したときに持参した現物を見て、山本さんもとても喜んでくださいました。
 書店で本書を見かけたら、ぜひぜひお手にとってみてくださいませ。


  

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