今月の特集1

 今年の1月に発売となった、井川直子さん著、『昭和の店に惹かれる理由』
 静かで熱い井川さんの語り口と同じように、本書を支持する声が静かに熱くひろがり、おかげさまでこのたび、増刷も決定いたしました!!

 本書で井川さんは、昭和からつづくお店の方々を取材。なぜか心惹かれ、気づけば足が向かっている、それらのお店の「なんか正しい感じ」の正体を、探っていきます。そんな井川さんが、長年、一度お話をしてみたいと思っておられたのが、ナガオカケンメイさん。
 ナガオカさんは、「ロングライフデザイン」をテーマに「D&DEPARTMENT」や『d design travel』を展開し、47都道府県のその土地らしいものを紹介する活動をつづけながら、"新しくはないけれど、人々がいいと思うデザインやもの"について、長年、考えてこられました。

 そんなお二人が、先月4月21日、SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERSさんでのトークイベントにて、『「つづいているもの」が持つ、"なんか正しい感じ"の正体』について語らいました。
 デザインと飲食、それぞれの分野で考えてこられた「つづく」がクロスして浮かびあがってきたものとは...? 前後編、2日間でお送りします。(※後編の掲載は明後日5/19になります。)

(構成:星野友里、構成補助:ミシマ社デッチ、写真:新居未希)

ナガオカケンメイ×井川直子「つづいているもの」が持つ、"なんか正しい感じ"の正体(1)

2017.05.17更新


「なんか正しい感じ」に憧れた者同士

ナガオカなんでその、昭和のお店だったんですかね。

井川なんででしょうね...。たとえば、江戸・明治になってしまうと、ちょっと遠すぎるんですよね。別世界の歴史小説みたいな、自分とは関係ない話になっちゃうんですけど、昭和の時代って、まだもしかしたら、おじいさまやおばあさまがご存命の方もいらっしゃるかもしれないし、わりと自分の記憶のなかにもあって。
 まずそれがひとつと、あと、なんというんですかね、日本はどこで、いろんなものを取りこぼしてきちゃったのかなというのを、少し追ってみたかったというか。けっして間違っているとは言いたくないんですが、取りこぼしてきたものはあるな、と思ったんですね。今回、各章のタイトルは、そういう取りこぼしてきたものを載せているんですが、あえて、いい意味では捉えられない言葉が多いと思います。「型」であるとか「狭」とか。

ナガオカ「不器用」とか「逆行」とか。

井川「非合理」とか。いまでは否定されるけれども、でもそこになにか真実のようなものがあったんじゃないかな、という思いで。章タイトルではありませんが、ナガオカさんは「つづける」というキーワードにすごく反応してくださって。

ナガオカそうですね。僕は建築家にすごく憧れていて。で、僕がやっているグラフィックデザインと建築は、なんでこんなに社会的な注目や責任が違うんだろう、って考えた時期があった。それで、良いデザインと悪いデザインをなんとなくデザイン側の言語以外の言葉で語れないといけないなって。それで正しいデザインというものにすごく興味が湧いて。
 正しいデザインというのは、デザイナーくんたちは自分たちの言語でいくらでも語れるんですよ。プレゼン上手だから。そうじゃなくて、おばあちゃんとか子どもたちにもわかるように言うには、まずは世の中に出て何十年も経ったもの、「ロングライフデザイン」ですね。それがおそらく一つの正解なんじゃないかな、と。そのデザインがつづいているというのは、格好いいだけではなくて、販売の方法とか、メーカーのファンづくりの努力とか、なんかそういうことがある。

井川ああ、なるほど。この昭和の本を書くときにすごく心のなかにあったのが、そのナガオカさんの「ロングライフデザイン」という言葉だったんですよね。こういう本を出すと、「つづいていくお店というのはどういうお店だと思いますか」とよく訊かれて、答えはわからないんですが、ただなんとなく、つづいているお店には何らかの正しさがあるような気がしていたんです。
 で、そのときに、その「ロングライフデザイン」というのと、もしかして同じなんじゃないかなって。「なんか正しい感じ」に憧れた者同士、と言ってしまうと、大変すみません、という感じなんですが・・・、勝手にそんな気持ちです。

ナガオカ僕はデザイン版の「つづく」をやっているし、やっているというか、興味があるし、井川さんは井川さんでやっぱり、飲食の「つづく」に興味がある、という意味で、なんかたぶん、蓋を開けてみたら同じようなものが入っていると思うんですよね。

井川そうですね。


からしに気づくような行為

ナガオカいろんなデザイナーが、いいデザインの十箇条みたいなものを書いているんですけど、やっぱりデザイナー寄りなんですよ。僕も同じようにデザインの十箇条というのを書いていて、一番最後が「デザインが美しいこと」。残りの9個は全部デザインに関係のないことで、そのデザインに関係のないことが結果的に「つづく」につながっている。それって絶対ありますよね。

井川ありますね。料理店においても、最後の一個は料理が美味しいことかもしれないですけれども、たぶんそれ以外は料理そのものではないかもしれないですね。店づくりですとか、人のメンタリティですとか、どういうふうに伝えていくか、っていう。意外と、昭和の店というのは、私みたいにやりたいことをがむしゃらにやるっていうよりかは、どうしたら人に伝わるかなとか、ものすごく伝える相手のことを考えてらっしゃるお店が多かったですね。広告をするとかじゃなくて、目の前の人にどうしたら伝わるかな、っていう。それを一個ずつやって、一日、一年、十年、何十年、となっているお店が多いな、というふうに、いま言われてみて気づきました。

ナガオカ一澤信三郎帆布という、京都の老舗の、帆布のバッグを作っている方にうかがった、なぜつづいているかという話のなかで印象的だったのは、「うちはあつらえていた」と。「あの人のために」鞄を作っていた。架空の、年収これくらいで、25歳から45歳で、とかいう設定をしていない。設定していないから、みんな必死に「あの人」のために作る。だから直しに来たら、その人のために直す。それが京都のものづくりの基本だ、と。

井川常に一対一、ということですね。確かに、カスタマイズというか、誰のために何をやるっていうのが結構はっきりしているお店も多かったです、この昭和のお店に関しては。

ナガオカだからきっと、段々、「お客さん」というだけじゃなくて、名前がわかったり職業がわかったりしだして、その関係性が積み重なっていくということですよね。

井川そうですね、だけど「とんき」さんなんかは、かなり通ってもそんなに話しかけてこないというか、いつ行っても一定の規律があるんですけれども、ただ、私は辛いのが苦手で、いつもからしを残していると、ある日、からし抜きましょうか? って一言聞いてくれた。ちゃんとわかっていて、「この人はからし抜きなんだな」という。

ナガオカそういうことをちゃんとやっている。

井川見ているんです。感服しますね。

ナガオカそれって、僕も含めて、仕事は全く違っても、健全な感じでつづけていくということに関しては、すごく参考になりますよね。そのからしに気づくような行為は、日常のなかでもたくさんあると思うんですけど、そういうことですよね。


ロングライフの十箇条

ナガオカ今、話を聞いていて、僕のロングライフデザインの十箇条、たとえば修理して使いつづけるとか、作り手に愛があるとか、安全環境ももちろんそうですけど、そういうキーワードと、『昭和の店に惹かれる理由』の目次の章タイトルに出てくる、さっき言ったちょっとマイナスな言葉、なんか一緒のような気がしてきました。「非合理」とか「異端」とか「主張」、「逆行」とか「不器用」、みたいなものが、食のロングライフな十箇条みたいなことだったりするんじゃないかな。

井川なるほど。

ナガオカ要するに何が言いたいかというと、百年つづく飲食店をやりたいと思ったときに、その店に行って修業して来いというのもいいですけど、そこで何を見るかというのがこの目次に表れているような気が。

井川嬉しいです、すごく。

ナガオカ具体的になにかありますか。例えば「不器用」とか、「逆行」とか、そこから言葉にできない、ながくつづいている理由について。

井川「不器用」でいうと、天ぷら はやしさんなんですけれども、不器用さがご主人にとって自分の拠りどころになっていたんですね。コンプレックスでもあったんですけど、だから一個を一生懸命やろうとか、できることだけ手を広げずにやっていこうって。お父様である先代がすごく器用な方で、天ぷらも名人だし気の利いたつまみも出されていた方なんですけど、今の二代目のご主人は、「僕は不器用だから料理はできません」って言って料理はやめてしまったり。お父さんと同じことをしようとして頑張って、結局料理の質を落としたら、天ぷら はやしの質が落ちるという考え方で。

ナガオカああ。

井川「逆行」というのはスヰートポーヅさん。本当にこう、500円とかそういう餃子なんですけど、広げようと思えばできますし、たぶん催事でも引っ張りだこになるような人だと思うんですけど、でも広げるとスヰートポーヅの仕事ではなくなってしまうと。今の三代目の和田さんという方は49歳ぐらいなんですけど、地球規模でいろいろ考えてらっしゃって。食の安全性から、人としての生命の危機みたいなものからいろんなことを考えた上で、手を広げすぎず皮から手作りして、あんも自分が納得いく安全性のあるものを材料に使って、そこを守る。本当に「逆行上等」という感じでやってらっしゃる。



(つづきます)

 

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